フィッシングのちファイアフライ(10)
――バケツに汲んできた水を、焚火にぶっかけて火を消す。
「……消化完了」
「……消化確認」
「よし。……それじゃあ、次の遊びに移ろうか。遊びというか、観賞だけどな」
時刻は夜の7時頃。
太陽は沈み、空には星が光り出している。
「空、綺麗ですね」
「そうだな。今日はかなり、綺麗に映ってる」
「都会ではあまり星を見ることができないので、夜になるとどうしても上を見ちゃいますね」
「基本いつでも見れるから、存分に楽しむといいよ。でも今日は……星たちがメインではないからな」
「そうですね。今度の楽しみにとっておきます」
「少し上流のほうに、ホタルが良く見えるポイントがあるんだ。少し歩くけど、大丈夫か?」
「はい、平気ですよ」
「よし、じゃあ早速行くとしよう。……転ばないように気を付けるんだぞ」
「じゃあ……こうしてて、いいですか?」
そう言うと……絵玖は何時ぞやの時のように俺の左手をぎゅっと握ってきた。
「これなら、転ばずに歩くことができます」
「……絵玖って、意外とスキンシップ派なのな?」
「そうなんでしょうか? でも、これくらいはやっても普通なんじゃないでしょうか?」
「いや、そうかな? 仲が良くても男女同士で手をつなぐってことはほとんどないと思うぞ? それこそ……付き合ってでもないとさ」
「なるほど。……でも“普通”はそんな感じなんですよね? なら、あたしはちょっと変わってる子だから、普通にしなくてもそれが普通ですよ」
「……なかなかすごい解答が返ってきたな」
「ふふ、強引ですけど、結論付けてみました。秀吾くんが嫌なら、外しますけど」
「……絵玖みたいな子と手をつなげるチャンスをみすみす捨てる奴は男ではない。喜んでつながせてもらおう。ただでさえ女の子と手をつなぐことなんてないんだからな」
「やった、許可がでました」
「うーむ、しかし……意外と畏まってしまうな。絵玖が分かっているのに……これが人間の性か」
「確かに、秀吾くんの手、ちょっとだけ汗ばんでます」
「何? もう汗ばんでるか?」
「はい、うっすらとですけど」
「……これはあれだな、絵玖が魔性の女だからだ、そうに違いない?」
「え~? あたしのせいですか?」
「他に誰がいるというんだ? 絵玖以外にいないだろう。お前が可愛いせいなんだからな」
「そんな風に思ってくれてるんですか?」
「前から言ってるじゃないか? それに、俺は可愛いと思った子のパンツしか見たいと思わないから。だからあの時だってガン見してたんだよ」
「本人を助けるのも忘れちゃうくらいにですか?」
「それは、本当に申し訳ないと思ってる。あまりにも魅力的だったため、つい意識を持っていかれてしまっていました。反省はしています」
「次あった時は、ちゃんとすぐに助けてくださいよ」
「心配ない。次はバッチリ目に焼き付けながらも俊敏に対応してみせるから」
「で、できれば見ないで助けていただけたいんですけど……」
「それは……約束できない」
「秀吾くんは、女の子の下着が大好きなんですね」
「嫌いな男は男じゃない」
「じゃああたしも……女の子として見てくれてるってことですか?」
「俺は最初から絵玖は女の子として見てたはずなんだけど? むしろ絵玖を女の子以外に見ようがあるのか?」
「そうですか。……ふふ、ちょっと嬉しいです」
「……面白い部分で喜ぶのな、お前」
「言ったでしょう? あたし、ちょっと変わってますから」
「そうだった。だから、俺のことも許してくれるんだもんな」
「そうかもしれません。何処か、思考が似てるんだと思います」
「なるほどね……おっと、段差、気を付けろよ」
「はい」
ピョンと段差を飛び越える。……ジャンプが小さかったからダメだな……。