フィッシングのちファイアフライ(9)
「――さて、メインディッシュを食べ終わったところで、絵玖にはデザートをご馳走してやろうと思う」
「え? デザートですか? でももう、食材は全部使い切っちゃいましたよね」
「ふふ、もう一つだけあるんだよ。俺の持ってきたリュックの中にな。焚火で食べるデザートと言ったら、これが一番美味いだろうと俺は思ってる。……何か分かるか?」
「えーっと……焚火でのデザート……?」
「多分、見れば分かるだろう。きっと喜んでくれると思うぞ」
「何だろう……」
「それは……ジャン! これだ!」
「わぁ~……マシュマロだ!」
「そう、これを火であぶって食べるんだ。普通に食べるよりも格段に美味くなるんだよ。きっと絵玖も気に入ってくれるはずだ」
「あたし、焼きマシュマロはまだ食べたことないです」
「俺もこの美味さに気付いたのはつい最近なんだ。今年の春に亮とそれを話して、釣りに来た際に試してみたら、これがすごく美味くてな。二人で一袋全部食い切っちまったんだ」
「そんなに美味しかったんですね」
「俺たちの中では革命が起きたな。それ以来、マシュマロはあぶって食べないと気が済まなくなってしまった。……まあマシュマロ自体、あまり食べる機会はないんだけどな」
「へぇ~、楽しみです」
「これは、そんなに待つ必要ないからな。えっと……」
割り箸の先にマシュマロを刺し――。
「絵玖、持って。これをお好みであぶってくれ。少し焦げ目がついてくれば、もう食べ頃だよ」
「はい、やってみます」
絵玖は焚火にマシュマロを近づけ、火を通す。徐々にマシュマロに焦げ目がつき、原型が少しずつ崩れていく。
「そろそろ、大丈夫ですか?」
「うん、いいぞ。食ってみな」
「いただきます。……あふ……美味しい~!」
さっきと変わらないくらい、満面の笑みを浮かべた。
「な? 美味いだろ?」
「はい。甘くてとろっとしてて……普通に食べるよりも全然美味しいです」
「だよな、分かってくれてよかったぜ」
「火を通すだけでこんなに違ってくるなんて、想像を遥かに超えてきましたね」
「俺も正に同じことを食った当初は思ってた。驚いちゃうよな?」
「はい。一袋食べきっちゃったっていうのも分かる気がします。これは手が止まらなくなっちゃいますもん」
「はは、手が止まらなくなってもいいんだぞ? まだあるから、たくさん食べな」
「はい、いただきます」
絵玖は俺のやった手順通りにマシュマロをあぶり、程よきところで口に頬張る。
「あむ……外で食べる料理って、すごくいいですね。また好きなことが一つ加わりました」
「お、そうか?」
「はい。何でしょう……バーベキューが楽しいっていう人の理由が分かったような感じです」
「ジャンルは違うけど、似たようなもんだしな。焼き魚にしてもバーベキューにしても、やっぱり外で食うと美味く感じるよな。それに、作業工程も楽しいから飽きない」
「ですね。……それを体験できて、すごくよかったです」
「満足したか?」
「はい、大満足です」
「そう言ってくれると、提案した俺も満足だ。……また今度やろうぜ、大勢でやっても結構楽しいもんだぞ」
「じゃあ、次は亮くんと佑香さんも誘いましょう」
「そうだな。あいつらなら、呼んだら来てくれるだろうし……じゃあ、近いうちに実現できるようにしておこうか」
「はい、楽しみにしてます」
――美味しい夕食に舌鼓を打った俺たちだった。
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