フィッシングのちファイアフライ(8)
「そろそろいいだろう。もう、食べても大丈夫だぞ」
「わぁ~い、待ってました」
「熱いから、気をつけろよ」
「はーい」
割り箸に刺さった魚を手に取り、少しじっと眺める。
「美味しそう~」
「美味いぞ、絶対」
「じゃあ、いただきまぁーす。ふーふー……あむ」
小さな口で、魚の腹の部分にかぶりつく。
「どうだ? 味のほうは?」
「……美味しい! とっても美味しいです」
満面の笑みでそう言った。
「身がホロホロして、塩しかかけてないのに味もちゃんと付いていて……わぁ、美味しい。こんな美味しいお魚食べたの初めてかもしれません」
「その場で調理して食べれるってすげぇ大きいよな。俺も初めて食った時は、そんな印象を受けたよ」
「何だろう……美味しいって言葉しか出てこないです」
「はは、そうか。でもそれでいいんだ、美味いなら何よりだよ」
絵玖の反応を確認し、俺も魚にかぶりつく。……うん、相変わらず美味いな、やっぱりイワナやアユは塩焼きに限るぜ。そして、それを頬張ったまま、絵玖が作ってくれたおにぎりをパクリ。
……最高のハーモニーを醸し出してくれるな。
「おにぎり美味いぞ、絵玖」
「そうですか? よかったです」
「……何でおにぎりなのに、俺が作るより絵玖の作ったもののほうが美味しく感じるんだろうな。手順はどっちでも変わらないはずなのに……やっぱり誰かに作ってもらうってことには適わないってことか」
「そうだと思いますよ。あたしが秀吾くんにおにぎり作ってもらったとしたら、自分で作ったものより美味しく食べれると思いますし」
「つまり、あれだな。……愛情が味の感じ方を変えるってことだな。絵玖は俺に愛情を持って作ってくれた……きっとそうに違いない」
「あはは、もちろん、そうですよ。秀吾くんに美味しく食べてほしいって思いながら作りましたもん。でも、それを言ったら秀吾くんもそういう思いでこのお魚を調理してくれましたよね? だからこんなに美味しいんですよね?」
「うん、美味いしか出てこない状態にしてやろうと思って作った」
「あはは、じゃあ見事それを達成しましたね。実際、あたし、美味しいしか言ってませんもの」
「目標達成、ミッションコンプリートだ。……もう一匹あるから、遠慮せず食え。イワナとアユでは味も違うからな。また新しい美味しさが分かるはずだよ」
「はい、いただきます。……あむ、あむ」
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