フィッシングのちファイアフライ(5)
――すると、すぐ3分後くらいに。
「わっ!? か、かかったみたいです」
今度は絵玖の竿にもヒットしたようだ。
「大丈夫か? 一人で釣り上げられそうか?」
「はい、ちょっと重いですけど、何とかなりそうです。……落ち着いて、一つずつ」
絵玖は冷静に、自分のペースで魚を自分の元に引き寄せていく。昔とはいえ、一回やった経験は見事に活かされているようだ。ゆっくりながら、なかなかのテンポでリールを巻けている。
「いいぞ、後ちょっとだ」
「はい。……うーん」
そして――魚が地上に姿を現した。
「やった、釣れました~!」
「よくやったな、うい!」
絵玖とハイタッチ。
「これは――アユだな。サイズもあるし、上出来だぞ」
「えへへ、これでおにぎりだけを齧る心配はなくなりましたね」
「そうだな、それはそれで面白かったかもしれないけど。ここからは貪欲に狙っていくとしよう。少しでも食える量を増やせるように」
「はい、そうですね」
「よし、すぐに再開しよう。……今、エサを付けてやるから」
「…………? しゅ、秀吾くん、秀吾くんの釣竿、反応してませんか?」
「何? ――おおっ!? いつの間に、しなってやがる。え、絵玖、釣竿持っていかれないように掴んでてくれ」
「わ、分かりました!」
俺の釣竿の方に、絵玖がいそいそ走っていく。
「や、やっぱり魚が掛かってるようですよ」
「サンキュ、よし、交代だ。……ふんっ!」
さっきと同じ要領でリールを巻き上げる。さっきより若干手応えは軽いものの、それでもしぶとく逃げようと抵抗を見せる。
後、一巻き……。
「――釣れた!」
これで3匹目。随分短時間でほいほい釣り上げたな。今日は、なかなか付いてるのかもしれないぞ。
「すごいですね、立て続けに二匹も」
「この調子でどんどん行こうぜ」
「はい」
ちなみに、今釣れたのはイワナだった。もう一匹アユを釣れれば、均等にそれぞれイワナとアユを味わうことができるぞ。……釣れるといいな。
エサを釣り針にセットし、再び水中に投げ入れた。
……………………。
…………。
……。
と思っていたのだが、それからしばらくは当たりらしい当たりが来なくなり、絵玖との会話を楽しむ時間となった。恐らく、俺たちの釣り糸を垂らす場所ではないところの回遊を始めたんだろう。
……うーん、これ以上粘っても今日は難しいかな。変に粘ってグダるよりも、潔くあきらめたほうが良い時もあるだろう。
時計を確認する。時刻は5時、かれこれ3時間釣りを続けていたことになる。……大分良い時間だろう。