ついに決着! 期末テスト結果発表!(5)
「――ん~! 明日が終わればいよいよ夏休みか~」
「学校生活では最後になるわね。まあ、一年、二年の時とは違ってのんべんだらりとした生活はできないんだけどね」
「まあ、そうだな……むしろこの夏休みが勝負といっても過言ではないかもしれない」
「ん? そうか?」
「……本当に能天気ね、ミャンマーは」
「いや、もちろん勉強はするぞ? でも、自分の良いタイミングで息抜きできるんだから、普段の学校生活よりは苦しくなく生活できるじゃねぇか」
「それはそうだけどさ……しょうがないか、ミャンマーは私たちとは違う受験の方法を取るからね」
「何だよ、そのあきらめたような表情は……」
「別にしてないわよ。気のせいよ、気のせい」
「……何か釈然としないな。秀吾、俺間違ったこと言ってないよな?」
「ああ、別に言ってないぞ。自分を追い込むのも大事だが、追い込みすぎても仕方がない。自分のペースでできることをやればそれがその人にとっての正解だからな」
「……秀吾、最近ミャンマーに優しすぎる気がするのは気のせい?」
「ん? そうか? いっつも俺はこんな感じじゃないか」
「そうだぞ佑香。むしろ最近の佑香が厳しすぎるんだよ」
「そうでもしないと、ミャンマーはダメだって分かってるからよ。昔からの経験上ね」
「それは確かに感謝してる。でも……優しさが足りないと思うんだよ。鞭ばっかりでアメをもらえてない……」
「アメは秀吾のフォローか、絵玖ちゃんの笑顔で十分足りてるでしょ」
「全然甘さが足りないって、むしろしょっぱいわ!」
「わ~、秀吾はともかく、それ絵玖ちゃんに失礼じゃない~? せっかくミャンマーのこと思って笑顔見せてくれてるのに~」
「絵玖ちゃんは無理やり笑顔を作るような人間じゃない。自然な笑顔、ナチュラルスマイルだ」
「な、ナチュラルスマイル?」
「自然な笑顔を横文字にしたんだ。ナチュラルは自然って意味を表すから」
「秀吾、解説してくれなくてもいいから……」
「ああいえばこういうわね。じゃあどんなアメが欲しいのよ?」
「うーん……何か、佑香なりに努力してくれ!」
「とんでもなくアバウトね……明確な何かも決まってないんじゃない……」
「突然のフリに答えられるほど俺は頭が切れないから仕方ないことだ。ん~そうだな、佑香も絵玖ちゃんみたいな可愛らしいスマイルを見せてくれるとか」
「か、可愛らしいスマイル? 幼馴染のスマイル見て何がいいのよ」
「何かこう……ほら……つまり……」
「それも見切り発車じゃないの」
「とにかく、何か俺の要望に答えてほしいんだよ。分かれよ!」
「しかも逆切れ、メチャクチャね……」
「いいから、見せてみろよ」
「ちなみに手本はこんな感じな。――絵玖、スマイル」
「え? あ……。ニコッ!」
きらりーん!
「お~、すごく癒されるぜ」
「あ、ありがとうございます」
「効果音まで聞こえてきた気がしたんだけど、気のせいかしら……」
「それだけ良いってことだよ。ほら、佑香もやってみろよ。幼馴染の俺をドキっとさせることができたら、なかなか大したもんだぞ」
「大したもんって……ドキってさせなきゃいけない意味が分からないわ……」
佑香はしばし考えた後――。
「――ニコッ! ちゅっ!」
渾身の笑顔と投げキッスをしてみせた。
「……………………」
「……………………」
「……………………」
「……………………」
「………………ふふっ」
「殺すぞ、お前!」
「おおっ!?」
容赦ないローキックを飛ばす佑香。それをギリギリで交わす亮。そして――
「見切った!」
即座に身を屈めてパンツを覗く俺。うむ、佑香のくせになかなか可愛らしいものを穿いてるな……。
「何勝手に見切ってるんのよ、秀吾。ふんっ!」
「んぐおっ!?」
今日二度目の脳天チョップ。
「おお~……」
「全く、そんなにパンツが見たいなら自分のパンツでも見てればいいじゃない」
「俺はトランクス派だからパンツじゃない。それに、男のパンツ見ても何も面白くないじゃないか。異性のものを見て初めて意味があるんだよ!」
「そういうのを高らかに言うんじゃないの。全く、この男共は……」
「そんなに怒られるようなことしたか? 俺」
「そんなに怒られるようなこと、しちゃったかもしれませんね……」
「うーん、そうか……ちょっとパンツを覗いただけなんだけどな……」
「それも、一種の犯罪なので……ちょっとって言葉では片づけられないんじゃないかな~と」
「マジか……うーん、加減というのは難しいものだ」
「全然難しくもないわよ。ミャンマーも何よ? やれって言ったからやったのに、開口一番鼻で笑っちゃって……」
「だって、何故投げキッスまで加えたんだ? 特に要望もしてなかったというのに」
「そういうの、男子は好きなのかなって思ったからやってみたのよ。……悪かったわね、どうせ私には似合わない芸当ですよ。すいませんでした」
「そんな怒んなって。それに、ちょっと笑いはしたけど、誠意は伝わってきたから悪くはなかったぞ」
「笑ってる時点で誠意も何もないじゃない」
「それは幼馴染だからだ。使い用によってはその手の男子を釣ることもできるかもしれない」
「その手って何よ……一般男子には受けないって言ってんの?」
「そういう意味じゃない。特にメガネ属性に萌えを感じる男子には効果があるって言ってるんだ」
「何それ、嬉しくないわよ。はぁ~……何か疲れちゃった。それじゃあ、私こっちだから。絵玖ちゃん、また明日ね」
「あ、はい。また学校で」
佑香はため息をつき、分かれ道をトボトボ歩いて行った。
「何だ、結構褒めてやったつもりなのによ~」
「あいつは、そういうことにあんまし興味もないからだろ。仕方ないことだ」
「そうだな、仕方ない事だ。――それじゃ、俺も行くわ。明日また学校でな」
「おう、またな」
「絵玖ちゃんも、またな」
「はい、最下位脱出おめでとうございました」
「はは、ありがと~」
亮は手をブラブラ振りながら、軽快に歩いて行った。