エピローグ
あれから6年が過ぎた。場所は‐‐――‐‐棠国・合同墓所。
ライゾの墓前で、セツナは息子と共に手を合わせていた。
ライゾ……。
あたしの腕で、息を引き取ったあの顔が‐‐―――‐‐まだ忘れられない。
あたしを庇い、散った。
強く、誉れ高き戦友よ……。
自分を恨むなと、今際に残したのは‐‐――――‐‐いまの、この為だったのか。
「母上、だっこ!」
「仕方ないな、おいで……」
機敏な足取りで走り寄った息子を、セツナはそっと抱きあげてやる。
「ごらん……お前の、父上だよ」
「父上?」
その肩ごしに、息子が呟いた。
「そうだ、お前は…本当にあ奴そっくりだよ」
クシャクシャと、セツナは懐かしむように、彼の父譲りである明るい金髪を撫でた。
セツナは、戦線から退いた半年後、故郷に戻り、ライゾの子を産んだ。
彼女の家族は、腹の子を責めるよりも、まず戦線から無事に帰還した娘をきつく抱き締めた。
血縁者たちは予想以上の激戦に、彼女は若くして散った父親のように、そのまま戻らぬと諦めていたのだ。
それだからこそ、命あってなによりと、それ以上の追求はされずに終わった。
「ライゾ……結局、お前に護られてしまったな」
抹香の煙が薄くたなびく中、セツナは墓石に水をかける。
ひとしきりの風に、供えた白い桔梗が揺れる。
陽が翳り始め、墓所を囲む木々がすすり泣くようにざわめいた。
「母上、泣いてるのか?」
父と同じ名を持つ息子が、屈み込んだセツナの袖を引いた。
「ライゾ……」
「俺も、強くなるよ。強くなって、母上を護る」
「そうだな」
あれから、もう6年経った。
短かった髪も、もう大分伸びたよ。
なあ、ライゾ‐‐――――‐―‐。
もう二度と会えないけれど、お前は大切な者をあたしに託してくれたな。
この子……『ライゾ』だ。
この子、仕種からなにまで、お前にそっくりだぞ。
名前もお前の名を貰ったよ。
『生きろ』
そうだよな、生きなきゃ。
コイツを、育てねばならんからなぁ。
もう迷わずに、生きていけるよ。
きっと、独りなら生きていけなかった。
ライゾがいたから、お前が命をくれたから。
あたしはまた、故郷の風を感じられた。
お前を思うと、正直いまでも痛い。
けど、お前は言ったよな?
『生きろ、そしてお前は強い女』だと。
それは、お前がいてくれたからだよ。
お前がいてくれたからこそ、いまのあたしの命がある。
あたしこそ礼を言う。
「ありがとう」
「母上、笑ってくれ。そしたら、俺も嬉しいから」
「本当に、ライゾ……ありがとう」
よき友、そして…夫として。
あたしは、生涯お前を忘れないだろう。
お前があたしを愛してくれたように、あたしもお前を愛する。
なあ、ライゾ。
桔梗の花言葉はな、『永遠の愛』というそうだ。
この命続くまで誓うよ。
戦友よ、安らかに眠ってくれ。
どうも、維月です。
『生きる』最終章のお届けにあがりました。
ここまで読んでくださった読者の皆様、お疲れ様でした、ありがとうございます。
セツナはその後、息子の成人を見送ってから幸せな余生を送りました。(^_^)