悲しい歯車
ライゾとの恋に燃える一方、兵士たちの間に『あの二人は、デキている』という噂が立ってしまう!
強靱な半面、深く傷つくセツナだが……!?
『あの二人は、デキている』
二人を見る、周囲の目が変わった。
『見ろ、アイツらデキてるんだとよ』
『やっぱりな……俺もそう思った』
『所詮、男と女じゃこんなモンだろ』
まことしやかに囁かれる陰口にもめげず、セツナとライゾは最後の秋を過ごした。
「周りが煩いようだが…気にするな」
夜半、二人は『あの場所』で寄り添っていた。
「あたしを、心配してるのか?」
艶を含んだ声が、ライゾの耳朶を打つ。
「当たり前だろ、昼間の嫌がらせ…もし俺がいなかったら」
「……悪い」
『ライゾを誑かしやがって…このアバズレっ!』
『誰にでもさせるんだろ!? この娼婦がっ』
兵舎の裏、数人のがたいのいい兵士に囲まれたセツナは、粛正と称して、暴力を受けていた。
『なんとか言えよ、このアマ!』
さも人を殴り馴れていそうな大きな拳が、セツナの白い頬を殴った。
その時だった。
『テメェら……そこでなにしてる』
凍った声が、同僚の男達を斬りつける。
(ライゾ……)
『セツナが女だからって、そんな噂まに受けてんだろ! 差別すんじゃねぇっ』
『噂……そ、そう、単なる噂だよなっ』
男達がすっかりいなくなった後、ライゾは肩を落として、深々と溜息した。
『……平気か?』
『…………』
昼間、セツナは数人の男達に囲まれ、『娼婦』と罵りを受けたのだ。
騒ぎに駆けつけたライゾが男たちを一蹴したが、セツナは声も出さず、泣きもしなかった。
ただ、歯を食いしばって耐えていたのだった。
「セツナ……約束しよう」
「なんのだ?」
脈絡なしに話を切り出した彼に、セツナは瞠目する。
「大事な約束、だ」
「……?」
「この戦が終わったら……夫婦になろう」
「え?」
「故郷に戻って……子を育てながら、畑を耕して暮らそう」
明らかな、求婚だった。
「あたしは…父上との約束を、果たさないと」
セツナは、ライゾの胸板を押し返して顔を背ける。
「お前は充分強い……いい加減、もうやめろ」
「ライゾ?」
悲しげに笑った彼に、セツナは言葉をなくす。
きつく抱擁する二人を、中天の月が見ていた。
どうも、維月です。
初めて人間同士の恋を描くので、ちょっと違和感がありますねぇ(汗)今回は、セツナが哀れでした……