恋―‐‐そして、墜落
セツナは、ライゾという青年と出会い…恋に落ちる。
友として出逢った二人だが、予期せぬ変化が!
軍の訓練で、互いに技を競い合った日の午後、二人は珍しく休暇を貰いうけた。
「なんだ、聞きたい事って?」
丘の小道を、肩を並べて行きながら、セツナは尋ねた。
時折吹くそよ風に、彼の明るい金髪が柔らかそうに揺れている。
「セツナ、お前はなぜ強くなろうと思ったんだ?」
一瞬、難しい顔をしてから、ライゾは横の彼女を盗み見た。
「聞きたいのか?」
大樹の木陰に、仰向けに寝転がるセツナとライゾ。
二人の間に、心地よい沈黙がしばらく流れた。
「お前なら、他の道が幾らでもあっただろうに……なぜだ?」
「あたしの家は、代々武家の家柄……強きに男女の差はないというのが家訓でな、父との約束を守るため、この道に来たのもある」
「お前は‐‐―‐‐それで幸せか?」
「……え?」
ひとしきりの風が、二人の前髪を揺らしていく。
首を横に向けると、驚くほど真摯なライゾの眼差しにぶつかった。
「お前は強い……だが【女】なんだ。無理はしないでくれ」
「なんで……お前にそれを言われなきゃならない」
少しむくれたセツナに、ライゾは屈託なく笑う。
「戦友、だからな」
勢いよく起きあがったライゾは、待ってるよう言い残してどこかへ駈けていってしまった。
「なんだって言うんだ…あ奴は」
呟いた彼女の横顔は、これ以上ないほどに赤くなっていた。
幾ら鈍感なセツナでも、その意味が分からないわけではない。
二人には、長く時を共するうち‐‐―‐‐友情以上の感情が生まれ始めていた。
「その花……お前にやる。だから、俺の前だけでいい……女らしくしてくれ」
「ライゾ……?」
俯いている彼の顔は分からないが、おそらくは赤くなっているだろう。
「お前を、愛しちまった。どうすればいい? 昼も、夜もお前だけしか見えない」
苦しげにはき出すライゾに、セツナは遂に惑いを捨てて、飛び込んだ。
「悪かった……知らずに、苦しませていたんだな? もう、苦しまないでいい。あたしは、ライゾの傍を…離れないから」
言ってしまった。
‐‐―‐遂に、言ってしまった!
これが軍に知れれば、もう二度と、この職業には戻れなくなる。
セツナは幸福感と、絶望を同時に味わっていた。
「お前を‐‐―‐‐愛してる」
「ライゾ……ありがとう」
きつく触れ合う身体。
絡まり合う舌、熱い吐息。
「離すな……あ、たしを…離さな…いでっ」
「くうぅっ……セツナ……セ、ツナっ」
セツナは、ライゾの褐色の背中に爪を立てて、動かなくなる。
罪と知りながらも、危険な愛と分かっていながらも。
二人は本気で愛し合い、混じり合った。