追憶
これは元もと『生きる』というタイトルの詩でした。
ふと目に付いたので小説化してみることにしたんです。
短編のつもりでしたが、プロットが進む進む(笑)
どの作品とも違う物なので、楽しんで読んでいただければ、幸いです。
1章 追憶
嘗てあたしは、一兵卒として戦場を駈けていた。
『朱髪のセツナ』‐‐―‐それが、腕利きの女剣士としての、あたしの通り名だった。
「もう迷わないって、決めたんだよ」
なのに……。
なのに、あの夏の残像が離れないんだ。
‐‐―‐‐目を閉じれば、鮮やかに蘇る戦場の業火。
もう、一年ほどになるか。
隣国で戦があった、それは惨い‐‐―‐‐大がかりな殲滅戦だった。
セツナは元より、この国・七つ国がうちの一つである棠国・荊州の武家の出であった。
代々女系のセツナの家族は、男女関わらずに武芸を学び、鋭気を養っていた。
『父上、あの技見せてくれ!』
屋敷の裏庭にある稽古場に、元気な声が響く。
『いいぞ……見てろよ?』
ピコピコと飛び跳ねてまわる愛娘に、若い父親は笑みを深くする。
彼は、燃え盛る業火の如く…という形容が似合う、見事な朱髪の青年だった。
『跋鬼伏邪……破妖陣っ!!』
刀が、妖気を噴いた。
稽古場の藁人形が、微塵に粉砕されて木っ端が散る。
『凄い! あたしも、父上みたいに強くなるっ』
『よーし、それでこそ俺の娘だ』
幼いセツナは、大きく強い父が大好きだった。
セツナは知らなかったが、彼女の父親は七つ国は、棠国禁軍の将軍の席にいた。
『父上、もう出かけてしまうのか?』
『ごめんな、父さま急な仕事が入ったんだ』
項垂れた愛娘の頭を、彼はわしわしと撫で回す。
『父上……』
職務柄、元々長く家を空けることが多かった彼は……遂に、本当に帰ってこなくなった。
棠国と胡国、両者間に大戦が勃発したのである。
理由は知らねど、帰ってこなかった父の後を継いで、セツナは剣士として生きる道を選んだのだった。
そして……下積みの時期を経て、セツナは傭兵として戦場を駈けるようになった。
強くあろう。
強く在らねば。
(強くなろう……父上に恥じぬよう!)