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ぼくらの天使  作者: 半導体
三章
53/56

50話 序幕

 街は混乱の極みにあった。

 もとより出歩いている人間は少なかったのだが、爆発現場の近くの建物から逃げ出した人々が一斉に通りを走り抜けていく。同時に複数発生した爆発はいくつもの黒煙を立ち上らせ、人々に明確な『危険地帯』を知らせている。

 そして煙が南側でも無数に登っていることを確認し、人々は確かな逃げ場を失い右往左往するばかりだ。


 そうした流れの中、明らかに周囲とは違う感情を持って疾走する二つの影があった。

「急にすごい人になったわね。はぐれちゃいそう」

「手を握ってるんで大丈夫です」

 リメールとガルドの身を案じて探し回っているリオナとリダだ。

 爆発が発生した当初、二人は外に出ることを躊躇っていた。状況がよく分からない中で無闇に出歩くのは危険だと考えたためだ。

 しかし、二人の分まで外を回っているガルドはもちろん、資料の整理のためにリメールもここを出ている。彼らのことが心配になった二人は、居ても経ってもいられず外へ飛び出したのだ。

「リメールに限って巻き込まれてるってことはないと思うけど……」

「ガルドだってすごく強いんですから心配いらないですよ、きっと」

 お互いを励ますように口を動かしながら街中を走り回る。さすがに現場には近づかないようにしているが、見つからない場合は二人ともそこへ向かうことも辞さないつもりでいた。

 しかし、一気に人が溢れかえったために捜索は困難を極めている。姿を見ればすぐに判別できるだろうが、そもそも移動すら思い通りにいかない状態だ。

「あの二人はともかく、時間がかかりすぎると私たちも危ないわ。また爆発が起こるかもしれないし」

「……そうですね。慎重に急ぎましょう」

 好転しない事態に苛立ちと焦りを覚え、リオナは無意識にその足を速めた。




「いよいよ動き出した……ってことか」

 走りながら黒煙を見上げ、眉をひそめるガルド。

 街のはずれまで来ていたためか煙の元からは距離があり、逃げる人間の姿もまばらだ。だがこの距離でも、爆発の威力とおよその位置は推察することができる。

「これは……世界委員会の施設ばっか狙われてるみたいだな」

 あちこちの煙の位置を確認し、ガルドは自身の推測が的中していることを確信した。

 フリギスから、世界委員会の関係者が相次いで襲われる事件のことを聞いていた。

 裏でテロリストの集団が暗躍している可能性も話にのぼっていた。

 だからこそ、この爆破事件こそテロ集団が本格的に動き始めた証拠であり――これまで街に溢れていた異変の形の一つなのだと。

「状況を見ても、確実にあいつらだよな……」

 あからさまに怪しい人間はすでに見かけている。

 爆発の発生する直前、ガルドの前を通り過ぎて行った黒いマントの二人組。走って行った先の区画だけは煙が上がっておらず、そちらでは爆発が発生していないと分かる。

 そうした点でも彼らこそテロ集団として疑わしいのだが、それでもガルドは後を追わず街の中心部へと急いでいる。事件の容疑者を取り逃がすことよりも、リダやリオナ、リメールといった面々の無事を確認しなければならないと判断したためだ。

 現在地からギルドまでは若干の距離がある。戻るまでに新たな爆発が発生する可能性もある上に、街中は人々が逃げ出してパニック状態になっており、リダとリオナにとってはかなり危険な状況になっていると言えるだろう。

「くそっ……やっぱり何かしら先に動いておくべきだったか……!」

 自身の迂闊さを心中で叱責しつつ、ギルドへ向かい全力で疾走する。

 人の流れに紛れ、時に逆らい、仲間の無事を確認したい一心で。




 一気に人が増した街中で目当ての人物を見つけ出すというのは容易なことではない。時間が経つごとに人の姿が増しているのは、どうやら南側の人間が北側まで流れてきていることが原因のようだ。

「南の方が被害が大きいのかしら」

 北側に人の流れが向いている『門』周辺の様子にリオナが眉をひそめる。

「だとしたら、そっちに行ったリメールが心配ですよ」

「でも、きっとガルドも私たちのこと心配してるわよね……」

 『門』を抜けてリメールを探しに行くか、先にガルドと合流するか。ガルドを優先するならば一度宿に戻ることも考えたのだが、今から戻ろうとするとかえってこちらを見つけにくくなってしまうだろう。結果として二人は、見通しのきく『門』の前で立ち往生して動けなくなってしまったのだ。

 行き交う人々に常に注意を向けているが、未だガルドとリメールの姿は発見できていない。本当に爆発に巻き込まれたのではないかと、最悪の場合を想像して二人は背筋を震わせる。

「あの爆発……世界委員会の人の襲われた事件と関係あるんでしょうか」

「……どうかしら。テロ集団の仕業ってことも考えられるんじゃないかしら」

「というより、それしか考えられない気がしますけど」

 襲撃事件が頻発していることや犯人がテロ集団だと知らない二人も、この騒動がそれらと関連していると確信していた。これまで募ってきた不信感や違和感もあり、自ずとすべての物事が結びついて一つの結果へと導かれていく。

「二人と合流して、そのあとはどうすればいいのかしら」

「リメールと一緒に街を脱出ですか!」

「それはリメール次第でしょ。まあ、街の脱出まではあり得る事態だけど」

 解読作業を通じてどれだけ慕うようになったのか、リダはリメールとこれからも一緒にいたがっているようだ。彼女がリオナたちに同行する理由がないので、それは叶わない願いだろうが。

 リダもそれは分かっていたようで、「でしょうね」と呟いて一瞬だけ苦笑して見せたのだが――

「でも……」

 何か思うところがあったらしく、笑みを消した真剣な瞳でリオナに目を向ける。

「僕は、逃げたくないです」

「え?」

 唐突な宣言にリオナは思わず訊き返してしまう。

 街に愛着があって離れることを拒否しているようにも受け取れる言葉だったが、彼はそれと違った意図を持っているようだ。

「このまま引き下がるなんて……嫌なんです」

「……それって、自分で犯人を見つけるってこと?」

「はい。何の罪もない人たちをこんな目に遭わせるなんて、卑劣極まりないです。人のすることとは思えません」

「それは私も思うけど、だからってリダが動く必要は」

「僕の手で捕まえて、償わせてやりたいんです。誰かに任せるんじゃなくて、僕自身で」

 冷静を装おうとしているが、リダの言葉の端々からは強い憤りが感じられる。子供特有の虚栄心もあるのだろうが、本気で犯人を捕まえようという確固たる意志が垣間見えるようだ。

「……リダが力でぶつかり合えば勝てるかもしれないけど……そんな単純な相手じゃないんじゃない?」

「それは分かってます。でも、相手が強いからやりたい放題させるなんて間違ってるでしょう。爆発でたくさんの人が困ってるのを無視なんてできませんよ」

 自身が『力の民』であることを意識しているのか、背中の大斧をガシャリと鳴らすリダ。

 それは自信というよりも、決意と呼ぶにふさわしい意志を携えた姿だった。

「……まったくもう、頑固なんだから」

 しばらく固まっていたリオナが諦めたように溜息をつく。

 リオナも『力の民』のことは詳しくないが、こうした事態を傍観していることは彼の血が許さないのだろう。今すぐにでも爆発現場に赴き、犯人の手掛かりを探さんとする勢いだ。

 そしてリダが犯人を追いかけようとする以上、リオナも一人で避難するつもりは全くない。

「だったらなおさら早く合流しないと。リダだって、私たちだけで捕まえるつもりはないんでしょ?」

「そうですね。まずはガルドとリメールの安全を確認しませんと」

 こうした状況にもそれなりに慣れているようで、リダは反論せずに頷いた。無策のまま敵に突っ込んでいくほど馬鹿ではないということだろう。

 戦闘の様子について以前ガルドに「駄々をこねる子供のよう」と言われていたリダだが、今の顔つきはまぎれもない戦士のそれだ。

「……? どうしたんですか?」

 じっと見られていることに気付いたリダが不思議そうにリオナを見返す。

「ううん、ごめん。なんでもないわ」

「そうですか? そんなにじっと見られると――うわっ!」

 リダは納得しきれていない様子だったが、そんな疑問は再び発生した爆発の轟音によってあっさりとかき消される。

「また爆発……!」

「近かったですね」

 まだ爆発が治まっていないと分かり、周囲の混乱が一気に大きくなる。

 かなりの近距離だったらしく、二人の鼻にまで火薬の匂いが漂ってきた。吐き出される黒煙によって、広く見渡せていた視界が急に狭められてしまう。近場にいた数人が煙に纏われながら必死に逃げだしている様子がうかがえる。

 その煙幕の中から、明らかに逃げ惑っているわけではない一つの人影がこちらに走ってきているのが見えた。

「あっ……あれ!」

 目を凝らしていたリダが何かに気付いたように声を上げる。

「なに?」

「ガルドですよ! ガルド!」

 リダが指をさしている間に、人影は煙を抜けてその姿がはっきりと視認できるようになる。それを見たリオナも、それが確かにガルドであることを確認した。

「あ、ホントだ!」

「ガルド! ガルドー!」

「……リダ、リオナも!?」

 あちらも二人に気付いたらしく、切羽詰まっていた表情が瞬時に驚愕に染まる。疾駆の速度を上げ、二人に向かって一直線に向かってきた。

「お前ら、なんでここに!」

 驚愕に怒気を孕ませて叫ぶガルドは、二人が宿に留まっていないことにかなりの焦燥を覚えているようだ。

「馬鹿野郎! なんで外に出てやがる!」

「ガルドが心配だからに決まってるじゃないですか!」

 叱責するガルドに負けじと声を張り上げるリダ。いつもの彼なら半泣きになって謝っているところだが、自分が間違ったことをしていないと確信しているので一歩も引く気配を見せていない。

 それはガルドも理解したようで、表情にいくらか冷静な色が戻ってきたようだ。声を荒げるほどの焦燥は姿を隠し、肩で息をしながらも安心したように薄く笑って見せた。

「……お前、久々に『キレてる』のか」

「そう思いますか?」

「どう見てもそうだよ」

 二人で短い言葉を言い交すが、リオナには何のことか分からない。二人の間では通じ合っているようなので、彼女も深く訊ねないことにした。

「ともかく、二人が無事でよかった。リメールは一緒じゃないのか?」

「資料の整理をしに自分の家に戻ったわ。彼女のことも探してるんだけど……」

「そうか……ああ、心配だからって無闇に動き回るなよ。この爆破騒ぎに乗じて『他のこと』に巻き込まれる可能性もあるからな。安否が気になるのは分かるが、耐えろ」

 別の事件の存在も感じさせるガルドの言葉に、二人とも何も言い返すことができない。異種族を標的とした新たな事件が、この騒ぎに隠れて行われないとも限らないのだ。

 自分たちが異種族だからこその警告に、それでもリダは不満げに口を尖らせている。

「……この爆発の犯人を捕まえれば、そういう心配をしなくてもよくなりますよね」

 先刻の決意に満ちた眼差しのまま、リダは静かに言葉を紡ぐ。

 まるで、いかなる事態にあっても全てを力でねじ伏せようとしているかのようだ。

「そりゃそうだが。……お前が、一人でやるつもりか?」

「手伝ってくれるなら歓迎しますよ」

 普段の彼をまるで感じさせない物言いに、さすがのガルドも一瞬言葉を失ってしまう。よほど爆破事件のことが癇に触れたのだろうか、泣き虫な子供の面影は感じられない。

「……分かった分かった、手伝ってやる。俺だっていつまでも傍観してるつもりなんてなかったしな。お前らを避難させたら奴らを追いかけようと思ってたトコだ」

 諦めたように笑うガルドに、リダもわずかに表情を綻ばせる。内心では手伝ってほしいと思っていたのだろうか。

 その一方、黙って二人のやり取りを聞いていたリオナは、ガルドの言葉に引っかかりを覚えて割り込む形で口を開いた。

「ちょっと待って。今『追いかけようと思ってた』って言ったわよね?」

「ん、ああ」

「どこかで犯人を見たの?」

 普通ならば『捜そうと思ってた』となるであろう部分をそう言うというのは、犯人と思しき人物を目撃したことを示唆している。

「いや、犯人と決まったわけじゃないが……それらしい奴らを見かけた。真っ黒いマントにフードの二人組で、郊外の方に走って行ってたな」

 特に隠し立てするつもりもなかったのか、ガルドも言い渋ることなく事実を打ち明けていく。

「明らかに怪しいだろ? そん時は関わらない方がいいと思ってスルーしたんだが、直後にあの爆破騒動だ。疑うなって方が無理だろう」

 その方面には鋭い神経を持っているガルドにそう言わせるとは、やはりその人物たちは何かしらこの騒動に関わっているだろうとリオナは結論付けた。直接の犯人ではなくとも、捕まえれば多少の情報は得られるだろう。

 ――あら? 真っ黒なマントにフードって、なんかどこかで……。

 ガルドの放った単語が妙に耳に残ったため、リオナは自分もどこかでそんな人物を見ただろうかと記憶を手繰り寄せようとしたのだが――

 それよりも先に、リダが何かに気付いたようで口を開いていた。

「郊外……それって、ギルドよりもっとずっと北のはずれの方ですか?」

「ああ。大体その辺りだったな」

「それ、あの礼拝堂のある方ですね」

 あっさりと言ってのけたその事実に、ガルドの顔色が一瞬にして変わった。

 礼拝堂――リメールが調査を試みていた『天使』にまつわる建造物であり、オバケが出たということで調査が頓挫したいわくつきの場所だ。オバケの件はともかく、何かしら裏があるだろうとはリオナも思っていたが、それが今回のことでより真実味を帯びてきたと言える。

 怪しい二人組が向かっていたのは、その礼拝堂ではないのか。確たる根拠こそないものの、自然とそれが事実であると誰もが確信していた。

「なるほど……いよいよもって胡散臭くなってきたな」

「先にちゃんと調べておけば……なんて、今だから言えることですけどね」

「もし礼拝堂に潜んでいたなら二人で見に行った時に何か……ああ、あのオバケ話がそれに当たるのか」

「それも今思えば、ですね。あの時はホントにオバケかと思って怖かったですよ」

 ガルドを責める様子もないリダは、会話をしながらもすでに意識を礼拝堂へ向けているようだ。その姿は普段ガルドに軽くあしらわれている子供のものではなく、ガルドも対等の相手として言葉を交わしている。

 まだ彼らと過ごした時間の浅いリオナにも、二人の間の確かな絆が感じられる瞬間だった。

「礼拝堂に行くのなら早くしましょ? 目的も何も分からないんだし、行動は早い方がいいわ」

 会話の区切りを見つけてリオナがそう促した直後、やや離れたところからまたも爆音が響いた。あちこちから立ち上る黒煙により、マルトーリの空は今や暗雲のような黒い(もや)に覆われてしまっている。

「そうですね、急ぎましょう」

 それ以上は全員が口を閉じ、自然とリダが先頭で案内をする形で走り始めた。

 


 

「あ、あそこ……」

 走り始めてすぐ、リオナが人ごみの中の一点を指差した。礼拝堂に向かう途中の通りに、三人の見知った人物の姿があったのだ。

「あれは……フリギス!」

 世界委員会の人間である男が、真っ青な服を身にまとった人々に何か指示を出しているようだ。指示を受けた者が駆け出した傍から別の者が報告をしに戻ってくるなどしており、フリギスはひっきりなしに何かを叫び続けている。

 名前を呼んだことで彼もこちらに気付いたようで、緊迫した表情をわずかに綻ばせて手を挙げて反応した。

「みなさん、ご無事でしたか」

「ああ、なんとかな。そっちは事の収拾に忙しそうだな」

「ええ、まず間違いなくテロ集団の仕業なのですが……正直、犯人の捜索どころではない状況ですからね」

 爆破の対象が世界委員会に絞られていることにはとっくに気づいているだろう。それでも余裕がない様子なのは、街全体という大規模な範囲での破壊活動が彼らの対処できる程度を超えていたということだろう。

「すでに何名か負傷者が出ております。他にも爆発に巻き込まれた方がいると思われるので、応急処置と怪我人の捜索・救出に追われている状態です」

 ガルドたちと会話をしながらも、フリギスは休むことなく部下に指示を出していく。的確かつ迅速に状況を判断しており、彼がいかに有能な上官であるかが窺える。

「他の部署の者とも連携を取っていますが、絶対的に人手が足りませんね……住民の方の安全の確保だけで手一杯な有様です」

「この街にいる奴らは実働隊とは違うし、こんだけの規模の事件なら仕方ないさ。奴らもそれを計算した上での犯行なんだろう」

「ええ。それでも我々は一般人の安全を優先すべきだと考えています。……それすらも満足に行えていないので、あまり偉そうなことは言えませんがね」

 冗談めいた言葉とともに苦笑して見せたが、切羽詰まっているのは事実らしい。入れ代わり立ち代わりやってくる彼の部下たちも、軒並み額に汗を浮かべて息を荒くしている。

「……私も手伝うわ」

 その様子を見たリオナが、意を決した様子で一歩前に出た。

「リオナ?」

「礼拝堂には二人で先に行ってて」

 どうやら今しがたの話を看過できなかったようだ。面倒見のいい彼女の性格を鑑みれば、ある意味当然の行動であると言えるだろう。

「……別行動で大丈夫か?」

「ホント言うとちょっと不安だけど。三人で救助を手伝うわけにもいかないでしょ? それに、私は二人ほどケンカとかに慣れてる訳じゃないから。何かあった時に足手まといになるのはイヤなのよ」

「気持ちは分からんでもないが」

「たぶん、私にはこっちの方が向いてると思うの。犯人捜しはその分ガルドたちに頑張ってもらうから」

 彼女の提案に、ガルドは顔をしかめる。

 リダを一緒に残すのが精神的にも最善策なのだろうが、敵側の戦力がどの程度あるのか不明である以上、単身で追跡するのはあまりに危険だ。そもそも、こうして『キレた』状態のリダがそれで納得するはずがないと、ガルドはこれまでの経験で嫌と言うほど理解している。

「あなたたち二人なら大丈夫よ。こっちが終わったら私もそっちに合流するつもりだし」

「……あまり気は進まないが、他に選択肢もなさそうだな」

 しばらく逡巡したのち、ガルドは彼女の申し出を受け入れることにした。荒事の際に彼女が足手まといになると思った訳ではなく、街の状況がガルド自身も気になっていたというのが大きい。

「そういうわけだ、フリギス。こいつも使ってやってくれ」

「え? ええ、お手伝いいただけるのは非常にありがたいですが……ガルドさんはどうなさるおつもりで?」

「俺らは犯人を探しに北の礼拝堂まで行くところだ。フリギスは人命救助を最優先にしてくれ」

「……分かりました。こちらも余裕ができ次第応援に向かいます。ですが、あまり無理はなさらないでくださいね」

 こちらの意図を汲んでくれたようで、申し訳なさそうに(こうべ)を垂れるフリギス。人員が一人増えただけでも本当に助かったようだ。

「それで、私は何をすればいいのかしら」

「ありがとうございます。西の広場の被害が大きいので、まずはそちらに。詳しい指示は現地の者から受けてください」

「分かったわ」

 目的地を聞いたリオナは、駆け出しかけの態勢でふと立ち止まってガルドたちへと振り返った。

「それじゃ、ガルド、リダ。無茶はしないようにね」

「ああ、リオナこそな」

「お互い頑張りましょうね」

 軽く手を挙げ、すぐさま走り出すリオナ。みるみる小さくなっていくリオナの背中を長く見送ることもせず、ガルドとリダも北へ向かい駆け出した。



 慌ただしく動く現状に翻弄され、リオナは結局思い出すことができなかった。

 ガルドが見た二人組とは別に、彼女も不審な人物を目撃していたことに。

 そして――それこそが、彼女にとって決定的なミスだということに。

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