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ぼくらの天使  作者: 半導体
三章
47/56

45話 暗躍する影

 その惨事は、不自然なほどの静寂の中にあった。

 場所は街の中心を貫く大通り。他の街ならば人で溢れかえっているはずのその通りは、マルトーリという厳格化された空間においては決して賑やかな場所ではない。人の往来はほとんどなく、芸術品と見立てた景観にとって邪魔になる人間は排除してしまったかのようだ。

 ともすれば、無人とも錯覚してしまう閑散とした街の一角。

 そこに、一人の男が倒れ伏していた。



「ちょっと、あれ……!」

 先に気付いたのは、常に周囲を気にしていたリオナだ。

 先行していたガルドの袖を引き、ピクリとも動かない人影を指差す。そしてガルドの反応を待たず、全速力で男性のもとへ走り出した。即座に事態を把握したガルドもそんな彼女に続いて駆け出す。

「おいおい、人が倒れてても誰も出てこないのかよ……」

 周囲に人影はない。人が倒れていることは遠くからでも確認できるはずだが、周辺の住宅からも誰かの出てきている様子がまるでないのだ。

 単に面倒事に関わることを嫌がっているのか、あるいは助けようという気持ちすら湧いていないのか。いずれにせよ、ガルドにとっては反吐が出るような話だ。

「大丈夫ですか? しっかりしてください」

 懸命に呼びかけを行うリオナの声で、ガルドも男性へと意識を向ける。この街の住人に対する怒りよりも、今は彼を助けることが優先だ。

「反応はあったか?」

「ううん、それどころか全然動かな……ぁ……」

 リオナが何かに気付いたようで、唐突に言葉が途切れた。

 のばしかけた手の動きが止まり、目が固定されてしまったかのようにある一点を注視している。そして顔を真っ青にして、体を小刻みに震わせているではないか。

「リオナ?」

 何事かと尋ねるよりも早く、彼女の視線の先でガルドもその答えに行き着く。

 うつ伏せに倒れた男性の脇腹の下から、鮮やかな赤色が覗いていた。

 日光の下でそれは鈍い輝きを放ち、じわりじわりとその面積を坂下に向かって広げている。少量でも鼻にかかる錆の匂いを漂わせており、その正体が何であるかを如実に表していた。

「ど、どうしよう……この人、死んじゃってるのかしら」

「リオナ、ちょっと落ち着け」

 すっかり動揺してしまっているリオナをなだめ、ガルドも彼女の横に膝をたててしゃがみ込む。そして彼の腕をとって脈の有無を確認を始める。

「……。大丈夫だ、死んではいない」

「ホント!? よ、よかった……」

 リオナは胸をなでおろしているが、まだ安心はできない。彼が流血をしているのはまぎれもない事実であり、素人のガルドたちにそれ以上詳しい容態は分からない。

「今は一刻も早く医者に診せるべきだ。リオナ、すぐに呼んで……そうだな、リメールなら医者の居場所も知ってるはずだ」

「分かったわ」

 頷いたリオナはすぐに立ち上がり、リメールの自宅へと向かって駆け出す。不慣れなリオナが無闇に探し回るより確実だという判断を、彼女自身も汲み取ってくれたようだ。


 走り去るリオナの姿が見えなくなったことを確認してから、再び男性に視線を向ける。

「さてと……果たしてこれは、偶然なのかね」

 リオナがいる間は余計に不安を掻き立てないよう、気づかないフリをしていたある事実。独りになったことで改めてその事実を確認し、ガルドは眉をひそめた。

 多少土と血で汚れてはいるが、それでもなお鮮やかに映える青。

 軍服にも似た特徴的なデザイン。しかもレクタリアで声をかけてきた男のものとは違う、更に高い位を表す装飾が施されている。もっとも、組織全体ではそれほど高いわけではないこともガルドは同時に分かったのだが。

「世界委員会の幹部、か」

 一度だけ小さくため息をつき、ガルドは淡々と止血処理を始めた。

 これが大騒動の前兆でなければと、心の隅で願いながら。






 指先でくるくると回される銀色の鍵が、照明の光を反射して鈍く光っている。

「これでいくつだっけ?」

 鍵をまわしていた少年に、軽い調子の声が投げかけられた。

「四つ……」

 少年は機械的に鍵を回したまま、首を動かすことなく最低限の言葉で返答する。半分閉じられた瞳は焦点が定まっておらず、鍵の創り出す燐光の輪を虚ろ気に眺めているようだ。

「そっか。じゃあ、あと一つだね」

「ん……」

 彼の様子など気にも留めず、声は明るい雰囲気のまま一方的に話を進めていく。少年はそれに不満を言うこともなく、見てわかるかどうかきわどい小さな会釈をする。

 そんな彼に対し、最後にもう一度だけ同じ声が言葉を残していった。

「最後は僕が直接行くよ。何かあった時のために、フォローはお願いね」






「世界委員会地方管理局マルトーリ地区担当室長のフリギスです。部下をお助けいただいたこと、心よりお礼申し上げます」

 病室の前に集まっていたガルドたちに対し、フリギスと名乗った男性が恭しく頭を下げた。

 やはり服装は鮮やかな青色をした軍服のような制服で、彼らが同じ組織に所属していることを明示している。だが彼の服の整った装飾や勲章の数々を見る限り、倒れていた男性よりもかなり高い立場にいることが明らかだ。やや白髪の混じり始めた頭髪や顔に深く刻み込まれた皺など、相応に年齢と経験を積み重ねた老紳士といった印象を受ける。

「長いですねぇ……」

「ははは、ごもっともですな。確かに呼びにくいことは否めませんが、それでも欠かすことのできない重要な役職です。省略することはできませんから」

 リダの失礼な苦言にもフリギスは笑顔を見せる。子供の言うこととしてさほど気にも留めていないようだ。それと同時に恩人の一人としても扱ってくれているらしく、その振る舞いはまさしく紳士としてのそれだ。

「あの、彼の容態は……」

「ああ、かなりの重傷でしたがもう大丈夫だそうです。もう少し発見が遅れていれば危なかったとのことですが」

 リメールがおずおずと手を挙げると、フリギスは安心させるように頷いて見せる。それで懸念が完全に払拭されたらしく、リメールが安堵の息を漏らした。


 リオナがリメールと医者を連れてきたのは、ガルドが止血処理を終えてすぐのことだった。当然ながらリダも一緒について来ており、男性を運ぶ手伝いをしなければならないこともあり、そのまま全員で診療所までやって来てしまったのだ。

 倒れていた男性はやはり世界委員会の関係者だったらしい。いつまでも隠し続けることはできないだろうとガルド自身も分かっていたのだが、世界委員会が苦手であるリダはやはり複雑そうな表情をしていた。リオナもフリギスが現れてから硬い表情になって黙り込んでおり、リダと同様に世界委員会を良く思っていないことが窺える。

「しかし、まさか……ガルドさんがマルトーリにお越しになっているとは。ご連絡いただければ歓迎の準備も致しましたのに」

「そういうのは苦手なんだ、気にしないでくれ。個人的な用事で来てるだけで、世界委員会と関わりはないからな」

 唯一世界委員会と関わりの深いガルドだけは、フリギスと気兼ねなく言葉を交わしている。ガルドが組織から少し外れた立ち位置にいるため、フリギスの方が他人行儀な態度をとっているようだが。

「個人的な用事、ですか。お連れの二人はそちらの関係で?」

「詮索されるのは好きじゃないな、プライベートなことだ。……とりあえずあの男の無事は確認できたし、俺たちもそろそろ帰りたいんだが」

 神経を尖らせているリダとリオナの様子を意識してこちらの意向を伝える。

 通りで人が襲われるという事件が発生した直後であり、実際にはいろいろと話を聞いて実状を把握しておきたいというのがガルドの本音だ。しかし、まだ宿の確認もろくに済んでいない現状ではほかに優先すべきことがあるのも事実である。何より、世界委員会に嫌悪感を抱いている二人の前で無理に話し込む必要もない。宿で落ち着いてからガルド単身で事情を訊きに向かってもいいのだ。

「おや、今回の騒動については何もお訊きにならないのですね。場合によってはあなたがたも無関係ではなくなると思いますが」

「そんな余裕のある態度とれるなら大丈夫だと思っただけだ。それに、まだ大荷物を置いておける宿にも到着してない状態でな」

 なにやらもったいぶっているようにも感じられるフリギスの物言いに、ガルドも皮肉を交えて返す。その返答が気に入ったのか、フリギスは含み笑いを浮かべてからガルドにそっと耳打ちをした。

「実は、今回の事件……これまでにも同様の事件が発生しているのです」

「なに?」

「ここではお話ししにくい内容ですので……ひと段落つきましたら、私の管理室までお越しください」

 それだけ告げるとすぐさま身を離し、元通りの柔和な笑顔にもどるフリギス。気味が悪いほどの切り替えの速さだが、彼の気遣いがありがたかったのもまた事実だ。意図せず関わることとなったこの事件は、そ知らぬふりをしてやり過ごすことはできないほど大きなものであるらしい。

「リダ、リオナ、それにリメールも。そろそろ引きあげないか」

「……そうね。寝るトコがどんなところかも気になるし」

「それでしたら、リダさんもご一緒に行っていただいて構いませんよ。今日はもうお疲れでしょうし、明日からまた手伝っていただければ大丈夫ですから」

「あ、なんか気遣ってもらっちゃってすみません」

 誰からも反対の意が出ないことを認め、フリギスもその意見に納得したようだ。コクリと頷き、相変わらずの笑顔のままガルドに向かって恭しく一礼をした。




 用意された宿泊部屋に着く頃には日が暮れ始めており、窓からの斜陽が長く室内へと差し込んできていた。淡彩の絨毯が深い茜色に色づけされ、広々とした室内に黄昏時の寂寥感をもたらしている。

「はぁっ……」

 溜息を一つつき、リオナは脱力してベッドの一つに倒れこんだ。その彼女の体を柔らかく包んで弾ませるベッドから、リメールがかなり良い部屋を用意してくれたのだと分かる。準備してくれたのが一泊分なので、明日からはギルドを利用することになるだろうが。

「大丈夫ですか? ずいぶん疲れてるみたいですけど」

 リオナの顔色が優れないことに気付き、リダは慎重に言葉をかけた。

「そりゃあんなことがあればね……っていうか、なんでリダはそんなに元気なのよ」

 隣のベッドに腰を下ろしたリダに、いかにも疲労困憊といった声色でリオナが唸りをあげる。もちろんリダは解読作業の補助をしていただけなので、街中を歩き回ったりリメールを呼びに走ったりしたリオナと比べれば疲れる要素は少ない。だがそれを差し引いても、彼女はひどく体力を消耗しているように映った。

「大変だったみたいですね。僕はリメールについて行っただけなんであんまり印象に残ってないです」

「あ、そう……人助けはいいんだけど、その後に会った世界委員会の人っていうのがちょっと、ね」

「ああ……フリギスって人ですか」

 リオナの憂慮に同意してリダも頷く。

「悪い人じゃないのは分かるんだけど……私、どうも世界委員会って苦手で」

「ああ、それ分かります。なんていうか、息が詰まる感じがしますよね」

 病院で相対したフリギスだけでなく、日中歩いていた際の街全体の印象も交えて眉をひそめる。リメールに会ってからリダとは別行動をしていたリオナだが、一日の感想が至る所はリダと同じだったらしい。

 街全体に『世界委員会らしさ』が溢れているというのは、到着以前にガルドが愚痴をこぼしていたため二人とも把握していた。リダと違ってリオナはそれほど気にしていないような素振りだったが、どうやら彼女もリダと同じ感想を抱いていたようだ。思い返してみれば、フリギスがやって来てからのリオナは不機嫌そうな顔をして口を噤んでしまっていた。

「でも、ガルドはそんなことないのよね……彼も世界委員会の関係者なのは分かってるんだけど、堅苦しさが無いっていうか」

「それも全く同意見です。あ、そういえばガルドはどこに行ったんですか? ここに来るなりまた出かけちゃったみたいですけど」

 リオナの口から名前が出たことで、リダは先刻までこの場にいたはずのもう一人の存在を思い出す。彼は二人と一緒にこの部屋に入ってきたはずなのだが、すぐに踵を返してどこかへ姿を消してしまったのだ。

「ああ、ガルド?」

 心当たりがあるらしく、リオナが顔をわずかにあげる。

 そして続けて告げられたガルドの行先に、リダはますます眉間のしわを深くするはめになった。

「その、フリギスさんのところに行ったみたいよ」




 教えられた住所までたどり着くのにさほど時間はかからなかったが、すでに太陽が半分ほど姿を隠してしまっている。早めに用事を済ませて帰らないと二人が心配するな、とガルドは呑気なことを考えていた。

 そうした些細なことでも考えて気を紛らわせたくなるほど、フリギスの空気が一変していたからだ。

「そうですね……単刀直入に、今回の件についてお話し致しましょうか」

 相手の警戒心を解くような柔和な笑顔ではなく、集団の責任者としての風格を伴った凛とした表情。病院で会った男とはまるで別人のような、威風堂々とした佇まいでガルドの前に相対していた。

 決してガルドの彼への評価が下がったわけではない。ただ、これこそが彼の持つ本来の姿なのだということをなんとなく理解することができた。


「現在このマルトーリでは、テロ集団が暗躍しています」

 予測できない内容ではなかったため、ガルドはそれほど驚愕することなく続きを促す。

「同様の手口で、すでに三件。いずれも今回と同様、我々世界委員会に所属する人間が襲撃され、負傷しています。命にかかわるほどの大怪我をした者も数名おり、私どもの間でも動揺が広がっています」

 真剣な面持ちで語られるその内容は、確かに病室の前で済ませるにはあまりに重大で深刻なものだ。こうしてガルドを個別に呼んで真実を明かすことにしたのは、フリギスの賢明な判断と言える。

 到着する以前から感じていた不吉な予感はこれか、とガルドは今さらながらに納得した。

「犯人がテロ集団であること、対象が我々世界委員会の人間に絞られていること。そこまでは把握できているのですが、具体的な犯人像についてはほとんど特定できていない状態でして……襲われた者も、背後から襲われて顔は見ていないとのことで」

「三人、それも世界委員会の奴ばっか襲われたのか? それにしちゃ、それらしい話は今まで耳に入ってこなかったが……」

「この事件については、私の権限で街の住人に箝口令(かんこうれい)を敷かせていただきました。被害は我々に限られているわけですから、無闇に一般人の不安を煽る必要もないと判断したためです。もしかすると、事件の存在すら知らない方もいらっしゃるのではないでしょうか」

「そうか。リメールも知らなかったみたいだったしな」

 その対処が正しいかどうかはガルドには判断できないが、いずれにしてもとやかく口出しするつもりはなかった。彼らも街を混乱させたいわけではないのだから、外部者のガルドが口を挟む理由はないだろう。

「もちろん我々も、夜間や人通りの少ない地域の警備に力を入れたりと対策をとっておりますが……その我々自身が襲撃の対象となっているため、裏目に出てしまっている部分もあるようで」

 フリギスの顔が苦虫を噛み潰したようなものになる。自分のよく知った人間が立て続けに襲われて重傷を負い、その犯人を捕まえることもできずにいるというのは相当な苦痛だろう。

「それは……俺にも何かできることがあれば手伝った方がいいのか? 無計画に首を突っ込むつもりはないが、そこまで聞かされて我関せずを貫くつもりもないぞ」

「いえ、これは我々の問題ですから、ガルドさんを巻き込むことは避けるべきでしょう。……もし本当に逼迫した状況になったら、ご協力をお願いするかもしれませんが」

 他者の力は借りず、できる限り自分たちの力で解決しようというのがフリギスの方針のようだ。世界委員会自体が『テロ集団に対抗するため』という名目で存在しているのだから、その決定は当然のものであると言えるかもしれない。

 ただ、最後の一言が彼の本心であることはガルドにも痛いほど伝わってきた。

「お話は以上です。大丈夫だとは思いますが、お連れの方々にも一人で出歩くのは控えるようお伝えください」

 フリギスが不意に顔を逸らす。どれほどの苦悩と葛藤が彼の中で混濁しているのか、一瞬の仕草に様々な感情の濁流が色濃く表れていた。

「それはまあ、言われるまでもない」

「ああ、それから……我々の関係者ばかりが襲われているという点は、できれば伏せていただけますか? この問題を未だに解決できていないというのは、我々の未熟さを露呈しているようで……」

「そういうもんか。ああ、分かったよ」

 最後にわざとらしく分かりやすい苦笑をして見せ、つま先を外へ向ける。やはり体裁が気になるのかと呆れつつ、同時にそのひたむきな職務精神に内心で称賛を贈る。

 フリギスが手短に話しを済ませてくれたため、まだ完全な日没には至っていない。早足で戻れば、リダとリオナが空腹を覚えるまでには宿に到着することができそうだ。しなければならないことが山積し始めてはいるが、煩わしい仕事は翌日からでも問題ないだろう。

「じゃ、俺は失礼するぞ。いろいろ大変だとは思うが、頑張れよ」

「ありがとうございます。それでは」

 今日はゆっくり休むことにしようと考え、ガルドは管理室を後にした。




「僕……自分が『力の民』だって、リメールに教えようかと思ってるんです」

「えっ」

 日がほとんど沈んだかどうかという頃合いになって、リダは一つの悩み事をリオナに打ち明けていた。

 その内容があまりに突飛だったため、疲労でうわの空だったリオナも顔にはっきりと動揺が表れている。

「ま、またいきなりな話ね……急にどうしたの?」

「今日、リメールと一緒にあの本の解読をしてたんです。タイトル通り、内容は天使に関する伝承とかおとぎ話がほとんどだったんですけど……その中に、僕たちみたいな異種族が出てきたんです」

 解読作業当時のことを思い出し、リダは口をへの字に曲げる。

 異種族は架空の存在ではないのだから、過去に綴られた物語に登場していても何ら不思議でない。だが実在するということを知らないリメールにとっては、唐突な異種族の登場は非常に気になる点であったようだ。

「その時ははぐらかしちゃいましたけど、リメールさん、すごく気になってたみたいで……異種族についての話もあの本に少し載ってましたから」

「そうなの……でも、それを私に相談したってことは、まだ迷ってるのね?」

「はい」

 リメールとはまだ会って数日の仲だ。もちろん仲良しになった彼女を疑う気持ちなど毛頭持っていないが、それでも異種族について打ち明けるというのはなかなか踏み切る勇気が出ない。そしてリダが異種族であると打ち明ければ、リオナにもその飛び火が降りかかる可能性もあるのだ。

「その……教えてしまって、大丈夫でしょうか」

 困惑を隠すことなく、リオナに意見を求める。

 リオナはすぐに答えなかった。真剣に思考を巡らせているようで、わずかに俯いて眉間にしわを寄せている。それほどデリケートなことを尋ねていると分かっているリダは、そんな彼女をじっと見つめて返事を待つ。

「……リメールさんなら、きっと分かってくれるわよ」

 少しして顔を上げたリオナは、柔らかい笑顔を浮かべていた。

「そっ、そうですよね!」

「どこまで話すかは、リダに任せるわ。……嘘をつくくらいだったら、きちんと話してリメールさんにも分かってもらった方がいいわね」

 異種族と知られて忌避されるという恐怖が無いわけではないだろう。それでもリオナは、リダの気持ちを尊重して後押しをしてくれたのだ。

 彼女が見せてくれた信頼に、リダ自身も応えなければならない。

「あ、ありがとうございます!」

「……いいのよ。あんないい人に、いつまでも隠し事はしたくないものね」

 深々と頭を下げたリダに、リオナは気にしていないと言うように手をパタパタと振って笑って見せた。

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