44話 掠れた跡
「匂い、なぁ」
テーブルに両腕を預け、ガルドは納得したように呟いた。
「そう。私たち植物族は、匂いで仲間を判断するの。さすがに個人を識別したりはできないけど、近くに仲間がいれば分かるわ」
「で、その仲間の匂いがこの街から溢れてきている、と」
こくん、と弱々しく頷くリオナ。妙な仲間の気配がよほど気がかりなのか、普段からは想像もできないほどしおらしくなってしまっている。
匂いを感じたなどと告げられて、普段ならすぐに信じたりはしなかっただろう。だが、今のリオナの表情に冗談を言っている雰囲気はない。そもそも、この状況でわざわざ回りくどい嘘をつく理由もないだろう。
ガルド自身、異種族についてそこまで詳しく知っているわけではないのだ。彼女たち植物族が『匂い』について独特の感覚器官を持っていても何ら不思議ではない。
むしろガルドが不気味に思ったのは、それほど大量の植物族が唐突に出現したという点だ。
異種族の存在を隠匿しようとする動きがあるのはガルドも把握している。そのため、人間の街ではほとんど異種族に出会う機会がなかった。いたとしても人間に見つからないように生活していたり、自身が人間でないことを隠して暮らしていたりしたのだ。マルトーリほど人間色の強い街に、それもリオナが困惑するほどの大人数が暮らしているとは考えにくい。
「う、嘘じゃないわよ? すごくハッキリ感じられてて、間違えるはずないもの」
考え込むガルドが話を疑っていると思ったようで、リオナが必死に弁明をする。
「勘違いだとは思わないが……いかんせん情報が少ないな。無視するのか対策を練るのか、今の段階じゃそれすら判断できない」
「そ、そうよね……。で、でも私、なんだか……嫌な予感がするの」
「俺もそうだよ。ただ、俺らが関与すべきかどうかってところは別に考えるべきだろ。積極的に揉め事に首突っ込むのはいくらなんでも無謀だ」
こうした点で、リオナに告げた『余裕がない』という言葉が重みを増してくる。
ガルドが周囲の異変に過敏になっているのは、それら全てを解決しようとしているためではない。時には関わらないようやり過ごし、自分たちの安全を守るために意識しているのだ。
「……仕方ない、わよね」
同族が関わっているリオナにとっては、この街で何が起こっているのか是が非でも知りたいところだろう。それでもガルドの意図を汲んでくれたようで、力強く頷いて見せる。
「しかしまぁ、植物族が関わってるってんならリオナの兄貴も関係あるかもしれないからな。その時はできる限りのことをするつもりだぞ」
「っ……あ、ありがと」
現状で考え得る最も危惧すべき事態での協力を約束すると、リオナは安堵した様子で柔らかく微笑む。やはり彼女の頭の中でもその可能性が少なからず浮かんでいたようだ。もとより彼女の兄も旅の目的に入っているので、事態の把握についても無視するつもりはない。
「にしても……姿の見えない植物族、か。確かに嫌な感じだな。大騒ぎにならなきゃいいが……」
最後にひとりごちた言葉は、様々なことに思考を巡らせているらしいリオナには聞こえなかったようだ。
リダは上機嫌だった。というのも、リメールが想像以上に相性の良い相手であり、些細な談笑のタネであっても面白いほど話が弾むのだ。
もともとお喋りが好きなリダにとって、ほどよい相槌と興味深い話題の提供をどちらも期待以上に与えてくれる彼女は、理想の話し相手と言える。リメールの方もリダとの対話を心から楽しんでいるようで、無理につき合わせているかもしれないという懸念は全くない。
「そういえば、昨日の本はどうしたんですか? 今も持ってるんですか?」
難しそうな話をしているガルドとリオナのことは意に介さず、リダは気になっていた例の本のことを尋ねた。
「はい、もちろん。持ってきましょうか?」
「あ、お願いします!」
リメールの申し出に反射的に頷くと、彼女は心から嬉しそうな微笑みを浮かべてゆっくりと立ち上がる。リダがあの本に並々ならぬ興味を抱いていることを理解してくれているらしい。
「それじゃあすみません、ちょっとだけ待っててくださいね」
どうやら本は別の部屋に置いてあるらしく、リメールは申し訳なさそうに両手を合わせてそそくさと部屋を出て行ってしまった。
大事なものと言うからには、彼女にとってもあの本には大きな意味があるのだろう。わざわざ山道を下ってまで探しに出ていたほどなのだから、かなり重要な事であるのが窺える。それでもこうして簡単に見せてくれるというのは、純粋に彼女の優しさによるものだろうか。
あの本にはどんな秘密があるのだろう。まだきちんと読んでいないことも手伝い、リダの好奇心はどんどん大きなものへと成長しつつあった。
「すみません、お待たせしました」
ほどなくしてリメールが件の本を抱えて戻ってきた。どうやらリメールによって手入れし直されたらしく、ところどころの汚れがきれいになくなっている。
「あっ、ありがとうございます!」
目の前に差し出された本を慎重に受け取る。
彼女が大切にしている品物であり、ぞんざいに扱うことはできない。そう考えると、同じものであるはずのその本が前日以上にずっしりと重たく感じられた。
「こんなに大事にしてるなんて……リメールは、この本に何か思い入れがあるんですか?」
慎重にページを開きながら、何気なくリメールにも質問を投げかける。本の方に意識が向いてしまったため、抑えきれない好奇心が言葉になって出てしまったようだ。
「あ、私ですか? それはですね……えーと」
嫌がるそぶりも見せずに答えかけたリメールだったが、ふと何かを考え込むように言葉を途切らせてしまう。そこでようやくリダも、気軽に尋ねてはいけなかったかという懸念を覚えて顔をあげた。
「リダさんは、この街に礼拝堂があるのはご存知ですか?」
どうやら気分を悪くしたわけではないようで、リメールはリダの興味を引こうとしているように小さく首を傾げる。
「あ、いえ、知らないです」
「あらら、そうですか」
慌てて返事をすると、リメールは残念そうに苦笑して見せた。癖っ毛のはねたポニーテールがその拍子にぴこんと揺れる。
「街の北側、山脈の向こう側の地区に建っているんです。ずいぶん古いものらしくて、この街の『門』と同じ時代に建てられたらしいんですけど……なんでも、その礼拝堂では天使が祀られているらしいんですよ」
「そうなんですか……天使を祀ってるなんて、なんかこの本と関係がありそうですよね」
「ええ、そうなんです。だから私はそれについて調べにこの街へ……あ、あれ?」
嬉しそうに解説をしていたリメールは、不意に眉をひそめて動きを止めた。
「ええっと……なんで、その本が天使に関する本って思ったんですか?」
「なんでって、表紙に天使って書いてるじゃないですか」
金箔で縁取られた題字を指でなぞり、その文字をリメールにも確認させる。余計な修飾語や遠回しな表現ではなく、単純に『天使』とだけ書かれており、天使と無関係だと考える方が難しい。
「書いてるって……リダさん、ひょっとして……その本、読めるんですか?」
「へ? は、はい。ああ、そういえばリオナも読めないって言ってましたけど、読める人の方が少ないんですかね」
本を返却する直前、一緒になって内容に目を通していたリオナは『何が書いてあるのか全然分からない』と言っていた。その時はそれほど気に留めていなかったのだが、どうやらこの文字はリダの予想以上に読める人間が少ないらしい。
リダの故郷でアンヘルと呼ばれていた、滑らかな曲線が特徴的な文字群。常用されていたわけではないものの、外界でここまで浸透していないというのはリダにとって思いがけない事態だった。
「うーん、実はこれが読めるのってすごいことだったりするんでしょうか」
「すごいですよ! すごくすごいですよ! 私、もう感動しちゃいました!」
感極まった様子のリメールに両手をガッシリと握られ、勢いよく上下に振られる。表情は言葉通りに感動で溢れ返っており、それだけ彼女にとって衝撃的な事実だったということが窺えた。
「天使について書かれてることは分かったんですけど、詳しい内容は全然分からなくて困ってたんですよ」
「は、はあ」
思いがけないリメールの勢いに押されて目を丸くするリダ。そんな彼をよそに、リメールは手を握ったまま恥ずかしそうにリダの瞳を覗き込んできた。
「それでですね、あの、不躾なお願いであることは重々承知なんですけど……この本の解読、リダさんにもお手伝いいただけないでしょうか?」
「えっ、僕が、ですか?」
「はい。お恥ずかしい話ですが、私一人ではもう手詰まりの状態で……この街の礼拝堂を調べようと思ったのも、何か打開策が見つからないかと思ってのことなんです」
「ち、近いです、顔が!」
目の前にリメールの顔が迫り、リダは顔を赤くして目を逸らす。いくら周囲から女子と間違われているリダも、中身はれっきとした男子である。端正な顔立ちのリメールが間近に顔を寄せれば、気恥ずかしさが先に立ってしまう。
「あっ、ご、ごめんなさい……それで、その、本のことは」
「あ、はい。それはもちろん」
慌てた様子で距離をとって萎縮するリメールに、リダは改めて了承の意を伝えた。
解読に協力することに異存はない。むしろこの申し出は、本の詳しい内容に目を通す大義名分が得られたようなものだ。自身の知的欲求を満たしつつリメールの力になれるのだから、断る理由などない。
「僕でよかったら喜んで。どーんと、頼っちゃってくださいね」
「はいっ! ありがとうございます!」
自信いっぱいに胸を叩いたリダに、リメールは深々と頭を下げた。
「というわけで、リダさんをお借りしますね」
リメールの用意してくれた宿へ向かおうとしたガルドは、彼女から唐突にそう申告された。リメールの隣にはリダ自身も並んでニコニコと笑顔を浮かべている。
「……どういうわけで?」
「リメールのお手伝いです!」
笑顔のままでリダが宣言をするが、それを聞いても何一つ事情が呑み込めない。そんなガルドの混乱した胸中を察してくれたのか、リダに続けてリメールが説明を補足する。
「個人的な用事なんですけど、私はこの街に天使について調べるために来ているんです。リダさんがアンヘル文字を読解できるというので、お力をお借りしたいと思いましてこうしてお願いしています」
「ああ……そういやリダ、あの本に興味持ってたみたいだったしな」
ガルドは件の本をはっきりと見たわけではなく、どのような内容なのか把握しているわけではない。リダとともに内容に目を通していたリオナから、アンヘル文字という聞き慣れない言葉で書かれていて全く読めないと聞かされていた程度だ。ガルドもアンヘル文字という存在を知ったのは初めてであり、目を通していたとしてもリオナと同じ感想しか抱かなかっただろう。
いずれにせよ、絶対にリダを連れて行かなければならない用事は今のところない。
「まあ今は宿を確認しに行くだけだし、ギルドの仕事にしろ人探しにしろ、常時一緒に行動しなきゃいけないってわけでもないからな。いいぞ」
「ホントですか! やったぁ!」
OKサインを確認するなりリダが跳び上がって喜びを表現する。要望が通ったことで、リメールも嬉しそうにはにかんでいる。
「ねえ、ホントに大丈夫なの?」
そんな二人とは対照的に、傍観していたリオナが複雑そうな表情をしていた。
異種族の彼を一人別行動させるというのは、確かにリスクの高い行為だ。事情を知らないリメールにいらぬ悪影響が及ばないとも限らない。
「……リダだってそのくらいの分別はつくだろ。ここでリメールの要望を断るほどの理由じゃないさ」
若干の迷いを持ちつつも、ガルドはあえてそう断言した。
リダは『力の民』だが、日常生活を送る範囲でその差異を意識する場面はほとんどない。そもそも、本の解読を手伝う程度のことでこちらの複雑な事情を話す必要もないだろう。
もちろん、一緒に外出するなどと言い出した場合はまた色々と考える必要があるが。
「それじゃ、俺とリオナはひとまずその宿に行くから。リダ、手伝うと言った以上はしっかり仕事しろよ」
「はいっ!」
威勢のいい返事を聞かせたリダは、しかしすでに本の解読作業しか目に映っていないようだった。
リメール宅を出てしばらく歩いたところで、ガルドはふと立ち止まって街の上方を見上げた。後に続いていたリオナも歩みを止め、何事かと首を傾げる。
「どうしたの?」
「いや、大したことじゃないんだが。それよりリオナ、同族の匂いは今もしてるか?」
「ええ、それはもうずっと。最初は街全体に充満してるのかとおもったけど、『門』の方から流れてきてるみたい」
「そうか」
リオナの方を見ずに頷く。視線は坂の先に聳え構える『門』を捉えたまま、区切りをつけるように大きく息を吐いた。
「何? あの『門』になにかあるの?」
「……正確にはその向こう側、北の地域だ。この街に何かしらの不穏因子が隠れているとすれば、それは北側しか考えられない」
街の機能を維持する主要な施設は、ほぼすべてが街の南側に集中している。そのため、わざわざ北側の地域へ足をのばさなければならない用事はそうそうない。それはガルドたちに限ったことではなく、街の住人も八割ほどが南側に居を構えているという話だ。
同様に世界委員会の関連施設も南側に充実しており、大量の植物族が南側で集められているのであれば、世界委員会がそれに気づかないとは考えにくい。そもそも、それほど多くの人を隠しておけるような場所が南側には無いのだ。
逆に言えば、北の地域には『何か』が潜んでいる可能性が高いのである。
「そんな……」
「とはいえ、いつまでも避ける訳にはいかないしな」
情報収集のことを考えれば、もちろん北側の調査も外すことはできない。エディカが北へ向かっているのだから、どう危惧しようともいずれは『門』を越えて大陸北部へ向かわなければならなくなる。状況を鑑みれば、北側で何か異変が起こりつつあると考えるのが妥当だろう。当然、リオナとリダを連れているガルド一行もとばっちりを受ける可能性が高い。
やはり感覚だけで絶対的な根拠はないものの、『何か』の起こり得る状況が確実に整いつつある。気味が悪いのは、その『何か』がどういうものなのか未だに掴めないという点だ。断片的な違和感は伝わってきている分、何事もないかのような街の静けさが不気味に思えて仕方がない。
「何事もなく、ってのが一番の理想なんだけどな」
それがほとんどありえないと自身で分かっているガルドは、諦めを込めて苦笑いを浮かべる。
既に街を蝕む異変と肉薄していることには、欠片も気付かないまま。
時計の針の刻むリズムとページをめくる音、そして紙の上をペンが滑らかに走っていく余韻だけが耳に届く静寂の空間。
リメールとリダが始めた本の解読作業は、開始からすでに数時間が経過しようとしていた。
「次は、そうですね……ここは読めますか?」
「この一文ですね。えーと……『巨大な柱が空と大地を繋ぎ』……この途中のところはちょっと分からなくて……『戦争は終結し、平和が蘇った』って続いてます。難しい言葉回しが多いんで、いくらか僕なりの言葉にしちゃってますけど」
「ええ、かまいませんよ。大体の内容が分かれば私としては十分です」
リメールが解読できない部分を示し、そこをリダが翻訳して読み上げることで情報の隙間を埋めていく。文法の違い等もあるためリダも全ては訳しきれないものの、おおまかな内容は把握することができる。それでも本一冊分の文章を全て訳していくというのはなかなかの重労働であり、百ページほど進めた現状から残りページ数を見ても当分終わりそうにないのがよく分かった。
「だいぶ進みましたね。リダさん、少し休憩しませんか?」
「わーい、賛成です!」
ペンの動きを止めたリメールにそう促され、リダも開いていたページから視線を外して顔を上げた。
解読がスムーズにできるようリダも文章を目で追って読んでいたが、それらすべてを書き出しているリメールはリダよりもさらに疲労がたまっているだろう。
自分が休みたいと感じたこともリダは自覚している。だがそれ以上に、リダは彼女の体調の方が気がかりだった。
「紅茶を淹れましょうか。それと……簡単なお菓子でも探してみますね」
「あ、僕も手伝います」
二人ほぼ同時に立ち上がり、開いていたページに栞をはさんで給湯室へ向かう。要約した文をまとめた紙の山が崩れかかっていたが、リメールが慌てた様子を見せないのでリダも気にしないことにした。
リダが二人分の紅茶を、リメールが茶菓子の入った缶を持って席に着く。元々の役割は逆だったのだが、リメールが紅茶を持った瞬間にひっくり返しそうになったため、リダが代わりに運ぶこととなった。
「礼拝堂に天使が祀られているって言ってましたね。それってどんなところなんですか?」
解読作業にも関係する雑談をもちかけながら、まずはリダが茶菓子を手にとって口に運ぶ。それを見てからリメールが紅茶を一口啜り、返答までにわずかな間が置かれる。
「私もまだ見に行ったことがないので、詳しくは分かりません。とても古い時代のもので、なんでもあの『門』と同じくらいの時代に造られたとか」
「そんなに古いんですか!」
マルトーリの象徴とも言える『門』。建造方法すら判明していない遺物と同時期の建築物であるというのは、リダにとって衝撃以外の何物でもない。
「あれ、でも……そんなに古いものなのに、あんまり有名じゃありませんね? リオナもガルドも、この街にそんなすごい建物があるなんて言ってませんでしたよ」
「そうなんですよ。天使を崇拝する文化自体が現代にはありませんし、人の興味を引かないのは仕方がないかもしれませんね。古さだけを見ても、もっと分かりやすいものがありますから」
「あぁ、確かにそうですね」
話題になるのはよりインパクトのあるもの、ということだろう。多くの人の好奇心を刺激しなければ、より特徴的なものの影に隠れることとなる。『門』と礼拝堂に限らず、それはどんなものに関しても言えることである。
もっとも、人一倍好奇心旺盛なリダには全てが『面白そうなもの』として見えているのだが。
「いくらか読み進めてみましたけど、その礼拝堂と関係のありそうな話はまだ出てきてませんね」
「はい。うーん……やっぱり、直接礼拝堂に行って調べる必要があるかもしれませんね……」
真剣な面持ちで紅茶をもう一口すするリメール。今の彼女の頭では、様々な可能性や仮説が飛び交って氾濫しているのだろう。
そんな彼女を見たリダの胸中に、何としても力になりたいという慈善欲がむくむくと膨らみ始めていた。
そしてその欲望は、すぐさま行動として返還される。
「それじゃ、僕も一緒に行っていいですか?」
「えっ……」
意外な申し出だったようで、リメールがカップを握ったまま硬直した。だがそんなことなど気にかけず、リダは自身の欲求を思うがままに吐き出していく。
「だって、もしかしたら似たような本があるかもしれないじゃないですか! 礼拝堂にだって、聖典みたいのがありますよ、きっと!」
「いえ、それでもお借りするなり複写して持って帰るなりできますし、リダさんまでお付き合いいただかなくても……」
「そんなの時間がかかって面倒じゃないですか! 大丈夫です、ガルドだって僕が納得させて見せますから!」
自信満々に胸を張るリダ。外見は華奢な少女以外の何物でもなく、間違っても頼りがいがあるようには見えない。それでもリダは、自分が一緒に行けば調査がはかどると信じて疑っていない。
しばらくしてリメールは、子供を愛でる母親のような微笑を浮かべて小さく息を吐いた。
「……そうですね。この街のご案内もできると思いますし、その時はご一緒願えますか?」
「はい、もちろん!」
濁りの無い瞳で頷くリダに、リメールもそれ以上何かを言うつもりはないようだった。