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ぼくらの天使  作者: 半導体
二章
43/56

41話 出発前日

 二人の蜘蛛族がエルクのもとを訪れたその翌日。

 予想していた通り、キプリからもうベッドを下りて平気だという許しを得た。体を動かす感触を確かめ、久しぶりに自身の足で室内を歩き回ってみる。どうしても横になっていた時間の分だけ足に響いてくるが、旅路に影響が出るほどではなさそうでほっと胸をなでおろす。

 しかしエルクの胸中は決して穏やかではなく、むしろ妙なざわめきを覚えてとても落ち着いてなどいられない。

「うーん……」

 今日になってから、明らかに周囲の様子がおかしいとエルクは気づいていた。

 前日のように見ず知らずの蜘蛛族が尋ねてきたわけではない。メフィとシューラが飛び出して行ってからの室内は静かなものだ。

 しかし、それとは対照的に外が何やら騒がしい。どうもこの建物に人が集まっている何かの準備をしているらしく、しきりに歩き回ったり物を動かす音が聞こえてくるのだ。蜘蛛族であるために声は全く聞こえず、そのせいで妙に気味悪く感じてしまう。

 自力で歩けるようになったのだから、自分で様子を見に行くというのも不可能ではない。しかし、それを許さない壁がエルクの前に立ち塞がっている。

『なに』

「いや……」

 エルクの覚えた最大の違和感。

 それは、シオリが自分を見張るようにして扉の前に居座っていることだ。

 朝食の後、動けるようになったエルクもメフィたちについて外へ出てみようと思い立った。しかしメフィに猛烈な勢いで反対され、揚句シオリを呼び出してエルクの傍にいるよう頼んでいったのだ。『大事をとって』という理由も取ってつけたようにしか聞こえない。

「えっと……僕のことは気にしなくていいよ? シオリも自分の用事があるだろうし」

『見回りは代役が立った。今は、エルクを見張るのが用事』

「さいですか」

 どうやらエルクを部屋から出すつもりはないようだ。

 シオリがメフィに協力したのも奇妙ではあったが、どのみちエルクに彼女を押しのけてまで外の様子を確認するつもりはない。追求を早々に諦め、残り少なくなった休息の時間を満喫するべく大の字でベッドに横たわった。


 どのくらいの時間をそうして過ごしただろうか。

『ちょっとごめんよ。ってあれ、シオリ?』

『あ、里長』

 どうやらキプリが来室したらしく、シオリの声がエルクにも伝わる。足音に気付かない程度に、いつのまにかうつらうつらしてしまっていたようだ。来客を前に横になっているわけにもいかないので、エルクは頭を覚醒させて体を起こす。

「どうも、キプリさん」

『やあエルク、だいぶ調子よさそうだね。で、なんでシオリがここに? ひょっとしてメフィに頼まれた?』

『そう』

 なぜそこですぐに推測することができるのか、エルクには理解ができなかった。

『里長は何の用?』

『うん、実はエルクにとってちょっとばかりよろしくないお知らせ。シオリにとってもあんまり嬉しくないかも』

 キプリが苦笑いを見せる。その様子から察するに、テロ集団の襲撃や里でのメフィたちの危機といった深刻なものではなさそうだ。

「どうかしたんですか?」

『この山の麓に、小さな人間の集落があるのは知ってるね?』

「ええ、まあ」

 知っているも何も、ここに来るための準備をそこで整えてきた身だ。エルクたちだけではなく、ヒューク山を登ろうとする人間はほぼ間違いなくその集落を利用しているのではないだろうか。

『その集落でね、シオリを襲った例の奴らみたいなのがうろついてるのを見張りが見つけたんだよ』

「えっ……」

『いや、山に登るって感じではなかったみたい。登山用の装備を整えてるわけでもないし、遠征かなんかの中継点として利用してるだけって印象だったらしいよ。もっとも、間近で確認したわけじゃないから確定したとは言えないけどね』

「そ、そうですか」

 百パーセントでない限り絶対的には安心できない。とはいえ、キプリがそれほど警戒していないということは実際に危険ではないということなのだろう。そう判断したエルクは、ひとまず強張った背筋の緊張を解いた。

『だから里を襲撃するとは考えにくいけど、そこで問題になってくるのがエルクたちだよ。当然、そこにはシオリも含まれる』

『どういうこと?』

『麓の集落に奴らが滞在してるなら、そこにのこのこ顔を出すわけにはいかないでしょ? 下手をすれば、この里の存在自体も勘付かれる可能性がある』

 なるほど、とエルクは納得する。

 エルクの傷はほとんど完治しており、数日の間にはこの里を出立することになるだろう。もちろんここまで来た道のりを戻り、一度レクタリアまで戻るというのがまず考えられる経路だ。

 だが、麓の集落が使えないというのはそれが不可能になった事を示している。人の足では踏み込めない地形の多いこの山では、件の集落を避けてレクタリア近郊まで下山することはまずできない。強行突破も効率の良い手段とは言えないだろう。

「それで、シオリにとっても嬉しくないっていうのは……」

『だって、シオリだってエルクたちについて行ってお父さんに会うんじゃ――あれ? ひょっとしてシオリ、まだエルクたちに話してない?』

「!」

 キプリの指摘を受けたシオリがハッとした様子で目を見開く。

『ま、まだ』

『ダメだよ、そういうのは早いうちに言っておかないと。エルクたちにだって色々準備もあるはずだし』

 エルクを抜きにした会話ではあったが、さすがに何のことを話しているのか大体の予想はつく。

 要は、レクタリアに戻るエルクたちにシオリもついて行って父親に会おうというのだ。エルクの方もなんとなく彼女が同行するつもりでいたのだが、思い返せばまだ彼女自身から『一緒に行きたい』とは聞いていない。

 そこまで話が進めば、これはたしかにシオリにとっても『嬉しくない』知らせだと分かる。

 彼女の父親はレクタリアにいるのだ。麓の集落を抑えられた現状ではレクタリアに向かうことができないので、彼女の目的から外れてしまうことになる。

『まあ、シオリのことはとりあえず置いておくにしてもね。エルクたちが山を下りるってだけなら、とりあえず手段はあるんだよ』

「そうなんですか?」

『私たちもこの山だけに暮らしてたらすぐ限界がきちゃうからね。あちこちに抜け道を造って山脈沿いに移動しやすいようにしてあるの。まあもちろん蜘蛛族にとって、だけど』

「確かにそうですね。ヒューク山だけというのは、あまりに環境が限られ過ぎている」

『その抜け道を使えば単純な下山自体は難しくない。数は少ないけど、山を下りるルートもちゃんと造ってあるはず』

 一つの山だけでは限られてくる資源も、横に並んだ山脈を手広く掌握すればそれなりにフォローできる、という狙いなのだろう。少数ながら下山ルートを確保しているということは、そこから外界にアプローチを図るつもりだったのかもしれない。

『で、問題なのは。その抜け道って、南側に下山できるようなのが無いんだよね。ほとんどが山中を巡るか、下山できても北側のやつばっかり』

「なるほど……」

 ばつが悪そうにするキプリを、エルクは責めようとは思わなかった。

 当然のことだろう。山脈より南側は人間の交通網が発達しており、隠れ住んでいる蜘蛛族が迂闊に出ていくことはできないのだ。山脈より北側がどうなっているのか詳しくは知らないが、ヒューク山を含む山脈が大陸を二分していることを考えれば南側よりもまだ安全だと推測できる。下山できるルートが存在するだけでも暁光だろう。

「そうなると、レクタリアへ戻ることが難しくなってしまいますね。……それはつまり、シオリのお父さんのところへ行くのがだいぶ先送りになってしまうということでもある、と」

「……」

 レクタリアへ向かえるかどうかというのは、エルクたちはともかく、シオリにとっては重大な問題となる。

 レクタリアへ向かうのが遅れるというのは、シオリにとって父親との再会が遅れるだけでなく、場合によってはエルクたちに同行するかという点から迷わせる重大なマイナス点だ。今後は里に外部の者が訪れることもほとんどなくなると予想でき、そうなればシオリが父親のもとへ向かえる機会は当分先となってしまうだろう。

『それでもいい』

 毅然とした態度でシオリが言い放った。

『それでも、エルクたちと行きたい』

 迷いを振り切ったような瞳で、エルクを真っ直ぐ見つめてきている。並々ならぬ決意を感じさせるその姿に、エルクは軽い気持ちで返事してはいけないことを悟った。

「……いいの? 本当にどのくらいかかるか分からないよ?」

『遅れてもいい。パパは、絶対待っててくれる』

 確認の問いかけにシオリはすぐさま返事をする。

 それは覚悟というよりも、信頼に近いものなのかもしれない。例え時間がかかっても自分から動こうというのが彼女の最終的な意志なのだろう。

『だからシオリ、そういうのはちゃんとお願いしないと。エルクも分かってるとは思うけど、一度は自分から伝えなきゃ』

「……」

 言葉にはしなかったものの、了承したというようにシオリが頷く。そしてエルクに対し、心の底から懇願するような顔を向けた。

『エルク』

 以前のような冷たい印象を抱かせるものではない、純朴な子供を思わせる表情。

『一緒に行きたい。あたしも、連れてって』

「……もちろん。歓迎するよ、シオリ」

 これまで彼女の色々な面を見てきたエルクに、彼女を拒絶する理由などあるはずもなかった。




 その後はキプリも時間が空いているということで、三人でくだらない談笑に花を咲かせる時間が続いた。キプリもシオリも芸術方面に造詣が深いらしく、そうした話題を彼女たちの方から積極的に持ち出している。

『エル=ヴァーチの白翼はここでも有名だよ。まだ蜘蛛族と外界の交流が盛んだったころの作品だからね、写し絵がいくつか残ってる』

「この里にも白翼の写し絵があるんですね。外界にも写し絵はいくつかあるんですけど、原画そのものは盗難にあって紛失してしまったらしいんです」

『残念。見てみたかった』

 白い翼をモチーフにした数百年前の絵画については二人の関心も特に高く、これまでにないほどエルクとの会話も弾んだ。人間にとって価値ある美術品が蜘蛛族からも評価されていると知り、エルクもささやかながら喜ばしい気分になる。

『外に出たら見られるかもしれないって期待してたんだけどね』

『うん、残念』

「盗られてからもう何年も経ちますからね、未だ見つかっていないということはよほど気を遣って隠しているとしか――」

「ただいまーっ」

 弾むような勢いで扉が開き、満面の笑みを浮かべたメフィが部屋に飛び込んできた。

「はふっ……はふぅ……メフィさん、早い、です……」

 相変わらず同行者を顧みないで突っ走っているらしく、シューラはだいぶ間を開けてから息切れした状態で入室してくる。彼女をそこまで疲労させた当人は、悪びれることもせずシオリに向かって手を振っていた。

「見張りありがと、シオリ!」

『ん、大したことない』

「ってあれ? キプリも来てたんだ。やっほー」

「騒々しいよ」

 それまで充実した話題で盛り上がっていた分、彼女の軽い調子の声が普段にもまして大きく聞こえる。何やら出かけて行った朝以上にテンションが高くなっているようだ。

 里でよほど面白いことでもあったのだろうか。一瞬はそう考えたが、なにやらエルクを見る目がいつもと違う。何かよからぬことを企んでいる時の、底意地の悪い笑みだ。

 厄介事でも抱え込んでいるのではと不安になったが、そこで先にメフィに声をかけたのはキプリだった。

『戻ってきたってことは、準備は終わったの?』

「うん。いつでもオッケー」

『もう、そんな時間』

 シオリが驚いた様子で窓の外を見る。日が暮れてだいぶ暗くなって来ているようで、傾いて差し込んできたオレンジの光が部屋の奥まで伸びてきている。

 キプリも、そしてシオリも、メフィの腹の内を知っていそうな態度だ。自分だけが輪の外に置かれたような疎外感を覚え、エルクはいよいよ混乱が激しくなってきた。

「ええと……ひょっとしてみんな、僕に何か隠してる?」

「そ、そんなことないですよ、ねえメフィさん」

「あ、あはは」

 二人の様子はあからさまに怪しい。訝しんでさらに追求しようとしたのだが、シオリが間に入ってきて邪魔をされてしまう。

『エルク、大丈夫だから』

「いや全然大丈夫に見えないんだけど」

『いやいや大丈夫だって。悪だくみじゃないからさ、彼女について行ってみたらどう?』

「キプリさんまで! た、確かに何かやらかしたってわけでもなさそうですけど」

 どちらかというと、これから何かしますといった雰囲気に感じられる。メフィを押さえるかどうかは自分で見てから判断しろということだろうか。

「むう、そんなに私って信用ないかなぁ」

「今までのことを思い出して自分で判断して」

「しかたないなー……そんなに心配ならエルク、私についてきて」

「あ、私も一緒に行きます」

 あとは文句をいう暇すらなく、二人に手を引かれベッドから無理やり立ち上がらされて連れられていく。それぞれ片腕ずつを引っ張られる形で、そのまま部屋の外へ連れ出すつもりのようだ。

「ちょっとちょっと、まだ何の説明も受けてないよ?」

「する気ないもん」

「隠してましたから」

 二人ともしたり顔でエルクの疑問を切り捨てた。沈黙せざるを得なくなったエルクをよそに、二人は扉の前で並んで立ち止まる。そしてメフィが、なぜか部屋の外に向かって二回ノックをした。

 数秒だけ待ち、それからノブをゆっくりと回す。扉を引いたメフィ自身は外に出ず、ノブを握ったまま横に立っている。先にエルクに出てもらいたいらしい。

「さ、エルク。今日はエルクが主役だよ」

「主役?」

 結局事態は何も理解できないまま、促される通りに一週間ぶりの外へと足を踏み出す。



 そんなエルクを、広間いっぱいの拍手が出迎えた。


 見下ろすことのできる吹き抜けの広間には十数人ほどの蜘蛛族の姿があった。ずっとイメージしてきたような敵意を向けてくる殺伐とした雰囲気ではなく、エルクに対して祝福するような温かい眼差しを向けてきている。盛大な拍手の音は、どうやら彼らによるもののようだ。

 さらに彼らの中心、広間の中央に置かれた大テーブルには、様々な趣向を凝らした料理の数々が見えた。山の中腹という環境のためか食材にある程度の偏りこそ感じられるものの、それでもエルクの見たことがないほど豪勢な品々が並べられている。

 それはさながら、これから何か祝い事を行おうとしているかのようだ。

「え!? な!?」

 混乱極まり目を白黒させるエルクの後ろから、したり顔のメフィとシューラが部屋から出てエルクの横に並ぶ。

「エルク!」

「エルクさんっ」

 嬉しそうに左右の肩を叩いた二人は、その表情のままエルクの正面に回り込んで全ての『タネあかし』を告げた。

「誕生日おめでとう!」


 一瞬、エルクの思考が停止する。

「……誕生日?」

 二人の放った言葉をゆっくりと吟味し、それから指を折って日数の計算を始めた。階下から聞こえていた拍手は鳴りやんでいるが、どうやらエルクの状況を理解した上で待ってくれているらしい。

「……あ」

「思い出した?」

 出発した日からこれまでの日数を逆算していったエルクは、確かに今日が自分の誕生日であることを確認する。

「あー……」

「……エルクさん?」

「あー、あーあーそうだ、そうだよ、本当だ。すっかり忘れてた」

「自分の誕生日を忘れちゃってたんですね」

 苦笑するシューラに何も言い返せない。確かに普通は忘れないだろうが、旅に出たことによる環境の変化で、そんなことを覚えている余裕もなくなっていたのだ。

「しっかし、よくここまで準備できたね」

「蜘蛛族の人たちに手伝ってもらったから、まあ簡単だったよ」

 感心するエルクにメフィは鼻高々といった様子だ。

 こんなことを計画したのはまず間違いなく彼女だろう。他の面々がエルクの誕生日を知っているはずはないし、本人に内緒にして驚かせようとしたのも実に彼女らしい。ここしばらく日中ずっと里に出かけていたのは、これの協力者を集めていたのだろうか。

 集まった蜘蛛族はメフィが呼び集めたものであることは間違いない。人間を忌避していたはずの彼らにここまで協力してもらえるほど、メフィはこの短期間で交友を深めていたようだ。彼女のコミュニケーション能力は相変わらずエルクの想像の斜め上を行っている。

 だがそれよりも、彼女が自分の誕生日を律儀に覚えていたことの方がエルクにとって驚くべき点であった。

「……」

「エルク? どしたの、固まっちゃって」

「……あ、いや」

 ただ、こうして祝ってもらえることが嫌というわけではない。むしろ、仲間が自分の誕生日を祝おうとしてくれたことに強い喜びを覚えている。

 メフィの行動力や蜘蛛族の意識の変化などはもちろん頭で冷静に捉えようとしているのだが、そういった理屈抜きにこうしたサプライズが嬉しいものであることは確かだ。

「その……二人とも、ありがとう」

「あ……う……い、いいのよ! たまたまエルクの誕生日を覚えてて、たまたま今日がその日だったってだけなんだから。大したことじゃないもん」

 素直な感謝の言葉を受け、照れた様子で言い訳をするメフィ。ほとんど無関係のはずのシューラや蜘蛛族の人々まで巻き込んで大掛かりなものに仕立て上げられたのも、彼女はたまたまの思いつきということで誤魔化すつもりらしい。

「メフィさん、その言い訳はちょっと苦しくありませんか?」

「なんかシューラが冷たいよー……ってそんなことはいいから、ほらエルク、早く下に降りよう! 私たちのためにキプリが梯子を用意してくれてるよ」

 再びメフィに手を引っ張られ、エルクは階下の様子をもう一度確認する。豪華な料理を前にしているためか、皆エルクたちが降りてくるのを待ちわびているようだ。

 よく見てみると、蜘蛛族の食文化に詳しくないエルクでも贅沢だと分かるような品がいくつも並んでいるようだ。わずかに赤みの残る程度に焼かれて表面が狐色になった肉や、よく熟れて瑞々しく輝くフルーツといった山の幸をはじめ、前日も渡されたクッキーや果実酒のような加工品も見受けられる。

『ほら、早く行こうよ。私たちだってこれのためにお腹すかせてるんだからさ』

『お腹すいた』

 遅れて部屋から出てきたキプリとシオリもエルクを促してきた。素っ気ない風に装ってはいるが、二人も普段より柔らかい笑顔をエルクに見せてくれている。メフィたちと同様、祝福の気持ちは違いなく持っているようだ。


 ――こんな気持ちになったのは初めてかもしれない。

 自分のためにメフィが用意してくれたプレゼントを前に、エルクは頭の中に何かがじんわりと広がっていくのを感じた。それは決して気持ちの悪いものではなく――むしろ、胸が弾むような明るい気分にさせてくれる。

「エルク、全快おめでとう! 今日はいっぱい楽しんでね!」

 冷静に自身の分析を行いかけたエルクは、自分の手を引くメフィと目が合い、色々と思案するのをやめた。

 ――今は精一杯、この時間を楽しもう。

 メフィの用意してくれた至福の時間。難しいことは考えず、今だけは彼女の厚意に甘えても罰は当たらないだろう。

「……うん。メフィ、それにみんなも……ありがとう。本当に、ありがとう!」

 こみあげてくるものに視界をにじませながら、エルクはできる限りの笑顔でメフィたちに感謝を贈った。

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