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コンスタンティノーポリの陥落  作者:


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6/7

キプロス島

「トルティーアからの要求です。キプロス島を『返還せよ』と」


 武官からのその一言に、女王を中心として円形に席が組まれた議場にざわめきが走る。


「返せもなにも、キプロス島はイタリアーナの領地ではないか」

「キプロス島は元々トルティーアのものだった。それを開拓し、港を整備するのを黙認してきただけだ、とのことです」


「言いがかりを……そもそもキプロス島にトルティーアの旗が立ったことなど一度もないではないか」

「突っぱねるべきだ」


 傾いた議論の流れを、一人の気弱そうな文官が引き戻す。


「ででも、断れば戦争になりかねません……」

「確かに。トルティーアは十万の兵を擁する大国」

「しかしキプロス島は数百年、イタリアーナの船が帆を休めてきました。広大な陸中海で貿易を行うには欠かせぬ島」


 この世界は陸中海に隔てられた南北二つの大陸と、その周囲の無数の島々からなる。


 陸中海は、西からシュパーニエン、イタリアーナといった北の大陸の半島国家が面する東西に細長い海だ。


 東の果てにトルティーアがあり、今ではイタリアーナの東から南の大陸の北岸まで取り囲むように領土を広げている。


 陸中海の東、トルティーアの領海の真ん中に位置する島、それがキプロス島だった。


「そそ、それで戦争が避けられるのなら安いものでは? コンスタンティノーポリの惨劇をその目で見た方もおられるでしょう」


 一年がたち、コンスタンティノーポリで奴隷とされた人々は莫大な身代金と引き換えに多くが祖国の地を踏んだ。


 この気弱そうな文官も、身代金と引き換えにコンスタンティノーポリから戻った一人だった。


「そ、そうですぞ」

「一年前の惨劇を、繰り返すおつもりですか」


 議場に再び混乱が走る。


 気弱そうな文官はそれを眺めて下卑た笑みを浮かべた。一等書記官、名はアバンディオ。


 一年前議場を取り仕切った白いひげの宰相はもういない。


「よろしいでしょうか?」


 混乱をしずめるかのように、良く通る声が議場に響き渡る。


 決して大きくはないのに、大勢の中でよく通る声。


 声の主は、一年前は議場を歯がゆい顔で見ていることしかできなかった、金髪の癖っ毛と切れ長の瞳の少年、パウロだった。


 背は頭一つ分は伸び、他の武官と並んでも違和感はもうない。


 細身だった体つきは目に見えてたくましくなった。


 そして何より、下あごから首筋にかけて刻まれた傷痕。


「アバンディオ殿の意見は尤もです」


 その言葉に、アバンディオは挙手しかけていた手を下ろす。


「僕は武官です。戦場にも幾度となく出ました。小競り合い程度ですが、周辺国とも幾度となく矛を交えています。その感覚で申し上げますと」


 議場の全員がかたずを飲み、少年の次の言葉を待つ。


「トルティーアと真っ向からやり合えば、勝ち目はほぼないでしょう」


 その言葉に議場が怒号に包まれ、屋根に止まっていた小鳥が驚いて一斉に羽ばたいた。


「なんと無礼な」

「軍の存在を否定する気か」

「全軍が決死の覚悟で戦えば不可能などない」


 他の武官が口角唾を飛ばし少年に詰め寄る。皆長年の船暮らしで日に焼けた体と筋骨隆々とした肉体の持ち主なのに、彼らよりあきらかに華奢な少年は意に介した風もない。


「精神論は結構ですが、士気が最も旺盛な騎士団が守るコンスタンティノーポリはどうなりました?」


 冷徹な反論に、武官たちは勢いを失った。

 場の先輩を立てるように、少年は声の調子を和らげて話をつなぐ。


「ですが二千の騎士団で十万のトルティーア軍に善戦したのも事実。決死の覚悟や精神力は、勝利に必須なのも確か」


 その言葉に武官たちは我が意を得たりとばかりに頷く。


「そ、その通りだ」

「だが、不利なのも事実だな」

「コンスタンティノーポリでの戦いは数で劣っていたとはいえ要塞という地の利はあった。それを覆えすほどに敵将も有能ということか」


 落ち着いてきたことで冷静な議論も武官たちから出始める。


「その通りです」


 場の雰囲気が感情論から冷静な分析へと切り替わってきたのを見計らい、パウロは言葉を続ける。


「しかし戦争にしろ講和にしろ、国力の差は歴然。コンスタンティノーポリの講和が成立したのは、相手も長い戦争で疲弊していたからです」

「しかも今回は兵に十分な休養を与え、海軍力も海賊を組み入れることで増強していると聞きます。そこでですが」


 パウロは許されざる腹案を口にした。


「数の不利を埋めるため、シュパーニエン王国と同盟を組んでは」


 その言葉に議場は再び混乱のるつぼと化した。


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