神に栄光あれ
"異教徒"どもに占領されていた聖地コンスタンティノーポリ。
チョコレート色の肌にターバンを巻き、胴体を守る胸甲の上からマントを羽織ったトルティーアの将軍、イザク・パシャは万感の思いで聖地を眺めていた。
彼の視線の先では聖ソフィア大聖堂に掲げられた十字架の旗が引きずり下ろされ、兵たちの歓声とともに火にくべられていた。
代わってトルティーアの旗である赤地に半月が描かれた旗が掲げられている。
砂漠を優しく照らすあの月のように、聖地もいつまでも預言者タンジュの旗の下で輝き続けるのだろう。
「兵たちよ!」
かつてはこの地の神父が屋外での説教の際に使った壇上で、イザク・パシャは拳を振り上げて熱弁を振るった。
「"異教徒"どもはこの最も豊かな都を不当にも占領し、汚し、踏みつけてきた」
「だがタンジュの意思を継ぐ我々は、コンスタンティノーポリに半月の旗を立てたのだ。これは神の力と、諸君の忠誠によるものだ」
コンスタンティノーポリを埋め尽くす白ターバンの兵たちから預言者と王を讃える雄叫びがこだまする。
「彼らはこの地を取り戻しにやって来るだろう。だが恐れることはない。タンジュのご加護あるかぎり、我らに敗北は有り得ない」
兵たちから再びタンジュ万歳、将軍万歳の掛け声が響く。
「皆の者! "異教徒"どもを再び、血の海に沈めてやるのだ!」
号令と共に、彼らの足もとに転がっていた皇帝コンスタンティヌス十一世や騎士団の遺体に一斉に剣が突き立てられる。
「まったく、ディオス教の人間どもは堕落の一語に尽きる」
戦死者の血で赤く染まった市内の河を見下ろしながら、将軍は嘆いた。
「聖典で禁じられた酒を飲み豚の肉を喰らう。富をむさぼり、貧富の差は拡大するのみ。その象徴がこの悪の都コンスタンティノーポリだ」
街の一角には数々の宝石や金銀財宝が山と積まれ、手を縛られた男女の集団がすすり泣いている。
この地に蓄えられた財宝や人間は、略奪という形で兵たちに分配した。「貧しきものに財を分け与えるものは天国に行ける」預言者タンジュの教えには従わなくてはならない。
次の目標はイタリアーナである。海に突き出た形の半島国家であるがゆえ南西東の三方を海に囲まれ、多くの湾口都市を拠点に貿易を行ってきた国。
貿易による巨利をふところに入れながら民に還元することなし。
『暴利をむさぼるものは地獄に落ちる』預言者タンジュの教えを今こそ実現する時。彼らは一人残らず地獄に落とすのだ。
「いや……」
イザク・パシャは慌てたように首を横に振る。
タンジュはあくまで慈悲深い。タンジュ教に改宗するか我らの奴隷となるならば許してやっても良い。
十に満たぬ女でも、我々のモノとなれば許されるのだ。
預言者タンジュは五十三歳の時に六歳か七歳の妻と結婚したと預言書にもある。
ああ、なんと慈悲深いのか。タンジュに栄光あれ!




