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虫みたいだ

作者: P4rn0s
掲載日:2025/12/13

僕はよく散歩へ行く。

目的がない夜もあるけれど、それでも足はいつも海の方へ向かっていく。


海へ行く理由はひとつだ。

昔一度だけ見た、大きくて綺麗で、胸の奥がざわつくような満月が忘れられないからだ。

あの夜を追いかけるみたいに、満月の日になるとどうしても外へ出てしまう。


波の音が一定のリズムで響く砂浜に立つと、風が頬を撫でていく。

自分が何かを探しているのか、それとも何かから逃げているのか、その境目が少しだけ曖昧になる。


だけどお月見の夜だけは違う。

普段なら誰もいないはずの海辺に、急にたくさんの人が集まっている。

家族連れがいて、友達同士がいて、カップルがいて、みんなスマホを月へ向けている。


僕は毎回満月を見ているのに、あの日だけ急に人が湧いて出てくる。

その光景を見るたびに思ってしまう。


あぁ虫みたいだ。


光に吸い寄せられるように月へ集まる人たちの中に、自分が混ざらないように立っているのに、同じ光を見ている自分に気づいて少しおかしくなる。


僕が探しているのは、あの夜の満月だ。

誰とも共有できない、自分だけが覚えている光景だ。


けれど海辺にはざわめきがあって、話し声が風と一緒に流れていく。

スマホのシャッター音が波に混ざり、月の光を薄く乱す。

僕は少し離れた暗い場所へ歩く。


波の音がはっきり聞こえる位置に立つと、海と月だけが残る。

僕はその丸い光の中に、昔見た夜の痕跡を探し続ける。


誰にも説明できないたった一度の眩しい記憶を、僕は今でも追いかけている。

追いかけているのは月ではなく、あの頃の自分なのかもしれない。


静かな海と、揺れない満月と、そこへ歩いてきた自分だけが一つになる瞬間がある。

その時だけ、海辺のざわめきも、満月に群がる影もすべて遠ざかる。


僕はただ、あの夜の続きを探すように月を見ている。

今夜もまた、虫みたいに、けれど誰とも違う理由で光に寄っていく。

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