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6ページ目 菫さんと厄介な◯◯委員会



 2年3組の黒板に何人かの生徒名が書かれている。紙を折って作った箱の中から、副担任の栗山が1枚ずつ小さな紙を取ってる。それに合わせて担任の杉谷がその下に1本ずつ線を書き、「正」の字にしていく。


(今も数数える時「正」の字使うのね……懐かしい)


 菫が懐かしがる中、何度も「おぉ〜!」「ええー!」などと皆の歓声が上がった。


「最後の1票は……男子は清宮君、女子は杉浦さん!」


 栗山が発表したと同時に拍手が起こった。菫も納得の結果であったため、もちろん拍手をした。

 最終的な得票数は以下の通りである。


清宮寛斗 29票

細野慶吾 3票

生田目凜 2票


杉浦優香子  14票

山﨑めぐる  9票

宮西菫    5票

五十幡(いそばた)つばさ 3票

齋藤莉麻   3票

 

(やっぱり男子は清宮君よねぇ。杉浦さんもまぁ順当かしら。


……でも何で私まで投票されてるのよぉ!?)


 3組では只今ホームルームで委員会決めを行なっている。最初に決めたのは学級委員。他の委員と違ってこれだけはクラス投票で選出されることになっていた。菫はまさか自分が相応しいと思われているなんて微塵も思わず、名前が呼ばれた瞬間「ええっ!?」と思わず声をあげてしまった。それも5票も。


「では清宮と杉浦で決定だな!2人とも前に出てきて一言挨拶してくれ」


 最多得票数のこの2人が杉谷に呼ばれるがまま、前に出る。真二に至っては「よっ!学級委員!」と茶々を入れ周りは騒がしい。

 まずは寛斗が照れ臭そうに学級委員就任の挨拶をする。


「え〜、皆に選んでもらってとても光栄です。楽しいクラスになるよう頑張るんでよろしく!」


 再びワーっと歓声が上がり、大きな拍手も湧き起こった。「よろしくー」「頑張ってー」とエールを送る声も聞こえてくる。


「えっと……正直学級委員になるとは思わなかったのでビックリしてますが…選ばれたからには一生懸命頑張ります。よろしくお願いします」


 続いて優香子が彼女のイメージ通りクールに挨拶し一礼すると、クラスの面々は再び拍手をした。


「2人ともよろしく頼むよ!では他の委員会は…」


 スムーズに学級委員が決まって満足したのか、杉谷は上機嫌な様子で他の委員決めも進めていく。




 学級委員以外の委員は立候補制が採られ、どの委員も満遍なく誰かが手を挙げてくれている。公ヶ谷高の委員会は全10種で、各委員会毎に男女2名が選出される。次々と各委員が決まっていくが、まだ男女いずれも立候補者がいない委員が一つ。


「おーい、誰か新聞委員会やらないのか〜」


 痺れを切らした杉谷が訴えるも……誰も挙手する気配はない。それどころか「嫌だ〜」「無理〜」など拒む声すら上がっている。


「誰かやってくれよ!まだ立候補してない人いっぱいいるだろ。全部決めないと終わらないじゃないか〜」


(……皆嫌がってるわね。新聞委員ってそんなに大変なのかしら?ただ新聞作るだけじゃないの?)


 編入生である菫には委員会がどんなものかわからず、なんで皆がこれほど嫌がっているのかもわからない。とうとう杉谷が嘆き出すも、状況は変わらないまま。


(誰もやらないんなら……皆で新聞作るのも楽しそうだし……)


「……じゃ、私がやりまーす」


 菫は高々と手を挙げた。クラス全員が一斉に菫に目を向けたうえ、どよめきまで起こった。誰もまさか菫が立候補するとは思わなかったらしく、皆驚いた様子だ。曇っていた杉谷の顔がパッと明るくなり、栗山もニコニコしている。


「おっ!宮西がやってくれるのか?」

「はい」

「じゃあ決まりだな!」


 杉谷はルンルンした様子で黒板に名前を書く。それと同時に、めぐるが菫の背中をポンポンと叩く。振り向くと、めぐるは神妙な顔と小声で話し出した。


「すー様、本当に新聞委員やんの!?」

「うん」

「めっちゃ大変だよ!?それに委員長も厄介な奴だし」

「…でも他に誰もやらないんでしょ?」

「うっ……」


 珍しくめぐるが口籠ると、杉谷が「ほら皆しーずーかーに!」と言ったので菫は咄嗟に前を向いた。


「さぁ〜、男子も早く決めないと終わらないぞ。誰か立候補しようぜ、宮西を見習ってさぁ」

「マジでそれー!部活遅れるんだけど!」

「そーそー、宮西さん立候補したんだから」

「いい加減誰か立候補しろよー」


 杉谷が男子達を急かすと、女子達はぶうぶう言い出した。男子である寛斗ですらこの状況に苦言を呈する有様だ。そこで真二が鶴の一声を入れる。


「てか部活も委員会も何もやってない奴でジャンケンしてさ、負けた奴がやればいんじゃね?」

「はぁ!?」


 「それいいじゃん」「そうしよーぜ」と、賛同の声が上がった。しかし当然のことながら、該当者からは非難轟轟だ。1人を除いて。


「お前そりゃ理不尽過ぎやしねーか!」

「そうだよ、無理矢理じゃん」

「俺らだって忙しーんだよ」


 該当する知輝、和馬、同じく帰宅部の矢澤(やざわ)幸輔(こうすけ)が早速反対する。残る凜は一切表情を変えず黙ったままだ。めざといことに知輝と和馬はそれに気付き、


「おい生田目、他人事ぶってるけどお前だって帰宅部だろ。俺ら委員会なんかやってる暇ねーんだからやってくれよ」

「そーそー!それにお前去年新聞委員だったじゃねーか」

「嫌」

「なんだと!?」


 2人ともわざとらしく両手を擦り合わせながら頼み込むも……速攻で断られた。


「拒否んなよ!どうせお前がジャンケン負けたら…」

「負けたんならやるけど?仕方ねーし。ただお前らに押し付けられてやるのが嫌ってだけ」

「……ワガママ言うんじゃねぇよ!」


 難癖をつけるも相手が悪かった。凜に瞬時に論破される。それどころか……


「何がワガママよ、押し付けるなんてサイテーなんですけど!」

「生田目君かわいそぉ〜」

「ちゃんとジャンケンしなよ」


 莉麻達可愛い女子グループが苦言を呈している。相手が相手なので知輝はギクリとし、一気にしどろもどろになる。


「お、押し付けなんて…人聞きの悪い…」

「だいたい……お前ら普通に暇だろーが!」


 見苦しい言い訳をする知輝に、恭平が一気にとどめを刺す。

 

「しっ…失礼な!」

「忙しいってどーせ合コンとナンパじゃん。それ以外に何かあるの?」

「ザワ(幸輔)はバイトか麻雀だろ〜」

「そんなんやる暇あるんなら委員ぐらいやれ〜」

「やっさーやっさー!」

「忙しいんじゃなくて面倒くさいだけじゃないか」

「僕なんか部活掛け持ちしてますよー」

 

 知輝が反論するも虚しく、悠太と寛斗が彼らの忙しい理由を指摘する。それを皮切りに他の生徒も加勢して、教室内は一気に総スカンモードになる。3人は図星のようで、さっきまでの不遜な態度はどこへやら…すっかり縮こまっている。和馬だけは「だって嫌なもんは嫌だろ…」と呟いたが。


「はいはい皆静かにー!先生は奈良間の意見に賛成だ。他の皆は部活も委員会もやってるんだから」

「確かに大変かもしれないが、やっておいて損はないと思うよ」


 よくぞ言ってくれたと言いたげな杉谷に、栗山もニッコリする。知輝ら3人は渋々「…ジャンケンすっかー」と受け入れた。杉谷に促されるまま、知輝、和馬、幸輔、凜は前に出る。

 このジャンケンで相方が決まるので、菫はその様子を固唾を飲んで見守っていた。


(この中じゃあ……ぶっちゃけ生田目君がいいかしら。なんだかんだで頼りになりそうだし。堀君と吉田君はちょっとねぇ…。矢澤君はまだあんまりよく知らないけど)


 知輝は女好き、和馬はサボり魔なので、相方になるのはちょっと嫌……と菫は思う。幸輔については学業にやる気がなくバイトや趣味に精を出しているらしい、とめぐる達から聞いた程度だ。菫は凜が負けるように祈る中、ジャンケン合戦が始まった。



 

「じゃーんけーん……ぽん!!」





 ジャンケンはたった1回で決着がついた。パーを出して大喜びする知輝と和馬、やれやれという表情だが同じくパーを出した凜。そして唯一ガックリしているのは……グーを出した幸輔だ。


「勝負あったな!じゃ、ザワで決まり!」


 杉谷よりも早くに寛斗が締めて、周りからは拍手が起こった。若干不服そうな表情で、杉谷は黒板に名前を書いた。それはこっちのセリフだろ……とでも言いたいのだろう。

 こうして各委員は次の通りに決まった。


学級委員 清宮寛斗、杉浦優香子

風紀委員 淺間(あさま)聡太郎(そうたろう)、五十幡つばさ

美化委員 松本成一、玉井遥

新聞委員 矢澤幸輔、宮西菫

体育委員 上原日向、野村沙希

文化委員 細野慶吾、田宮来美

放送委員 北山恭平、阪口千穂

図書委員 上川畑直、根本栞里

保健委員 中島雅哉、加藤オリビア

選挙管理委員 福谷貴大、畔柳未夢


(あーあ、生田目君じゃなくて矢澤君か。まぁ堀くんや吉田君よりかはマシかしら……)


 少しだけ残念に思いながらも、菫も他の生徒と同じように拍手をした。











 この日の放課後、委員会の時間は早速やってきた。新聞委員会の拠点はコンピュータ室で、全部で40台のパソコンが1人1台となるように並べられている。

 もうすぐ委員会が始まるというのに、相方である幸輔の姿はまだない。菫が教室を出る前に彼はとっとと去って行ったため、もう来ていると思っていたのだが。


(矢澤くん遅いわね……。始まる前に挨拶ぐらいはしたかったのに、さっさと教室からいなくなるんだから。まさか……吉田君じゃあるまいし初日からサボったり……ん?)


 ヤキモキしている菫の背中に、トントンと何かがぶつかる。振り向くと……


「!琴ちゃん!?」


 すぐ横に琴葉が立っており、笑顔で手を振っている。


「まさか……琴ちゃん新聞委員なの?」

「そうよ〜。私去年も新聞委員だったし、今年も皆嫌がるから私がやることになったの」

「5組もそうなのね……」


 そういえば琴葉と凜は去年同じ委員会だったことを、菫は今思い出した。ちょうどよかったと言わんばかりに、菫は琴葉におずおずとこの委員会について訊く。


「ねぇ……新聞委員会って色々面倒なんでしょ?」

「そうね。……去年委員会やってた子私以外全然いないわ」


 琴葉は即答してから辺りを見回す。やはり……と菫は項垂れる。


「うちのクラスの友達からそう聞いたのよ。皆が嫌がるのもわかるような気がするわ……」

「あれじゃあねぇ……」


 立候補した時と違って、菫はどうしても気が重くなっている。頬杖をついてパソコンの黒い画面をぼんやりと眺める菫に、琴葉も同調する。



 事の重大さに菫がようやく気付いたのは、委員会決め終了後の10分休憩の時。前後同士の菫とめぐるの席を、女子達が囲んでいる。話題は菫が新聞委員になったことで持ちきりだ。


「すー様……新聞委員はガチでしんどいぞ」

「アレはかなり大変らしいね〜」

「私去年やったけど〜…マジで最悪」

「私も〜。もう今年は新聞委員だけはやだって思ったもん」


 沙希も遥も、めぐると同じことを言ってきた。彩矢音と萌は昨年務めていたらしいが、2人とも浮かない顔だ。ただ新聞を書くだけのはずなのに、この委員会をここまで嫌がるものなのだろうか?菫はここに来て戦々恐々し始めた。


「めめちゃんもさっき言ってたわよね?…何がそんなに大変なの?」


 恐る恐る聞いてみると、萌はカーディガンのポケットからスマホを取り出した。暫く弄ってから、「これ見てよ」と言って菫に画面を見せる。

 そこには『公ヶ谷タイムズ』なる新聞記事が映っている。


「…………何よコレ?」


 見出しにはデカデカと『教師間でダブル不倫!1年5組の山川先生♡2年4組の西先生』とあり、写真もドーンと大きく貼られている。そこに写るのはラブホテルに入ろうとする2人の男女。いかにも不倫の証拠とでもいった1枚だ。


「去年の新聞よ。こんな記事ばっかり書いてんの」

「……え?まるで週刊誌じゃない」

「そうなんだよ!他にも教師と生徒の恋愛とか、いじめとか。あとタバコ吸ってたのすっぱ抜かれた子もいたよなぁ?」

 

 めぐるが周りの女子達に確認したところ、全員うんうんと頷く。


「なんでこんなスキャンダラスなのばっか……こんなの学校新聞に相応しくないじゃない!」

「完全に委員長の趣味だね!それにこういうタレコミ持ってこないと文句言われるのよ」

「ええ……」


 元委員の萌と彩矢音から実態を突きつけられ、菫は絶句してしまう。めぐるが言った「委員長も厄介な奴だし」の意味が、菫には漸くわかった。


「でっ、でも学級新聞って普通はもっと健全なネタ書くものじゃないの?こんな内容書いてて先生は何も言わないの?」


 そもそもこれは週刊誌ではなく、高校の学校新聞である。こんな内容が罷り通るなんて不思議に思った菫は、率直に訊いた。すると、めぐるがため息をついてその理由を話してくれた。


「なんか委員長のお父さんが新聞社の社長らしくて、寄付金いっぱい出してるらしいよ〜」

「…………またそれ!?」





 委員会が始まるまであと5分。菫はなおも気が重い。


「それにしても……こう厄介な人の親に限って偉い人だったり権力者だったりするものね。はぁ……皆で楽しくワイワイしながら新聞作れると思ってたのに。理想と現実のギャップが苦しいわ……」

「たかが新聞作りに幻想抱きすぎでしょ……あっ、来たんじゃない?菫ちゃんの相方」


 菫が琴葉に愚痴っていると、コンピュータ室の後ろのドアが開いた。琴葉は早速指を差す。

 いかにも面倒くさそうにノロノロと教室に入ってきたのは……幸輔だ。流石に初回はサボらずに来たようだ。振り向くと、菫は彼と目が合い反射的に会釈をする。それに対し、幸輔は何も言わないどころか無反応で菫の隣の席に座る。


「あ……あの、矢澤くん。よろしくね」

「ああ」


 勇気を出して挨拶をしても、幸輔はそれだけしか言わなかった。無愛想過ぎて菫は面食らう。確かに普段からぶっきらぼうな態度らしいが、横で聞いていた琴葉までモヤっとした。


(「ああ」って。せっかく話しかけたのに)

(感じ悪っ……)


 菫と琴葉は幸輔を睨むも……当の本人は意に介さずあくびまでしている。

 正直な所、幸輔は凜以上に近寄りがたい外見だと菫は思う。癖が強すぎてほぼアフロヘアに近い髪に、口周りから顎にかけては無精髭が生えていて、ちょっと怖い。それに幸輔は凜と違ってクラスメイトに関わることもほとんどない。

 本当にこの2人でやっていけるのかしら……と菫は思わざるを得ない。


 すると、今度は前のドアがガラッと開いた。


「菫ちゃん、あの人が委員長よ。じゃ、またね」


 琴葉はそう言って、自分の席に戻っていった。



 入ってきたのは、黒髪のセンター分けと細い目が素朴な印象の男子生徒だ。首に掛けている、高そうな一眼レフカメラが前後左右に揺れている。恐らくいつでもシャッターチャンスを逃さないよう、カメラを常備しているのだろう。


(あの子が例の委員長なのね。思ってたよりも人畜無害そうに見えるけど……。あんな重そうなカメラ首から下げて重くないのかしら。)


 男子生徒は前に出るなり、うっすら割れた顎を撫でながら辺りを見回した。そして高らかに開会宣言をする。


「……よし、全員揃ったようだな。ではこれから委員会を始めます!」


 委員長はまずこちらに背を向け、ホワイトボードに自分の名前を板書する。


「え〜、今年も委員長を務めさせて頂きます。3年4組の有原(ありはら)(さとる)と申します」


 まずは堂々と自己紹介を行ってから、暁はこの委員会について説明する。


「え〜、では簡単にこの新聞委員会の活動内容についてお話します。僕が見る限り、今年のメンバーはほぼニューフェイスなんで」


(去年の委員皆逃げちゃったからね…琴ちゃん以外)


 恐らく菫と琴葉以外の委員達もそう思っているに違いない。ほぼ全員冷ややかな表情で暁を見ているが、彼はそのまま話を続ける。


「新聞委員会の仕事はただ一つ、この北水島高校の全生徒に真実を伝えることです。それが嬉しいものであろうと悲しいものであろうと、衝撃的なものであっても。包み隠さずに全てをこの『北水島タイムズ』に書いて、皆に色んな情報をお届けしましょう!」


(ただゴシップ書いてるだけじゃない)


 そう思う菫はもちろん、誰も返事はおろか相槌すら打たずに黙ったままだ。暁が熱く語るのに反比例するかの如く、周りは静まり返っている。それでも暁は一方的に語り続け…


「来週には本年度1発目の北水島タイムズを刊行します!そういう訳で皆さん、週明けにまたコンピュータ室に集まりましょう。それまでに最低でも1つはネタを持ってきてください!」


(ほら出たわね!)


 案の定ネタもといタレコミ提供を強要され、周りの委員達は罵声を上げる。菫や琴葉もため息をついた。隣の幸輔に至っては舌打ちまでしている。


「はい皆「え〜」って言わない!」


 暁は手を2回叩いてから、再び熱く語り出す。

 

「去年はネタがとっても豊富で先生の不倫やら喫煙疑惑やらで大いに話題になったし、君達も楽しんでいただろう?今年も盛り上げていかないと!そもそもそのために君達はこの新聞委員会に来たんじゃないのか?」


 またしてもシーンと静まり返った。流石にこの温度差には暁も気付いたようだ。一旦落ち着いてからコホンと咳払いをし、暁はまた話し出す。


「まぁとにかく、来週に早速新聞を作るから皆よろしく頼むよ。必ず1人1個はネタを持ってくるように!北水島高が関連するものなら何でもいいし、僕も何か持ってくるんで」


(とか言ってゴシップネタじゃないと文句言うんでしょうが……)


 委員達が閉口するも暁はどこ吹く風でハンカチを取り出し、自慢のカメラのレンズを拭く。どこか得意気な表情なのは、自分が一番面白いネタを持って来れると自負しているからだろうか。



「あ〜、どうしよう…。ネタなんか何もないんだけど」

「とりあえず学校で何か探してみる?もしかしたら何かあるかもしれないわよ」


 菫は早くも頭を抱えていた。そもそも新聞に書けるようなネタを持って行くだけでも大変なうえ、週明けまでと期限が短過ぎる。しかもあの委員長が気に入るものが見つかるのだろうか。

 一方、去年から続投している琴葉は手慣れた様子だ。琴葉の提案通り、2人は歩き回ってみる。


 2人で暫く回っていたところ……門柱のすぐ横の塀^_で、遂に菫は珍しい光景を見つけた。


(これは…ネタにできそうかも!)

「どうしたの、菫ちゃ…」

「しっ!」


 菫は琴葉に静かにするように言い、息を殺してそろりそろりと塀へ近付く。ブレザーのポケットから音を立てず慎重にスマホを取り出し、塀が結構高いので思いっきり背伸びをして被写体に向けた。動きませんようにと祈りながら、シャッターを押す。程なくして被写体はすぐにどこかへ去っていた。


「やった!上手く撮れたわ」


 自画自賛する菫に、琴葉も菫のスマホを覗き込むと思わず笑顔になる。


「えっ、可愛い!こんな猫ちゃん初めて見たんだけど」

「珍しいでしょ〜……あの委員長が気に入るかは別として…」

「そういうのでいいわよ。いくら何でもゴシップだけじゃね〜。あーあ、菫ちゃんに先越されちゃった〜。私も早く見つけないと!」


 羨ましそうに言うと、琴葉は菫から一旦離れてネタを探しに行く。菫が満足そうに撮った写真を眺めていると……


「あれっ、宮西さん?」

「ぇえっ!?」


 後ろから聞き覚えのある声で呼ばれ、菫は思わずビクッと驚いた。振り向くと、よく知っている男子が立っている。


「あっ、上川畑君じゃない」

「お疲れ様です。何か撮ってたんですか?」


 声を掛けたのは直だった。彼も図書委員を務めており、今終わったところのようだ。ニヤけながらスマホを眺めていたのがそんなに変だったのか、丸眼鏡越しに不思議そうな目で眺めている。


「いやちょっとね……新聞に載せれそうなネタがあったから」


 そう返すと、直は合点がいったのか「あ〜」と言った。


「宮西さん新聞委員ですもんね〜」

「委員長から無茶振りされたのよ、週明けにネタ持ってこいって」

「やっぱり大変なんですね。で、何の写真を…」

「内緒よ。もしかしたら新聞に載るかもしれないし楽しみにしてて」


 本当に載せて貰えるかどうか微妙なところだが…菫は勿体ぶって教えなかった。唇に人差し指を当て内緒のポーズをすると、直は二つ返事で受け入れた。少しだけ顔を赤らめて。


「それはそうと宮西さん…」

「ん?」


 直はやけにニコニコして次の話を切り出してきたので、菫は何事かと思っていると…


「僕……宮西さんに投票したんです!学級委員に」

「ええっ!?どうしてぇ!?」

「だって宮西さんならダメなことはダメってちゃんと言ってくれそうかなって思ったんですよ〜。あの騎馬戦の時だってカッコよかったじゃないですか!」

「あ、ありがと…」


 ただ偶然不正行為を見掛けてそれを指摘しただけよ…と思いながらも、菫は思わず照れくさそうにはにかんだ。


(あらら……菫ちゃんったらモテるわね〜。10個下とは付き合わないって言ってたのに)


 そんな菫と直の様子を、琴葉は人知れず微笑みながら眺めていた。



 それから1時間程経った頃だろうか。ある男子生徒が校門へと向かっていた。何とも面白そうにニヤニヤと不敵な笑みを浮かべ、只でさえ細い目が更に細くなっている。

 視線の先にはご自慢の一眼レフがあり、そこには会心のスクープ写真が数枚収められていた。


(幸先がいいなぁ。コレはきっと一大スクープになるぞ。今年も委員長になったからには面白いネタが要るからな〜。他の奴は揃いも揃ってやる気なくて頼りにならないし)


 暁のカメラに写っていたのは……ある男子生徒が別の男子生徒に、殴るわ蹴るわ一方的に暴力を振るっている写真であった。


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