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5ページ目 菫さんの女子会


 宿泊研修が終わってから早くも5日。今日は土日を挟んだ水曜日である。只今、2-3の教室では5時間目の数学の授業が行われている。教壇に立っているのは2年1組の担任兼数学教師の若竹(わかたけ)慎一(しんいち)だ。彼が板書するべく生徒達に背を向けた時……


「……?」


 背中にトントンと何かが当たるのを感じた。振り向くと、すぐ後ろの席のめぐるが「しーっ」とでも言うかのように唇に人差し指を当てている。そして反対の手で綺麗な四角に折られ、『男子禁制 読んだら前に回して』と書かれた紙を菫に渡す。

 菫は頷いてそれを受け取り、前を向いた。若竹は気付いていないようだ。


(こ、これってもしかして手紙??懐かしい!今時の高校生でも授業中に手紙回したりするのね〜!いかにも青春って感じ!それにこの折り方もよく折ってたわ〜)


 一気に懐かしくなり、菫の頭の中は大興奮だ。折り目を解いてバレないように膝の上で開ける。


『今日の放課後、ダリーズでいちご抹茶フラッペ飲みたい人はお名前書いてね♡今日バスケ部休みであやっぺと私は行ってきます⭐︎』


 この一文とめぐるの名前が手紙に書かれていた。どうやら「あやっぺ」こと彩矢音と、ダリーズなるコーヒー屋に行くらしい。


(……えっ!?これって高校生がよくやる放課後の寄り道ってやつ!?

しかもダリーズのいちご抹茶フラッペって今CMやってるやつじゃない……)


「じゃあ問1の1問目は……宮西さん、2問目は矢澤君、3問目は山﨑さん、解けたら黒板に答えを書いてください」

「は、はい」


 更にテンションの上がる菫だったが、慌てて手紙から教科書へと視線を戻す。指定された問題を解いた後、黒板に計算式と答えを書いて戻る。そしてバレないようもう一度手紙を見る。


(これは……行かなきゃね!!)


 後で葵に今日は帰りが遅くなるとLINEで伝えようと思いながら、菫は早速自分の名前を書いた。



 5時間目が終わった10分休憩、菫は琴葉を他に誰もいない女子トイレに誘い、早速3組女子でダリーズに行くことを報告した。


「いいじゃ〜ん。楽しんできてね!」

 

 開口一番笑顔でそう言った琴葉だったが、菫は手を拭きながらなぜか遠い目をしている。


「……どうしたの?ダリーズのコーヒー美味しいしいいじゃない」

「いや……今時の高校生ってシャレオツだなって。こういうのってだいたいナクドじゃない?」

「……別にどこだっていいでしょ。てかシャレオツって……せめてオサレって言って」


 例によってツッコんだ後で、琴葉はリップクリームを塗りながら、話を女子会のことへと戻す。


「女子だけで行くんなら絶対恋バナとかあるでしょ?どうするの、菫ちゃん。好きな人いるか訊かれたら……」


 恋バナ……!その4文字に菫は鋭く反応し、目をキラキラと輝かせる。菫のこの変わりように琴葉は驚いてビクッとする。


「す、菫ちゃん……まさかいるの!?好きな人」


 菫は笑いながら勢いよく首を横に振ってハッキリ否定する。こんな反応を見せたうえ、ノリノリで参加を決めたものの……菫の目的はもちろん自分の恋の話ではない。


「そんな訳ないじゃない!だって皆10個年下よ?」

「……じゃあなんでそんなに目がキラキラしてるの?」

「だって……誰が誰を好きで、誰と誰が付き合ってるとか面白そうじゃない?」

「あ〜、聞く方ね!びっくりしたわ、まさか菫ちゃんにそんな趣味があるなんて…」

「…………私の目当ては皆の恋バナといちご抹茶フラッペよ。うふふ……彼氏いる子いるのかしら?あとイケメン幼馴染と付き合ってるとか」

「幼馴染ね〜。私の幼馴染なんか今音信不通よ」


 そう言われてみると……菫自身もそうだ。現在はもとより、一度目の時ですら同じ高校に幼馴染はいなかった。そもそも菫の幼馴染は女の子ばかりだ。やはりイケメン幼馴染なんぞフィクションの話ね……と痛感しながら菫はブラシで髪を整えていた。



「ではでは……今日もお疲れさんでした!」

「「「「「カンパーイ!」」」」」


 めぐるが音頭を取った後、6つのいちご抹茶フラッペのカップがコツンとぶつかる。

 ダリーズコーヒーの客の入りようはそこそこで、他にも学生らしき人が同じようにだべっている一方、パソコンを開けている社会人もいる。


 結局この日集まったのは6人だ。言い出しっぺのめぐると彩矢音、ゲーム配信者の萌、ギターとカラオケの好きな千穂、3組唯一の眼鏡っ子の根本(ねもと)栞里(しおり)、そして菫。まずは6人ともいちご抹茶フラッペを味わう。


「めっちゃ美味しーい!」

「甘酸っぱ〜い」

「サイコーじゃん」

「抹茶といちごって相性いいんだね」


 それぞれが感想を言い合う中、めぐるは今日の昼休みを思い出したようで…


「……おーりんも来れたらよかったのにな〜」

「あっ、私も見た見た。めちゃくちゃ行きたそうだっだわよね、加藤さん」


 菫も今日の昼休みの食堂の様子を思い出して、思わず口を開いた。「おーりん」こと加藤(かとう)オリビアは部活で行けず、「私だって行ぎでえ〜!」と彫りの深い顔立ちに似合わない東北弁で嘆き、地団駄を踏んでいた。

 それに対し、普段からオリビアと仲良しの彩矢音は「あぁ、それはもう大丈夫」とあっさり答える。同じく仲良しの萌もうんうんと頷いている。どうやら今日は諦め、萌と別日に行くことで納得したようだ。一方、それを聞いた千穂はクスリと笑う。


「ふふふ…実はゆかちゃんも行きたがってたんだよね〜」

「えっ!?ゆか姉が?」

「うん。いいな〜って言ってたよ」


 千穂以外の5人は信じられないとでも言うように目を丸くした。甘いフラッペが好きなことと、優香子のクールで大人っぽい雰囲気は合わなくて意外に思ったのだ。そんな5人の驚いた顔を見て、千穂は嬉々として幼馴染の話を続ける。


「ああ見えてゆかちゃん結構甘いもの好きなんだよ〜。いつも鞄の中に甘〜い飴入れてるし、ミニマムコーヒーよく飲んでるし」

「みっ、ミニマムコーヒーなんか飲むの?!」

「あのすっごい甘いやつ?」


 彼女のちょうど向かいに座っているめぐると萌が興味深そうに身を乗り出す。めぐるの右隣にいる菫も意外だな〜と思いながらも、宿泊研修での優香子の様子を思い出すとどこか腑に落ちた。


(そういえば杉浦さん達の班、甘口のカレー作ってたわよね。清宮君が「えっ、甘口!?」って驚いてたし。通りで生田目君が美味しくなさそうに食べてたわ…。あと今日トイレで杉浦さん見かけたけど、ケーキの柄のハンカチ持ってたっけ…)


「で、ここからが本番なんだけど……」


 あれこれ頭を巡らせているうちに、めぐるがニヤリと笑みを浮かべながら切り出した。


(あ、これはいよいよ……)


「皆さぁ…………好きな人とかいる!?」


(出たわね!恋バナ!…皆どうなんだろう?)



 めぐるが言い切った後、菫はすかさず他のメンバーの反応を確認する。

 気になるその反応はというと……三者三様だ。萌は首を横に振っていて、彩矢音も「いないなぁ〜」とハッキリ言っている。栞里も眼鏡のブリッジを押さえながらうーんと難しい顔をしている。少なくともこの3人は特にいないようだ。

 そして唯一顔を赤らめているのは……千穂だ。そのあからさまなリアクションを、めぐるはもちろん見逃すはずもなく……


「その顔は……さては好きな人いるんですな?グッチ」


 更にニヤニヤ笑いながら詰めていく。「グッチ」こと千穂はギクリとした後、照れ笑いをしながら俯いている。これはどこからどう見ても図星と言って間違いないだろう。


「グッチはいるんだ〜!」

「誰誰!?」

「もしかしてうちのクラス!?」

(ふふふ……いかにも恋してるって感じ……青春ね〜)


 萌、彩矢音、栞里も前のめりになって次々と質問責めにする。3人とも先程と打って変わり、かなり嬉しそうな楽しそうな表情になっている。菫も同様にニッと歯を見せて前のめりになってしまう。


「まぁうちのクラスだけど……」


 千穂が俯いたまま照れくさそうに絞り出すと、「おお〜!」と歓声が上がる。クラスメイトであれば顔と名前が一致しているし、誰なのか尚更気になってしまって菫は勝手に予想すらしてしまう。


(うーん、阪口さんが好きそうな人って誰だろう?やっぱり生田目君とか……)


「ねぇ誰が好きなの〜?」

「めっちゃ気になるんだけどー!」

「教えてー!」

「誰にも言わんから!」


 こうして菫が予想しているうちに、千穂はより一層詰められている。暫くの間、恥ずかしいなどと言って両手で顔を覆ってもじもじしていたが、それでも他の4人は諦めてくれない。こんなやりとりを何回も繰り返すばかりで埒が明かず……


「……しょーがないな〜。本当に誰にも言わない?」


 両手から目だけ出した状態で、千穂は念を押した。


「もちろん!」

「言わないよ!」

「当たり前じゃん!」

「私達だけの秘密にするから」


 栞里、萌、めぐる、彩矢音が約束する中、菫もこくこくと首を縦に振った。すると、千穂は諦めたのか照れ臭そうに「わかった……言うよ」と蚊の鳴くような声で呟いた。他のメンバーがゴクリと唾を飲み込んで黙る中、千穂は真っ赤な顔でゆっくりと打ち明ける。



 

「あのね……、そ、その……、わ、私…………


き、き……北山君が……、……好きなの」



 


 千穂がカミングアウトしてから数秒間、シーンと静まり返った。しかし、その沈黙をめぐるがあっさり破る。


「きっ……、きたろー!?」


 そう言った瞬間、他の5人は思わず吹き出した。大笑いしながら萌が「きたろーって!www」と言う。

 

「だってどう見てもそーじゃね?あの前髪じゃ。苗字もちょうど北山だし」


 めぐるもケタケタ笑いながら、そのあだ名の由来を説明した。言われてみれば……と菫は恭平の髪型を頭に浮かべてみる。彼は肩につくぐらいの長さの金髪を全体的に横分けにしており、長い前髪で右目はほぼ隠れている。それを踏まえると、髪色こそ違えど確かにあの妖怪とよく似ているかもしれない。よりによって苗字まで似ている。


「確かにw」

「似てるっちゃ似てるよねw」

「でもアイツ最初はちょっと嫌そうにしてたよー。今はそうでもないけど」


 彩矢音と萌は納得したが、めぐるによると本人だけは最初は納得しなかったようだ。

 

「で、千穂ちゃんは北山君のどこが好きなのー?」

「私も気になる!きたろーのどこがいいのー?」

 

 前のめりになったまま、栞里とめぐるが訊く。もちろん菫だってそこは気になる。


(確かにそれは気になるわ。まさか北山君だなんて)


 千穂はふんわりしたショートボブの髪型に少々ぽっちゃりした体型で、クラスではそこまで目立つ方ではない。一方、恭平はその髪型と多数のピアスと首にかけたヘッドホンからして、派手でロックな雰囲気だ。

 そんな千穂が恭平を好きになるのはちょっと意外な気もしないでもない。ただ、接点が一つだけある。


「あっでもさ、グッチときたろーって部活同じだよね?」

「そーそー軽音部!」


 萌と彩矢音がそう指摘すると、千穂はまだほんのりと頬を赤らめたまま嬉しそうに口角を上げた。


「部活でね……北山君が褒めてくれたの。『阪口ってすげー歌うめえじゃん』って!」


(いかにも「恋してる!」って顔……恋する女は綺麗だってよく言ったものね。…若いっていいなぁ)


 菫は実年齢を隠しているのを一瞬忘れてそう思っていた。想い人について語るその顔は、とてもうっとりしていて可愛らしい。めぐる達が「それは嬉しいじゃん!」「惚れちゃうのもわかるわ」と頷く中、今度は千穂の方が前のめりになってめぐるに問いただす。


「てかめめちゃんいつも北山君達と一緒にいるよね!?ねぇ北山君って彼女とか好きな人いるの!?」


 やはり前々からソレが気になっていたようで、千穂の顔は先程とは打って変わって真剣かつ心配そうだ。めぐるは一瞬だけその気迫に圧倒されるも……


「彼女はいないよ。好きな人も……今はいないと思う。私もはるるもさっきーもただの友達だから!ていうかアイツたぶん今ドラムが恋人じゃね?」

「そうかもね!ドラム叩いてなくてもリズム取ってるし。あと北山君は上腕二頭筋が凄くって。半袖着てたらついつい見ちゃう」

「あ〜!ドラマーは凄いらしいもんね」


 どうやらぱっと見では細身に見える恭平でも、ドラマーらしく腕にはしっかりと筋肉がついているらしい。一度カミングアウトすれば緊張が吹き飛んだのか、千穂はそれ以降も饒舌に話していた。


 

「千穂ちゃん!色々話してくれてありがと!私達応援してるから!」

「なんかあったら協力するよ!……そういえば今度のホームルームで委員会決めるじゃん。もしやるんなら放送委員って言ってたよ、きたろー」

「ありがとう!私も放送委員になろうかな」


 これ以降も千穂の恋バナをたくさん聞いた後、他の5人は彼女の恋が成就するように激励した。もちろん菫もこの恋が上手くいって欲しいと心から願っている。めぐるに至っては言ったそばから早速協力している。


「で、他の皆はどうなんよ?」


 千穂が嬉しそうに礼を言った後、めぐるは早くも千穂以外のメンバーにも話を振る。少し前と同じようにいないとハッキリ言ったり微妙な顔をする4人だが、それはめぐるも同じようで……


「いないか〜。まぁ私も今はいないんだけどね。……すー様はどうなんだよ〜?」

「い、いないわよ!」


 真っ先に話を振られ、菫はびっくりする。流石に高校生とは付き合えないし……とはもちろん言えずに、菫は首を横に振った。

 しかし、めぐるはそれで折れてくれず……


「じゃあ気になる人は?」

「ええ〜……」

「LOVEじゃなくていいからさ。例えばちょっとコイツ面白いなって思ったりとか」


 そう言われると……彼一択だ。菫は包み隠さず、その気になる人物の名前をハッキリと言う。


「それなら……生田目君かしら。ド正論言ってくれてスカッとするし……」


 それだけでなく……真っ先に自分の素性と年齢を見抜いたうえ、あんなクールな見た目と態度に反して激辛好きなこともちょっと意外で面白く思える。それももちろんここでは言えないが。

 こうして凜を選んだ菫に、めぐるもうんうんと頷いた。

 

「……実は私もナバちゃんは気になるんよな〜」

「そうなのね!」


 確か始業式の掃除の時に、めぐるは凜のような男は好みじゃないと言ったのを菫は覚えている。それでもあくまでLOVEではなく、ただ気になっているだけのようだが。興味深そうにしている他のメンバーに、めぐるは咳払いをしてから話し始める。


「まぁすー様とほぼ同じ理由だよ。いつも言ってることド正論だしビシッと言ってくれてるじゃん?

 あとナバちゃんってめっちゃクールだよな?まるでクラスのことなんか興味ない、無関心って感じで。でもその割によく見てるじゃん。こないだの騎馬戦の時とかさ。だから面白いなって思って」


 そう言われると……確かに意外と凜はクラスの皆のことをしっかり見ている。そういうクールだけど何かギャップのあるキャラも青春ものには必ず出てくるわね……と菫は改めて思った。


「じゃあ後はもえぽんとあやっぺとネモちゃんね!私とグッチとすー様はもう言ったから」


 めぐるは再びニヤリと笑みを浮かべながら、まだ言っていない3人にも話を振った。



「気になる男子かぁ……」

「うーん……」

「私は今はゲームが恋人だからなぁ〜」


 考え込む彩矢音と「ネモちゃん」こと栞里をよそに、「もえぽん」こと萌はそう言ってのけた。流石はゲーム実況の配信者らしい返答である。


「流石『いまちゃんげーむ』……って気になる「人」だから!」

「ですよね〜。じゃあ……うみんちゅかな」

「ええっ!?」

(うみんちゅって……上原君!?これまた意外なとこ来たわね〜)


 「うみんちゅ」というのは沖縄出身の野生児である日向のことだ。ゲーム実況者の萌と熱血キャラの日向とでは、菫にとっては千穂と恭平以上に共通点が思い浮かばない。

 菫以外のメンバーも同じことを思ったようで、目を丸くしたり口をあんぐりと開けたりしている。普段から萌と仲の良い彩矢音もそれを知らなかったらしく、「なんでまた……」と口走った。


「うみんちゅもスプラチューンやっててさ。アイツ結構腕がいいの。ちょっと油断したら負けちゃう」

「もえぽんスプラチューンしょっちゅう配信してるもんね」

「ゲームの中じゃ一番好きかな!」


 普段はあまりゲームに興味ない菫も彼女のチャンネルを見たことがあり、登録者数は5万人弱、投げ銭する視聴者も時々おり人気があることが伺える。同級生で彼女の実況動画を観る人も少なくないだろう。


「じゃ、次はネモちゃん!気になる男子は??」


 次に順番が回ってきたのは栞里だ。栞里はフラッペを飲み干して少々考えた後で、眼鏡をクイッと直してからある男子の名前を挙げた。


「清宮君……かな〜」


 今までとは違い、他のメンバーは納得した様子で「あ〜」と言った。


(やっぱり清宮君と来たか。……あの子なら必ず誰かは「気になる男子」に選ぶわよね。というより生田目君と清宮君みたいな男子って必ず青春物に出てくるような……)


 寛斗はクラスを仕切るリーダー格というだけでなく……地元で有名な「清宮財閥」の御曹司でもある。そういうこともあって、菫は必ず誰かは寛斗と、実際にモテモテな凜を選ぶのではないかと思っていた。栞里はめぐるに訊かれる前に寛斗を選んだ理由について語り始める。


「清宮君ってさ〜、いかにも少女漫画の相手役って感じじゃない?性格良くて皆の人気者で。『あなたへ届け!』の風村くんみたいな!」

「か、風村くん!?(今時の高校生でも『あなたに届け!』を読むのね〜!)」


 10歳年上の自分ですら知っている少女漫画の作品名が出てきて、菫は思わず声をあげた。そんな菫を尻目に、「あ〜」だの「確かに」だの腑に落ちた様子の声が聞こえてくる。


「なるほど〜。言われてみれば風村くんっぽいような気もする」


 千穂がそう言った直後、まだ気になる人が誰なのか話していない彩矢音がおずおずと口を開いた。


「実は……私もきよみーかな」

「彩矢音ちゃんもー??」



 「気になる男子」が唯一被った栞里は嬉しそうにニコニコ笑いながら彩矢音と目を合わせた。


「あやっぺはなんでー?」

「んー、偉そうにしてないとこかな。あんなに大金持ちだしクラスの中心で仕切ったりして、勉強もスポーツも出来るってのに。アメリカにいた時も中心的な奴はいたけど……ただイキってるか大した実力もないのに偉そうにしてるのばっかりだったよ」


 彩矢音はフラッペのストローをくるくる回しながら述懐した。海の向こうにもそういう人間はいるということである。それに比べて、寛斗が尊大な態度を取っているのは確かに見たことがない。自己紹介の時に「よっ、お坊ちゃん!」と野次を飛ばされても、すぐに「やめろ」と言っていたほど。

 寛斗と同じグループのめぐるは得意そうな表情を見せ、更に予想外な一面について語る。


「ああ見えてきよみーは結構庶民派だよ?私服はその辺で売ってるやつだし、ご飯も学食のハンバーグが一番好きって言ってた」

(えっ!……学食のハンバーグって300円じゃない)


 まさかの財閥の御曹司の好物が300円のものだなんて……意外すぎて菫達は唖然とした。そんな皆をよそに、彩矢音はめぐるに視線を向ける。


「てかめめちゃん……


私ずっときよみーと付き合ってるって思ってた」


 そう言われた瞬間、めぐるは吹き出したうえ「違うって〜」とゲラゲラ笑いながらバッサリと否定した。その右隣で菫は苦笑いする。


(そりゃいっつも一緒にいるから勘違いされちゃうわ。でも他にも北山君達も一緒だし。それにしてもあんなに笑われちゃ清宮君が可哀想ね……)


 どうやら栞里、千穂、萌も勘違いしていたようで、うんうんと頷いている。それに対し、めぐるは顔の前で手を振る。


「ただの友達だよ〜、きたろーと同じで。あとだぁ坊(悠太)とナラッチもね」


(あのグループは……皆でワイワイしてて青春してそうだけど、恋愛と言われるとちょっと違うものね〜。あのトランプしてた時だってそういう雰囲気じゃなかったもの……


……そういえば!)


 めぐるグループとトランプしたことを思い出したおかげで、菫はふとあの宿泊研修のある一コマが頭に浮かんだ。今更だが今日初めて自分から話題を切り出してみる。


「ちょっと違う話していいかな?」

「すー様、なになに?」

「吉田君ってさ……杉浦さんのこと好きなの?」


「「「「「……………………」」」」」


 思い切って切り出した瞬間静まり返り、戸惑っているような気まずいような雰囲気が漂った。予想外過ぎる反応をされてしまい、菫は絶句してしまう。


「ごっ、ごめんね……わ、私何か変なこと言ったかしら?」

「大丈夫だよすー様。なんでまたよっしーがゆか姉に?って思って」


 菫は冷や汗が出てくるのを感じた。でもめぐるがフォローしてくれたので、何とか気を取り直して話を続けられそうだ。


「あのね…こないだの宿泊研修で飯盒炊爨したじゃない。吉田君サボってたけど杉浦さんが注意したらやめたから…」

「あ〜、そんなんじゃないよ多分」

「えっ!?」


 バッサリと萌が否定し、菫は戸惑う。一体どういうことなのだろうか?


「ゆか姉の言うことは誰でも聞くよ。逆らったら…」

「退学になるかもね」

「え゙え゙っ!?」



 めぐると彩矢音のその発言に、菫は驚きを隠せない。まさかただの一生徒にそんな権限があるのだろうか!?と。


「去年、うちの学年で退学した子が何人かいたの。その子らが皆優香子ちゃんと問題があって」


「私は直接聞いたけど、1人は部活で和を乱してた子、もう1人はゆかちゃんにしつこくアプローチしてた男子、あとはクラスでトラブルになった子」


「で、ゆか姉のお父さんはうちの高校にうんと寄付金出してるらしいよ〜」


 栞里、千穂、萌が遠回しに話した後で、彩矢音がハッキリと告げた。


「要するに、ゆか姉がお父さんに頼んで追放したんじゃないかって噂。だからゆか姉に逆らったら学校辞めさせられるって思ってる子もいるみたい」

「…………」


 恋バナをしようとしたはずが、まさかこんなきな臭い話になってしまうなんて……。菫は当然ショックを受ける。編入生で昨年度の北水島高の事情を知らなかったとはいえ。


「……まぁでも全部向こうに非があるしゆか姉悪くないよな?」

「私も辞めさせられて当然だと思うよ」

「トラブルあった子はゆかちゃんに依存してた挙句お金盗んでたんだもん」


 めぐる、栞里、千穂が優香子を擁護したほか、彩矢音と萌も同意見のようで頷いた。


(ヤバい……変な空気にしちゃった。どうしよう……)


 一方、ただただ何も言えずにいる菫をよそに、千穂が話題を変えてこの重々しい空気を打ち消した。


「まぁそうだとしても吉田君にゆかちゃんは勿体無いよ〜」

「ほんとそれw」

「あのサボり魔じゃね〜」


 彩矢音と萌が言う通り、真面目で成績優秀な優香子とやる気なしのサボり魔である和馬では確かに合わないだろう。

 と、ここで栞里が別の話題を持ってきたため、和馬と優香子の話は自動的に終了する。


「好きな人といえばさぁ……おにぎり君って花恋ちゃんのこと好きだよね〜?」

「あ〜!」

「アレはバレバレだよな!」

(ありがとう阪口さん、根本さん……)


 また別のクラスメイトの恋バナに周りが一気に盛り上がり、菫は心の中で千穂と栞里にお礼を言った。それはそうと、「おにぎり君」こと中島(なかじま)雅哉(まさや)は「れんれん」こと伊藤(いとう)花恋(かれん)に恋をしており、バレバレな程態度に出ているようだ。


「おにぎり君今日もれんれんに矢印向けてたもんね〜」

「席ちょうど隣だし始業式の日めっちゃ喜んでたよ」

「今日は学食でおにぎり君達の横、れんれんとかリリいたじゃん。すっごいウハウハだったよ」


 めぐるがそう言ったので、菫は今日の学食での様子を再び思い出した。

 確かに、雅哉達の運動部員グループが盛り上がっている横で、莉麻や花恋がいる可愛い女子グループが昼ごはんを食べていた。そのため雅哉は終始ニヤけていたうえ、時々花恋にだけ話題を振ったりもしていた。   

 ただ、肝心の花恋の反応は……


「でも花恋ちゃんは全然その気じゃないよね」


 千穂が言った通り、彼女は興味なさそうに適当に相槌を打つか、右から左へ受け流しているように見えた。あれほど雅哉の方から話しかけているのに、目を合わせないばかりか顔すら向けずに。やはりそれも菫以外のメンバーにはバレバレのようで皆笑っている。


「いっつも塩対応じゃんね〜」

「おにぎり君可哀想なぐらいだよ〜」

「れんれんは面食いだからなー。イケメンがタイプって言ってるし」


 更に思い出してみると……確かぶりっ子口調の花恋は自己紹介で、男性アイドルが好きで彼らのライブによく行くと言っていた。

 それに対し、雅哉は五分刈り坊主で糸のような細い目にニキビ面、おまけに体重は少なくとも80……いや90キロぐらいありそうな巨漢だ。彼には申し訳ないけれど、花恋が好きそうな見た目とはとても言い難い。野球部エースで将来有望と言われているらしいが、花恋にとってはどうでもいいのだろう。


「まぁイケメンならうちのクラスにもいるんだけど〜」

「まぁいるけどね」


 普通ならイケメンの話題になれば皆嬉々たる表情になるはずなのだが……そうでもない。全員浮かない顔で、めぐるに至ってはため息までついている。



 まぁ2-3のイケメンにときめかない理由なんぞ、菫でももちろんわかっている。

 

「いるけどさぁ……全員ロクな奴じゃない!」


 皆の総意を吐き出した後、萌が握り拳でテーブルをドンと叩いた。めぐるが同意し彩矢音も文句を言う。


「そ・れ・な!」

「ターちんは推しが弱くて二股三股は当たり前だし…」

(福谷君、今日目の前で女の子が大喧嘩してたわね。どちらも貴大は私のものよ!って。当の福谷君は「2人とも好きだよ」なーんて言ってたけど)


 菫が今日の貴大の言動を思い出す中、萌と栞里も2人に続いてぶうたれる。


「カネリュウは自分の話と自慢話ばっかだし!アイツ絶対ナルシストだよね」

(金村君は今日……というよりいつも鏡見て髪の毛いじってるわよね。確かにそういう男は自分が一番好きね)


「吉田君はサボり魔だしノート貸してってしょっちゅう頼んでくるもんね〜」

(私も昨日言われたわ。結局貸したけどめめちゃんが怒ってくれたっけ…)

「ハッキリ言って残念なイケメンばかりよね!」


 千穂がそう言うと、菫を含む5人はうんうんと数回大きく頷いた。しかし、その直後にめぐるが思い出したかのように言う。


「イケメンならもう1人いるよ、ナバちゃん」

「あ、そっか!」

「まぁナバちゃんも言い方がきっついからな〜」

「正論なんだけどね」

「あの3人よりは遥かにマシだけど」

(まぁ生田目君はいつも激辛だもんね……好物もそうだけど)


 そう考えると凜が激辛料理好きと言うのも何ら意外な話ではないし、むしろ頷ける程だ。菫は他の皆にバレないように口を隠してクスリと笑った。






 たくさん話をしているうちに時間がどんどん過ぎ去り、気が付けば17時過ぎになっていた。これ以上遅くなると電車が混むので、惜しまれつつも女子会はここでお開きとなった。唯一の自転車通学である彩矢音を除く5人は駅まで歩いて向かっている。


(いや〜、楽しかったわね。恋バナとか裏話とかって聞いてて楽しいわ。やっぱり皆青春してるのね〜)


 千穂と栞里、萌とめぐるがそれぞれお喋りしながら歩いている後ろで、菫はそう思いながら彼女達に着いていく。


(またこういうのあったらぜひ行きたいなぁ。めめちゃんとか次も誘ってくれるかし…)

「すー様〜」


 色々と考えている途中で、すぐ前にいためぐるが不意にくるっと振り向いた。いきなりだったので菫は少しだけびっくりしてしまう。


「楽しかった〜?」

「うん。色んな話聞けて面白かったわ」

「それはそうとすー様、今日お昼1人だったよな?」

「え?」


 めぐるの言った通り、菫は今日も食堂で1人で食べていた。昼休みが始まって暫くの間もノートを取っていたせいで出遅れ、食堂に来た頃にはって皆で盛り上がっおり、今更入りづらかったのだ。


「寂しいじゃ〜ん。うちらのとこ来てくれたらいいのに。きよみーもすー様寂しくないの?って言ってたよ」

「本当?じゃあ明日から来ていい?」

「もち!」

「ありがと、めめちゃん」


 また次も女子会に誘って貰えるのか、菫は少しだけ不安に思っていた。それどころかお昼ご飯のメンバーにまで誘ってもらい、菫はつい足取りが軽くなるのであった。


(屋上じゃないし学食だけど、一緒にお昼食べるって……青春よね!)

 

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