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25ページ目 菫さんとNの悲劇 中編


「……り」


「…………」


「……ほり」


「…………」


「……おい!堀!!」


 意識がほぼ飛んでいる中で、何回も名前を呼ばれたような気がした。そんな知輝がうっすら目を開けると……見覚えのある人物が目の前にいる。


「……ええっ!?なんでお前がここに……




……ザワ!!」


 まさかこんなところで出会うなんて知輝にとっては全くの予想外だ。細目を開けていたはずが、知輝はついパッと目を大きく見開く。

 あのボリュームの多い天然パーマに無精髭……不思議そうな顔で目の前に立っているのは、傘を持った私服姿の幸輔だ。


「……雨降ってんのになんでこんなとこで寝そべってんだよ?」


 幸輔にそう訊かれたところで、知輝はハッと我に帰った。雨でずぶ濡れになっていることにも今更気付き、流石に寒さを感じてぶるっと震える。

 ただそれよりも……。


「あれっ!?俺の……俺の高畑きょう子はっ!?」

「はぁ!?……あ、それじゃね?」


 いきなり叫ばれ幸輔は困惑するも、階段の途中にずぶ濡れになった紙袋が落ちていることに気付き、指を差す。すると知輝はダッシュしてそこへ向かい、今にも破れそうな紙袋を拾い上げ、大事そうに抱きしめる。


「よかったぁ〜。どこにも売ってねぇんだから手に入れるのに苦労したんだぞ」

「……お前なんつーもん買ってんだよ」

「……あ!!あのカッパの奴め……俺を突き落としやがって」

「……マジかよ!?」


 幸輔は耳を疑った。普段クラスメイトやクラスでの出来事にあまり関わらない彼でも、最近立て続けに色々起こっていることはもちろん知っている。尤も、こんな大雨の中で知輝が水たまりの上に横たわっている状況の時点で何かがおかしいとは思い、流石に見過ごす訳にはいかずに声を掛けたのだが。


「最近色々ありすぎじゃね?まさかお前まで狙われるなんてな。大丈夫か?」


 もう既に濡れ鼠と化してはいるものの、幸輔は知輝を傘の中に入れる。「サンキュー……」と礼を言いながらも、知輝はふと気になった。


「そういうお前は何でここにいんだよ?俺と一緒でブックオン行ってたのか?」

「……まぁちょっと出掛けてたんだよ」

「てかザワ…………お前タバコ臭くね?」

「いや気のせいだろ」



 今度は知輝が狙われたせいで……翌朝の3組が地獄のような雰囲気になったのは言うまでもない。貴大は「怖い怖い……」と呟きながら頭を抱え、龍星は「今度は俺の顔に傷をつけられるかも……」と相変わらず鏡を見ながら震えている。花恋に至っては「なんなのもぉ〜!?こわぁ〜い!」と莉麻に抱きついている。

 

 一方、「被害者全員イニシャルN説」がこれで外れた直は再び犯人探しを試みているのか、ずーっと何か考え込んでいるようだ。そんな空気でも寛斗は落ち着いた様子で、知輝に昨日のことを冷静に聞き出している。


「じゃあホリトモを突き落としたのはそのカッパの人ってことだよな?」

「ぜってーそうだろ!俺が歩道橋渡ってた時アイツしかいなかったぜ?雨で滑ったんじゃなくて押されたんだからな」

「その人ってなんか特徴とかある?カッパ着てた以外で」

「……黒いマスクしてたな」

「他は?」

「……俺より少しチビだった。それぐらいしかわかんねぇよ。カッパも深く被ってやがって顔見えなかったし」

「そっか……」


 ただ一つ、知輝よりも身長が低い人物であることだけは判明したものの……それ以外の情報がなく、男か女かも予測できず全くわからない。知輝に聞けば犯人について少しでも手掛かりが掴めるかと望みをかけたが期待外れに終わり、寛斗はがっかりする。


 ちょうどその時、つばさが教室に入ってきた。彼女の所属する女子陸上部は毎日朝練があるらしく、つばさがいつも教室に着くのは遅い方だ。

 ただいつもと違って……顔色が悪い。一昨日の昼休みの、教室に帰ってきた日向と真二並みに。


「つ、つーさん?大丈夫!?顔色悪いよ」


 見かねためぐるが訊くと、つばさは俯いたまま口を開く。


「……今日朝練あったんだけど、その時石井が足を怪我したんだよ」

「えっ、4組の石井(いしい)さん!?」


 めぐるは驚いたが、菫は他のクラスの生徒のことはほとんど知らず、イマイチピンとこない。菫はどさくさに紛れて遥にこっそり聞く。どうやらつばさと同じ陸上部で4組の石井(いしい)優菜(ゆうな)という生徒のことらしく、彼女は短距離エースなのだとか。


「何?石井ちゃんコケたの?」


 沙希が訊くと、つばさは首を横に振る。その反応から正直嫌な予感を感じ、菫は思わず身震いする。


(……ただコケただけでこんな青くなるかしら?まさか……)




「……違う。当たったんだよ……たぶんエアガンが」




 菫が案じていた通り見事に的中してしまい……3組の空気は一気に凍りついた。



 つばさによると、今日も陸上部の女子達は朝7時から練習に勤しんでいた。

 優菜達短距離の選手が走る番で、スタートを切ろうとした瞬間だった。優菜は突然倒れ、足首のあたりを押さえて苦しみ出した。つばさ達が駆け寄って彼女の足首を見ると……小さな丸型の打撲痕があり、近くにはBB弾が落ちていたという。


「じゃあ誰かが石井さんを狙って撃った訳だよな……誰か怪しい奴いなかった?グラウンドの近くに」


 寛斗が訊くと、つばさは何かを思い出したのかハッとする。


「……私は見てないんだけど、後輩が怪しい奴見たって言ってた。黒いパーカー着ててフードを深く被ってて、黒いマスクしてて……エアガン持ってるかまでは見えなかったけど、走ってどっかに逃げたっぽい」

「!!」


 その特徴を聞いて真っ先に反応したのは、知輝だった。


「本当か!?それじゃ……俺を突き落とした奴とほぼ同じ格好じゃねーか!」

「えっ?堀もなんかあったの?」

「昨日似たような奴に歩道橋の上から突き落とされたんだよ!」

「本当!?」


 まさか知輝までが似たような人物に狙われたとは知らず、つばさは唖然とする。それと同時に、めぐるも慄きながら口を開いた。


「もしかして……もしかしてさぁ……全部同一犯じゃね?」


 教室中がしんと静まり返る。恐らくその可能性は否めない。少なくとも知輝と優菜の件の犯人は同一人物で間違いないだろう。他は犯人の姿を誰も見ていないものの、いずれもタイムラグがある。美月と凜の件は同日で、美月が薬を奪われた場所にもよるが、少なくとも15分は時間差があるので実行不可能という訳でもなさそうだ。

 と、ここで同じく陸上部の成一が口を挟んでくる。


「なぁ……女子以外はどこの部活も朝練やってなかったんだよな?俺ら男子は今日はなかったし…」


 他の運動部員達は首を横に振ったり朝練はなかったと口々に言っている。そんな中で、真二は成一を睨みつける。


「まさかまっちょん……この中に犯人がいるとか思ってんじゃねーよな!?」

「そっ!そんな訳ねーだろ!俺は他のクラスとか他の学年に犯人がいるかもって……」


 成一は冷や汗をかきながら勢いよく首を横に振った。少しピリついた雰囲気になりそうだったので、直は少しでも場を和ませようとする。


「まぁまぁ。推理小説じゃないんですから。このクラスの中にそんなことする人はいないって僕も信じてますよ。ねぇ、きよみー君」

「ああ。そもそも犯人がウチの学校の関係者なのかすらわかんないしな。

 まぁでも他のクラスでも色々あって先生達も動いてくれてるみたいだし、すぐに捕まるだろ。

 とりあえず皆暫く気をつけた方がいいよ。あんまり1人で出歩かないほうがいいと思う。特に夜は。チャリ通の人は乗る前にチャリに何もないか確認してさ。少しでも自分の身を守れるように…」


 寛斗がクラスメイト一同に呼びかけると、皆「わかった」「そうするしかないね……」などと言って頷いた。犯人の目星がつかずいつ誰が狙われるかわからない状況であるので、できることは自分で自分の身を守ることぐらいしかない。

 菫ももちろん同意し、今日は授業が終わったら寄り道せずにさっさと帰ろうと心に決めた。


「………………」


 その一方で……未夢は自分の席に座ったまま、険しい顔をして俯いている。



 それでも否応なしに夜が明け、誰もが不安を感じる朝はまたやってきた。

 菫はこの日、いつもより20分ほど早く最寄駅に到着している。夕べはあまりよく眠れなかったうえ、朝もいつも以上に早く目覚めてしまったからだ。

 それでも眠気を感じないどころかむしろ目が冴えている。学校に着くまでに何かが起こらないか心配だからだ。なので電車の中でも一切寝ていない。


(あーあ……これじゃ授業中に眠くなるかもしれないわね。できるだけ10分休憩の時に寝ないと……ん?)


 菫の10メートルほど前に、同じスカートとスクールバッグの女子高生がいる。後ろ姿だが、菫はそれが誰なのかすぐにわかった。

 テニスのラケットバッグを一緒に持ち、白いシャツに真っ白なベスト、ダークブラウン色の外ハネに巻いたセミロングヘア。恐らく大きなヘアピンをつけているであろうその女子は……未夢だ。


(畔柳さんも早起きしちゃったのかしら?……でも大丈夫なの?電話なんかしながら)


 前を歩く未夢はスマホを耳に当て、誰かと電話しながら歩いている。何かあった時に電話の相手にすぐに助けを求めるためだろうか?それはそれで注意力散漫になってしまいそうな気が……と菫は思う。

 とりあえず菫はこのまま未夢の後に続けて歩く。


「でね〜、また今度リリ達と遊びに行くことになってさぁ。誘ってもらえて嬉しいけど……またご飯代奢らされるかも」


(………………)


 一体誰と何の話をしているのだろうか。少なくとも未夢が普段一緒にいる莉麻グループの誰かではないことだけは確かだ。聞いてはいけない話を聞いてしまい、菫は一気にバツが悪くなる。


「まぁでもちょっとぐらいは……せっかく憧れのリリ達のグループに入れてもらえたんだから。皆から嫌われたら私、また隠キャに戻っちゃうし」


(………畔柳さんごめん。聞いちゃった……)


 まさか後ろに菫がいることなど知る由もなく、未夢はベラベラと喋り続けている。菫は今すぐここから逃げたい気持ちになるも、何とか着いていく。そうしているうちに、未夢は10階建てほどのビルのすぐ隣を歩いている。そのビルには外側に非常階段がある。


(ん?)


 菫は気が付いた。非常階段の8階あたりに人が1人いることを。その人物は、黒い上着のフードを目深に被り黒いマスクをつけている。手に年季の入ったパソコンのモニターのようなものを持って。


(……え!?確か堀君突き落としたのって……まさか…………!)


 そう、知輝を突き落とし、優菜をエアガンで撃った犯人とされる人物とほぼ同じ格好だ。再び嫌な予感がした菫は一旦電柱の陰に隠れ、未夢を目で追いながらその人物を小刻みにチラチラ見て警戒する。気付かれたり逆に怪しまれないように細心の注意を払いながら。

 

 すると……その人物はモニターを持ったまま、両腕を階段の手摺りの外に突き出した。そのちょうど真下を今未夢が通過するところだ。


(!!!ヤバっ!!)


 危ない!

 直感でそう判断した菫は迷わず一目散に走り出した。体育祭の借り物競走の時よりも全力でかっ飛ばし、前を歩く未夢に追いつくように。


 その瞬間、黒い上着の人物はモニターを両手から離す。


「じゃ、そろそろ切るねー。バイバー…」

「危ない!!」

「え?…………キャー!!」




 未夢が電話を切った直後、立ち止まり振り向いたところで、菫はありったけの力を込め彼女に体当たりした。2人の体は思いっきりぶつかり、その弾みで菫も未夢も派手に転ぶ。


「ちょっ……何なの…」


 いきなり衝突してきた菫を睨みながら、未夢が文句を吐き出したまさにその時――




ガシャーン!!




 大きな音を立て、パソコンのモニターが地面に叩きつけられた。そこはちょうど先程まで未夢が歩いていたところだ。モニターは見るも無惨に粉砕され、その破片が四方へと飛び散る。


 それを見た未夢は、その場にぺたんと座り込んだまま……茫然自失している。菫はぶつかった衝撃で肘と膝を地面に打ちつけてしまい一瞬だけ痛がるも、すぐに立ち上がって未夢の元に駆け寄る。


「大丈夫!?畔柳さん」


 ぱっと見のところ怪我はないようだが、未夢は黙ったまま。悲鳴とモニターが落ちた衝撃音を聞きつけたのか、他の通行人達も一斉に駆けつける。


「どうしたー?」

「うわっ!?何コレ?」

「パソコンじゃない!?」


 通行人達がモニターの残骸を見て驚愕する一方で……未夢は座り込んだままガタガタと震え出した。それだけでなく、目には大粒の涙を浮かべている。念のため菫はあのビルの非常階段をもう一度見て確認したが、もう誰もいない。


「怖かったわよね、もう大丈夫よ。誰もいな…」

「うわぁあああーーーん!!」


 未夢を安心させるべく、菫は再び声を掛けたが……落ち着くどころか未夢は両手で顔を押さえ、人目も憚らず声を上げてわんわん泣き出した。驚いた菫はかける言葉が見つからず、ただ呆然と見つめることしかできない。

 そして未夢は泣きじゃくって声を詰まらせながら、うわ言のように呟いた。




「ッ……、これは……呪いよ。ぅうっ……山川(やまかわ)先生の……呪いなのよッ……!」




「の……呪い……!?」


 そんなオカルト的なものを未夢が信じるとも思えず、菫は目を白黒させる。その反面、その「山川先生」の名前を菫はどこかで聞いたような気もしたのだった。



「……山川先生の呪いぃ!?」


 朝のHRが終わった後の3組の教室に、めぐるの声が響く。これに対し、菫はハッキリと首を縦に振る。


「ええ、畔柳さんそう言ってたわ」


 結局未夢は学校に行ける状態ではなく、そのまま家に帰ることになり休むこととなった。なので代わりに菫が事の顛末を皆に説明している。もちろん、最後に「山川先生の呪い」と口走っていたことも。


「や、山川先生って……去年の1年5組の担任の?」


 早速寛斗がそう訊くが、菫はイマイチピンと来ない。確かにどこかで聞いたような名前ではあるのだが……


「ちょっ、きよみー!すー様2年からだし知らんって」

「あっ、ごめん」


 めぐるに指摘され、寛斗は菫に謝った。


「いやいいんだけど……山川先生ってなんか聞いたことあるような気がするのよね……」

「たぶん寛斗の言う通りだろ」


 菫がその名前に聞き覚えがあると話すと、凜はいつものように無表情で淡々と返す。そのおかげで、菫はつい先程のことをふと思い出す。


(そういえば、生田目君さっきちょっと反応してたわよね。私が「山川先生の呪い」って言った時)


 今こそ普段と変わらないものの、その瞬間だけ凜は少しだけ目を大きく開いたような気がしたが、菫は気のせいだと思っていた。

 

 しかし……「呪い」と言われてもほとんどの生徒はやはりピンと来ないようで、真二に至ってはゲラゲラ笑っている。


「の、呪いって!別にアイツ死んだ訳じゃねーだろ!糞ビッチだったってだけで!」


 まさかの「糞ビッチ」発言に唖然とする菫だったが、それとは裏腹に他のクラスメイト達は失笑していたり、「確かに」と呟いたり頷いたりしている。


「ど……どういうこと?その山川先生って何かやらかしたの?」


 まだ編入していない1年前のことなのでさっぱりわからない菫に、山川についての説明を買って出てくれたのは寛斗だ。


「山川先生は……別の先生と不倫してたのをうちの新聞にすっぱ抜かれたんだよ」

「あらまぁ」

「しかも相手も妻子持ちの先生だし」

「ダブル不倫ってことね……」

「すー様、コレだよコレ」

「……あっ!前見せてもらったやつじゃない!」


 萌にスマホの画面を見せてもらったところ、菫の記憶が蘇った。それは山川先生と思われる女性と相手の西先生と思われる男性がラブホに入っている写真がデカデカと載った、公ヶ谷タイムズの画像である。

 これは確か菫が新聞委員になった時に、この委員会の大変さを思い知らされた一枚である。


「だから私、山川先生って名前だけは聞いたことあるって思ってたのよ。あの時の先生だったの!

……だからクソビッチって訳ね」

「そうだよ!」

「不倫なんかするんだもんな〜」

「先生なのにね〜」

「マジキモいんだけと」


 納得した菫がそう言うと、他のクラスメイトも一斉に山川を非難する。今もなおこんな空気になるのだから、発覚当時のバッシングは凄まじいものだったことは想像に難くない。


「で、その山川先生と相手の先生はどうなったの?」

「山川先生はあの新聞以降学校に来なくなったけど、噂によるとクビになったらしいよ。相手の西(にし)先生は別の高校に飛ばされたって」

「その時の俺らの担任も変わったしな〜」

「……あっ!!」


 ダブル不倫した2人の末路を寛斗と真二が話したところで、またも何か閃いたのか直が大声を出す。


「ぼ、僕今度こそ……狙われた人の共通点わかったような気がするんです!」


 高らかにそう宣言したが……当初の「被害者全員イニシャルN説」がすぐに外れたせいで、ほとんどの生徒が疑いの目を直に向けている。


「……またしょーもないやつじゃないの?ばったん」


 めぐるが呆れ顔で訊くと、直は今回はよっぽど自信があるのか、思い切り首を横に振る。


「いえ今度こそ決定的なのを見つけちゃったんですよ!今まで狙われた人って…………去年5組でしたよね?山川先生が担任の」


「「!!!!」」


 一部のクラスメイトがハッとした。そういえば……と菫もまた別のことを思い出していた。


(そういえば……確かあの宿泊研修のトランプの時、奈良間君1年の時5組だって言ってたわね!で、北山君も同じ5組で2人は1年の時から仲良くて。

 それで清宮君と池田君が1年の時に同じクラスで、元々清宮君と北山君が同じ中学で仲良しだから4人で仲良くなったのよね……?)


「それ本当?じゃあ前5組だった人、手を挙げてもらえる?」


 確認のため優香子が呼びかけると、該当する生徒が一斉に挙手をする。挙手をしているのは5人。真二、恭平、凜、知輝、羽衣であった。


「あとみーこも元5組じゃないかな?最初に話した時5組だって言ってたから」

「で、5組の西村さんはみーこと同じクラスだったんだよね?」

「あ!そういえば石井も元5組だ!」


 莉麻、英玲奈、つばさが言うに、どうやら被害に遭った女子3人も元5組らしい。

 そして未だに無傷の恭平、羽衣は一気に血相を変える。羽衣に至ってはガクガク震えている。


「……次呪われるの俺か伏見ってことか?」

「……や、やめて……」

「……っ!ヤバすぎるだろこの呪い!見事に元5組の奴ばっか狙われて……こんなことあんのかよ!?」


 この2人はもちろん、ここにきて真二も青ざめた顔で怯え出した。

 ここで……菫が一石を投じる。




「それって本当に「呪い」かしら?」




 暫くの間、3組の教室はしーんと静まり返った。青い顔でひたすら黙っている者もいれば、信じられないとでも言いたげな表情の者、意味がわからずにポカーンとする者とで皆の表情は様々だ。そんな空気の中、莉麻が沈黙を破る。


「宮西さん、それってさ……全部山川先生が怪しいってこと?」


 菫は莉麻の方に体を向けると、大きく頷いた、



 その日の休憩時間、菫はトイレに行っていた。手を洗って廊下に出てすぐ……


「!!」


 ある人物とバチっと目が合い、菫は心臓が止まりそうになり一瞬固まった。腕を組んですぐ近くの白い壁にもたれかかっている、白いシャツに濃紺と白のストライプ柄のネクタイ姿の彼は……凜だ。こんなこと前にもあったような……と思いながらもとりあえず会釈して声をかける。


「な……生田目君……お疲れ様……」


そうのまま立ち去ろうとした菫だったが……


「……宮西」


 まさか呼び止められるとは思わず、菫はビクンとすると同時に反射的に振り向く。


「……今ちょっといいか?」 




(一体何なのよ……まさか…………いやいやそれだけは絶対ないでしょ!)


 そう思いながら、凜に言われるがまま菫は屋上にやってきた。今日も雲一つない晴天で、初夏の眩しい日差しが降り注いでいる。

 凜は眩しげに手をかざした後、手摺の方へと歩きながら振り向きもせずに話を切り出す。


「なかなかの名推理じゃねーか」

「?……あ、朝のこと?」

「うん。流石伊達に俺らよりも長生きしてねぇなって」

「……それが言いたかったの?」

「まぁな」

「ビックリしちゃったじゃない。……てっきり一緒にタバコでも吸いに行くのかと……」


 菫が着いていきながらそう言うと、凜は思わず吹き出した。そして手摺に寄りかかるなり、凜は振り向いて菫を軽く睨みつける。


「……俺は高いとこが好きなんだよ。タバコの匂いするか?」

「じょ、冗談よ!だって屋上で授業サボったりタバコ吸うのって青春あるあるじゃない?」

「……微妙にズレてんだよアンタの青春は。流石大人だぜ」

「…………」


 返す言葉がない菫に、凜は外の景色を眺めながら話を続ける。


「……実は俺も全く同じこと考えてた」

「!」

「むしろなんで呪いになるんだよって…な」


 そう言ってから、凜は薄ら笑いを浮かべて俯く。菫が山川が怪しいと言った時、凜は何も言わなかったので驚いたが……よくよく考えてみると何となく腑に落ちてくる。

 色々なこと思い出した菫は凜に距離を少し詰め、彼にしか話せないことを話す。


「あの先生達が撮られたラブホ……よく見たら見覚えあるのよ」

「……だろうな」

「確か私が働いてたキャバクラの近くにあったはず」

「だよな」

「……生田目君ってその辺に住んでるのよね?」

「ああ」

「それと……生田目君も1年の時5組で、しかも……新聞委員だったのよね?」

「………………」


 凜は俯いて暫く黙った後……再び振り向いた。その顔はいつになく神妙で、よく見るとうっすら冷や汗が滲んでいる。


(生田目君もそんな顔するのね。やっぱり……)


 先程とは打って変わって菫の目を真っ直ぐ見ながら、凜は重々しく口を開いた。




「……たぶん俺のせいだろ。皆が酷い目にあってんの」



 すっかり薄暗くなった夜18時頃――


 公ヶ谷高校から少し離れたパワーレコードというCDショップから、1人の制服姿の男子生徒が店を後にする。その彼は肩につきそうな長さの金髪にピアスをいくつかつけ、水色の半袖シャツを着ている。背負っているリュックのポケットにはドラムスティックのケースが刺さっている。


 その生徒は店を出てから、スマホを眺めながら暫く歩く。パワーレコードがある大通りを暫く歩いた後で、少し狭い一本道に入る。そこは街灯がちょくちょくあるといった程度の明るさであるうえ、その生徒以外に誰も歩いていない。


すると……


(ん……?誰かつけてる……?)


 彼の数十メートル後に、誰かが歩いている。その人物は……黒いパーカーのフードを目深に被り、黒マスクをつけている。右手にはコンビニの袋を持って。

 男子生徒は今までと変わらないスピードで歩いているが、黒パーカーの人物は少しずつ歩く速度を上げ、徐々に生徒との距離を縮めていく。


 そして2人の距離が2メートルほどに迫った時だった。黒パーカーの人物はコンビニ袋を持った右手を高く上げ……前を歩く生徒の頭を目掛けて思い切り振り下ろす。




「……!?」




 ビュンッと風切り音が鳴ったと同時に、コンビニ袋は空を切った。前を歩く男子生徒が間一髪で避けたからである。黒パーカーの人物はまさかの空振りに終わりショックを受けたのか、その場に呆然と立ち尽くしている。

 その隙を狙い……


「!!!」


 今まで近くの物陰に隠れていた凜がサッと駆け寄り、すぐに黒パーカーの人物を羽交い締めにする。そのついでに「凶器」のコンビニ袋も奪う。その袋は持ってみるとズシッと重く、凜が中身をパッと見るとそこには大量の砂利が入っていた。


「……こんな凶器まで作りやがって。どんだけ俺らに恨みがあるんだよ」


 ジタバタする黒パーカーの人物を両腕でしっかりと押さえつけながら、凜は呆れ顔で呟いた。

 またこのタイミングで、襲われそうになった男子生徒がその人物の目の前で正体を現す。


「……恭平だって思いましたよね?」

「!!?」


 金髪のかつらを外し、中から出てきたのは……センター分けにした茶髪だ。もちろんその顔も黒パーカーの人物が思っていたのと違うらしく、かなりたまげた様子で固まっている。


 そう、寛斗が恭平に変装していたのだ。

 寛斗と恭平の身長差は2センチほど、運動部である寛斗の方が体格は良いものの、恭平もドラムを叩くおかげで両腕には筋肉がしっかりついている。

 また部活のおかげで寛斗の方が日焼けしているものの、いかんせん夜なのであまりよくわからない。


 恭平のトレードマークである金髪はかつらをかぶり、ピアスに見えるイヤリングやイヤーカフを着け、少しでも恭平に見えるように似せていた。今背負っている、ドラムスティックのケースが刺さったリュックも恭平から借りたものだ。

 そのせいで特に後ろ姿は本物とほぼ変わらず、こうして騙せていたのである。


「さぁ、もう逃げられませんよ」


 完全に変装を解いた寛斗は、今度は自分から黒パーカーの人物に距離を詰める。マスクのゴムを右手で掴んで耳から外し、左手では深く被っているパーカーの裾を握りしめ、バッと上に上げる。


 これで……恭平もとい寛斗を襲おうとした人物の素顔が、遂に白日に晒される。


「……やっぱりアンタか」


 顔を見た瞬間、凜は全く驚かずため息をついてからそう言った。


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