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20ページ目 菫さんと彼の出生の秘密 中編


「おばさんなんかじゃないわよ!私……あなたのお母さんなんだから!!」




 女性がそう叫んだっきり、周囲は水を打ったようにシーンと静まり返った。もちろん、菫やめぐる達も状況が全く読み込めない。ましてや当の悠太は両手を握られたまま固まってしまっている。馴染みのない女性が突然自分の名前を呼んで馴れ馴れしくする挙句、いきなり自分の母親を名乗ってきたのだから。


 一方、その女性はというと涙をポロポロこぼしながら「元気そうでよかった」などと一方的に話しかけている。女性以外誰も二の句が告げないでいた中、その沈黙を破ったのは寛斗だ。


「あ、あのー……それ本当ですか?だぁ坊…いや悠太君のお母さんって…」

「ええ、本当よ。私が悠太を産んだんだから」

「えっ!?ちょっ……ちょっと……」


 女性がキッパリ即答するも、悠太はかなり狼狽している。寛斗はそんな2人の表情を交互に見て……疑わしい目を女性の方に向けた。


「……本当に本当ですか?悠太君あなたのこと全然知らなさそうなんですけど」

「ほ、本当よっ!」

「じゃあ何か証拠はあるんですか?池田君のお母さんだって」

「証拠はあるわよ!」


 菫も距離を詰めて寛斗に加勢する。すると女性はバッグから1枚の写真を取り出し、菫達に見せた。そこに写っているのは幼い子供を抱っこしている若い女性。確かに写真の女性は彼女に面影があって泣きぼくろの位置も同じだし、抱っこされている子供に至っては悠太にそっくりだ。

 しかし……それとは裏腹に、菫達はまだ訝しげな顔を見せている。


「確かにそっくりだけど……ただ抱っこしてるだけの写真じゃなぁ……この子がだぁ坊っていう証拠もないし」

「そうよねぇ。池田君、この写真見覚えある?」

「いや、ないよ」

「おっ、覚えてないだけでしょ!」


 寛斗は写真を見ながら難しい顔をし、菫も確認したところ悠太はハッキリ否定する。焦り出す女性に、菫はガツンとこう言った。


「ていうか別にお母さんじゃなくても抱っこはしますよね?あなた……私達には勝手に生徒の母を名乗ってるおかしい人にしか見えませんけど!」

「何ですって!!」


 一言お見舞いされ、女性は流石にカッとなったようで思わず悠太から手を離して声を荒げる。

 が、その一言がかなり効いたのか、これを皮切りに寛斗と菫以外の面々も横槍を入れ始める。


「そうだよ!本当にだぁ坊のお母さんなの?!」

「全然似てなくね?身長以外」

「なんか詐欺とかじゃねーの」

「てかなんでわざわざ学校まで来てんの?ストーカー?」


 口々に好き勝手言ってくるめぐる、恭平、真二、沙希に、女性はワナワナと震え出す。恭平の言った通り身長だけは似ているものの、悠太のような童顔ではなく年相応の女性といった雰囲気だ。


「……いい加減にしてちょうだい!!!」


 女性は色々言われて堪忍袋の緒が切れたのか激昂した。ガンを飛ばす目はかなり血走っている。


「何が詐欺よ!ストーカーよ!ずっと……ずっと悠太のことを捜してたんだから!あのね悠太、今すぐお母さんと一緒に来なさい!あなたに会いたがっている人がいてて、しかもその人余命宣告されてもう時間がないの!」


 菫達はもとより、周りの生徒までが怯むも勢いのまま捲し立て……。



「お願い!一目でもいいから会ってちょうだい、


悠太の本当の……」




「ウチの生徒に何か用ですか?」


 女性が言いかけたところで、野太く威厳のある声が足音と共に響く。これまで熱く言い立てていた彼女は顔を上げるなり、ビクッとして一気に凍りつく。

 

 口を挟んできたのは、オールバックの髪とスーツ姿にサングラスと、一見その筋の人のような見た目の50代ぐらいの男性だ。圧を感じて震え上がる女性に構わず、男性は尚も威圧感を与えながら続ける。


「困りますよぉ、勝手に校舎に入られちゃあ。ウチの高校は生徒以外が入るには事前に許可を取って貰わないと〜。たとえ生徒の親御さんや身内であってもねぇ。それにさっきから何をこんなに大きな声で怒鳴ってるんです?他の生徒の迷惑になるんでいい加減…」


「キャーー!」


 あまりの威圧感に耐えられなくなったのか、女性は悲鳴を上げてその場から走って校舎から逃げ出した。悠太を連れていくと言ったのに1人で。


 その様子を見て、その筋の人っぽい男性は「はははははっ!」と勝ち誇ったかのように高らかに笑い声を上げた。サングラスを外すと、つぶらな目が露わになり圧が少しだけマシになる。


「やっぱりサングラスの効果は絶大だなぁ!尻尾巻いて逃げちゃった」


 未だに笑いながら、サングラスの効果に舌を巻く男性に、真二がぼそっと呟く。


「何やってんだよ校長……」

「あ、校門近くに変な女がいるって通報があってなぁ。ちょっと見に来たんだよ。そんなことより……大丈夫かね?池田君」


 どうやら女性が悠太に絡みだす前から怪しむ生徒もいたらしく、早いうちから動いていたらしい。見事に彼女を撃退した校長の大沢(おおさわ)正孝(まさたか)は、心配そうに悠太に声を掛ける。


「だ、大丈夫です……」

「あの女性、君のお母さんだって言ってたけど…」

「いや、あの人が勝手に言ってただけです。僕、「本当のお母さん」の顔も名前も知らないし…」


 悠太が経緯を話すと、大沢は少し考え込んでから再び口を開いた。


「そうか……必ずしも君の実のお母様とは限らないし、もしかしたら何か頭のおかしい人かもしれないね。例えば君にそっくりな息子さんがいるとか。なあに、もう心配はいらんよ。逃げていったし、今あったことは担任と副担任に話しておくからね。もしまた何かあったらいつでも先生や君のご両親に言いなさい」


 いつものように少々長い話にはなったものの、自分の身を案じてくれている大沢に、悠太は「ありがとうございます」と礼を言った。ただ副担任の栗山ならともかく、頼りにならない担任の杉谷に言ったとて……と菫達も思ったが。



 結局寄り道はやめ、悠太はまっすぐ家に帰ることにした。また例の女性が付き纏ってくるかもしれないから家にいた方がいいと、寛斗達に言われたから。


 まだ継母の麻里は仕事から帰っておらず、悠太は自分の部屋に入るなりイヤホンをつける。それからスマホでWeTubeを開き、適当に動画を観て気を紛らわすことにした。


 それでも……実母だと名乗る女性の言ったことが頭から離れない。


(本当にあの人が僕のお母さん……?蒸発してたけど帰ってきたってこと?)


 悠太には実母の記憶がない。父の亮によると、実母は離婚後蒸発しており、10数年は行方をくらませていると思われる。

 その間、亮は母親業もこなしてくれたうえ、どうしても手が足りない時は祖父母が面倒を見てくれていた。その後亮と結婚した麻里も幸いとてもよくしてくれているため、実の母親を恋しく思わずに済んでいた。むしろ麻里が母になってくれてよかったとすら思っているほど。


(そうだったのに……なんで今更?あ、でもなんか僕に会いたがってる人がいるって言ってたっけ……。しかも余命とか言ってたよな?……どういうこと?)


 思い出せば思い出すほど、ますます訳がわからなくなる。そもそも彼女が本当に実母であることすら怪しい。菫や校長の言った通り、気のおかしい人の可能性もなきにしもあらず……。やはりハッキリさせるためには父に聞くしかないのだろうかと、悠太は思っていると……


「……ちゃん、悠ちゃん!帰ってるの?」


 ふと気がつくと、ドアを叩く音と自分を呼ぶ麻里の声が耳に入ってきた。いつの間にか17時になっており、悠太が部屋に籠っている間に、麻里は家に帰っていた。悠太は慌ててイヤホンを外して返事をする。


「ごめん!ずっとイヤホンしてたー」



 その日の夜、亮は18時過ぎに家に帰ってきた。亮を出迎えるなり、麻里は驚く。


「あなた……大丈夫?どこか具合悪いの?凄く顔色悪いじゃない」


 麻里の言う通り、真っ青な顔で俯いている亮は鞄を床に置くや否や、玄関に座り込んでため息をつく。


「……悠太は?」

「まだ自分の部屋にいるわよ」

「そうか……」


 悠太の居場所を確認してから、亮は頭を抱えながら顔色が悪い理由を打ち明ける。


「実は…………愛香(あいか)の奴が勝手に悠太に会いに来てたらしいんだよ」

「……え!嘘でしょ!?」

「本当だよ……今日悠太の副担任の先生から電話があったんだ。悠太のお母さんを名乗る女が学校まで来たらしくて……」


 その日の夕方、亮は栗山からの電話を受けていた。事の顛末を聞いた亮は恐る恐るその女性の特徴を聞いたところ……ゾッとした。小柄で泣きぼくろがあると聞き……その愛香の顔が頭に浮かんだからだ。


「まぁ……あの人と完全に一致してるじゃない」

「しかも「会わせたい人がいる」って悠太に言ったらしいんだよ……」

「確か、前に電話があった時もそんなこと言ってたわよね」

「全くもう……勝手なことしてくれやがって!!」


 亮は更に深く俯き、両手を硬く握りしめ声を荒げ嘆いた。麻里は慌てて唇に人差し指を当ててしーっと囁く。


「そんなに大きな声出したら悠ちゃんに聞こえちゃうわよ……そろそろちゃんと言った方がいいんじゃないの?」

「…………」

「……もし今日のことがなかったとしても、何らかのタイミングで知ってしまうかもしれないし、いつかは話さないと……ねぇ?」

「……そうだな。言うよ、晩ごはん食べてから……」


 亮は不本意ながらも渋々首を縦に振った。



 こうしてその日も普段通り池田家の夕食の時間は始まった。悠太がご飯を3杯おかわりするのもいつもと変わらない。ただ……亮がここまで早く帰ってくることは滅多にないし、3人とも妙に口数が少なく、心なしか重い空気が漂っているように見えなくもない。


「……お父さん、今日はだいぶ早いね」

「あ、ああ……今日はノー残業デーだからなぁ」

「ノー残業デー?そんなのあるんだ〜……いつも帰るの遅いのに」

「あ……今日はたまたま仕事が早く終わったから」


 悠太に何を聞かれても、歯切れが悪くなってしまう。おかずがどんどん少なくなる悠太の皿を、亮は固唾を飲んで見守っている。これが全部なくなればいよいよ言うのか……と。

 そして悠太が遂に夕食をすべて平らげ、「ごちそうさまでした」と言った直後に、亮は話を切り出す。


「あっ……あの……、悠太」

「ん?」

「その……話したいことがあって……」


 そう言うと、悠太の表情がすぐに変わった。恐らく何かを察したようで、おずおずと口を開く。


「もしかして……僕の「実のお母さん」のこと?」


 逆に悠太の方から訊かれ、亮はもとより食器をシンクに漬けていた麻里もハッとする。


「そ、そうだけど……」

「今日学校で会ったんだよ、僕のお母さんだって言う人と。僕と同じく背が低くて、泣きぼくろがある人!結構綺麗な人だったかな〜…………あの人、本当に僕の「実のお母さん」なの?」

「…………」


 黙り込む亮に、いつの間にか麻里が隣に座り「あなた、」と発破をかける。亮は大きく頷くと、一呼吸置いてから口を開く。




「……あぁ、本当だよ。あの人……金久保愛香って言うんだけど、彼女が悠太を産んだんだ」


まずはそれだけ伝えると、悠太は表情を変えないままひとまず頷いた。


「……そう。本当にあの人なんだ……びっくりしたよ。突然学校まで来ちゃうんだから。確かお父さんと離婚した後蒸発したって言ってたよね?」

「……そうだったな。実は今日栗山先生から連絡があって、お父さんも知ってたんだよ。それに、あの人……愛香は俺にも時々連絡してきたんだよ。悠太に会わせろ会わせろって」


 以前にも愛香が亮に連絡していたことを初めて聞いた悠太はだったが、妙に納得する。


「だからわざわざ学校まで来てたんだ。でもなんで僕の学校まで知ってたんだろう」

「さぁな……恐らく探偵にでも依頼してたんじゃないか」

「で、あの人……僕に会わせたい人がいるって言ってたんだけど……どういうこと?」


 それを訊かれると、亮はギクリと体を震わせた。麻里も更に心配そうな顔になる。

 今まで長年ずっと話せずにいたが……もうここでちゃんと話さざるを得ない。より一層神妙な顔で、亮は悠太の目をじっと見る。


「そのことなんだけど……大事な話があるんだ」

「大事な話?」

「悠太…………くれぐれも落ち着いて聞いてくれ」

「わ、わかった……」


 悠太は何を言い出すのかとドキドキしている。麻里が黙って見守る中、亮は一旦深呼吸をしてから悠太にこう告げた。




「実は……、悠太は…………」





 翌日の朝、いつものようにチャイムが鳴ると同時に杉谷が教室に入り、出席を取り始める。ほぼ全ての生徒が席についているものの、空席もチラホラある。


「淺間ー」

「はい」


 出席番号1番の聡太郎が静かに返事をする。名簿順がその次の悠太を呼ぶところで……


「池田……は今日は欠席だな。さっき親御さんから体調不良で休むって連絡があったから」


 「えっ」「休み?」などと教室がざわめく。何せ悠太は昨日まで無遅刻・無欠席だったうえ、昨日の時点では元気そうで体調が悪そうには見えなかったからだ。母親を名乗る女が突然現れるという思いがけない出来事はあったものの。


「ねぇすー様、なんか聞いてる?」

「いや〜、何も知らないわ。めめちゃんこそ知らなかったの?」

「ぜーんぜん!」


 すぐ後ろの席のめぐるに訊かれたが、菫は首を横に振った。どうやらめぐるも悠太が学校を休むことを聞いていないようである。ましてや寛斗達男子ですら唖然としており、何も聞いていない模様。


「はいみんな静かに!池田だって人間なんだから普通に風邪ぐらいひくだろう。じゃあ次は……五十幡!」

「はい」

「伊藤」

「はぁ〜い」

「いまが…」


 どんどん進んで萌を呼ぼうとした時……教室の後方の戸がガラッと勢いよく開いた。噂をすれば影の如く、萌が息を弾ませながら教室に入ってくる。


「おう今川!ギリギリセーフだな!ちょうど今出席を取るところだったぞ」


 杉谷がそう言うと同時に教室内にどっと笑いが巻き起こった。公ヶ谷高の遅刻のボーダーラインは各クラス担任によって違い、3組は自分が呼ばれる時までに教室に到着できたらセーフだ。


「ハァ、ハァ……杉ちゃんサンキュー!」


 萌は息を整えながら自分の席へ向かい、杉谷に礼を行ってVサインを作った。



 昼休み、寛斗は学校の中庭のベンチに座っている。別のベンチやテーブルにも誰かしらいて、昼食を食べていたり談笑してはいるものの、流石に食堂ほど騒がしくはない。

 それをいいことに、寛斗はLIMEの画面を開いて受話器のマークを押す。暫くの間呼び出し音が鳴ったものの、相手は電話に出てくれた。


「……もしもし」

「あっ……だぁ坊?」


 出てくれたものの……その声は普段とかけ離れ、憂いのある弱々しい声になっている。寛斗が一瞬電話をかけ間違えたのかと思ってしまった程に。


「うん……僕だよ」

「よかった…出てくれて。…かなり体調悪いのか?」


 とりあえず間違い電話じゃなくてホッとすると同時に、この声だと相当気分が優れないのかと寛斗は思った。しかし……


「…………別に熱があるとかどこかが痛いってわけじゃないんだけど」

「え?」

「……ちょっと学校どころじゃなくって」

「……………一体何があったんだよ?」


 訳がわからず、寛斗はどういうことなのか訊く。


「昨日のあの女の人……本当に僕と血が繋がってるお母さんだったんだ。それに…………実は僕…………」




 しかし……悠太はそこで、いきなり突拍子もない話を寛斗に打ち明けた。




「…………………………ぇええ!?」




 寛斗は思わず声が裏返っただけでなく、咄嗟に口を手で覆った。周りにいた生徒数人も驚いて見てくるので、寛斗は苦笑いしてしまう。


「……ちょっ、ちょっと……そんな大事な話……」

「ご、ごめん……いきなり……」

「いやいいけど……びっくりした。あ、そうだ。今日お家行っていい?ノート持ってくるし、詳しいことはそのついでに……」

「ありがとう。あとちょっと相談したいこともあって……」


 電話口の奥で悠太はおずおずと相談事を持ちかけてくる。もちろん、話を聞くつもりだし親友の力になりたい気持ちも当然あるものの……自分1人だけでは正直荷が重い。うまくアドバイスできるのかイマイチ自信がない……と寛斗は思う。




「いいけど……もう1人来てもらっても大丈夫?俺1人じゃちょっと力不足かなって思って……」





 この日の夕方、菫はとある駅にいる。学校が終わってから約束の時間まではだいぶ空いていたので、近くのドラッグストアや図書館に寄って時間を潰していた。その後 再び改札口近くまで戻り、ある人物を待っている。


 暫く待っていると次の電車のアナウンスが聞こえ、程なくして電車の走行音がけたたましく響く。更にその後、大勢の乗客が一斉に改札口へと向かい、一気に人波でごった返す。


(この中にいるかしら……)


 そう思いながら、菫は視線をあちこち動かして確認する。似たような髪型の人が沢山いるせいで中々見つけられない中、涼しげな水色の半袖シャツにいつものネクタイ姿の彼がこちらへと向かってくる。


「すー様ごめん!だいぶ待ったよな?」

「大丈夫よ。思ってたより早かったじゃない」

「そう?」

「うん。それに図書館とかで時間潰せたから。この辺は私の家の最寄り駅より色々あるからね〜」


 申し訳なさそうにしている寛斗だったが、菫は全く気にしていない。むしろ図書館で懐かしい絵本を見つけたので十分有意義な時間であったのだ。




 なぜ菫と寛斗がこの駅で会っているのかと言うと、これから悠太の家に行くからである。実は悠太と電話した後すぐ、寛斗は菫にLIMEを送っていた。今日の放課後、ノートを貸すついでに悠太から相談事があるので一緒に聞いて欲しいと。菫は特に他に予定もなかったので快諾した。

 ただ寛斗は部活のミーティングがあったため、帰宅部の菫は先に最寄り駅まで向かい、そこで時間を潰していた。


 15分ほど歩いた先に、「IKEDA」と表札のある家を見つけ、早速寛斗がインターホンを押す。悠太本人ではなく女性の声が聞こえ、悠太の友達だと寛斗が話すと、彼女はすぐに出迎えてくれた。


「悠ちゃんのためにありがとうね〜」

「いえいえ、ちょっと心配だったんで……」

「池田君、滅多に学校休まないですし」

「あの子は学校好きだからね〜。私も今日は心配で仕事休んだのよ」


 継母だという麻里は後ろで一つに纏めたロングヘアに眼鏡と大人しそうな雰囲気だが、気さくな性格で初対面の2人に笑顔で応対してくれた。麻里に案内されるまま2階に上がると、「ゆうた」と書いた木製のプレートが下がったドアがある。


「悠ちゃん、お友達よ」


 そう言って麻里がノックすると、この部屋の主がすぐに出てきた。




 昨日も会ったはずなのに……昨日と違って悠太は妙にげっそりしていて、顔色もだいぶ悪い。菫は開口一番ひどい風邪でもひいたのかと聞くが、悠太は首を横に振る。

 寛斗曰く「あんなこと聞いた後なら無理もない」とのこと。どうやら菫よりも一足先に何か知っているようだ。


 麻里が出してくれたお茶とお菓子を乗せたローテーブルを、部屋着姿の悠太と制服姿の菫と寛斗が囲んでいる。


「……本当に私来てよかったかしら?」


 何が何やらわかっていない菫はついそう訊いてしまう。が、悠太も寛斗も首を横に振る。


「いやいや!むしろ来てくれて心強いよ。なぁ、だぁ坊」

「うん……すー様なら大丈夫だもんね。言いふらしたりとか……」

「まぁ確かにしないけど」


 男子2人の言う通り、菫はおしゃべりではないし、27年間生きてきて他人のプライベートな話をまた別の人に暴露したことももちろんない。なんだかんだで少なくともこの2人からは信頼されているのかと、菫は思ってしまう。

 それはさておき、本題の相談事とは何なのか……と思いながら、菫は悠太が話を切り出すまで待っている。


「で……その……何から話したらいいかな……」


 頭を掻きながらまず何から話すのか悩む悠太に、寛斗がアシストする。


「すー様まだなんにも知らないし……」

「あ、そっか……。……昨日、変な女の人いたじゃん。僕のお母さんだって言って」

「うん」


 遂に話を切り出した悠太に、菫は静かに耳を傾ける。


「あの人…………本当に僕の「実のお母さん」らしいんだ」

「あら……そうだったのね!じゃああの人が産みの親ってこと?」

「そうそう。僕が小さい頃に離婚したって……まぁそれはいいんだけど……」


 あの時は怪しいと思ったものの……実の母であることは本当のようだ。驚く菫に、悠太はまだまだ話すことがあるようで、俯いて再び頭を掻きむしりながら続ける。


「その話をお父さんにしたら……もっと重大な話が……」

「重大な話……?」


 菫がそう聞き返すと、悠太は一旦黙り込む。その様子を寛斗が心配そうに見守る中、悠太は数回深呼吸をする。こうして昨日の父と同じように心の準備が出来てから、悠太はか細く震える声で打ち明ける。




「ぼ、僕……、お父さんとも…………血が繋がってないって……」




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