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18ページ目 菫さんの因縁の体育祭 後編


 一悶着あったものの、その後は各競技滞りなく進み、休憩前時点での2年生の点数は次の通りだ。


1組 182点

2組 147点

3組 172点

4組 169点

5組 125点


 綱引きの大健闘のおかげで一時は3組がトップに躍り出たものの……その次の障害物競走で水を開けられ再び1組が返り咲く羽目に。この結果にもちろん丈一郎は高笑いしていた。


 だからといって3組一同はあまり気にしておらず士気が下がることも決してない。もちろん体育祭はまだ終わっていない。しかもムカデ競走や竹取物語、リレーと高得点の狙える競技が午後に集中しているので、まだまだ巻き返しが図れる。それに少しばかり逆転されたからって激怒するような人物は3組にはいないのだから。


 午後1発目の競技は運動部対抗リレーの後は再びクラス対抗戦へと戻り、2年の玉入れの番となる。玉入れの出場者は位置について両手に玉を持つや否や、皆真剣な顔で籠を見つめている。

 そして応援席からはやはりメガホンやうちわを叩く音と共に溢れんばかりの声援が送られ、菫も負けじと大きな声で声援を送っている。


(あぁ宮西さんが応援してくれてる……これはいいところを見せないといけませんね。とにかくいっぱい投げて、せめて2個や3個ぐらいは入れましょう!)


 出場者の1人である直も普段と違って戦う顔を見せている。どうやら直がここまで燃えているのは菫のおかげでもある。

 

 そして戦いの火蓋が切られたと同時に、大量の玉が一斉に空に舞い上がった。だがいかんせん菫同様に運動音痴かつノーコンな者がほとんどなので……その大半が籠に入らず真っ逆様に落ちていく。


(くっ!あともうちょい右ですね……まだまだぁ!)


 悔しそうに歯を食い縛りながら、直は落ちた玉を拾っては再び籠目掛けて投げる。応援してくれている菫の声に耳を傾けながら。他の出場者達も同様に拾っては投げてを出来る限り何度も繰り返す。


 その中でただ1人一際コントロールのよい者がおり……


(……あっ!また入りましたね、よっしー君の)


 直が見た通り、和馬の投げた玉が籠の中へすっぽりと入る。それも何度も。その後も和馬は他の出場者が入れ損ねた玉をせっせと拾い、右腕を振って籠の中へ次々と投げ入れていく。応援席の面々も和馬がポンポン入れているのに気付いているのか、「よっしーすげー!」などと感嘆する声まで聞こえてくる。


(流石よっしー君!僕達も負けていられませんね!)


 もちろん、直をはじめ他のメンバーも負けじと拾っては投げている。

 あっという間に銃声が再び鳴って時間切れとなった。数分間の勝負の結果、3組の籠に入った玉の数は……38個であった。2年生のトップは2組の42個であり、惜しくも2位である。


「あ゛〜〜〜!もうちょっとで1位だったのに!」

「惜しかったね〜」

「でも1組には勝てたじゃないか」


 悔しがる慶吾と千穂の横で、佳之が満足そうに呟く。1組は3組よりも少ない35個で、もちろん出場者達はガックリ項垂れているし、やはり丈一郎は応援席から鬼の形相で彼らを眺めている。


「……1組の皆大丈夫かな?」

「また怒られそうだね」

「ライオン寺こわぁ〜い、皆かわいそぉ〜」

「1組に勝てたのはいいんだけど、こっちまで空気が悪くなるのはね〜」


 羽衣、来美、花恋も丈一郎以外の1組の生徒達に同情し、栞里はため息をついて愚痴る。

 

 また3組の籠に入った玉の大半が和馬が投げたもので、応援席では未だに彼を褒め称える声が絶えない。もちろん菫もその貢献ぶりと普段のサボり具合との落差に驚き、大いに感心している。


(見直しちゃったわ〜。まさか吉田君がこんなに玉いっぱい入れるなんて。ここまで活躍できるってことは……玉入れが本当に好きなのかしら)


 そして直も和馬をベタ褒めしようとしたが……


「よっしー君しこたま入ってたじゃないですか〜。僕らと違ってコントロールも凄いですし」

「まぁ沢山投げたから何個か入るだろ」

「さっすが元やきゅ……!!」


 そこまで言ったところで、なぜか和馬はギロリと鋭い形相で直を睨みつける。つい先程まで鼻高々な表情であったのに。

 思わず直が怯えて口籠ると和馬はこれ幸いと言わんばかりに距離を置き、そのまま退場門へと向かってしまった。



 この次に3組が出場したのは竹取物語で、こちらも女子が頑張ったものの……初戦で1組に負けてしまった。悔しがる3組女子の面々に、先程までの重い雰囲気はどこへやら、1組女子達が突っかかってくる。


「3組よっわ〜」

「案外楽勝だったね〜」


 これに対し、彩矢音と未夢はクスクス笑いながらチクリと言い返す。


「アンタら皆腕っぷし強いもんね〜」

「というよりデブじゃん。ライオン寺もだけど」


 当然1組女子達は怒り出し、またしても一触即発ムードになったが、1組は直後に決勝戦を控えていたのですぐに収まった。そして決勝戦でも1組が善戦してトップになり、100点をゲットしたのであった。


 その一方で……菫はまたもや緊張でガチガチになっている。この竹取物語が終わった後、2つの競技を挟んでいよいよムカデ競走だからだ。転んだらどうしよう……と菫に心配が付き纏う。借り物競走前と同じく震え出す菫に、まためぐるが活を入れに来る。


「すー様ぁ、また緊張してんの?さっき大丈夫って言ったじゃ〜ん」

「あ、アレは借り物競走の時だし……」

「ムカデもだよ!すー様毎日練習頑張ってたじゃん。私すー様ほど来れてないし」

「でもめめちゃんは部活が…」

「だからすー様の方が経験積んでるんだって。いつも通りにやればいいんだよ!」


 歯を見せてニッコリ笑うめぐるに、菫もつられて口角が上がる。私皆と違ってアラサーだしどうなるか……と思ったものの、きっと大丈夫だろうと自分に言い聞かせる。両手をグッと握る菫に、めぐるはニヤリと笑みを浮かべながら話を続ける。


「こっちにはすー様が考えてくれた作戦があるじゃんよ〜」

「考えたって…ちょっと調べただけよ」

「あ、それに…」

「え?」


 菫が聞き返したところ、めぐるは周りをキョロキョロ見回してから耳打ちする。


「……1組ほとんど練習してないらしいよ〜。ムカデなんか練習してナンボだってのに」

「……そういえばそんなこと言ってたわね」


 言われてみると菫もある記憶が甦ってくる。丈一郎が自分のクラスは優秀で実力があるから練習など必要ないと豪語していたのを。

 確かに1組は3組以上に運動部員が多いと聞いているが、まさかこのムカデ競走も練習していないというのだろうか。自分達もここ10日ほど練習を積んだが、体育祭前日でも転んだというのに。


「てかあのライオン寺なんで体育祭でこんなに偉そうにしてるんだろ。アイツ合唱部員なのに」


 竹取物語で1位になり、クラスメイトの前で大喜びしている丈一郎を冷めた目で見ながら、めぐるは呟いた。



 そして、遂にムカデ競走の時間はやってきた。スタート地点に、メンバーこそ同じ5人だが今までと違う並び方で縦に並ぶ。それから何回もやってきた通り5人の両足首を紐で結ぶ。


「私が声出すからそれに合わせてね!」

「「「うん!!」」」


 最後尾に回っためぐるが早速ムカデ隊全員に言い聞かせ、皆首を縦に振る。先頭のオリビアも声を掛ける。


「いづも通りゆっくり行ぐべ!」

「おっけー!」


 菫の位置は萌乃と来美の間でちょうど真ん中である。ある日、菫がふとムカデ競走について調べていると、並び方にもコツがあるというのを見つけた。最後尾は声が大きくよく通る人にし、後ろから声掛けをする方が前まで響いて良いとあった。また運動が苦手な人は真ん中に配置する方が良いとも。


 3日前にそれを踏まえて作戦会議した結果……身長順で並んでいたのを、オリビア、萌、菫、来美、めぐるという順番にした。また声掛け担当もオリビアからめぐるに変えている。また先頭以外は前の人の腰を掴むようにしている。その方が重心が低くなり安定感があるのだとか。


 こうして全クラスが準備を終え、いよいよ教師がスターターピストルを掲げる。もちろん、次に走るムカデ隊も準備万端なうえ、菫が調べた通りの順番と手の位置になっている。


(もうこうなったら……いつも通りやるだけね。さぁ行こう!)


 菫が腹を括ったと同時に、銃声がパァンと大きく鳴り響いた。どの組も掛け声でリズムを合わせながらゆっくりと歩み出す。


「「「エッホ、エッホ、エッホ、エッホ、」」」


 めぐるが考案した流行りの掛け声の下、3組も幸先の良いスタートを切った。息をピッタリ合わせ、順調かつ確実に一歩一歩進んでいる。


(やっぱりこっちの方がいいわね。前にも後ろにも誰かいてくれた方が合わせやすいし)


 歩きやすさを実感しながら進んでいると、横から「あ゛っ!!」と誰かの叫ぶ声が聞こえてきた。どうやら他のクラスは早くも苦戦しているようだ。リズムが合わずに足がもつれる者や、イマイチついて行けずに焦る者。そして練習しなかったという1組に至っては……


「きゃあ!!」


 よりによって最後尾の者が転んでしまい、その弾みて前にいた者も次々とバランスを崩して転倒。その結果、先頭まで全員転んでしまった。これは体勢を立て直すには時間がかかりそうだ。もちろん応援席にいる丈一郎はその場で絶句する。


(あららコケちゃったか……そりゃ練習していないとそうなるわよね。その分私達は……)


 今まで朝早くと放課後に練習した時のことを思い出しながら、菫は皆に合わせて歩を進める。


(このクラスの皆は……優しい。散々転んで迷惑を掛けたけど……私が何回転ぼうが責めずに温かく見守ってくれた。ただただ出来の悪さを責めるだけの過去のクラスメイトとは違う。……畔柳さんは例外だけど。

そんな皆がライオン寺君に見下されてるなんてムカつくし、絶対勝ってギャフンと言わせたいわね。本当に噛ませ犬にしてやるんだから!)


「「「エッホ、エッホ、エッホ、エッホ、」」」


 そんなことを菫が考えているうちに、自然と速度が徐々に上がり……気が付けば3組がトップに躍り出ている。沙希率いる第二走者のムカデ隊まであともう少し。


(よし!このまま行けば1着ね!エッホ、エッホ、と……)


 遂に次のムカデ隊のスタートラインへと辿り着き、それぞれ先頭のオリビアと沙希がハイタッチをする。同時に沙希達のムカデ隊はスタートを切った。あとは彼女達に託して見守るのみ。菫達は止まって足首に繋がれていた紐を解き、すぐに応援する側に回る。


「皆ファイトー!」

「ゆっくりねー!」

「行け行けーー!」


 うるさいぐらいのエールが贈られる中、沙希達のムカデ隊もゆっくりと前に進む。こちらは最後尾が未夢で、声掛けも彼女の担当である。今のところ3組が先頭で独走状態なうえ、アンカーは全員男子だ。この勝負はもらった!と3組の誰もが確信した。




はずだったのだが……




「きゃあっ!!」

 



 半分ほど進んだところだった。ある生徒の悲鳴が響く。と同時に他の面々とのリズムに乗れなかったのか、足並みが乱れて前に寄りかかるように思いっきり転んでしまう。その彼女とは……未夢だ。


「えっ!?」

「あっ!?」

「マジで!?」 

(え……畔柳さん、やってしまったわね)


 当然、3組一同が愕然とする。菫のように練習でよく転んでいた者ならまだしも、これまでほぼ転ばなかった未夢だから尚更。前の莉麻も危うくバランスを崩し掛けたが、何とか持ち堪えて1組のように連鎖せずに済む。当の未夢はというと、強打したのか顔を歪めて相当痛そうに膝小僧をさすりながら慌てて立ち上がる。


「大丈夫!?」

「みーこ落ち着いて!」

「慌てちゃダメだぞ、ゆっくりな」


 遥、英玲奈、沙希が未夢を気遣ってゆっくり体勢を整えるよう言う。未夢はその通りにするが……どんどん他のクラスのムカデ隊が追い上げ、徐々に3組に迫っていく。中でも4組はコツを掴んだのかスピードを上げ、いつの間にかすぐ後ろにいる。と思いきや、あっという間に3組を抜かしてしまった。


「えっ……うそ〜!!」


 ショックを受けためぐるが思わず叫ぶ。菫だって同じ気持ちだ。こんなに呆気なく抜かされるなんて。ただ抜かされたのが1組でなかったのが不幸中の幸いだが。なおその1組は体勢を立て直すのに時間がかかり、まだ第二走者にハイタッチすらできていない有様だ。


 こうして途中でアクシデントがあったものの……ムカデ隊は何とか再起して立ち上がり、再び歩き始めた。これには3組一同はもとより、他学年の応援席からも拍手が湧き起こった。


「まだまだぁ!」

「負けるなー!」

「あともうちょいだぞー!」


 応援に応え沙希達のムカデ隊は諦めずに前進し、ようやくアンカーのムカデ隊とバトンタッチする。少し前に自軍を追い抜かした4組は既にアンカーに代わり、もうコースの真ん中あたりにいる。次を託された貴大達も、4組に負けじとゴールに向かって突き進んだ。



「やったーーー!!」

「イェーイ!!」

「勝ったーーー!!」


 先にゴールテープを切り、アンカー以外の出場者も駆け寄り皆で喜び合ったのは……4組の方だった。もちろん3組も最後まで諦めずに頑張ったものの……時すでに遅し。あと一歩及ばす4組に逃げ切られた。ゴールに辿り着いたのは4組のほんの数秒後。

 

 それでも3組の応援席は4組に負けず劣らず盛り上がり、拍手の音が暫く止まなかった。言うまでもなく菫達も拍手したり「お疲れー!」「よくやった!」などと声を掛けて出迎えた。

 しかしながら暫くすると、やはりと言うべきか……


「あ〜、途中まで最高だったのに」

「あっさり抜かれちゃいましたね〜」

「誰かさんのせいで4組に負けちゃったじゃねーか」


 貴大、直、龍星が愚痴り出す。龍星はああ言ったものの、キッと睨むその先にいるのは……未夢。そう言われるのは覚悟していたのか、彼女は真っ青な顔で震えながら俯いている。


(あーあ……そりゃ言われるわよね……)


 この状況を見て、菫は少しだけ胸が痛む。自分も過去の運動会や体育祭で嫌という程こんなことを浴びせられたから。


(でも……正直いい気味だって思っちゃうのよね〜)


 しかし、言われているのはこれまでの練習で菫を散々罵倒してきた未夢だ。いくら誰よりも年上であったって菫も完璧な人間ではなく、こうした黒い感情がどうしても芽生えてしまう。


「ちょっ、やめなって」

「まぁいいじゃん1組には勝ったんだし〜」


 莉麻と英玲奈が止めるも、恭平と悠太に至っては本人にバッサリと言ってしまう。


「ったく……なんでよりによって本番でコケるんだよ畔柳ぃ」

「あんだけすー様にコケんな言っといてな〜」


 悠太が菫の名前を出したのにつけ込んで……菫も口を開いた。


「…これで畔柳さんもわかったかしら?コケて責められる人の気持ちが」


 これぐらい言わなきゃ気が済まないと思いながら言い放った瞬間……菫は呆気に取られた。


「……っ、……うっ……」

「……!?(嘘でしょ!?)」


 未夢が肩を震わせ泣き出したからだった。すぐさま女子達が彼女の元に駆け寄り、莉麻と英玲奈が慰めている。一方、沙希とめぐるは早速泣かせた者を叱責する。


「ちょっと何やってんだよ!」

「みーこ泣いちゃったじゃん!」


 怒りの矛先は……菫ではなく男子達。沙希とめぐるに睨みつけられた彼らはやはりギョッとする。


「お、俺そんな酷いこと言ったっけな〜」

「ぼ、僕も…」

「だって畔柳のせいで負けたのは事実じゃね?」


 貴大と直が冷や汗を垂らしながら知らんぷりを決め込み、龍星は言い訳する。そして悠太と恭平に至っては……


「そーそー……僕ら本当のこと言っただけで……」

「てかすー様がああ言ったから…」

「へぇ??」


 まさか恭平に責任転嫁されるとは思わず、菫は唖然とする。よくも私も売りやがったわね……と思ったのも束の間、余計にめぐるは黙っておらず、恭平達は更なる逆鱗に触れることになる。


「すー様のせいにするんじゃねーの!!だいたい元はと言うとアンタ達が余計なこと言うんだから!」


 反論の余地も許さず叱り飛ばすめぐると、彼女に怯える男子達に、相変わらず泣き続けている未夢。こんな状況に菫が呆然と立ち尽くしていると、「まぁまぁまぁ!」とオリビアが空気を変える。


「そった泣いだり怒るんでねぇ!まだリレーが残ってるだ!1着になったら200点貰えるんだべ?」


 全員がハッとした。確かにムカデ競争で終わりではなく、最後に選抜リレーが残っている。それもオリビアの言う通り、リレーの1着の点数は一番高い。

 現時点では1組が345点、2組が289点、3組が292点、4組が307点、5組が245点。となると、まだまだわからない。

 ちなみに2着は100点なので、もし仮に3組が1着を飾れた場合、2着が1組だったとしても3組が逆転優勝となる。それに気付いたムカデ競争の出場者達は納得し、感情を露わにするのをやめた。未夢もやっと泣き止む。


「……あとはうちらリレー組が頑張るしかねぇな。まぁ任せろよ」


 この後のリレーにも出場する沙希が高らかに言うと、他のメンバーは拍手したり「いいぞいいぞー」と鼓舞している。そんな中で、菫は未夢の新たな一面がどうしても頭から離れない。


(それにしてもあの娘……案外打たれ弱いのね。普段あんなに強気なのに)



 全ての決着がつく選抜リレーの火蓋が、いよいよ切って落とされる。まず第一走者がレーンの位置に着く。3組の第一走者には筋肉自慢の成一が選ばれた。

 他のクラスのトップバッター達もやはり運動部員が軒並み揃っている。中でも1組は200メートル走で見事1着になったサッカー部員を初っ端から起用している。


(1組も本気で勝ちに行ってるわね……まぁ当然よね。あ〜、ドキドキする)


 絶対に1着になって欲しい!そう強く願うあまり、応援する側の菫まで緊張してきている。過去の運動会や体育祭ではこんな思いをすることはなかったのに。それだけこのクラスへの思い入れが強いということなのだろうか。


 メガホンをより強くギュッと握り、菫は走者達へと熱い視線を送る。菫の心臓が早鐘を打っているところで銃声が鳴り、第一走者達が一斉に走り出した。


 2年生達の声援が響き渡る中で、トップバッターの面々はどんどん加速してトラックを駆け抜けて行く。 

 成一は今3着目を走っている。その前にいるのは例の1組のサッカー部員と、4組のバレー部員。それでも彼らとの差は僅かだ


「いっけー!」

「まっちょーん!」


 真二と悠太が叫び、恭平が応援旗を振るすぐ前を成一は瞬く間に通過し、水色のバトンが第二走者の彩矢音に渡される。彩矢音は受け取るや否や駆け抜けるも……いつの間にか2組にも抜かれたうえ1組に至っては差が結構開いている。

 しかし彩矢音以外は5組を除いて全員男子なので、ある程度は仕方ないし、そもそもまだ始まったばかりだ。

 こうして次のバトンは日向に渡される。


「うみんちゅ行けーーー!」

「おっ!抜いたーーー!」

「この調子で4組も抜いたれーーー!」


 皆の期待に応え、日向は激走を跳ばしてあっという間に2組を抜き去る。その結果4組とほぼ同時に第四走者にバトンタッチする。バトンを渡されたのは沙希で、4組の走者も女子だったのが幸いしてすぐに4組も抜き、僅差ではあるものの2位に躍り出た。


「頑張れ頑張れ3組!」

「さっきーーー!」

「飛ばせ飛ばせ飛ばせーー!」


 士気が上がって応援にもどんどん力が入り、ほぼ全員叫ぶように掛け声を掛け続けている。皆の声とメガホンやうちわを叩く音、ポンポンを振る音のおかげで、3組の応援席が一番騒がしい。もちろん、菫も皆に混じってメガホンをバンバン叩き、大声でエールを送っている。


「すー様も熱狂してんじゃ〜ん」

「え?」


 隣にいるめぐるに不意に話しかけられ、菫は思わず手が止まる。気が付くとそこまで大きな声で応援していたらしい。


「いやすー様がこんな大きい声出してんの初めて見たからさ〜」

「…言われてみればそうかもね。てゆーかこんなに応援したのも人生初かも」

「マジ!?」

「今までの体育祭なんかやる気0だったしねー」

「え〜、やる気なかったの?」

「だって運動苦手だもん」


 クスクス笑いながら、菫自身もそれを認める。確かに、これまで27年間生きていてこんなに熱狂することなどあっただろうか……。今までライブに行ったこともなければ、そもそも推しもいない菫にとっては全く未知の経験である。


(熱狂……か。……でもこうして熱狂して応援しているのも楽しいものね)


 菫が密かにニヤリと笑い、そう実感している最中にもバトンは順調に渡され、沙希からオリビアへ渡った後、次のレーンには凜がいる。


「あ!次ナバちゃんじゃん!」


「キャーーー!」

「生田目せんぱ〜い!」

「生田目君頑張って〜!」


 めぐるが言ったと同時に、他学年の応援席からも女子の黄色い声が上がってくる。そのせいで3組を含む一部の男子達が複雑な表情を見せたのは言うまでもない。凜自身の人気による女子達の声援もあってか、1組との距離はグッと縮まっていく。

 しかもこの時の1組の走者は丈一郎だ。凜がスピードを上げて迫ってきているのを感じ、丈一郎は歯を食いしばりながら懸命に走る。圧倒的に凜を応援している生徒が多いことにイライラしながら。


(なんで3組以外の奴までアイツを応援してんだよ!?  

くそぉ……女にチヤホヤされてるだけの奴に負けてたまるかぁ!!)


 その思いが原動力になり丈一郎も負けじと飛ばし続け、凜に抜かされずに次の走者へとバトンを繋ぐ。少し遅れて凜も寛斗にバトンタッチする。

 いよいよこの次にはアンカーに引き継がれる正念場だ。それを託された寛斗は風のように走り抜け、少しでも早くバトンを渡すべく1組を懸命に追いかける。


「頑張れ頑張れきよみーーーー!」

「いっけーーいけいけーー!」

「1組追い抜かせーーー!」

「優勝!優勝!」


 3組のボルテージが最高潮になる中、寛斗は更に1組にどんどん迫り、その差は僅か十数センチほど。今にも追い抜きそうな勢いではあるものの、1組だって負けてはいない。

 抜けそうで抜けないデッドヒートを繰り広げたまま、すでにレーンに待機しているアンカーへ間もなくバトンが送られる。きっとこの調子で接戦のまま、アンカー同士の真剣勝負になる……とその場にいる全員がそう思っていた。




が……




「あ゛っ!!」

「うわっ!!」




 前を走っていた1組が……飛ばしすぎたのか第七走者がアンカーに思いっきり激突した。両者とも派手に転んでしまったうえ、バトンも落としてしまう。当然1組は一同唖然呆然……応援席では悲鳴が轟き丈一郎も愕然とする。

 

 その間に寛斗からつばさへとバトンが難なく繋がり、つばさは颯爽と駆け抜けていく。一方、1組のアンカーは痛そうに顔を歪めながらもすぐに立ち上がってバトンを拾い、何事もなかったかのようにスタートを切る。ただ、ぶつかった方の第七走者はなかなか再起できず転んだまま呻いている。


「だ、大丈夫か!?」


 走り切った寛斗が思わず1組第七走者の男子に駆け寄る。よく見ると膝小僧を擦りむいて流血までしている。程なくして1組のリレー選手達も駆けつける中、寛斗は「立てる?」と訊きながら肩を貸し、救護テントへと向かう。

 その男子は陸上部でやはり走りには自信があったのか、こんなことになってしまい涙目になっていた。


 そしてレースの行方はと言うと……1組が交錯したおかげで独走状態になっているつばさを、すぐに1組のアンカーが必死に追いかけている。1組のアンカーも野球部の代走要員らしく、どんどん距離は詰まっていく。でもこちらも陸上部のエース……つばさは余裕の表情すら見せながら逆転を許さない。




そして……




「よっしゃーーー!!」

「つーさんよくやったーーー!!」

「1組に勝ったぞーーー!!」

「イェーーーーイ!!」




 勢い衰えぬまま200メートルを走り切り、つばさはそのままゴールテープを切った。待ち構えていた他の走者達は大歓声を上げ、一斉に彼女に駆け寄って出迎え、輪になって大喜びする。救護テントに行っていた寛斗も一足遅れて到着し、輪の中に加わる。あの凜ですらしっかりと輪の中にいる。

 

 もちろん、応援席も大盛況だ。誰かしらわーきゃー叫んだり、勝利の雄叫びを上げたりとまるで贔屓の野球チームが優勝したかの如く大熱狂が止まらない。抱き合ったり肩を組んだり、ハイタッチしたまま手を繋ぐ者までいる。菫も喜びを隠さず満面の笑みで、めぐるや遥達とハイタッチをした。


 その後、リレー組が応援席に戻ってきた時にも3組一同は笑顔と拍手で出迎え、今度はクラス全員で輪になって喜びを分かち合った。


(あ〜、これこそ青春って感じね。皆で頑張って団結して、一緒に応援して、喜びを分かちあって……。

やっぱり私……3組でよかったわ!)




「ふふふっ、よかったねぇ……菫ちゃん」


 3組の輪の中に入って喜ぶ菫を遠くから眺めながら、琴葉は羨ましそうに呟いた。



 かくして全ての競技が終わり、閉会式が幕を開ける。体育委員長が閉会宣言を行い、またしても校長の長い長い挨拶の後、いよいよその時がやってくる。


「結果はっぴょ〜〜!!」


 体育教師の森本輝晃があの芸人の如く高らかにコールすると同時に、生徒達からはどっと笑いが巻き起こる。とは言っても大半のクラスは予想がついており、特に3組含むリレーで1着のクラスはどこもワクワクしながら待っている。

 まず1年生の結果を読み上げた後、待ちに待った2年生の結果が発表される。


「えー、2年生は……1組、445点。2組、357点。3組、492点。4組、369点。5組、275点。よって2年生の優勝は……3組です!!」


 再び3組はわーっと盛り上がった。整列しているので、ほぼ全員片手あるいは両手の拳を上げたりガッツポーズをする。それに対し1組は……誰も笑っておらず俯いている。2位でそれも3組と僅差だったというのに。丈一郎に至っては誰よりもガックリと項垂れながらブツブツ呟いている。


「あーあ……よくもヘマばかりしやがって……コイツらに期待した俺がバカだったよ」


 そんな彼らを尻目に、続いて表彰が行われる。優勝したクラスには表彰状のほか、金色のトロフィーが贈られる。大きな拍手を浴びながら、学級委員の寛斗と優香子が壇上に立ち、それらを受け取った。




「ねぇ、優勝記念に皆で写真撮ろうよ!」

「いいじゃん!」

「さんせー!」


 全てのプログラムが終了した後、めぐるの鶴の一声により3組全員で優勝記念の集合写真を撮ることになった。トロフィーを掲げる寛斗をはじめ、めぐる達のグループが中心になって集まり、菫は身長の都合から例によって前の方にいる。

 この写真には担任の杉谷と副担任の栗山も両脇に入り、撮影は養護教諭の中村が引き受けてくれることに。


「は〜い、チーズぅ!」


 全員がピースするか独特のポーズを決め、中村はカメラのシャッターを切った。栗山のカメラとめぐるのスマホ、そして中村のカメラの3台で撮影し、めぐるによると皆良い顔で撮れているという。後でクラスのグループLINEに送ると約束してくれたので、3組一同楽しみに待っている。


 集合写真撮影が終わった後も、3組は笑顔が絶えず終始和やかなムードであった。そして皆「楽しかった!」「最高だった!」などと口々に言い、興奮冷めやらず優勝の余韻に浸っている。もちろん菫だって同じ気持ちでついニヤけてしまうほどだ。


(いや〜……控えめに言って最高だったわね!生まれて初めて1等賞になれて、こんなに熱狂出来てはしゃげて楽しかったし。そして何より……この3組の皆と優勝できて本当に最高よ!)



 その日の夜、公ヶ谷高校から遠く離れたとある病院にて――


「……っ、……どうして、ッ……どうしてなのよぉ!」


 すっかり照明の消えた病院の入口から、30代ぐらいの女性が憔悴しきった様子でフラフラと姿を表す。人目も憚らず嗚咽を漏らしながら。何か悲しい出来事があったのだろうか……


「……うッ……ぅう……」


 なおも咽び泣きながら、女性は鞄の中から手帳を出し、そこに挟まれている1枚の写真を取り出す。その写真に写っているのは、親子と思しき2人。彼女に面影のある若い女性と、2、3歳ぐらいの男の子。女性はその写真を震える両手で握り絞めながら、絞り出すような声で呟く。


「悠太……」


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