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15ページ目 菫さんと憧れのピンクシャツと赤リボン


 公ヶ谷学園高の基本制服は、紺色のブレザーに灰色無地のスカートまたはスラックス、中には白いシャツにえんじ色のネクタイといったものだ。

 しかし……この高校の規則は極めて緩い。普段は指定のスカートまたはスラックスを穿き、指定外でも襟付きのシャツさえ着ていれば教師に捕まることはない。


 現に菫も普段はネクタイではなく赤無地のリボンをつけているし、琴葉も紺のストライプのリボンにえんじ色のベストを着ている。そんな2人は最寄駅でばったり会い、学校まで一緒に歩いている。


「昨日は授業中にウトウトしちゃって先生に睨まれちゃった。よかったわ〜、チョーク投げられなくて」

「やだ〜、菫ちゃん。今そんなことしたらダメだって」

「そうなの?(葵の高校時代に投げられた子いるって聞いたのに〜)」


 たわいもない話をしていると、2人の周りが何やらざわめき出す。


「あ、齋藤さん達じゃない」


 琴葉に言われるがまま菫も振り向くと……一際目を引く女子4人組が歩いている。莉麻、英玲奈、花恋、未夢から成る3組の可愛い女子グループである。周りの男子は4人を見て顔を赤らめたり見惚れており、まるでアイドルでも見たかのようなリアクションだ。


「やっぱりモテるのね〜、齋藤さん達。制服も可愛いし……」


 琴葉の言う通り、彼女達は制服のコーデもいかにも男子ウケしそうなものだ。4人とも何かしらピンク色のものを身につけている。


「本当ね〜……ここまでモテるんなら親衛隊とかいそう」

「ププッ!それも漫画の読み過ぎよ〜……あ、でも生田目君はいそう……」


 菫の発言に吹き笑いしながらも、琴葉は妙に納得する。




 一方、莉麻達の数メートル後ろで、また違った雰囲気の女子生徒が、鞄と相棒ともいえるフルートが入ったケースを持って歩いている。艶のある漆黒の長い髪を靡かせながら。

 クールビューティーな雰囲気の彼女に、莉麻達同様目を奪われる男子も少なくない。その生徒、優香子の視線の先にいるのは……莉麻だ。



 中間テストが終わって1発目のLHR。やることはただ一つ……今年は6月1日に行われる体育祭の種目決めだ。2年生が出場する競技は200メートル走、障害物競走、玉入れ、綱引き、竹取物語、ムカデ競走、借り物競走、リレー、の8種だ。綱引きは男子のみ、竹取物語は女子のみとなっている。この中から1人最低2種目に出なくてはならない。


 早くも3組優勝!と意気込む者もいれば、意気揚々と立候補する者がいたりと大盛り上がりの中……菫は冷めた目でその様子を眺めている。菫が考えることは一つだけ。


(この中なら……やっぱり玉入れね。

走らなくていいし、皆一斉に投げるから足引っ張ってるのがバレにくいし、いっぱい投げたら数撃ちゃ当たるだろうし。

問題はもう一つよ……200メートルとリレーはまずナシとして……あ〜、どうしようかしら……)


 菫のような運動音痴がなるべく足手纏いにならずに済む競技は限られており……その一つが玉入れだ。もう一つは何を選ぶか悶々としていたところ……ふと気が付いた。


(こうしてよく見たら……憂鬱そうにしてる子も結構いるわね。私と同じで)


 ごく少数派だが、菫と同じように冴えない顔をしている者も決していない訳ではない。男子では文化部の慶吾と佳之、やる気のない幸輔と和馬、女子では菫同様運動が苦手だという千穂、来美、羽衣がそんな顔だ。菫は彼らに対しどことなく親近感が湧いた。憂鬱なのは決して自分だけではないと。


「じゃ次、玉入れやりたい人!」


 優香子が黒板に障害物競走の参加者名を板書しているうちに、寛斗は玉入れの参加希望者に挙手をとる。菫は待ってましたと言わんばかりに手を挙げたが……それと同時に目を疑った。


(……え!!?お……多くない!?)


 玉入れの定員は9名。それに対し、挙手したのは15名。先程冴えない顔をしていた面々はもちろん、そうでない生徒も数人いる。



「はぁ……」


 トイレの個室の中で、菫は大きなため息をついた。


(まさか玉入れでジャンケン合戦になるなんて……それも負けるなんて……。ていうか今時の子ってそんなに玉入れ好きなのかしら……)


 そういう訳で菫は玉入れ以外の競技を選択せざるを得なくなり、結局借り物競走とムカデ競走に出場することとなった。消去法と後者は遥に誘われて選んだのだが……それでもどうしても気が重くなる。


(まぁ借り物競走はぶっちゃけ運ゲーよね……問題はムカデの方よ。5人で足首紐で縛って歩くとか……絶対コケるし危ないじゃない!…………もう決まったことだしぐちぐち言っても仕方ないけど……)


 頭の中で散々愚痴りながらも、菫は便器に腰掛けたままスマホを取り出し、「ムカデ競走 必勝法」と入力して検索ボタンを押した。




その頃、トイレの手洗い場では――


「皆土曜は部活休みよね?どっか行かない?」

「いいねー!」

「行こ行こ〜」

「花恋はショッピングがいいなぁ〜。そろそろ夏物の服欲しいも〜ん。あと化粧品も!」

「さんせー!」


 未夢、英玲奈、花恋は二つ返事で莉麻のお誘いに乗る。もう5月も半ばなので、彼女らのようなオシャレ女子は花恋の言う通り、夏服や夏用の化粧品を新調する必要があるようだ。

 莉麻達4人はそれぞれ可愛らしいデザインのポーチからマスカラやグロスなどを取り出し、化粧直しをしながら雑談している。いかにもモテるリア充女子高生の休み時間の光景だ。


「ショッピングだったら……エクスピアリとか?」

「えっ、エクスピアリ……」


 莉麻がとある商業施設名を出したところ、未夢の表情は若干引きつった。そんな彼女とは裏腹に、英玲奈と花恋はテンションが上がる。


「そうしよ〜。花恋ちょうどエクスピアリ行きたかったの〜」

「いいじゃんいいじゃん。じゃあさ、そのついでにデザパラで食べようよ。ケーキとかいっぱい食べたい!」

「えー、太るって!」


 この中では大飯食らいな英玲奈の提案に、莉麻は太ると指摘するも……笑いながらなので本気で嫌という訳ではないようだ。そんな莉麻は巻き髪をふわっと靡かせ、まだ「うん」とは言っていない未夢の方を向く。


「みーこもエクスピアリでいいよね?」

「(家からちょっと遠いけど……まぁいいか。私以外の皆はまだ近いし)う、うん!いいよ。あ〜、めっちゃ楽しみ」


 かくして土曜日の行き先が決定した後、莉麻達はトイレを後にした。彼女達とほぼ入れ違いで、今度は優香子と千穂の幼馴染コンビが入ってくる。


「……ねぇ、ゆかちゃん」

「何?」


 千穂はふんわりした髪をブラシですきながら、隣でリップクリームを塗っている優香子にある話を切り出す。


「最近よく見てない?莉麻ちゃんのこと」


 そう訊かれた瞬間、優香子は吹き出して苦笑いする。どうやら図星のようだ。


「バレたか」

「なんかあったの?莉麻ちゃんと」

「別にないよ。私が勝手に見てるだけ」

「あっ、わかった!莉麻ちゃんのコーデ可愛いって思ってるんでしょ?」

「なッ、なんでわかったのよっ!?」


 またもズバリと指摘され、優香子は今度は顔を赤らめた。流石、千穂は自分のことをよくわかっている。伊達に十数年の長い付き合いではない訳だ。


「だってゆかちゃん可愛いもの好きじゃ〜ん。

莉麻ちゃんのコーデ、確かに可愛いもんね〜

それにそのポーチも可愛いし」


 空きスペースに置いてある優香子のポーチは、薄いピンク色で3段フリルがついている。一見、彼女ではなく莉麻グループの誰かが持っていそうなデザインだ。 

 そんな優香子は照れくさそうに言い訳する。


「お、お母さんが買ってくるから…」

「おばさんもゆかちゃんの好みわかってるんだね〜。てかさ、ゆかちゃんも着てきたらいいじゃん」

「……何を?」


 訝しがる優香子に、千穂はニヤッと口角を上げてこう言った。


「何って、莉麻ちゃんと同じコーデ」

「ええっ!!」


 優香子が思わずひっくり返った声を上げると同時に、トイレの個室の戸が開いた。


 個室から出てきたのは、菫。出てきたと同時に鳩が豆鉄砲を喰らったような顔で、手洗い場にいる2人をぼんやり眺めている。これはどう見ても……自分の声に驚いたからであろうと優香子は悟った。


「ど、どうしたの?杉浦さん…」


 やはり菫はそう訊いてから、優香子の隣の手洗い場まで行く。


「ご、ごめんね…大きな声出して…」


 なんとかやり過ごそうとした優香子だったが……


「ねぇ、菫ちゃん。ゆかちゃんも莉麻ちゃんみたいな格好、きっと似合うよね?」

「ちょっ!!ちーちゃん!!」


 それも虚しく、千穂は頼んでもいないのに先手を打って菫に訊いてきた。赤面しながら慌てて止めるも、もう後の祭り。菫は手洗いを終え、りんご柄のハンカチで手を拭きながら訊き返す。


「莉麻ちゃんって齋藤さん?」

「そうそう」


 言われるがまま、菫は莉麻の普段の制服姿を思い浮かべる。ピンクのシャツ、赤いチェック柄のリボン、白いカーディガンと、いかにもモテそうな可愛らしいコーディネートである。

 一方、優香子が今着ているのは薄い水色のシャツに、紺と水色のストライプ柄のネクタイ。クールな雰囲気の優香子に確かに合っていると菫は思う。


 それでも菫は頭の中でイメージし……


「いいんじゃないかしら。杉浦さんなら何着ても似合いそうよ」


 はっきりとこう言い切った。が、肝心の優香子は首を横に振る。


「ああいうのは齋藤さんみたいな子なら普通に似合うと思うけど私じゃね〜…」

「な、なんで?」

「杉浦さんだって齋藤さんに負けないくらい美人なのに」


 菫があっさり言うと、優香子は更に顔を赤くしてより勢いよく首を横に振る。


「びっ、美人じゃないの!齋藤さんっていかにもふんわりしてて可愛い系って感じじゃない?目は丸くてクリクリだしいつも口角上がってるし。巻き髪とシュシュもよく似合ってるし……」


 菫は両者とも美人だと思うのだが、美人でも系統が違うと言ったところだろうか。莉麻はどちらかと言うと可愛い系・アイドル系。それに対し、切れ長な目に長い睫毛と鼻筋が通っている、大人っぽい顔立ちの優香子は綺麗系・クール系と言える。

 

 鏡に映った自分の顔を見ながら、優香子は頬に手を当てため息をつく。


「ピンクとかリボンは似合わないわよね〜……私みたいな老け顔じゃ」

「ふ、老け顔じゃないの!」


 千穂が諌めるも、優香子は聞く耳を持たず鏡の前でどんよりした表情を浮かべているだけだ。そんな優香子に、菫は改めて訊いてみる。


「でも好きなんでしょ?ピンクとかリボンとか可愛いのが。そのポーチも可愛いし、杉浦さんいつも可愛いハンカチ持ってるじゃない。それ以外の持ち物だって…」


 菫の言う通り、ポーチやハンカチは優香子の私物は全てピンク色または可愛らしいキャラ物だ。千穂もこのことはもちろん知っており、うんうんと何度も頷く。

 優香子は暫く黙った後、コクンと大きく頷いた。そして赤面したまま、もじもじした様子でおずおずと語り始める。


「……あのピンクのシャツと赤いリボン……正直憧れてるの。やっぱり可愛いし女の子らしいじゃない。でも私に似合わなさそうだから、せめて持ち物だけは可愛いものにしようかなって…」

「そこまで好きなら着ればいいじゃない」

「!!」


 恐る恐る優香子が言ったのと裏腹に、菫はあっけらかんとそう言った。戸惑いを隠せない優香子に菫は話を続ける。


「さっきから似合わないって言ってるけど、実際に着て似合わなかったの?」

「いや、着てないけど……」

「じゃあ着てみないとわからないじゃない。やってもいないのにそうやって諦めるの、もったいないと思うし、後悔するわよ〜?」

「…………」


 口籠る優香子に、菫は遠い目をしながら語りかける。


「それに……高校の制服着るのもあと2年ないわよね?」

「!」

「卒業したら制服着ることもうないんだし……

それにせっかく規則が緩いんだから後悔しないように、好きなように着ればいいと思うわよ(私だってリボンに憧れてたから今着けてるのよね〜)」


 そもそも菫の一度目の高校では指定のネクタイがあったのでリボンをつける機会がなく、菫自身もリボンに憧れがあった。編入が決まった際、年甲斐もなく浮かれながらリボンを買いに行った時のことを、菫は思い出していた。

 

 それに対し、優香子と千穂は……2人とも目を丸くしている。まるで目から鱗でも落ちたかのように。


「……確かにそうだよ、菫ちゃんの言う通り!制服着れるの今だけなんだし好きなの着ないとね!」


 千穂は目を輝かせながらそう言って、優香子の肩をポンと叩く。つい先程まで表情を曇らせていた優香子も、すっかり吹っ切れた顔になっている。


「ありがと、宮西さん。……ちょっとチャレンジしたくなってきたかも」

「本当?じゃあ早速…」

「買いに行こ!私も一緒に行くから。……それに私だってリボンつけてるよ、莉麻ちゃんみたいに可愛くないけど」

「私もよ」


 2人が見せびらかしている通り、千穂と菫も制服はリボン派だ。千穂のリボンは紺色のチェック柄である。それを見て優香子はニッコリ笑顔を見せた。


「ちーちゃんも宮西さんも似合ってるじゃない。可愛らしいんだから」

「ありがと。私で似合うんならゆかちゃんだって…」


 そこまで千穂が言ったところで、チャイムが鳴りだした。3人でこうして制服について話し込んでいたため、時間が経つのを忘れてしまっていた。


「ヤバっ!」

「早く行かなきゃ」


 よりによって次の授業は古典で、担当教師の清水は時間にうるさい。数秒でも遅刻するとくどくど説教される。3人は急いでトイレを後にし、教室へと向かった。



 その日、早速優香子と千穂は早速駅の近くのショッピングセンターに繰り出した。幸い優香子の気に入ったピンクのシャツと赤いリボンがすぐ見つかり、すぐさま購入する。そして家に帰ってから、優香子はたちまちを試着してみる。


「…………」


 自分の部屋の姿見に映るのは、普段と全く違う可愛らしい雰囲気を纏った自分。やはりどうしても違和感があり……つい難しい顔をしてしまう。いつもの格好の方が見慣れているからだろうか。

 鏡の中の自分を睨みながら、優香子は自身の長い黒髪を指で掴む。



 翌日――


 2年3組ではいつもの朝の光景が繰り広げられている。それぞれ仲良しグループに別れて色んな話をしたり馬鹿騒ぎしている中、めぐると菫は黒板の前で「ヒグマダンス」を踊っている。その様子を遥がスマホで撮影している。


「すー様めごいよ〜!」

「もっと笑って〜」


 オリビアと沙希が黄色い声を上げ、萌と彩矢音がにこやかに鑑賞している。

 この「ヒグマダンス」はめぐるが応援している野球チームの応援で踊られているもので、めぐるは前々から菫と踊りたいと言っていた。菫はそのチームのファンでなく、野球もテレビで流し見する程度なので当然よく知らない。見よう見まねで必死についていっている。


(踊るの下手だし恥ずかしいんだけど〜)


 気恥ずかしく思いながら踊る菫とは裏腹に、めぐるはノリノリで満足そうにしている。


「しっかり様になってんじゃん。すー様上手だよ」 


 褒めてくれてはいるものの……イマイチ自信はなく、お世辞ではないかとすら思ってしまう。撮影が終わるとめぐるは早速遥にスマホを見せてもらい、ちゃんと撮れているかチェックする。


「うん、いいじゃん!すー様、これイソスタに投稿していい?」

「えっ!?それはちょっと恥ずかし…」


 菫が断ろうとしたところで、教室の後方の戸がガラッと開く。その人物が入ってきたと同時に、クラスのほぼ全員が一斉に彼女に視線を注いだ。後ろのロッカーでだべっていた知輝達のグループに至っては、明らかにドキッとした表情に切り替わった。

 めぐるは早速反応して呼び止める。


「ゆか姉、どうしたの!?イメチェン?」


 入ってきたのは優香子で、昨日菫と千穂に背中を押された通り、ピンクのシャツと赤いリボンを着ている。それだけでなく髪型までいつものストレートと違い、内巻きに巻いている。

 皆の反応を見た優香子は照れ笑いを浮かべる。


「……まぁそんなとこね」

「可愛いじゃん!」

「女の子らしくなってる〜」


 沙希や遥をはじめ他の女子達も優香子に駆け寄り、このいつもと違うスタイルをベタ褒めする。もちろん千穂も加わっており、ドヤ顔で優香子の肩に両手を置く。


「ね、似合うでしょ?たまにはゆかちゃんもこういう格好したらどうかな〜って。ね、菫ちゃん」

「そうそう」

「えー、すー様いつそんな話してたの〜?」


 女子同士で盛り上がる中、その輪の中にはいつの間にか莉麻グループも加わっていて……


「杉浦さん案外似合ってるし可愛いじゃん。……もしかして好きな人でもできたの?」

「いや、そういう訳じゃ……」


 ニヤッと笑う莉麻にそう訊かれ、優香子は少し困ったような表情で首を横に振った。



 しかしその翌日、優香子はいつもの水色シャツと紺色ストライプのネクタイに戻り、髪型も元のストレートに戻っていた。それを見た千穂をはじめ、クラスの女子全員が唖然とする。


「ゆ、ゆかちゃん!その格好…」

「ああ、私やっぱりこっちの方が落ち着くような気がするの」


 千穂は開口一番そう訊くも、優香子はあっさりと答えた。


「皆可愛いって言ってくれて嬉しかったけど……ちょっとソワソワしちゃってなんかイマイチ集中できなかったのよ」

(確かに……)


 優香子がそう言ったので、菫は昨日の優香子の様子を思い出してみる。すると確かに思い当たる節があった。昨日の授業で優香子が当てられた時、暫くボーッとしており2回目に呼ばれてようやく気付いていた。

 しかも、その授業だけでなくまた別の授業でも……。そんな優香子を見るのはもちろん初めてだった。


「わかるよ、それ」


 他の女子達が残念そうにする中、唯一優香子に同調したのは寛斗だ。


「俺だってブランドものとか高い服着る時落ち着かないし、なんかソワソワするんだよな〜」

「だからヨニクロの服着てたのね」

「あんな大金持ちだってのに〜」


 寛斗のその発言に菫は妙に納得し、めぐるはツッコミを入れる。確かに前の肝試しバイトの時も、彼は御曹司らしからぬほぼ全身ヨニクロの服を着ていた。菫は廃墟に行くからその格好なのだろうと勝手に思っていたが、そういう訳でなく寛斗にとってはいつものことらしい。

 そんな3人のやり取りを聞いていて、優香子はクスリと笑みを浮かべる。


「清宮君もそうなんだ。慣れない服はどうしても落ち着かないわよね。……それに憧れは憧れのままの方がいいかなって」

(それも確かに……一理あるわね)


 菫は腑に落ちたと同時に、ある記憶が今になって蘇った。

 実は夜職時代、菫もずっと欲しかったブランドのワンピースを手に入れたものの……実際に着てみると、丈が長すぎてイマイチだったこと。あれほど優香子に後悔しないようにアドバイスしたにも関わらず。尤も菫も後悔はしていないし、今も時々そのワンピースを着ているのだが。


 予鈴が鳴って席に着いた後、優香子はこっそりとスマホを眺めた。誰にもバレないように、うっとりした顔で。そこに写っているのは……ピンクシャツと赤リボンの制服を着て、髪を巻いた昨日の自分の姿であった。


(1回着れただけでも満足よ……)


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