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14ページ目 菫さんの中間テスト


 ゴールデンウィーク明けの5月7日、2年3組の生徒達は誰1人休むことなく登校し、元気な顔を見せた。教室内は久しぶりに賑やかになる。話題は部活のこと、バイトのこと、連休中の過ごし方など多岐に渡り、お土産を持ってくる者もいた。

 

 しかし、盛り上がっていたのもほぼ連休明け初日のみ……翌日にもクラスの雰囲気はガラリと変貌していた。普段の3組らしからぬ重苦しく陰鬱な雰囲気に。

 なぜなら……これから10日後に中間テストを控えているからだ。




「……ノートぐらい5組の友達に見せてもらったら?」


 菫の隣に座る琴葉は、菫から借りたノートを熱心に眺めては、時々自分のノートにも書き込んでいる。そんな琴葉を菫は不思議そうに見る。


「だって……菫ちゃんのノートが一番勉強になるのよ。今まで見せて貰った中で一番細かく書き込んでるから」


 満足そうに書き込みながら、琴葉はわざわざ違うクラスの菫にノートを借りた訳を話す。だが、菫にとってはノートを細かく書き込んでいる理由が理由なので、菫は苦笑いする。


「書かないと覚えられないのよ〜、この年になるとね」


 休憩時間、菫と琴葉は教室を出て屋上にいる。まだ5月半ばの午前中だが、眩しい日差しが2人を照らす。屋上のドアを開けた瞬間、菫は思わず眉を寄せ手をかざしたほどだ。

 なぜ屋上なのかは……単純に菫が前々から行きたがっていたからだ。


「それにしても……高校の屋上ってこんな感じなのね」


 よく晴れた空をぼんやり眺めながら菫が呟くと、琴葉は早速したり顔を見せる。


「……拍子抜けしたでしょ?誰もいなくて」

「うん。屋上って……不良がサボってたり、告白してたりするもんじゃないの?」


 真顔で言う菫に、琴葉はやっぱりねとでも言いたげにクスクス笑う。


「ふふふっ、今時の学校って屋上入れないとこが多いらしいわよ〜」

「……今入ってるじゃない」

「まぁうちは例外ね。でもそんなに人来ないみたいよ」

「まぁそれはいいとして……今時の高校の数学ってこんなに難しいの?アラサーの頭じゃわかんなーい。ていうか何で数学Ⅱと数学Bに別れてるのよ?」

「私だってわかんないわよ!数学苦手だもの」


 元々一度目の高校時代ですら数学は特に苦手だったのだから、10年経った今となっては尚更頭の回転が追いつかない。あわよくば教えて貰おう……と思ったものの、琴葉も数学が苦手と聞き、菫はしょんぼりして大きなため息をつく。



 この次の休憩時間も普段と違って、クラスメイトの大半は教科書やノートや問題集を開き、勉強に勤しんでいる。すぐ後ろの席のめぐるも数学が苦手なのか、難しい顔で問題集と睨めっこしている。

 

「めめちゃんも……数学嫌いなの?」


 菫が思わず訊くと、めぐるは思いっきり首を縦に振る。


「うん、嫌い!てか理系が全然ダメ」

「難しいわよね〜、私も苦手よ」

「でもすー様は心配ないっしょ?」

「へ?」

「前の実力テストなかなか良かったじゃん」

「そ、そんなによ。それに数学は全っ然……」


 ニヤリと歯を見せて笑うめぐるに、菫は苦笑いしながら首を横に振った。

 

 菫の実力テストの成績はというと……学年183人中70位であった。それでも元々苦手な数学は平均点にギリギリ届かなかったが。

 なぜこのようなまずまずの成績だったのかというと、菫は高校編入が決まった時点で猛勉強していたからだ。高校1年用の参考書や問題集を買ってやり込んだり、箪笥の肥やしになっていた葵の高校時代の教科書を読み漁ったりと。


 散々睨めっこしてもわからないようで、めぐるはある生徒をチラリと見ながら呟く。


「やっぱこういうのは得意な人に聞かなきゃな〜」


 めぐるがチラ見したのは……凜だ。いつも孤高派だが、今日は凜の席にいつになく生徒達が沢山集まっている。


「やっぱり生田目君が一番人気ね〜」

「そりゃ学年1位だからなー。その次はきよみーか……」


 ちょっとした人だかりが出来ているのは凜の席だけではない。委員長の寛斗や優香子、クイズ部部長の慶吾など成績優秀な生徒の周りに誰かしら集まっている。琴葉によると、3組生徒の成績は軒並み上位層らしく、凜に至っては例によって学年1位だった。


 そんなめぐるも得意な人に聞くことにしたらしく……


「よし!ゆか姉に聞きに行くか!すー様もわからなかったら聞いてきなよ」


 そう言って優香子の席へと向かった。菫もふと凜の席を眺める。


(今は男子からもモテモテね。

……ああ見えてみっちり教えてくれるのかしら?生田目君のことだからボロクソに言いそうだけど意外ね。

やっぱり学年トップだから…)


 今、凜の席に集まっているのは5人ほどだ。淡々と教えている模様で、教えてもらっている方も時折うんうんと頷いて熱心に聞いている。少なくとも菫が思ったような毒は吐いていないようだ。

 

 再び教科書に視線を戻して暫くすると……菫は顔を顰めた。考えても考えてもわからない難問にぶつかったからだ。


(あ〜……私も聞きに行こうかしら。

でもそろそろ休憩終わるわね……次にしましょ!)



 そして次の休憩に入ってすぐ、菫はあのクラスメイトの席へと向かった。


「あの……今教えてもらって大丈夫かしら?数学なんだけど……」




 菫の頭ではフル回転させても無理な問題だったが、その生徒は一瞬で解したうえ、その解き方まで菫に逐一伝授してくれた。


「…………なるほど!そうやって解く訳ね!ありがと、清宮君」


 菫は満足げに寛斗に頭を下げる。

 本当は凜に聞きに行こうかと思っていたが、休憩が始まると同時に「先客」が来ていつ終わるのかわからず、その代わりに寛斗に聞いていたのだ。礼を言われた寛斗も笑顔を見せて菫に言う。


「いえいえ、また難しいのがあったらいつでも聞いて」

「ほんと?じゃあまたお言葉に…」

「きよみー!次は私らに…ってその問題今聞こうと思ってたんだけど!」


 そこに、めぐる、遥、沙希も加わった。


「えっ、めめちゃん達も?」

「そうそう!コレコレ」


 めぐるは菫の問題集を指差した。つい先程寛斗が教えてくれたので、解答だけでなく解法及びそのコツについてもメモしており、びっしり書き込まれている。それを見て沙希と遥も目を丸くした。


「えっ、めっちゃ書き込んでね?」

「本当!これ全部すー様が書いたの〜?」

「そうよ。全部清宮君が教えてくれたの。メモしないと忘れちゃうから」

「じゃあここは俺じゃなくてすー様に…」

「すー様オナシャス!」


 寛斗に無茶振りされ、めぐるもそれに乗るものだから、菫はギョッとした。確かにすぐ前に教えてもらったとはいえ、それをまた別の人に教えるとなると話は別だ。


「ちょっ……冗談やめてよ清宮君!私教えるのそんな上手くないから〜」


 あたふたする菫の周りで、寛斗達の笑い声が響いていた。

 

 こうして何だかんだで輪の中に、それもクラスの中心的グループに入れている菫の様子を……誰かが眺めている。少なからず冷ややかな目で。


「…………」


(……そういえば昨日も食堂で一瞬睨んできたわね。私、何か悪いことしたかしら?…………畔柳さんに)


 菫も薄々勘付いており、不思議そうに未夢を見つめ返したが……未夢はすぐ視線を逸らした。



 5時間目終了のチャイムが鳴り、杉谷は2年5組の英語の授業を終えて職員室に向かっている。


(よしよし……何事もなく終わったぞ。今日は6時間目は空きだから、その時に小テストの採点を……ん?)


 廊下を歩いていると、その隅にお馴染みの女子生徒が立っている。ハーフツインテにピンクのカーディガンと可愛らしい雰囲気の女子と、ワンレンロングヘアの巻き髪と口元のほくろが大人っぽい雰囲気の女子2人組。ぶりっ子の花恋と色っぽい英玲奈だ。2人は寄り添って1冊の参考書を眺めている


「おう!伊藤と水谷じゃないか」

「あっ、杉ちゃ〜ん」

「授業終わったの〜?」


 杉谷が元気よく挨拶をすると、花恋と英玲奈はかなりくだけた返事をする。だが、2人だけでなくクラスの大半の生徒がこんなノリだ。

 杉谷もあだ名で呼ばれようがタメ口をきかれようが特に注意しないし、容認している。むしろ生徒が心を許してくれており、更に生徒との距離が縮まると杉谷は思い込んでいる。


「そうだよ。しっかり勉強してるじゃん。2人とも偉いなぁ」

「だってぇ〜、嫌なんだも〜ん」

「追試がね〜」


 公ヶ谷高のテストには合格点が定められている。そのボーダーラインは毎回、全教科30点。それに満たない点数を取ってしまった者は追試を受けなければならない。当然テストに欠席した者にも追試がある。

 その追試は放課後に行われるので、遅くまで学校に残らされる羽目になるし、ボーダーラインに達するまで何回も受けさせられる。


「ははは、俺なんか中学の時からしょっちゅう追試受けてたよ」

「え〜、うそ〜」

「てか杉ちゃん追試なくしてよ」


 2人が上目遣いでおねだりするも、杉谷は苦笑いしかできない。


「ははは……そうするには理事長と校長を説得しないと……俺みたいな下っ端じゃそういう権限ないし……」

「なーんだ」

「杉ちゃんのケチ〜」


 文句を垂れる英玲奈と花恋に、杉谷は何か閃いたのか「あっ、そうだ!」と言う。


「英語がわからないのなら教えてあげようか?なぁに、テストの内容以外なら…」

「別にいらな〜い」

「え?」


 遠慮なく聞いてくるかと思いきや……花恋にあっさりと断られ、杉谷は当然面食らった。


「な、ななな何で?あっ、もしかしてわからないところがないのかな〜?」

「まぁない訳じゃないけどぉ〜……別に杉ちゃんに聞かなくてもいいかな〜って」

「え?」

「あっ、あっちに生田目いるじゃん。聞きに行こーっと」


 英玲奈はそう言うと、杉谷には目もくれず花恋と共に凜の元へ足早に去っていった。


(……まぁ確かに担任よりかはクラスメイトの方が聞きやすいか。確かに生田目は言わずもがな……)


 無理矢理自分を納得させようとするが、あんな風に言わなくても……と杉谷は心の中で愚痴る。生徒の面倒事を何より嫌う杉谷であれども、これには流石に軽くショックを受けた。


(まぁでも俺も色々忙しいし、むしろ聞かれなくて……ん?)


 とぼとぼ歩いていると、またしても自分のクラスの男子生徒3人が仲良く英語の教科書を眺めている。杉谷は花恋と英玲奈同様、声を掛けに行く。


「やぁやぁ、淺間に上原に奈良間」

「あ、先生」

「うぃーっす!」

「おいーっす」


 普通に元気よく返事をしてくれたので、今度こそと杉谷は話を切り出す。


「今英語の勉強してるんだな?何かわからないことはあるか?聞いてくれたら何でも…」

「もうないっす」

「へぇっ?」


 真二が即答したので、杉谷は再び面食らう羽目になってしまった。思わず変な声が出てしまったうえ、「な……なんで?」と口走る。


「なんでって、さっききよみーに教えてもらったから、もうないさー」

「僕ももうないです。全部教えてもらったんで後は自分で何とかなります」


 真二の横にいる日向と剣道部の淺間聡太郎も、ハッキリ断った。まさかの2連続お断りに、杉谷は何とか笑顔を作るもその顔はつい引きつってしまう。


「そ、そっか……そりゃよかっ…」

「そうだ!なぁお杉、何でも教えるっつったよな?」

「ん、何かあるのか!?」

「テスト問題何が出るのか教えてくれよ〜」




(もぉ……奈良間め〜。テスト問題は流石に無理だっつーの!相変わらず調子に乗りやがって)


 杉谷は頭の中でぶつぶつ文句を言いながら職員室へと辿り着いた。いつもは教師に呼び出しを喰らった生徒しか来ない職員室だが、今日はそうではない。生徒が数名ずつ、お目当ての教師を囲んで教科書や問題集を見せながら質問をしている。


「ここがわからないんです〜」

「あー、それはね…」


 囲まれている教師の中には、3組の副担任である栗山と1組の担任である若竹の姿もあった。2人とも受け持ちのクラスではない生徒が集まっているが、それでも丁寧にレクチャーしている模様。


「………………」


 杉谷も2年生全クラスの英語を担当しているが、受け持ちの3組の生徒にもよそのクラスの生徒にも何も聞かれない。それどころか教えてやると持ちかけても断られるうえ、成績優秀な生徒の方が頼りにされているらしい。杉谷は少なからず孤独感を感じてしまう。

 杉谷は複雑な表情で栗山や若竹を一瞥してから席に座ったところで、スマホが鳴った。取り出して画面を見るなりゲンナリする。


(またかよ……母さん)



 そんなこんなであっという間に中間テストの日はやってきた。テスト期間は3日間で、1日目は現代文・地理・数学IIの3教科、2日目は生物・英語・数学Bの3教科、3日目は古典・公共の2教科が実施される。


 朝のSHRが終わり、いよいよテストまであと10分。3組ではどの生徒も現代文の教科書を開けており、血走った目で必死に眺める者もいれば、友達と一緒に眺めながら談笑する者もいる。やはりこういう時は普段と違って目に見えぬ緊張感が漂っている。


 こうして刻一刻とテストの時間が迫っているというのに……3組ではまだ登校すらしていない生徒がいる。その生徒は席についておらず、もちろん机に筆記用具も置いていない。菫も教科書からちょろっと目を出して、誰もいない席を見る。




(まさか…………テストまで欠席するのかしら!?


……矢澤君)




 菫と同じことを思っているのか、恭平と悠太もヒソヒソ話している。


「どうせ寝坊だろ。また追試受けりゃいいって思ってそう」


 寛斗は教科書に目を向けたままそう推測し、一緒にいる真二も「だろうな」と頷く。3組の遅刻常習犯の中の1人である幸輔のことなので、日頃の行いから最早心配する者はいない。


「でもテストに来ねえのは流石にまずいっしょ。あのよっしーやもえぽんですらちゃんと来てるんだぜ?」

「おい」

「何か言った〜?」


 軽はずみに言い放った真二の後ろに……当の一馬と萌がいつの前にか立っていて、恨めしそうに真二を睨んでいる。真二は冷や汗がタラーと流れるのを感じながら、ゆっくり振り向いた。


「お、お前らいつの間に……」

「いくら私らでもテストの時ぐらいは…ねぇ」

「おう、舐めてんじゃねーぞ」

「な、舐めてなんか…」


「テスト始めるぞー!」


 チャイムの音と同時に、試験監督を務める杉谷がそう言いながら教室に入ってきた。生徒達は一斉に教科書を片付け、自分の机へ戻る。






 1発目の現代文が終わり、3組の生徒達はすぐに切り替えて次の地理の教科書やノートに目を通す。

 すると、まだ10分休憩に入ったばかりだというのに教室の戸がガラッと開いた。入ってきたのは、幸輔。


「おいおい今来んのかよザワ!」

「おっそ〜、現代文終わっちゃったじゃん」

「テストなのに社長出勤かよ〜」


 知輝、美羽、真二が囃し立て、教室中が笑いに包まれた。それでも幸輔はケロッとした顔であっけらかんと言う。


「あ〜、起きたら8時半だったんだよ」


 その時間は……とっくにテストが始まっていたはずだ。まさかの大寝坊かつ大遅刻に本人以外のクラス全員が唖然とする。そんな周囲の反応など意に介さず、幸輔は大きなあくびをしてからこう言い放った。


「まぁ別に追試でも全然いいぜ。俺朝弱えーから放課後の方が頭働くし」



 そして中間テスト3日目、最後の教科である公共の終了チャイムが鳴り、解答用紙が回収された。程なくして3組の面々は解放感に喜んだり、ため息をついて項垂れたり、気持ちよさそうに伸びをしたりなどそれぞれのリアクションを見せている。

 

 菫は琴葉とともに再び屋上に行き、爽やかな風を感じながら解放感に浸っていた。


「あ〜、やっと終わったわね!」

「ほんとそれ〜!早く部活行きたいわ」


 成人済みの菫が考えることはただ一つ……


「今日は家帰ったら「アオハル酎ハイ」飲みましょ!昨日葵が何本か買ってくれたし」

「あ、そこはちゃんと大人なのね。いつも青春青春言ってるのに〜」



 このテストの成績個票がそれぞれに渡されたのは……テスト最終日からちょうど1週間後のことだった。この個票には各教科の点数・平均点・そしてクラス及び学年順位が記載されている。

 やはり菫もこの個票を見る時はドキドキが止まらない。一旦深呼吸し、ゆっくりゆっくりと開く。


クラス順位 12/34

学年順位 68/183


 この順位を見た瞬間、菫は安堵の表情を見せ大きく息を吐いた。予想よりも悪くない順位だったからだ。 

 比較的得意な文系科目はいずれも平均を上回る点数であったのだが、苦手な数学だけは平均点ギリギリの点数であった。どうしても数学がネックで順位が落ちるのではないかと不安だったが、これで一安心。


(我ながらよくやったわ……まぁ数学はアレだから期末はもっと頑張んなきゃね。でも清宮君に聞かなかったらもっと悪かったかも…)


「68位!?すー様やっぱ凄いじゃん」

「ちょっ!めめちゃん!」


 いつの間にか背後にめぐるがピッタリくっついていて、菫はびっくりして声が裏返った。どうやらバレないように菫の順位をこっそり覗いていたらしい。


「も〜、勝手に覗かないでよ〜!」

「あはは、ごめん。……いい点取れて羨ましかったから」


 そう言うめぐるはというと……笑顔ではあるものの、目は笑っていない。この顔からして……恐らくあまり芳しくない点数だったのかと菫は悟った。


「いや〜、ただ山が当たっただけよ……それに数学はちょっとアレだったし」


 慌てて謙遜する菫だが、めぐるの表情は一向に晴れない。いつになく俯いてはため息を吐いている。


「私……実テよりもちょっと落ちてるわ。あ〜、家に帰りたかねぇ……」

「……お母さんに怒られちゃうの?」

「そうそうそう!!」


 やはり母親の反応が恐怖でずっとこんな調子のようだ。菫はあのドッグカフェでのことを思い出す。そういえば、テストの話なさってたわね……と。

 それでもめぐるは気持ちを切り替えるべく、個票をグシャッと握りしめて……


「いや、ずっと沈んでちゃダメだな!もう終わったことだもん。それに怒られるのなんかあっという間に終わるし。次こそは頑張んねぇと」

「その意気よ、めめちゃん!」


 ようやくいつものめぐるらしく明るくキリッとした表情に戻り、菫は思わず合いの手を入れる。そしてめぐるは意気揚々と言い放った。


「期末で挽回すればいいしな!それにもうちょいしたら体育祭と体力テストだからまずそっちを頑張ろう!」

「そーそー……って、え?体育祭なんかあるの?この時期に?」


 菫が目をぱちくりさせながら訊くと、めぐるは体育祭について教えてくれた。


「うん、うちは体育祭いつも6月頭にやってるよ。秋は文化祭とか修学旅行と被るから」


 体育祭に、体力テスト……運動音痴の菫にとってはいずれも苦手な行事で、聞くだけでも拒否反応が出る程であった。むしろ菫にとっては中間テストの方がマシかもしれない。

 あっという間に気持ちを切り替え元気になっためぐると反比例するかのように、菫はスーッと血の気が引いていった。



 その日は放課後になっても、生徒達の話題は中間テストの結果で持ちきりであった。どこからともなく学年10位までのランキングが口コミで広まり、やはりトップは凜だったという。

 クイズ部の部長を務める慶吾も学年5位ではあったが、直と佳之と共に移動しながら未だに悔しさを滲ませている。


「あ゛ー!今回は自信あったのに!」

「ぽその君だって十分好成績じゃないですか。もっと喜んでくださいよ〜」

「喜んでいられるか!生田目君にも清宮君にも負けたんだから」


 部活及び将来のためにも、暇さえあれば勉学に励んでいる慶吾は今回のテストも準備万端、自信満々で臨んだものの……凜と寛斗には及ばなかった。


「仕方ないだろ、あの2人だって普段から相当頑張ってるんだろうし」

「そうですよ!あっ、いっそ勉強法教えてもらったらどうですか?きよみー君や生田目君に」

「…………」


 佳之がそう言い聞かせ、直がアドバイスしても、慶吾は憮然とした表情のまま。そんな彼らが2年1組の教室前を通過しようとしたところだった。佳之がふと横を見て、思わず立ち止まる。


「おや、どうしたんですか?バヤシ君」

「あ、あれ……」


 直も足を止めて何があったのか訊くと、佳之は1組の教室を指差す。慶吾と直もこっそり覗いてみると……そこにはとてつもなく暗いオーラが漂っている。1組全体がそんな雰囲気ではなく、ある男子生徒の周りだけで、他の生徒はそれを見てヒソヒソ話をしている。

 

 ふくよかな体型のその生徒は暫くの間小さな紙を両手で持ち、呆然とそれを眺めていたが……やがてそれを破り始めた。その紙が何なのかは慶吾達にはもわかる。


「おいおい成績個票破ってるぜ……」

「あれは合唱部の西園寺(さいおんじ)君ですね。成績よくなかったんですかね?」

「いやー、そんな訳ないだろ。アイツも毎回10位以内だし、噂では確か4位……ってことは僕よりも上かクソッ」


 自分で言ったにも関わらず、慶吾は更に口惜しそうに頭を抱えた。


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