表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/5

02.ヒロの帰る場所

02.ヒロの帰る場所


 早めに軽い夕食をとって、ストレッチなんてしてから俺は「ダンス・バトル・ダンス」に潜った。ヒロに会うために。


 ヒロの選んでくれた曲で、二人並んで落ちてくるパッドを追いかけながら踊った。ゆるい曲のあいだには、ヒロが時々勝手にアレンジを加えて俺の横で踊り、ハイタッチをして立ち位置を変えてみたりした。

 

 そういう事が俺に無敵感を与えた。まだ世界の狭かった学生の頃のように、中二病を患っていた時のように、ゲームの中の俺とヒロはかっこよかった。

 

 どんなに盛り上がろうとも、笑い声の代わりにお互いジャンプしまくっても、一定の時間でヒロは、ふと夢から醒めたように「またね」とゲームから去って行く。一人残されたダンスフロアは突然チープに見えて俺の心を冷たくした。


 誰かと暇つぶしに踊ったこともあったけれどヒロとの時のようなきらめきを感じることが出来なくて、そのうちに俺は寂しさを感じるようになった。


 ヒロともっと一緒にいたかったし仲良くなりたかった。それでも「またね」というヒロを引き留めることが出来なかった。ヒロの気に入っているkanipapa2218は、きっと彼を引き留めないで、さらっと「またね」と笑ってくれるキャラなのだろうと、俺はヒロの求めるトモダチを演じた。


 ヒロのことが知りたかった。決まった時間にヒロはどこへ行くのだろう?もしかしてヒロは夜勤の仕事なんかをしていて、これから働きに行くのだろうか?それともヒロは意外に幼くてもう眠る時間なのだろうか?それとも、それとも…。こんな風に誰かのことが気になって考えるなんて久しぶりだった。


***

 その日は、ヒロと別れた後に俺は別のルームのひとつに向かった。

 ルーム名は「運動部」。その名の通りゲーム内で運動しようっていう奴らが集まって、情報交換をしている。「やあ、ひさしぶり」と俺はみんなに挨拶をする。「kanipapa2218、久しぶり。肩の調子はどう?」と声を掛けられ、雑談がはじまった。


 「kanipapa2218は最近、ダンスにハマっているね」と言われて、俺は内心にやりとしながら「え!なんで知ってんの!!」とメッセージを飛ばした後で俺のアバターがオーバーリアクションで大袈裟に驚いて見せる。「見かけるよ」と返信が来て、俺は「通話できる?」とyayayya88を誘った。「OK」と相手が打ち込む前に通話のルームを立ち上げると、他のメンバーにもお愛想で参加を呼び掛けるとyayayya88を待った。


 「ちょこちょこ見かけていたけど、毎回同じ奴といるよね」とyayayya88こと、「yaくん」が言った。「あの子、知ってるの?」と俺は聞く。yaくんは「うーん、たぶんね」と意味ありげに言うので、「さすが、yaくんは顔広いなー」と感心したふりをした。


 そして、yaくんのハマっているボクシングゲームの話題を持ち出して、アドバイスを求めつつ彼の自慢話を30分ほど聞いていた。yaくんは急に我に返って「ああ…」と言った後に、「あれさ、カニくんが一緒にいた子って、仲いいの?」と聞いた。俺は「あのゲームでしか、バトルしないから知らない」と言う。本当に俺とヒロはそれだけの関係だった。


 「だったら、あんま仲良くならない方がいいかもよ」とyaくんが言ったので、俺は眉をしかめたが、声には出さずに「へー」とだけ言った。「あいつ、キモいんだ」と言い、俺が何も答えないで待っていると、yaくんは「まぁ、ダンスバトルしているくらいなら、害はないか…」と独り言のようにぼそぼそとした声を出した。

 なおも俺は無言で待つ。「えっ、もしかして、あいつと仲良かったりする?」とyaくんが焦った声を出したので、「仲いいっていうのかな?バトルは何回かしたけど。別に普通だった気がする。休憩中もあまり話さない子だから、よくわからないけど」と俺は言った。

 「そっかあ」とyaくんが、興味が薄れたような声を出したので、彼がこの話を切り上げようとしているのがわかった。俺は「キモいってなんかされたの」とさりげなく聞いた。


 ルーム「☆あにまるぅ☆」そこに、ヒロがいると、yaくんが教えてくれた。

 「あそこがあいつの家みたいなもんだよ。誰かとあいつが絡んでいるのを見られれば、一番いいんだけど…。なんだったら、ちょっと関わってみなよ、すぐわかるから」と言って、ヒロは大きい体のアバターが好きだから、それで行くといいかもなと、yaくんは意地悪く笑った。それからもう一度yaくんの好きなボクシングゲームの話に戻ってyaくんの俺との通話内容のイメージをそちらに切り替えた。


***

 俺はもともと、ヒロと関わりたいと思っていたので大きなアバターを作った。身長は2メートル。筋肉ゴリゴリで横幅も大きく、尖った歯と銀色の目と髪にした。


 ルームの入り口で俺は、門番からケモ耳を選ぶように言われて、銀髪に合わせて青狼の耳を選んで付けた。

 ルームに踏み込むと、そこら中からわらわらとケモ耳を付けたミニキャラが出てきて、俺の足にまとわりついた。小さな彼らは俺に飛びついてぶら下がってしがみつく。耳元で彼らの笑い声や興奮した高い悲鳴が上がった。俺はその子らを一人一人引きはがすと優しく地面においてあげた。


 その中の一人のミニキャラに見覚えがあった。ヒロだった。目の下に二つ並んだ小さなホクロは、ちょっと見では見逃してしまいそうな大きさで、だからこそこだわりを感じたしヒロの目印になった。

 「ダンス・バトル・ダンス」で知っているヒロのアバターをギュッと縮めて三頭身にしたそのミニキャラは黒い子猫を思わせた。ご丁寧に首元には金色の鈴がリボンでつけられていたがその鈴は鳴らなかった。


 俺に脇を持たれた小さいヒロは甘えるような目を向けた。そっと地面に降ろすと俺はボイスチェンジャーで作った太くてハスキーな声を出して「かわいいね」と言い、小さなヒロの頭を撫でた。片目を瞑ってヒロが俺のその手に頭を寄せた。


 ヒロは終始「にゃー。なぁー」としか鳴かなかったけれど、俺の側から離れないでいた。俺に撫でられると、気持ちよさそうにヒロについている黒いしっぽがゆっくりと左右に揺れた。どこからかやって来た蝶々が時々そのしっぽで遊んでは去って行った。ヒロは、彼の背中を撫でていた俺の手のひらから這い出すと俺の体をよじ登り首につかまり頬を寄せて甘えてきた。そんなヒロが可愛くて俺はすっかりこの部屋が気に入った。


 結局、その日は、俺がいい加減眠らなくてはいけない時間になって、俺の方からログアウトした。帰り際にヒロが「またあした」とメッセージを飛ばしてきた。俺は頷き、ヒロの頭を撫でながらしぶしぶログアウトした。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ