分断された北の日本と北米大陸の変容― 蝦夷共和国の樺太買収とブリティッシュコロンビアによるアラスカ獲得が意味したもの ―
第1章|北太平洋の空白地帯と列強の拡張
1860年代後半から1900年代初頭にかけて、北太平洋は列強の勢力均衡が大きく揺らぐ舞
台となった。
アメリカの国際的失速、日仏・英露の駆け引き、そして分断された日本列島という異常な
国際情勢は、樺太とアラスカという2つの未開発の極北地域に、予想を超える運命の変化
をもたらす。
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第2章|【樺太の運命】蝦夷共和国による平和的買収(1890年代後半)
✶ 蝦夷共和国とは何か
旧幕府勢力が函館を拠点に建国した「蝦夷共和国(北日本政府)」は、フランスの保護国
的地位にあり、フランスの対英・対日戦略における東アジア最前線の緩衝地帯となってい
た。
✶ ロシアの苦境と戦略的妥協
1890年代、ロシア帝国は以下の課題に直面していた:
• 財政破綻寸前:シベリア鉄道の建設と東清鉄道事業により、国家財政は緊迫。
• 日露対立の激化:南日本(イギリス支援)との対立を深め、極東での紛争リスクが増
大。
• 樺太の負担性:開発が遅れた樺太は、維持費がかかるばかりで政治的価値が薄い。
この状況で、フランスの仲介を通じて、友好国である蝦夷共和国に売却するのは自然な流
れであった。
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第3章|【樺太買収条約】の詳細と影響
✶ 条約の骨子
項目 内容
締結年 1897年(仮定)
売却金額 1,400万金フラン(フランスの融資による)
仲介国 フランス第三共和政政府
条件 樺太南部に仏軍・蝦夷軍の共同軍港建設、ロシア商人の交易権維持、一部旧教会の
保護
✶ フランスの役割と利益
• **「蝦夷開発公社」**を通じて、樺太全島の資源開発に乗り出す。
• 樺太南部(豊原〜大泊)にフランス海軍の共同軍港を建設し、オホーツク・太平洋封鎖
線を強化。
• ロシアへの資金貸付と外交譲歩を得て、露仏協商を東方にも拡張する契機となる。
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第4章|【蝦夷共和国】の変貌と極東の再編
✶ 領土の拡張
蝦夷共和国の領土は、北海道+樺太全島に拡大し、旧幕臣勢力による「北の日本」の国家
像が明確化:
• 国家理念:伝統的封建秩序とフランス式行政の融合
• 経済基盤:炭鉱(夕張・樺太南部)、森林、水産業
• 国軍:フランス式陸軍+軽快な沿岸海軍、事実上の仏連合艦隊の衛星戦力
✶ 社会統治と産業構造
• 鉱工業の発展:炭鉱鉄道、製材所、港湾施設の拡充により「仏式植民地経済」が定着。
• 文化的統合:フランス語教育が軍官僚の間で浸透。法律はナポレオン法典に基づいた近
代法体制へ。
• 宗教と教育:カトリック宣教師団が学校設立。士族階級が優遇される一方、庶民教育は
限定的。
✶ 外交的立場
蝦夷共和国はロシアと友好的関係を保ちながらも、フランスを通じて国際連盟的枠組みで
の準国家として外交活動を展開。南日本(明治政府)との間には、国境線での緊張が続く
が、直接的な全面衝突は回避される状態に。
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第5章|【北米の鏡像】:ブリティッシュコロンビアによるアラスカ買収との対比
✶ 北太平洋の「鏡像国家」
地域 主体国家 保護国的宗主国 経済主導者 領土獲得 軍事的意義
蝦夷共和国 旧幕府系 フランス 蝦夷開発公社 樺太 極東封鎖線の前衛
ブリティッシュコロンビア カナダ(英連邦) イギリス 英国商社・鉄道会社 アラスカ 太
平洋北岸の制海権
このように、アラスカと樺太という“極北の双子島”が、それぞれ英仏の勢力圏に組み込ま
れたことで、北太平洋は事実上の「列強の代理地政学戦線」と化した。
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終章|地政学的帰結と20世紀への布石
✶ 北日本 vs 南日本の再構図
• 南日本(大日本帝国)はイギリスの準保護国状態を脱却し、アジアの独自外交を模索す
るが、北には常に蝦夷共和国というフランスの砦が存在。
• 両者の**「民族的統合」と「列強の分断」**の板挟みは、国民意識・外交戦略双方に長
期的影響を与える。
✶ 日露戦争への影響
• 樺太がロシア領でないため、戦略的対象が変化。
• 日本海戦では、仏支援の蝦夷共和国が中立か、局地的支援を行うかが、戦局に新たな変
数をもたらす。
✶ 北太平洋戦略の再編
• フランス:樺太・蝦夷・インドシナを結ぶ「極東フランス弧(Arc Français d’Extrême-
Orient)」を構想。
• イギリス:アラスカ・カナダ・香港・シンガポールを連結した「太平洋航路戦略」を強
化。
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結語|「分断された日本」「分断された極北」:地政学の分水嶺
蝦夷共和国の樺太買収、ブリティッシュコロンビアのアラスカ獲得――
この二つの出来事は、19世紀末の北太平洋を単なる周縁地ではなく、列強の思惑が交錯す
る主戦場へと変貌させた。
日露の境界ではなく、日仏・英露の境界が「日本列島の中」で繰り広げられる」歴史の
可能性がここにあった。