日露戦争直前の大日本帝国の海軍戦備と外交戦略
1. 海軍戦備:英国式重視の近代化艦隊
◎ 主力艦隊構成(1903年時点想定)
艦種 艦名(型) 建造国 特徴
戦艦 敷島型(敷島・朝日・初瀬・三笠) 英国 近代戦艦。防御・砲撃力とも充実。
装甲巡洋艦 浅間型・吾妻型 英国・仏 長距離航行能力、艦隊護衛用。
防護巡洋艦 吉野型・高千穂型 英国・国内建造進展中 旧式化も、通信・索敵に活躍。
水雷艇・駆逐艦 白雪型ほか 英国 高速襲撃用。夜戦・雷撃重視。
◎ 特徴
• 英国流の「快速砲戦主義」+日本独自の「夜戦・水雷戦重視」。
• 兵器・通信技術は最新鋭で、特に英国製の無線電信装置、射撃指揮装置、光学測距器は
精度が高い。
• 海軍士官の教育制度は英海軍式。訓練水準も非常に高い。
• 国内造船能力は徐々に拡大中だが、主力艦建造は依然として英本国に依存。
◎ 軍港・戦略拠点
名称 役割 備考
呉 西日本の中枢軍港 英式ドック設備導入済み
佐世保 対清・対朝鮮戦線の前進拠点 地政学的に優位
長崎・門司 補給・通信拠点 朝鮮南部への直接圧力
---
2. 外交戦略:英国との共同戦線+蝦夷・ロシア牽制
◎ 対清政策
• 朝鮮半島の「緩衝地帯」からの排除を清国に要求。
• 英国の黙認と支援の下、間接的に朝鮮情勢を掌握(※英国は建前上中立)。
◎ 対ロシア戦略
• ロシアの満洲進駐と、東清鉄道・旅順の支配に強く反発。
• 英国との**日英同盟締結(形式的には「相互不可侵・第三国排除」条項)**を成立さ
せ、背後の安定化を図る。
• 「先制主義」による対ロ開戦論が軍部・政財界で急拡大。
◎ 蝦夷共和国への意識
• フランス勢力の代理と見なすが、直接対峙は避ける。
• 蝦夷共和国による「北の正統日本」主張を警戒。
• 蝦夷に亡命した不平士族の動静を探知し、内乱の火種とみなすも、軍事衝突は回避。
---
蝦夷共和国の警戒と戦略的対応
1. フランス式海防重視と陸上防衛体制
• 英国式の「外洋艦隊」思想に対し、蝦夷共和国はフランス式の「沿岸防衛・雷撃艇戦
術」に依拠。
• 主要艦艇は装甲巡洋艦・防護巡洋艦中心、潜水艦や魚雷艇など非対称戦力に注力。
種別 主力艦艇 特徴
巡洋艦 アルジリアン型(仏建造) 高速・軽装甲
潜水艦 自国建造の黎明型 対艦雷撃用、港湾防衛
魚雷艇 武士団直轄部隊 内海・沿岸での奇襲用
2. 政治的・外交的対応
• フランス・自由主義者との連携を強め、南日本の対露接近に警戒。
• 直接的衝突を避けつつ、国際世論で「武士道国家としての道義性」を訴える情報戦を展
開。
• 英仏間の勢力均衡を利用して、自国の安全保障と発言力を維持。
3. 極東ロシアとの水面下連携(準備段階)
• この段階ではまだ極東ロシア王国は成立していないが、
• ロシア領カムチャツカ・沿海州の反ツァーリ派貴族、
• 極東ユダヤ人移住者、
• アイヌ系民族主義者などと連絡を取り、
• 将来的な「緩衝国家構想(≒極東ロシア王国)」を水面下で育成。
---
結語:東アジアでの「見えない戦線」
日露戦争を前にしたこの段階では、大日本帝国は英国の庇護のもと急速に軍拡・外交攻勢
を進める一方、蝦夷共和国はフランスを後ろ盾としつつ非対称戦力で防衛体制を固め、外
交的にも高い道義性を維持しています。
二つの日本は、まだ直接衝突には至らないものの、朝鮮・満洲・海軍力を巡って鋭く神
経をとがらせており、「武力衝突一歩手前」の冷戦状態に突入しているといえます。