4話 人工の獣
港際にある物流倉庫、そこでは身体能力を上げる代わりに半ば意識が無くなって獣のように暴れるドーピング剤が取引されていた。
取引の噂を以前から聞きつけていた、阿呆好喜一派の3人は取引する組織の会合がある月の最終日に物流倉庫へと突入した。
蒸し返すような熱気が漏れる倉庫に、黒い服を着た男たちと対照的な作業服を着ている男たちが流れ込んでいく様子は、昼間でも近寄りがたい雰囲気を醸し出している。
そんな倉庫に、雰囲気似合わない能天気な声が反響した。
「お邪魔しまーーーーす。」
金メッシュの男は振り向いた作業着の男の顎を金属バットでフルスイングすると、「ゴグっ」という鈍い音を立てて顎が外れた男が地面に崩れ落ちた。
金メッシュの男は、男たちがあっけにとられている間に集団の中心に移動して黒服と作業着の区別をすることなく殴って膝をつかせる。
男たちが我に返って応戦するころには全体の1/4ほどが地面に倒れていた。
青メッシュの男、落笑堕は入口付近で麻酔銃とカードを、直ぐに手に取れる体勢を取っていた。
「今回は最初に我路堕を投入して、全員戦闘不能にしたあと、違法薬物の回収。ついでに俺が援護射撃、、、だったけど。大丈夫そうだな。」
オワタが冷静に状況を分析しながらワロタの様子を伺っていると、残り一割と言ったところで突然ワロタがぶっ倒れた。
「え。」
睡眠ガスであった。
建物の中心で戦っていたワロタはガスによって強制的に戦闘不能にさせられた。
オワタが慌ててツンダと連絡を取ろうとすると、大きなノイズが走って連絡を取ることができない。
誰かがジャミング(電波妨害)を行っている。
男たちはドーピング剤を服用することで、眠ることなくオワタに向かって走ってきた。
オワタは腰のポーチからカードを5枚取り出して相手に投げつける。
カードは空中で分散して粉となり、そこに火のついたマッチ棒が投擲された。
「ツン君特製、粉塵爆発。」
粉となったカードは、一瞬で爆発へと変わり男たちを飲み込んだ。
だが、ドーピング剤によって獣となっている男達を止めるには些か不十分であった。
オワタはある程度戦えると言っても、暗殺が本職。
そんな彼にとっては鍛えられた男を3人ほど相手にするのが精一杯、ましてやドーピング剤によって身体能力が底上げされた男達を数人相手にするなど不可能な話だった。
オワタは男に飛ばされて外のコンテナに背中から勢い良く衝突した。
暑さと痛みにより意識が朦朧として一歩踏み出す気力もなく、オワタは崩れ落ちた。
「おわったな。」
オワタはボソッと口にすると、つぶろうと重くなる瞼をあげて前を見る。
そこには太陽を背にして拳を振り上げる獣の姿があった。
ドーピング剤を取引する男達
ドーピング剤、元々は一般人が戦争に参加する際の恐怖心を取り除くための精神安定剤として開発されたが、後に身体能力を上げる副作用があることが発覚して、効果をより強めた違法薬物として世間に出回るようになった。黒服の男達は仕入流通を担っているブローカー達、作業服の男達は薬をつくっている組織の人間だった。全員が戦闘訓練を受けており、無法地帯の日本では好んで手を出す人間などいなかった。
阿呆好喜 落笑堕が使うカード
主成分はマグネシウムと小麦粉。
投げると空中で粉となって粉塵爆発と強い光を発する。
考案はオワタで製作は月堕である。




