23話 何かと巻き込まれる可愛い子
雨蹴がみんなのいるビーチパラソルの場所まで戻ると、焦った顔をした笑雨と葉華邪が駆け寄ってきた。
「うけるーーー!ねぇどうしよう、ねぇ!!」
「雨蹴、雨蹴。ほんとに大変。」
「ちょ、二人ともどうしたの?」
急に詰め寄る2人に雨蹴は少し引き気味で対応して、何とかなだめる。
長男である雨蹴も来たおかげか二人は少し落ち着いた様子で声をそろえた。
「「乙華麗がどこにもいないの。」」
「え?」
話は雨蹴と我路堕が海に出た少し後だったらしい。
砂のお城を壊された乙華麗は少ししょんぼりとして一人でもジュースを買いに行った。
そして誰も戻ってくる姿を見ていないという。
雨蹴は「お手洗いにでも言ってるんじゃ。」と言うが、二人は電話にも出ないという。
どうしたものかと雨蹴が考えてあたりを見まわすと、もう一人いないことに気が付いた。
「あれ、落笑堕は?」
気が付いた雨蹴が落笑堕のスマホに着信をかける。
そしたらビーチパラソルの下からボカロ曲の着信音が鳴り響いた。
雨蹴は誰かに助けを求めたかったが、現在最年長は自分であり一つ下の我路堕は到底まともな案を出してくれるとは限らない。どうしようかと頭を悩ませていると、遠くから目深にシルクハットを被ったドレスコートの人物がビーチの砂を踏みしめてこちらへと向かってきていた。
笑雨と、葉華邪はバッと雨蹴を庇うように前に出て姿勢を取る。
シルクハットはそんな二人の敵意を気にせずに胸から一枚の手紙を取り出した。
「どうも、わが主の使いで参りました。アルトと言います。これは招待状です。」
シルクハットは片手を上げて敵意がない事を示しながら雨蹴にずいっと手紙を差し出した。
「では、これで。」
シルクハットが立ち去ろうと一歩後ずさると、構えていた葉華邪が飛び掛かった。
だが、シルクハットは空気が抜けた風船のように服だけを残して消えていった。
仕方なく雨蹴は招待状を開いて確認してみる。
内容が気になる笑雨と葉華邪も雨蹴の肩の上から覗き込んでいた。
~打琉居財閥50周年記念・阿呆九冴家末っ子処刑公演会 本日午後7時から沖縄打琉居山荘にて~
招待状の内容は何ともふざけたものであった。
今すぐ飛び出しそうな葉華邪の手を雨蹴は掴んで制止する。
どう考えても、阿呆九冴家を陥れる敵対組織の罠であった。
雨蹴はせっかくの沖縄が台無しになったことの憤りを感じながらも、2人に慌てている姿を見せたくなかったため冷静なふりをしつつ招待状を何度も読み返していた。
だが、雨蹴が混乱している事を笑雨と葉華邪はとっくに気付いていた。
それは雨蹴が何度も耳たぶを触っていたからだ。
結局その場の全員が出した答えは同じだった。
(俺が一人で助けにいくしかない。)
(葉華邪(笑雨)といくしかない。)
雨蹴の提案でまずは旅館に行くことにした3人は、月堕と我路堕に旅館に行ってくるとだけ伝えてビーチを後にした。