21話 長男対決
笑雨が拗ねてしまい構ってくれる人がいなくなった我路堕は、することもなくなってしまい自分がとってきた謎生物を回収して海に放っていた。
ヒトデにイソギンチャク。ウツボやコブダイなど、どうすれば素手で捕まえれるのかわからない物も紛れている。歯が鋭く嚙まれたらひとたまりも無いようなウツボの口を握りしめて海へと投げる。
我路堕は軽く投げたつもりだったが、ウツボは50mほど吹っ飛んで着水した。
周りの人たちが軽く引いてるのに気づかない我路堕は、次は誰にからもうかと辺りを見回した。
(うーん。落笑堕はいないし、、てか怖いしー月堕は乙華麗と楽しそうだし。葉華邪は、、、、うん。いいや。)
そのとき、笑雨が使っていたビーチパラソルの下で休んでいた雨蹴を我路堕は、見つけた。
見つかってしまった。
我路堕は、ノリノリで雨蹴の元まで歩いて行く。
その我路堕の手には水泳ゴーグルが2つ握られていた。
「雨蹴さーん。」
「ん。どうしたー?」
体育座りで風を受けながら涼んでいた雨蹴は我路堕に話しかけられて目を開けた。
我路堕はニコニコしながら持っていた水泳ゴーグルを一つ雨蹴に差し出した。
「えっと。俺にくれるの?」
我路堕の突然の行動に雨蹴は不思議そうな顔で取り敢えずゴーグルを受け取るが、我路堕の次の言葉で驚愕する羽目になった。
「雨蹴さん。俺と水泳対決しようよ。」
「え、急に?」
我路堕の意図が分からず、雨蹴は固まってしまう。
だが我路堕はそんなことはお構いなしに雨蹴の手を取ってビーチへと駆け出した。
「まぁまぁ、長男対決ってことで。あとどっちが笑雨のこと好きかって勝負だったりなかったり。」
「え。それは負けられない。」
我路堕の言葉にまんまと乗せられた雨蹴は手首と足首を回して怪我をしないように準備をする。
ルールは簡単だった数十M先にある防波堤に触れて戻ってくるというもの。
二人は近くにいた葉華邪に声をかけてスタートの合図をしてもらう事にした。
「え。スタート葉華邪がやっていいの?よーーい。どん!!」
葉華邪の合図で2人は砂浜を走る。
先に泳ぎ始めたのは我路堕だった。
筋力が高い分我路堕の方が先に砂浜を走り終えて、泳ぐ体制に入る。
足を大きくばたつかせて白波が経つ。
コンマ数秒後、雨蹴も水へと入るが、我路堕とは違ってバシャバシャと水しぶきが上がることは無い。
その差は明確だった。
雨蹴がすぐに数mの差を埋めて我路堕へと追いつく。
独走していると思っていた我路堕は雨蹴の余裕の表情をみて、慌てて水を掻くが意外にも雨蹴の泳ぎは速く先に防波堤に触れたのは雨蹴だった。雨蹴は防波堤が目前へと迫ると水中で丸くなって一回転する。
足が防波堤へと向いた瞬間、雨蹴は足が水面に出ないように気を付けて無駄のない動きで足を伸ばした。
筆が白い半紙の上にまっすぐに線を引くように、防波堤を蹴った雨蹴の身体は水中を真っ直ぐ進んでいく。既に我路堕とは数mの差がついていた。
雨蹴は少し安心して泳ぐ速度を緩めた。
そのとき、陸の方で少しざわつく声が聞こえた。
「ねぇ、ちょっと。あれみてよ」
「誰か助けてないと。」
「でも、職員とかいないぞ!!」
雨蹴は泳ぐのを止めて辺りを見回す。
そんな雨蹴の様子を訝しげに我路堕も水面から顔を出した。
陸の人々が見ている方向を見ると、一人の少年が今にもおぼれそうな泳ぎでどんどん奥へと流されていた。




