20話 お砂遊び
笑雨が我路堕に絡まれているとき、パラソルの横では乙華麗と月堕が砂でお城を作っていた。
かなり精密に作られており、天井の模様やお城の城壁までも出来上がっている。
その様子に月堕もめづらしく感嘆する様子であり、乙華麗は満足気にお城を眺めていた。さらには通りかかる外国の観光客が写真をとらせてほしいと声掛けることもあり、中学生と高校生の作品とは思えないほどだ。
だが、乙華麗はお城には満足したものの周りの造形にはあまり納得が行ってない様子でお城周りの砂をいじっている。そんな様子を見ながら月堕は乙華麗に言われるまま海水を汲みに行く係をしていた。
「月堕、もうちょっとお水とって来てほしいな。
「あ、はい取ってきますわ。」
「なんで月堕敬語なのよ(笑)」
年下である乙華麗のあまりにも真剣な様子に、なぜか敬語の月堕という変な様子の2人を見て落笑堕が爆笑している。
いそいそと月堕が水を汲んできてその水を使いながら乙華麗がどんどん庭を作っていく。
ついにはただの砂で木々が作られて一つの森が完成していた。
綺麗に仕上がったお城を観光客が写真を撮る中、そこで悲劇が起こった。
月堕と乙華麗がピースをしながらお城と写真をとっていると、物凄い勢いで黒い物体がお城へと突き刺さった。
もちろんお城は破壊され、砂が四方に飛び散っている。
「Wow」と外国人は驚き少し後ろへと後ずさる。
乙華麗は完全に破壊されたお城を見てわなわなと震えている。
そして、2時間近く悪戦苦闘しながら作ったお城をみて涙目を浮かべていた。
「お城がぁ。」
ついには膝から崩れ落ちる。
外国人にはその言葉の意味は分かるはずもないのだが、乙華麗の美少女っぷりとその僅かな涙目に惑わされつられて涙を流す人もいる。
落笑堕はそんな数人の様子を見ながら「なんだろうこの茶番。」と思いながら大好きな先輩である雨蹴の下に遊びに行くためにその場を離れた。
落笑堕が立ち去ったのをみた月堕は、一体何が落ちてきたのだろうと気になって元お城だった砂の中から薄い長方形の板を取り出した。スマートフォンである。
月堕はそのスマホに見覚えがあった。
つい先日、我路堕が笑雨の鮮明な写真を取るために25万かけてかった一億画素もある優れもので様々な機能がついているらしい。ちらりと月堕がスマホの中を覗く雨蹴とお話ししている笑雨の姿があったり、下アングルや笑雨の照れた顔が鮮明に写っている。
月堕はこれ以上は見てはいけないと考え直し写真ファイルを消去してスマホの電源を落とすと、「あのクソ兄貴!!」といってスマートフォンを地面へと叩きつけた。
だが、さすが25万の高性能スマホ。叩きつけられた箇所に一切の傷をつけることなく、軽いバウンドをして温まった砂の上に放り投げられた。
因みに。
乙華麗の泣き崩れた動画は、海外の人たちの間で努力と人生のはかなさを現した現代アートと言われ、少し話題となった。だが当の本人は気付かなかった上に、プライバシーを心配した月堕があらゆるハッキングを仕掛けたことによってあまり顔を知られることもなく次第に忘れられていった。