15話 愛らしすぎるが故、金欠
「わぁ。おいし。ありがとう雨蹴兄さん」
「あはは、うまく作れて良かったな。」
末っ子である乙華麗がふわふわのオムライスを口にほおばって幸せそうな顔をする。
雨蹴はそんな乙華麗の様子を見て頬を緩ませた。
そんな乙華麗の隣でバクバクと葉華邪がオムライスを掻き込んで「おかわりないの?」と雨蹴に尋ねていた。その様子を横目に笑雨は無言でオムライスを食べ続ける。
雨蹴はそんな妹たちのかわいらしい様子を見ながら、一瞬空いている空席を見た。
長男である雨蹴と双子の葉華邪と笑雨の間には次男である柊苦華がいた。
両親の顔をはっきりと覚えているのは雨蹴と柊苦華の2人だけである。
そんな柊苦華も今は家を出ており滅多に帰ってこない。
雨蹴はこうやって兄弟全員でご飯を食べている時に柊苦華がいて欲しいと、僅かな寂しさを覚えていた。
だが、それとは別に雨蹴は自分のバイト代が入った財布を見つめて小さなため息をついていた。
一転してオムライスを作るまでの話である。
乙華麗が食べたいと言い出したオムライスを作るために雨蹴はスーパーに走っていたが、途中で不良どもに絡まれて雨蹴は時間ロスをする羽目になった。
雨蹴はスマホのロック画面にて時間を確認すると残り10分ほどしかなく走るスピードを上げた。
落書きのある電柱を通り過ぎ、機能を失った交番を曲がる。
タイムセールから5分遅れたもののお目当てのスーパーにたどり着くことができた。
卵コーナーには買い物かごを持った主婦のおばさんだけでなく、お使いを頼まれた子供も争奪戦に参戦していた。雨蹴はそんな主婦団子の中に突っ込むがはじき出されてしまう。
じきに主婦団子がほどかれ、売れ残った卵パックが見えてきた。
雨蹴が最後の一つを取ったとき背後から「ぁ。」というか細い声が聞こえる。
後ろに立っていたのは小学生低学年位の男の子で雨蹴の卵を見つめていた。
「ぼうや、もしかしてこの卵を買おうとしてた?」
「うん。おーかーさんとのやくそくなの」
元気よく答える男の子に雨蹴は少し考える。
そして手に持っていた卵パックを男の子に差し出した。
男の子は「ありがとうおねーちゃん」というとおぼつかない足取りで走っていった。
雨蹴は少し心配そうに男の子を見るが、後から渡してしまったことを後悔した。
通常の1/4の値段で売られていた卵はもう完売しており、通常の値段の卵しか売られていなかった。
雨蹴は食費用の財布を見る。普通に卵を買ってしまうと一日の食費を余裕でオーバーしてしまう。
そして別に持っていた自身のアルバイト代が入った方の財布を見た。
その中には買いたい文房具用のお金が入っており少し余裕があった。
可愛い末っ子の笑顔と欲しい文房具
雨蹴は逡巡したのち高い方の卵を手に取った。
自身が欲しい文房具を諦める代わりに末っ子の笑顔を選んだのだ。
雨蹴は自分の妹たちの溺愛っぷりを嘆きながら、妹弟たちがどんな顔をしてくれるかと考えていた。