12話 馬鹿なのはどっちか
笑雨は吹き飛ばされながらも発砲する。
が、弾丸は男の遥か真上の金属チェーンを打ち抜き工場内に甲高い音を響かせた。
男はこらえていたかのように噴き出す。
「あっはっは。バカかよお前は。あの時みたいにしっかりと狙いをつけないとなぁ??」
嘲り笑う男に怒りが収まらない葉華邪が殴り殺そうと足を踏み出すが、笑雨の「ダメ」の一言で静止する。男は、歯ぎしりをして踏みとどまる葉華邪を見て壁を叩きながら更に笑った。
そんな中、笑雨だけが冷静に真っ直ぐ上を指さした。
「しっかりと狙いはつけたよ。だから葉華邪を行かせなかった。」
笑雨がそう言ったのと同時に太い金属チェーンが大きな音を立てて落ちてきた。
男が慌てて上を見るが、もう手遅れだった。
何かの部品であろう巨大な鉄骨が、金属チェーンの音にまぎれて落下してくる。
笑雨が打ち抜いた金属チェーンは鉄骨を天井に固定するもので、男はその鉄骨につぶされる形で死んでいった。
「す...す…」
「す?」
「すごぉぉい!!˖✧なんであれが落ちてくるってわかったの?めっちゃ運良かったねぇ!!」
なぜ落ちてきたか理解していない葉華邪を見て、笑雨は苦笑いする。
今ならば笑雨は超能力者なんだよと言っても信じそうな葉華邪に、笑雨が自分が鉄骨を落としたのだと説明すると葉華邪は更に笑雨を褒め称えた。
笑雨と葉華邪は鉄骨を乗り越えて元来た道を歩いて戻る。
ふと見ると、先ほどの男が脱いだであろうジャケットが配管の上にかけられていた。
笑雨がジャケットを掴み漁っていると、財布が見つかった。
2人で中を見てみると4万円程の現金と小銭、そして数枚の名刺が入っていた。
名刺を見ると、「孤真棚カンパニー所属・殺し屋 厚 森尾」と書かれている。葉華邪はその名前を見て変な名前と笑っているが、笑雨は所属している集団の名前に引っかかっていた。
弧真棚カンパニーと言えば慈善活動や武器の押収などをしている平和団体のような会社で、武器を開発生産している阿呆九冴グループとは水と油のように相反する敵対会社であった。
阿呆九冴グループの子供である葉華邪と笑雨に、弧真棚カンパニーの人間が差し向けられる。
偶然と言ってしまえばそれで終わりだが、笑雨はそこに小さな違和感を感じていた。
葉華邪と笑雨は黒い羽根を回収するのが役目だが、黒い羽根を送っているのは笑雨と葉華邪ではない。
今まで殺してきた人物たちは確かに悪い大人であったはずだ。
だが笑雨は物心付く時から繰り返してきた殺しという行為に、段々と理由を求め始めていた。
笑雨がちらりと横を見ると、奪った財布から取った五百円で吞気に遊んでいる葉華邪の顔がある。
そして笑雨が目を閉じて大事なものを思い浮かべれば、そこに浮かぶのは兄弟や従兄弟の姿であった。
これから大事なものを守るには殺しを続けていても、守れるものは守れない。
笑雨は何も考えていなさそうな葉華邪を横目に自問自答を繰り返していた。
阿呆九冴グループ
戦争を助長しているといっても過言ではない会社。
武器や薬品、生物兵器の開発など戦争に関わるあらゆる分野で開発生産をしている。
日本全体に支社や子会社があり、その影響で敵対組織も日本全体に散らばっている。
とある人は阿呆九冴グループのおかげで生き延びたとも言うが、とある人は阿呆九冴グループのせいで全てを失ったと語る。