新章10話 全ての終わりは始まりの合図
阿呆九冴家。
それは現代の日本社会において最大の企業を運営する家系であり、日本の腫瘍であった。
戦争の第一線で使用される武器のほとんどを阿呆九冴グループが作っており、本社と子会社が日本全体に乱立していた。
そんな阿呆九冴グループに対抗する組織は数多く存在しており、日本は当に地獄であった。
そんな日本の町で生きる若手マフィアの3兄弟の元に1通の手紙が届いた。
内容は各地に点在する様々な犯罪を止めてくれという内容。
差出人は阿呆九冴グループ現代表取締役「阿呆九冴 軌利矢」、作戦を立てる落笑堕は反対した。
なぜならあまりにも危険だったから。
だが、普段から能天気であるリーダーの我路堕は引き受けることを即決した。
で、現在我路堕は大勢の追手に追われていた。
全力でダッシュする我路堕を置いて落笑堕は道具を使って一瞬で逃げており、我路堕はおとりにされていた。
落笑堕からは絶対開けるなという瓶を一つ渡されていた。
炎天下の中汗だくになって走る我路堕は地面の傘につまずいて盛大にずっこけた。
瓶が我路堕の真後ろに盛大に吹っ飛び追手の目の前で音を立てて崩れ去る。
瓶からはピンク色のもこもこが一気に噴き出して我路堕が走っていた路地を覆いつくした。
お陰で我路堕は追手から逃げることに成功して、瓶の事は忘れ去った。
後から落笑堕に怒られたのは言うまでもない。
ピンク色のもこもこは阿呆九冴グループが新開発した対戦車防御素材である。
「あのさぁ、絶対開けるなっていったよねえ?!」
「いやーおもいし?すべるし、仕方ないよね。うんうん」
我路堕は落笑堕の怒りを片手に持ったコーラに注ぎ込んで喉に流し込む。
そんな様子に落笑堕はあきれつつ、次の説明をした。
「まぁ、俺が持っていた方の予備を使うことにします。今回の任務はこの素材の運搬。既に4つあったこれは3つも誰かさんが割ったので最後のは俺が持っておくんで、はい」
落笑堕はバイクに乗って道路を走る。
後ろから黒いレクサスが銃をぶちかましながら追いついてくる。
「ばーか」
落笑堕が後ろに手榴弾を投げると、爆発と共に煙幕が広がって直撃したレクサスは後ろに横転した。
数々の追手を躱して、遂に阿呆九冴グループの子会社の一つに落笑堕は到着する。
だが、落笑堕の手には膨らむ前のピンクが入った瓶は握られていなかった。
30分ほどして自転車を全力で漕いできた我路堕が合流する。
落笑堕が我路堕の背負っているリュックをガサゴソと漁ると中から瓶が出てきた。
当然のように取り出す落笑堕と裏腹に、我路堕が驚いた顔をする。
落笑堕は大きなため息をつくと、我路堕の洋服の裾についていた一つの金属片をつかみ取って壊した。
「ずっと盗聴されてたんだよ。瓶をだれが持ってるかわかってたからあんなに我路堕の方に人が群がってたんだ。」
2人は瓶を子会社の業務の人に手渡すと、スーパーに夜ご飯の材料を買いに向かった。
丸一日逃げ回っていた2人を背中を労うように、沈む夕日が背中を照らしていた。