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第8話

 英治たちはUSJに入園した。

 

 そこはまるで映画の世界にいるような感覚。

 

 訪れる人達はみんなテンションが高く、クルーたちも笑顔で溢れたいた。

 

 英治と麗奈も思わず笑顔になっていく。

 

 誰もが元気になれる夢の時間だった。

 

 日が暮れて、英治たちは予約したホテルへと足を運んだ。

 

 その部屋はスイートルームほどではないが、USJを一望できる大パノラマルームだった。

 

「すごーい! この景色を見ながら泊まれるなんて最高すぎます!!」

 

 麗奈は子供のように無邪気にはしゃいだ。

 

 それもそのはず、この部屋は1泊2万円もする部屋。

 

 最高のロケーションもあって、二人は胸を高鳴らせた。

 

「英治様、麗奈様、本日は当ホテルのデラックスダブルをご利用いただきありがとうございます。ご夕食とご朝食は、当館3階のバイキングレストランをご利用くださいませ」

 

 コンシェルジュが英治たちに夕食のレストランについて説明する。

 

「それは楽しみですね」

 

「めちゃくちゃ美味しい料理が食べれるのね!」

 

「何が食べたい?」

 

「もちろん、モンキーカントリーのバナナチョコパフェ!」

 

 楽しそうに話す英治と麗奈。

 

「お風呂はお部屋の展望浴場をご利用ください。そこからの絶景は、私のイチオシポイントですので」

 

「ありがとう!」

 

 コンシェルジュは英治たちのもとを去る。

 

 二人は荷解きをしてベッドでくつろぐ。

 

「麗奈さん、今後はどうするの?」

 

「そうだね。VRグラビア動画の撮影があるから、3日間は熱海かな? 英治さんは?」

 

「映画ラグナロクのクランクアップへ向けての打ち合わせかな?」

 

 英治と麗奈は呑気に話す。

 

 その一方で、西園寺夫妻は同じホテルの違う階層の一室で一泊することにした。

 

「あの二人をどうやって料理しましょうかね?」

 

「母さん、まずは下ごしらえというものを知らないのか?」

 

「あらやだ。すっかり忘れていたわ」

 

 城三郎とはつねは計画の下準備をしていた。

 

「まずは、大阪にいる人気者気取りの淫乱女を始末する。二度と撮影ができないように事務所を燃やしておく」

 

「そうよね。まずは苦しみを与えてやらないとね」

 

 城三郎ははつねといったん別れて部屋を出る。

 

 向かった先は、通天閣タワーにほど近い大阪の小規模レイヤー事務所。

 

 城三郎はタクシーを呼んでここまで来た。

 

 勘定を済ませて、人通りの少ない路地裏で待ち伏せる。

 

「今日は、大阪通天閣のおすすめグルメスポットの紹介動画を撮影するぞ!」

 

 事務所からでてきたのは、今や人気急上昇中の人気コスプレイヤー「上原わかこ」。

 

 大阪府出身で事務所の経営もこなす期待の新人。

 

「この淫乱女め。お前を殺して二度と表舞台で喋れなくしてやる」

 

 城三郎が手にしたアタッシュケースから取り出したのは、猟銃としても有名な狙撃銃。

 

 暗視スコープと消音装置(サイレンサー)を取り付けたプロ兵士仕様。

 

 路地裏の闇に紛れ、城三郎は息を潜める。

 

 わかこが射程範囲に入った瞬間。

 

(死ね!)

 

 城三郎が引き金を引く。

 

 放たれた弾丸がわかこの頭に命中し、命を奪った。

 

 悲鳴とともに混乱する人々。

 

 それに乗じて、城三郎は彼女の事務所へと押し入った。

 

「この事務所は、わが西園寺ホールディングスが取り潰す!」

 

 そう言って、火炎瓶を無人のロビーに投げつけて走って立ち去る。

 

 火炎瓶が爆発し、わかこの事務所は炎に包まれた。

 

 周辺にも燃え広がり、大阪初のテロ事件となった。

 

 そうとは知らずして、英治と麗奈はホテルで食事をしていた。

 

「英治さん、このシュリンプカクテル、大阪スパイスカレーソースで食べるみたいですよ!」

 

「さすが大阪だね」

 

 呑気に食事をしていると、英治の携帯が着信を知らせた。

 

「はい」

 

『先生、今どこですか!?』

 

「今大阪のホテルだけど?」

 

『たった今入ったニュースで、わかこさんが何者かに撃たれて、事務所が燃やされた!』

 

「なんだって!」

 

 わんぱくの担当編集者から先程起きた事件のニュースを聞かされた。

 

「わかこちゃんと言えば、浪速気質で有名な子だよ! どうして撃たれたなんて……!」

 

 麗奈も携帯のニュースアプリの速報を見て驚愕した。

 

「とにかくこうしちゃいられない。 今日は休んで朝イチの新幹線で帰ろう!」

 

「そうだね!」

 

 英治たちは、とりあえずホテルで一夜を過ごすことにした。

 

 こういう場合は下手に動くと犯人の思う壺になる。

 

 とりあえず夜を明かして、朝イチの新幹線に乗る準備をしておく。

 

 それが、英治たちにとって今できること。

 

 城三郎も部屋に戻ってきた。

 

「お父さん、お仕事ご苦労さま」

 

「あぁ。いい仕事をしてきたよ。金はもらえなかったが、事務所潰しの偉業を成し遂げてきたよ」

 

 はつねに迎えられ、城三郎はごきげんだった。

 

「お父さんこれからどうします?」

 

「そうだな。まだ下ごしらえは済んでいないから、京都へ向かおう」

 

「明日の新幹線、予約しておきますね」

 

 はつねは携帯の切符サイトから新幹線を予約する。

 

「有名人どもには、不幸を味わってもらいたい。私たちの苦しみと憎しみを込めてな」

 

 翌朝、英治たちは新幹線で東京へと帰っている。

 

 今朝の新聞を見ても、テロの話で持ちきりだった。

 

 日本政府としても、断固として容疑者に対する対処を行うと発言した。

 

 しかし、

 

「このテロにはなにか理由がある」

 

「この問題はテロじゃなく正当な抗議手段だ」

 

「オタクカルチャーに一矢報いた英雄に減刑を」

 

 といった左派活動家が、SNSで大いに沸き立っている。

 

「嫌な連中ね、パヨクって」

 

「同感だ」

 

 英治と麗奈は、そう言いながら朝食代わりの豚まんを一口かじる。

 

「でも、例の連続強盗殺人事件との関わりがないテロ事件だよね? 警視庁は同一犯による犯行の可能性が否定できないって言うし」

 

「僕の推測だけど、西園寺ホールディングスが潰されたことへの恨みで社会的な報復を目論んでいるとしたらと考えれば辻褄が合いそうじゃないか?」

 

 その推測は正しかった。

 

 現在、西園寺夫妻は会社を潰された恨みから有名人を殺害したりして社会的報復を行っている。

 

「社会的な報復って、いくらなんでもって言いたいけど私の身の回りで起きた事件を考えればそうかも知れないわね」

 

「用心したほうが良いよ。犯人はすぐ近くにいるかも知れないから」

 

 英治の言葉通り、城三郎ははつねと一緒に英治たちと同じ新幹線に乗っていた。

 

「お父さん、あの二人をいつ始末するのですか?」

 

「今はその時ではないよ、はつね」

 

「そうですね。京都へ行って何をするのですか? 既に警察が監視を光らせているのよ?」

 

「そう、今回は警察どもを懲らしめてやるのさ。二度と私たちに手を出さないようにするための」

 

「警察殺しですか。いいわねぇ」

 

「奴らにはいなくならないと私たちの計画は進まない」

 

 警察への復讐と社会への悪意。

 

 城三郎とはつねの計画は、次の段階へ(・・・・・)進み始めていた。

 

 東京へ帰り、英治と麗奈はそれぞれの持ち家へと帰宅。

 

 英治は集談社とオンライン会議を始めた。

 

「無事に帰ってきました!」

 

『おぉ! 無事だったか』

 

『心配していましたよ!』

 

『先生がいないと映画ラグナロクが出来上がらないののですよ』

 

 担当編集や映画監督たちが英治が無事であることに安堵した。

 

「それよりも、映画の進捗は?」

 

『明日にもクランクアップ予定だよ。あとはうちの編集チームが、最高の作品に仕上げていくよ。もちろん、先生の意向を尊重したうえで』

 

 映画監督が言うには、作品を作るに当たって原作者の意向を無視した改変が問題点となっている。

 

 そうした観点から、どうやってリスペクトしつつも新しい作風を見せるかが今後のエンタメに於いて重要課題。

 

 原作者との折り合いをつけることが、最大のポイントだ。

 

「できればバトルシーンについては未公開シーンを加えたディレクターズカットをネットフリックス配信限定にすると、」

 

『上映版との違いをはっきりさせることですね。了解しました』

 

「それでお願いします」

 

 英治はオンライン会議を終えてメールの確認をする。

 

「やはりくるとは思っていたよ」

 

 コミケの一件以降、名も知らない毒親たちの誹謗中傷メールが大量に毎日のように送られてくる。

 

「お前の作品はうちの毒だ」

 

「連載プロジェクトを中止しろ」

 

「我が家の名誉のために、活動停止を」

 

「映画ラグナロクは駄作だ」

 

「娘のために、速やかなパートナー解消を求む」

 

 といった具合だ。

 

 すると、

 

『英治さん、私の方からも嫌がらせのメールがたくさん来てもうウンザリだよ!!』

 

 麗奈も同様のメールが来て鬱になりそう。

 

「そっちもか」

 

『いちおう、フィルタリングはかけてあるけど?』

 

「毒親にとって、僕達の社会的成功は目の上のたんこぶみたいだね」

 

『うわ、マジゲロい。こうなったら、彼奴等よりハッピーになって、世界に私たち(・・・)の名を轟かせてやる!』

 

 麗奈はやけくそ気味になって英治に、

 

『英治さん、私とお見合いして!』

 

「え?」

 

『うちの親、今定年で沖縄で暮らしているから、来月4日に沖縄へ行きましょう!』

 

 婚姻話を持ちかけられた。

 

 何がなんだかよくわからないが、はっきりしていることは唯一つ。

 

「わかったよ。父さんたちは千葉で暮らしているから呼んでも良いかな?」

 

『もちろん! 来月4日の13時に羽田空港エントランスで!』

 

 麗奈と英治は、お見合いについて話し合う。

 

「お見合い場所はどこにする?」

 

『以前、沖縄グローバルアニメコンペティションでお世話になったホテルがあるから、そこの和食レストランでお見合いしましょう!』

 

 そうこうしているうちにお昼時になっていた。

 

「じゃぁ、麗奈さん」

 

『ランチデートね! OK、今日は私が奢るよ』

 

 英治は一旦会話を切る。

 

 軽く身支度をして自宅マンションを出る。

 

 世間も空もすっかり秋模様になり、秋めくファッションがあちこち見かける。

 

 麗奈と合流し、向かった店は六本木で有名なバーガーショップ。

 

 こだわりの黒毛和牛とアメリカ産黒アンガス牛を混ぜて作るパティは世界の食通から「ファストフードのセレブ向けチェーン店」と言わしめる。

 

「このお店のダブルバーガーは、5000円もするけど味は一流だって!」

 

「あと、サイドのチリビーンズは辛さも調整できるみたいだよ」

 

「よかった。私激辛系はダメなんだ」

 

「僕はデカ盛り系に挑んだことはあるけど、失敗しちゃってね」

 

 そんなテンションで店の中へ入る。

 

「welcome! おや、英治先生にレコちゃん! ランチデートに来るとは、Spring has come!」

 

 元海兵隊の祖父を持つ日系アメリカ人店主が陽気に二人を出迎えた。

 

「店長、いつものダブルバーガーとコブサラダを2つ。ドリンクはお店自慢のクラフトコークで」

 

「OK! じゃぁ、3番カウンター席で待ってくれ。 Guys, here's your order! Serve the best flavor possible!」

 

「Got it, chef!」

 

 店員たちが元気よく仕事に取り掛かる。

 

「しかし、ここ最近じゃ毒親というのは社会問題になっていてね。米国(アメリカ)じゃ大統領が<児童虐待で子供を死なせた親に終身刑を言い渡す>って大統領令(めいれい)を出したんだ。まぁ、これで日本も同様になってくれればいいんだが」

 

 店主は英治たちの前にお冷の水を置く。

 

「そうですね」

 

 英治は、保護責任者遺棄致死罪の厳罰化を少しだけ期待していた。

 

 これから起こる事件が、そのきっかけの一つになることを知らずに……。

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