第2話
私の親は、いわゆる転勤族だった。
小学生で友達ができない自分が憎かった。
父は大手商社の地方担当営業マン、母はフリーアナウンサー。
全国を飛び回り、色んな知識と文化を学んだ私山本麗奈は、中学進学の時、全寮制の中高一貫校に入学した。
私の学園生活が始まった矢先、
「山本さんは、転勤族で羨ましいなぁ……」
学校の不良たちに絡まれてしまった。
「こんな可愛い子がこの学園に入ってくるなんて、俺達ツイてるなぁ!」
早速いじめが始まろうとしていた。
そんな時、
「そこまでよ!」
美しく、凛とした声が響いた。
「げ、生徒会長!」
「ちっ、覚えてやがれ!」
不良たちは逃げていった。
私はきょとんとしていた。
眼の前の人が眩しすぎて、声が出なかった。
「大丈夫ですの?」
いかにも良家のお嬢様らしい雰囲気。
私はそんな彼女に憧れていた。
「あなた新入生? 彼らの動向は頭を悩ませていましてね。私たちは風紀を守るために活動しています」
生徒会長は私を守ってくれそうな予感がしていた。
その日から私の学園生活がスタートした。
生徒会に入った私は、充実した生活を送った。
生徒会役員として下積みを積み上げ、学園最後の年には生徒会長として学園の催事現場で活躍をしてきた。
そんな時、最後の学園祭で事件が起きた。
その日は、私たち生徒会最後の役目として学園全体で奮戦していた。
学園祭前日ということで、私たちは最終確認に追われていた。
「会長! すべての出し物の準備があと少しで終わりそうです!」
「食材の調達もバッチリ手配してきました!」
みんなも気合十分だ。
私も頑張っておこう!
「みなさん、明日は学園祭です! 体調に気をつけて万全の体制で行きましょう!」
そう、ここで体調を崩したら元も子もない。
私も気合を入れて寮へ戻ることにした。
その夜は、私も学園祭の資料をしっかり整理してこの日は寝ることにした。
翌日、待ちに待った学園祭!
みんなの笑顔が眩しくて一人ひとりが輝いている。
私は、そんなみんなの笑顔が大好きだった。
そんな中、
「この学園祭は性的興行とみなし、断固として反対する!」
何やら校門のほうがうるさい。
私はそこへ向かうと、40代のおばさん軍団7人が校門前へと来ていた。
「何なのですのあなた達は!?」
「私たちは、国民健全生活連絡会。 子どもたちの健全な生活のために立ち上がりました。この学校の学園祭は私たちの権限で中止を要求します」
「それは困ります。 生徒のみなさんが楽しみにしていたのですよ。今更中止にするなんてできませんわ!」
私は、毅然とした態度で反論した。
ここで引き下がるわけには行かない!
「でしたらば、私たちは強硬手段を使わざるを得ませんね。 こちらに私達がこの学園の学園祭について性的興行か否かをアンケート調査したのでその結果をお見せしましょう」
リーダー格の女性が1枚の紙を見せる。
それを見た私は驚愕した。
「弁護士水無瀬朋子は、本案に対して性的興行の判断を決定。
これにより中止を要求し対象イベントは直ちに中止をするように」
弁護士が絡むとこの事実は受け入れたくない。
「私がなんとかしよう!」
学園長が私たちの文化祭を守ってくれるのかと思った。
「皆さんのお気持はよくわかりますが、生徒たちの笑顔のため、ここはお引き取り願えますか?」
ここは権威ある態度で、学園長はおばさん軍団を引き下がらせた。
「この人は確か、国際弁護士とグルだった!」
「これでは私たちの不利だわ!」
おばさん軍団はそそくさと逃げ出した。
これはさすがとしか言いようがないわ。
「みなさん、どんな状況でも諦めない心を持ってくださいね。理不尽な要求をされても、決して屈しない心こそが今の世の中を生き抜く力になりますから」
学園長の言葉を胸に、私は大学へと進学した。
所属するサークルは漫画研究と考察のサークル。
理由は電子書籍で読める漫画とアナログの本の違いについて研究したかった。
「麗奈さん、コスプレイヤーに興味ないですか?」
大学の後輩がこんなことを申し出た。
「ど、どういうことですか?」
「実は、週刊ヤングジェッツ表紙をかけたオーディションが開かれて、私の事務所代表が一人足りないの。麗奈さん、一緒に出ませんか!?」
後輩のお願いにどうも弱い私は快く承諾した。
そして、見事オーディションに合格し、私は「東雲レコ」として華々しいデビューを飾った。
それ以降、私は大学の学業をこなしながらコスプレタレントとして充実した人生を送っていく。
バラエティ番組への出演や、コスプレイベントの公式アンバサダー。
私の人生は思った以上の薔薇色だ。
この世界に飛び込んで以来、幸せだなぁと思えることが続いていた。
「いやぁ~、ひと仕事終えたあとのお酒は格別だぁ!」
缶チューハイを一口、そして唐揚げを頬張る。
やっぱり唐揚げにチューハイは最高じゃないですか!
携帯のSNSを確認する。
やはり、話題はコミケで出す同人誌の中で大手出版社が読み切り版の新作マンガを同人誌として出すという。
「でも、大手出版社が同人誌を出すのって、以外だったな。一体なんだろう?」
私はそう思いながらも明日の仕事に向けて準備をすることにした。
明日は大阪遠征。
大学はすでに卒業している。
私は本格的な芸能活動を初めて2年。
収入は安定しており、今は動画配信やメイク動画もこなしながらバラエティ番組の出演とかもやっている。
多忙な私だけど、それが今の私だって実感している。
私はとりあえず寝ることにした。
夜は静かに更けて朝が来る。
私は夜明け前の午前3時に家を出て、マネージャーと合流した。
車に乗り込み、静岡方面へと走らせる。
「今日は沼津のプロモーションガールとしてのお仕事だから、気合が入るな」
「そうでしょうね! 私も今からが楽しみでワクワクしてるよ!」
車を走らせる私たちは、静岡県沼津に差し掛かった。
人気アイドルアニメで活性化したこの町は、美しい景観と人柄の良さで、今やエンタメ観光地として大洗都なら無経済効果を叩き出している。
私はグラビアの仕事がてら、沼津の観光プロモーションを買って出た。
「レコさん、こっち向いて!」
カメラマンが私を呼ぶ。
私はグラビア水着を着用している。
自慢じゃないけど、スタイルには自信がある。
自分でも見える大きな乳房は、カメラマンを虜にした。
「つぎ、シャイニースピリアのあさぎりなちゃんコス、お願いします!」
「了解です!」
私はすぐに簡易更衣室へと向かう。
こんなこともあろうかと、衣装を用意していたのだ。
青を基調としたアイドル衣装に、赤いウィッグと緑のカラコン。
これらをうまくまとめ上げる収納技術。
私ってやっぱり天才!
「おまたせしました!」
コス衣装に着替えた私は、カメラマンに向かってポーズを決める。
シャッター音がどこか心地良い。
やっぱり私って、コスプレやっててよかったなぁ。
そう思えた。
撮影の休憩も兼ねて、近くの浜焼きのお店でお昼ご飯を食べることにした。
「午後のお仕事も頑張るとしますか!」
出来立ての干物を味わいながら、次は商店街でコスプレ撮影の仕事をする。
「レコちゃん! 最近コスプレイヤーでも命を狙われる可能性があるらしいよ」
「それってどういうこと?」
私はカメラマンの言葉に首を傾げる。
「知り合いの報道カメコから聞いた話じゃ、不法移民によるコスプレイベントの妨害やレイヤーへの暴行があとを絶たなくなり始めていてね。君の事務所だって、いつ狙われるかわからないだろう?」
不法移民問題、政府が何とか解決しようとしているけど、それをよく思わない人達がいるのもまた事実。
とりあえず、お昼休憩を楽しまなきゃ!
デザートのみかんパフェ、美味しかったなぁ。
「今日はお疲れ様でした!」
カメラマンと別れた私とマネージャーは車を走らせ東京の自宅タワーマンションへと向かった。
「あぁ、今日も楽しかったなぁ!」
「レコちゃん、帰りにいつものお店によってかない?」
「いいよ、飲酒運転になっちゃうから」
呑気な会話を繰り広げる中、カーラジオから意外な情報が飛び込んだ。
『コスプレイヤー、暁レナの全力ドーパミン! 今日のテーマはズバリ、コミケ!』
後輩のレイヤーがパーソナリティを務めるラジオ番組が放送された。
『今日もお便りたくさん届いてるよ! 全部は読めないけど、目を通してるから大丈夫だよ!』
相変わらずのハイテンション。
私はそんな元気があっていいなと思った。
『ラジオネームは匿名希望さんかな? <この世界は不公平だ。息子を出し抜いたお前を許さない>って、何このお便り? 無視無視! では、本日のテーマいってみよー!』
さっき読んだメールの内容がなにか引っかかる。
そう言えば、昨日のニュースで毒親による有名人への誹謗中傷が活発化していると聞いた。
理由と動機は定かじゃないけど、自分たちの子供や当事者本人より幸せな人を潰して自分たちの心理的安定を保とうとしているからと、専門家が話していた。
となると、私も叩かれるのかと思う。
今の仕事で輝いていると、当然その足を引っ張ろうとする者たちが出てくるわけだから。
「レコちゃん、念の為にセキュリティを強化したらどうかな?」
「扉の暗証番号変えたほうが良いかもね」
マネージャーと話しているうちに、私は六本木にあるタワーマンションに着いた。
「それじゃ、お疲れ様!」
「来週のお仕事まで休みだから、ゆっくりしてね!」
マネージャーと別れて、私は郵便受けを見る。
やはり私のファンレターや、小荷物が届いていた。
宅配ボックスを見ると、私宛のお酒が届いていた。
「ゴッドさんからだ。 しかも酒ガシャ、何が入っているんだろう?」
SNSでやり取りをしている相手から届いたお酒は私を常に驚かせてくれる。
しかも、ガシャのようなシステムで届くお酒はいつにもなく楽しいものだ。
「さてと、持って帰って開けますか」
女性にとっては大荷物だが、とりあえず持って帰る。
私の部屋は12階にある2LDK。
日当たりも良好で、大量収納可能なクローゼット付き。
そんな部屋に私は一人で暮らしている。
「さて、開封しますか」
ガシャの箱をカッターで開封する。
「おぉ! レジェンダリーのリキュール<伝説のミード>! これ前から飲みたかったやつだ!」
以前から気になっていたお酒が入っていたことに私は喜んだ。
「その他には、<いちご大吟醸・魁>と、<こいのぼり>。これはお買い得だったなぁ」
私が飲みたかったお酒が届いて本当に嬉しいものだ。
「さて、冷やしておいて後で飲もう!」
すぐにお酒の瓶を冷蔵庫にしまって夕食にする。
冷凍宅配食をレンジで温める。
私は、テレビを付けてバラエティ番組を見る。
『これ、ホンマかいな!』
『せやかて、こんなバカ自愛はおもろいで!』
お笑い番組は本当にいつ見ても面白い。
来週月曜まではお休みだから、思い切りゴロゴロできる。
そう思って、私は携帯のメールを確認する。
迷惑防止フィルターが仕事をしてくれているから、本当に助かった。
私はその時知らなかった。
まさかあんな事が起きるなんて……。