第13話
「あんたらは部外者だから良かったね。あいつ等、沖縄の問題は沖縄で解決するから、部外者は黙ってくれの一点張りだ」
運転手の話によれば、極左翼の沖縄県民は外部からの干渉を激しく嫌っているという。
「たしかに、私がちょっとちょっかいを出しただけですぐにブロックしてきますから」
以前、麗奈が興味本位で政治を批判するSNSアカウントに自分のコスプレ自撮りの写真を送ったら、ブロックされたという。
理由は定かではないが、自分たちの快楽を邪魔されたくないのが本音と言える。
フェミニストを自称する中年女性は、よくアニメなどを性的な活動などといって叩いている。
そこに第三者が割って入ると、「邪魔をするな部外者、お前も叩いてやる」といった事態が起きてもおかしくない。
そういた活動家を邪魔する人もどうかと思うのは、みなさんもご理解できるはずだ。
「まぁ、あんたらは幸運だ。アイツら自称県民のやり方には頭を悩ませているんだが、関わらないほうが身のためだ。訴訟されてもおかしくない状況だ」
「と、言いますと?」
「ここ最近、知事がサブカル狩りを徹底しているんだ。まぁ、関わらないことだ。アイツらと目があったら言いがかりをつけられる可能性が大きいからな」
運転手は目的のかき氷屋へとたどり着いた。
「パパ!」
「麗奈! それに神城先生も!」
麗奈の父・雄一郎が、麗奈と英治を出迎えた。
「はじめましてお父さん」
「娘が世話になってますよ、先生の作品は拝読していますから」
英治と雄一郎は固く握手をする。
「先生も災難でしたね。毒親問題も大変だったろうに」
「大丈夫ですよ」
英治は雄一郎に笑顔を見せた。
「ここ最近、宮古島が沖縄サブカルチャーの聖地になりつつあるって聞いたことはあるかな?」
「といいますと?」
「本島じゃ、知事のサブカル狩りが日に日に過激さを増していってね。そうならないうちに宮古島へ移すアニメショップが多いのさ」
確かに、那覇市ではアニメショップなどが見当たらなかった。
よほど、知事のサブカル嫌いが顕著に現れている。
「とりあえず、娘をお願いします。先生なら幸せにできる」
「わかりました」
雄一郎と別れた英治たちは、とりあえず滞在先のホテルで一泊する。
「英治さん、そういえば西園寺夫妻の最高裁での公判が来週でしたよね?」
「そういえば、僕達は証人として喚ばれるのか」
そう、来週火曜から西園寺夫妻の最高裁での公判が開かれる。
英治たちは、証人として招かれる予定を入れた。
「英治さん、あの夫婦にガツンと言ってやりましょう!」
「そうだね!」
来週から始まる西園寺夫妻の公判。
英治たちは法廷で全面対決をとる構えを見せた。
翌朝、早めの飛行機に乗り、東京に帰った。
「英治さん、実は引っ越すことにしたの!」
羽田空港に着くやいなや、突然の麗奈からの告白に、
「そうか。それはさみしいな」
英治は少し悲しげになった。
「そう、英治さんのお部屋に! 来月から二人きりですよ!」
なんと、麗奈は半ば強引に同棲生活を英治と始めるのだ。
「僕の部屋は、君の衣装が入るクローゼットを確保していないんだよ!?」
「ふふーん! そう来ると思って、今までの衣装を全部売って、引っ越しの代金に変えました!」
「えぇーっ!?」
「これからもよろしくお願いしますね。英治さん」
「よろしくお願いします……」
英治はたじたじになった。
夜、英治は最高裁から証人喚問の通知メールを確認した。
「やはり、僕と麗奈さんと監督が喚ばれるのか」
監督も被害者である以上、それに越したことはなかった。
「あれ? 誰かからメールだ」
英治は突然来たメールを開封する。
「お初にお目にかかります。
西園寺被告夫妻の子息、西園寺紘汰です。
突然のメールをお許しください。
両親に圧力をかけられて育ったため、どうしても人と話すのが苦手でした。
しかし、私の親戚が優しかったため、現在はプロバスケプレイヤーとして、活躍をしています。
それでは本題に入ります。
私も、両親の公判に証人として出廷します。
父が極秘裏に進めていた、ある計画の資料を証拠として西園寺ホールディングスに終止符を打ちたいのです。
こんな私の微力ですが、あなたのお力添えになればと思っています」
紘汰が勇気を振り絞って英治にメールを送ってきたのだ。
これは心強かった。
「お心遣い、ありがとうございます。
私もご両親の被害者ですので、ともに頑張りましょう」
英治は紘汰にメールを返した。
これほど素晴らしい仲間はいないと、英治は思った。
そして、麗奈の部屋では英治との同棲に向けて荷物をまとめていく。
「パパったらほんと私に投げやりなんだから、娘である私の身にでもなってよ」
そして、1枚の写真を取り出す。
そこに映っていたのは麗奈と弟、そして両親。
「ママ、陽介、もう一度でいいから会いたいよ」
7年前に麗奈は母親と弟を失った。
要因はクルド人による集団強盗殺人。
彼らの野蛮な行動に業を煮やした政府は、全在日クルド人の一斉送還を発令、一部反対運動はあったものの、事態を収束できた。
「泣いてたって仕方ない! 英治さんとの幸せのために!!」
麗奈は荷造りを続ける。
数週間後には、英治と同棲するのだから。
そして、11月21日。
いよいよ、西園寺夫妻の公判を迎えた。
「英治さん、私の友達の弁護士によれば、西園寺夫妻は優秀な弁護士を買収しようとしたらしいです」
「あの夫婦、どこにそんな資金が?」
「今までの前科で大儲けしていたらしいです。警察は口座を凍結させて、買収を未然に防いだみたいです」
「それは良かったけど、弁護士の方はどうなるんだ?」
会話しながら最高裁へと足を運ぶ。
今回は刑事裁判で、西園寺夫妻は検察に身柄を拘束されている。
この裁判の鍵は、英治と麗奈がどんな発言をするか。
いよいよ、最高裁判所で繰り広げられる熱き法廷の戦いが、
「みなさん、ご起立ください」
開廷した。
裁判長の一声で全員が起立する。
小法廷で争われるこの裁判は、裁判員制度で行われる。
「これより、被告人、西園寺城三郎、はつね夫妻の刑事公判を行います。罪状は有名人連続強盗殺人および、威力業務妨害でよろしいですね?」
重い空気が漂う。
緊張感が走る。
「それでは、開廷」
木槌の音がホール内に響く。
「被告人の動機についてお聞かせ願いたい。貴方がたは、持ち会社を潰され、その社会的不満と復讐心から有名人の連続強盗殺人に至った、間違っていませんよね?」
「そうだ! 私たちは社会を有るべき姿に戻すため、今を輝く連中を殺してその地位と名誉を奪わなければ、私たちの威厳を保てない!」
城三郎が憤る。
それだけに社会への復讐が強い。
「被告人、なぜそのような行為を?」
「世の中がおかしい! 私たちが苦しみ、若者が輝く社会が許せない! だからこそ、私たちは立ち上がった!」
「では、社会的復讐心による犯行と」
「ちがう! これは復讐じゃない! 正義です! 社会を有るべき姿に戻すためには、若者が夢を見なくする必要があったのです!」
城三郎の発言に、
「あんたがやってることは殺人だ!」
「遺族の人のことはどうするんだ!!」
傍聴者たちから野次が飛ぶ。
「黙れ! 輝くのがいけないんだ! 遺族どもはせいぜい苦しんで悶え死ねば良いものを!!」
城三郎が高らかに笑う。
「一時閉廷します! 皆さん静粛な気持ちになるまで別室へ」
裁判長が機転を利かせて一旦切り上げた。
証人待合室で、英治と麗奈は裁判員たちとともにお茶を飲んでいた。
「ごめんなさいね。1審と2審ではかなり荒れていたみたいなの」
40代の主婦で裁判員として喚ばれた女性が手作り弁当を分けてくれた。
「ありがとうございます」
「お気持ちに甘えさせていただきます」
二人は軽い昼食を食べることにした。
「うちの娘は、神城先生の大ファンなの。 ラジはる、毎週のように読んでいるの」
「それはありがたい。単行本がでたらサインして送ります」
「いえいえ、お気遣いだけでも嬉しいですよ」
英治は謙遜した。
「あの夫婦はほんとにダブスタで困るわね。うちなんて適度に叱って、適度に褒めるのが我が家の基本スタンスなのに」
「それがお子さんを育てるコツですか?」
「えぇ。先生方も子供ができたらうちの教育スタンスを参考にしてみてくださいね」
数10分後、
「皆さんお集まりいただけましたか?」
公判を再開した。
「弁護人に問います。彼らの言い分は正当であるかを聞きたい」
裁判長が西園寺夫妻の弁護人に訪ねた。
弁護士は警視庁が雇ったエリート系。
「彼らは御子息を日常的に虐待していると言いますが、それは自分たちの愛情の一環です。刑事責任能力は彼らにはあります!」
弁護士が西園寺夫妻の無罪を主張する。
「検察の意見をお聞きしたい」
「彼らは、社会的不公平感から自分たちが正しいという歪んだ認知的感情で犯行に及んだわけです! 子供のためという歪んだエゴで多くの命を奪った卑劣極まりない犯行を許すわけには行かない!」
「これは私たちの正義だ! お前達警察のせいで、犯罪者扱いされているんだ! 私たちは被害者だ!!」
「そうです! 私たちはこの若者時代の被害者なんです!!」
検察の発言に対して、城三郎とはつねは声を荒げる。
「静粛に! みなさん、静粛にしてください!」
裁判長が木槌で静かにするよう警告する。
「本日はこれまでにします。これにて解散とする」
判決はまだ先だと判断し、この日はここで終わった。
帰宅の途に着いた英治は、ラジカルはるか最新話の最終仕上げに入った。
「よし、はるかちゃんの魔法が異世界帝国にとって脅威となったところで区切りをつけておくか」
英治はそう言いながら麗奈が寝るスペースを作り始めた。
同棲生活が始まるということは、作業が2人分になることも容易に想像できる。
そのためにもまずは寝室の確保が重要になってくる。
「とりあえず、麗奈さんのためにもチェストベッドは必要かな?」
とりあえず電話してみる。
『あ、英治さん?』
「麗奈、チェストベッドは必要かな?」
『いきなりどうしたの? 私と同棲するから奮発しちゃうの? 悪いけど遠慮しておくよ。私あんまり高級なものは好きじゃないから」
「そういえばそうだった。君は安くて高品質なものが好きなんだね」
『そう! 高ければいいとは限りません!」
「わかった。じゃぁ、シンプルで2万円以内のやつを注文しておくよ」
『楽しみにしてるね! あ、2週間後に第2審があります!」
「了解だ」
英治は麗奈と電話を切った。
「さて、掃除でも済ませておきますか」
英治はそう言うと掃除ワイパーで床をきれいにする。
いつも以上に床を丁寧に掃除する。
「女の子が来ても良いように、しっかりと掃除をしなくては男の風上にも置けないな」
哲学的な言葉を言いながら、英治は床一面をきれいにした。
気がつけば、夜の10時半。
「そういえば今夜11時が締め切りだった!」
英治は急いで原稿データを送信した。
これで、今週分は間に合ったというわけだ。
「やばかったぁ……」