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第11話

「英治さん、そう言えば今日はラグナロクの完成披露ですよね?」

 

「そうだった! スーツも新調したし、準備はバッチリだよ」

 

 そう、この日は映画ラグナロクの完成披露試写会と舞台挨拶。

 

 ようやく完成した映画を東京の国立劇場で選ばれた100人と一緒に見る重要な機会。

 

「私も衣装を用意したよ! 今回はカリスマレイヤーのみにゃこさん直々のコーディネート!」

 

 今回麗奈はカリスマレイヤーから衣装のコーディネートを依頼して調達したという。

 

「みにゃこって、あの内閣府公認レイヤーで、共産主義者から目の敵にされてると聞いているけど?」

 

「あぁ、自称フェミを名乗ってる連中ね。あいつらは叩くことで快楽を覚えるどーしよーもない連中だから、本人も無視して活動してるって」

 

「そうなんだ」

 

「それよりも、朝ごはん食べましょう!」

 

 そう、舞台挨拶までまだ時間はあるが腹をすかせては何もできない。

 

 英治たちは朝食を食べ終えて、スーツや衣装の最終チェックを始めた。

 

「シワ一つないな」

 

「衣装の状態もバッチリだよ!」

 

「これで、今夜6時の舞台挨拶は完璧だね」

 

「それじゃぁ、それまでゲームして遊ばない? 今<機獣大戦マギア・ビースト>の最新作が発売されたんですよ!」

 

「最新作、<共和国の帰還>だね」

 

 <機獣大戦マギア・ビースト〜共和国の帰還〜>は、30年以上続くマギア・ビーストの完結編とも言える作品。

 

 ボタン一つで繰り広げる爽快なバトルは、世代を超えて愛される理由の一つ。

 

 帝国と共和国の戦いは100年以上も続き、その戦いに終止符を打つため、主人公は共和国軍の無も無き一兵士としてビーストに乗り込んで戦うストーリー。

 

 それが、30年にもわたる人気の理由。

 

「それじゃぁ、VSモードで行くよ!」

 

「負けないぞ!」

 

 両者はゲームを起動させ、臨戦態勢を整える。

 

 そのゲームを楽しむ二人をよそに、西園寺夫妻は映画ラグナロクの完成披露試写会会場の下見に来ていた。

 

 清掃員に扮して、城三郎はなにか仕掛ける場所を吟味していた。

 

「この馬鹿げた恥さらしをやめさせるには、絶好の舞台だ」

 

 会場内にあるもの(・・・・)を仕掛けながら会場内のゴミをきれいに拾う。

 

「新庄さん、そろそろ休憩してもいいですよ!」

 

「おっと、もう昼飯の時間か」

 

 同期に休憩を告げられ、城三郎は休憩室へと足を運ぶ。

 

「お父さん、お疲れ様」

 

 はつねがコンビニで買った塩おにぎりで腹を満たす。

 

「なぁ、これで会場の仕込みは整った。あとは時を待つだけだ」

 

「私たちの社会への恨み(・・・・・・)が、もうすぐ晴らされますね」

 

「そのとおりだよはつね、西園寺ホールディングス再建の最終段階は既に始まっているのだから」

 

「楽しみですね」

 

 毒親たちの悪意は既に誰の手にも終えないほどに膨れ上がった。

 

 それは、警察が止めても押し返されるほどに。

 

 警視庁捜査一課では、向笠が西園寺夫妻が行動に出ると睨んである作戦を考案した。

 

「向笠さん、本当に良いのですか? あえて後手に回るなんて」

 

「できる手は既に打ちましたよ。後は向こうの出方次第ですから」

 

「確かに、毒親のエゴほど怖いものはありませんね。ほら、最近西園寺夫妻に感化されて子ども食堂を潰して自分たちの活動を<子供のためだ>と正当化する毒親が後を絶ちませんし」

 

 山城の話によれば、西園寺夫妻が毒親たちの英雄として崇められるようになった。

 

 故に、子ども食堂を<偽善行為だ>といって襲撃し、営業不可能にまで追い込んだケースが顕著になり始めている。

 

 逮捕された被疑者は、<子供に勝手に食事と居場所を与える偽善者に罰を与えた。これは子供に未来を守るためだ>と供述する事が多々あった。

 

「向笠さん、貴方に面会を求める人がいます」

 

 巡査部長が向笠の前に現れた。

 

 その隣には、いかにも好印象を与える若者がいた。

 

「父と母が、罪を犯しているのは本当ですか?」

 

 若者は、向笠に質問した。

 

「本当ですよ。貴方が、西園寺紘汰さんですね?」

 

「はい」

 

 紘汰は毒親である両親が社会的復讐を行っていると聞いていても立ってもいられず、警視庁に面会を求めてやってきたのだ。

 

「あの二人を止めてください! 西園寺ホールディングスは、ない方が社会のためになります!」

 

「やはり、私の推測は正しかったようですね?」

 

「ここに、父の会社のパソコンから抜き取った西園寺ホールディングスのある極秘計画(・・・・・・)のデータがあります」

 

 紘汰は、10年前に城三郎のパソコンから盗み出したデータが収められたUSBメモリを取り出した。

 

 ノートPCに差し込み、中身を閲覧する。

 

 そこには、驚くべき内容が記されていた。

 

「西園寺ホールディングス・日本制圧計画」

 

 それは、城三郎が夢に見てやまない日本を牛耳り、世界を掌握しようとする軍事衛星開発プロジェクトの極秘資料。

 

 10年前に摘発したことで開発は白紙に戻されたが、紘汰はその秘密をいち早く知らせようと行動していた。

 

「貴方は我々に早くこの資料を渡そうとしたが、摘発を受けて有耶無耶にされて今に至った。そして、西園寺ホールディングス再建の起爆剤としてこの計画の資料を取り戻そうとすると」

 

「父は世界経済を掌握することで、若者たちの夢や希望を奪おうとした。あんな男を僕は父と認めるわけには行かない!」

 

「わかりました。これは動かぬ決定的な証拠としてお預かりします」

 

「感謝します」

 

 警視庁はいよいよ西園寺夫妻逮捕に向けた最終会議を始めることにした。

 

 その作戦については、後ほど皆さんにお伝えする。

 

 午後3時、英治と麗奈は会場入りを果たした。

 

 舞台挨拶に向けて楽屋で待機する。

 

「ちょっと早く来ちゃいましたね」

 

「でも、メイクや衣装のセットに時間はかかるでしょ?」

 

「そうでした」

 

 麗奈は早速コスプレ衣装に着替える。

 

 男女共有の楽屋のため、簡易更衣室があるのがせめてもの救い。

 

 英治もスーツを身にまとっているため、準備は万端だった。

 

 もちろん、向笠からもらったお守りも内ポケットに入れている。

 

 携帯を取り出してメールのチェックを行う。

 

 毒親からの抗議メールはフィルタリングのおかげで来なくなったが、いささか不安がある。

 

 というのも、会場にテロの実行犯が潜んでいる可能性が否定できなかった。

 

「英治さん、おまたせ!」

 

 麗奈が更衣室からでてきた。

 

 大胆にもふくよかな胸元が空いたドレスに、赤系のリップが映えるメイク。

 

 可愛らしさと妖艶さを併せ持つ雰囲気のスタイル。

 

「なんか、すごく似合う」

 

「でしょ? このリップは韓国で今話題の有名ブランドの新作なんですよ!」

 

「すごいね。まだ時間もあるし原稿の最終確認をしておくか」

 

「そうだね、噛んじゃったら元も子もないよね」

 

 二人は、原稿の最終確認を進めた。

 

 それが、運命の時がもう来ていたことも知らず……。

 

 夕方6時、いよいよ映画ラグナロクの完成披露試写会と舞台挨拶が始まった。

 

 会場内にいるのは、出演キャストや音響や撮影に携わったスタッフと、観覧希望者の合わせて100人が訪れていた。

 

「みなさん、この度は<映画超時空大戦ラグナロク>の完成披露にお越しいただき、誠にありがとうございます」

 

 監督が舞台の上でお辞儀をする。

 

 観客たちが拍手をする。

 

「この完成披露試写会と舞台挨拶は、YouTubeとニコニコ動画の同時ライブ配信されますので、会場にお越しできないみなさまでもお楽しみいただけます」

 

 なんと、世界と日本を代表する2大動画配信サイトでのライブ配信という粋なはからいを監督はしていた。

 

「どうも、原作者の神城英治です。そして、」

 

「パートナーで公認アンバサダーの、東雲レコです!」

 

 英治と麗奈は軽く挨拶を済ませる。

 

「この作品は、僕が待ち望んだハリウッドへの足がかりを狙う作品として、監督とともに撮影から編集までを携わりました」

 

 英治は、原作者として監修やアドバイスを行っていたことを明かす。

 

 その言葉に、

 

「良いぞ先生!」

 

「俺達が望んだ映画を作ってくれた!」

 

 会場内は盛り上がった。

 

 その一方で、

 

「時は来た」

 

「そうね、お父さん」

 

 城三郎とはつねが準備を整えていた。

 

 はつねの手には何かしらの起爆スイッチが、城三郎はリボルバー拳銃が握られていた。

 

「西園寺ホールディングス再建のために」

 

「社会にはびこる<夢>をなくしましょう」

 

「夢があるから、この国はおかしくなった。だから修正しなくてはならない」

 

「夢をなくせば、親が絶対である公平な社会に戻せる」

 

「そうだ、夢のない公平な社会こそが私たちの理想」

 

 城三郎とはつねは、ついに行動に移した。

 

 はつねが起爆スイッチを押す。

 

 すると、会場内に仕掛けられた爆竹が起爆し、会場はパニックに陥った。

 

「な、何が起きたんだ!?」

 

 監督が戸惑う。

 

「静かにしろ! 大人しく従えば命の保証はする!」

 

 西園寺夫妻が会場の舞台に殴り込んだ。

 

「君たちの目的は何だ?」

 

「我々の目的は、この映画を破棄させ、西園寺ホールディングス再建に伴う夢のない公平な社会を作り上げる! 貴様らは、日本政府に要求するための人質だ!」

 

 城三郎はリボルバー拳銃を真上に向けて発泡して威嚇する。

 

「日本政府に要求する! 今すぐに若者の支援を取りやめ、西園寺ホールディングスの速やかな株式復帰を要求する!」

 

 城三郎は、ライブ配信を行っていることは既に理解していた。

 

「要求に応じない場合は、30分おきに人質一人を射殺する! 貴殿らの速やかな返答を期待する」

 

 城三郎は英治たちを睨む。

 

「お前たちのせいで、私たちがどれほど苦しい思いをしてきたか、わかるかね?」

 

「それは言いがかりです! 僕達は貴方がたと関係は……」

 

「ないとか言うな!」

 

 そう言いながら、城三郎は英治に拳をお見舞いする。

 

「英治さん!」

 

「お前たち若者は罪を犯した! 夢という名の大罪を!!」

 

 麗奈は英治に寄り添うが、城三郎に弾き飛ばされた。

 

「あんたみたいな淫らな女は嫌いだよ! 可愛いからと言って許されると思ったら大間違いだよ!」

 

 はつねは麗奈にバケツの水を浴びせた。

 

「これは躾なのだ! 若者たちが二度と夢を見れないようにするための!」

 

「そうだよ! あんたたちには死んでもらうからね!」

 

「この場にいるバカどもよ! よく見ておけ!」

 

「あんたらが夢を見ないように、躾けてあげるからね!」

 

 城三郎ははつねとともに監督を睨んだ。

 

「さて、貴様にはご退場願おうか?」

 

「な、何をする気だ?」

 

 監督は身構える。

 

 西園寺夫妻は監督をビニール紐で身体を縛り上げる。

 

「貴様は後で殺すことになっている。世界の恥さらしの末路ってやつを世界に示すために」

 

「この映画は後で燃やしておくから安心してね」

 

 西園寺夫妻の最終計画。

 

 それは、世界に向けてのメッセージ。

 

 自分たちの苦しみと屈辱を、社会に知らしめるため。

 

 それは、社会的成功者たちへの復讐を意味していた。

 

「さぁ、今夜は楽しいパーティーになりそうだ」

 

「そうですね。最高に素敵な夜になるでしょうね」

 

 しかし、そうは行かないことを城三郎たちは知らなかった。

 

 英治が持っているお守りが事件解決の鍵になっていることを。

 

「さぁ、夢のない公平な社会実現に向けて、」

 

「盛大なパーティーを始めましょう!」

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