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第10話

 麗奈は自転車を漕ぎながら鉄蔵に答える。

 

 風を切って自転車で走るのは、とても気持ちよかった。

 

 テレビ局の撮影用ドローンが3人を明確に捉えている。

 

「映画ラグナロクの公開、楽しみですね」

 

「そうですね、一番の見所は……」

 

「わわっ! ネタバレ無しで!!」

 

 鉄蔵が麗奈がネタバレしそうなタイミングで静止をかけた。

 

 せっかくの映画公開だから、ネタバレを聞かないで楽しみたいという信念がある。

 

「そうでした」

 

 麗奈はペロリと舌を出す。

 

 最初のスポットに近づく。

 

「この先に、鎌倉大仏があるから一度立ち寄らない?」

 

「良いですね!」

 

「サイコー!」

 

 麗奈、鉄蔵、丸井は鎌倉大仏が見えるスポットにある駐輪場に自転車を止めた。

 

 大仏に近づくと、紅葉がまだ半ばの木々が美しいコントラストを生み出していた。

 

「絶景かな、絶景かな!」

 

 丸井は、携帯で写真を撮影する。

 

 鉄蔵は観光客におすすめグルメスポットはないか聞き込みを始めた。

 

「この辺で美味しいグルメはありませんか?」

 

「そしたら、ここから歩いて二分くらいのところに夢吉っておそばのお店があるの。そこのえび天そばは美味しいから食べてみて!」

 

「ありがとう!」

 

 鉄蔵たちは、さっそく教えてもらった蕎麦屋へと向かう。

 

 大仏からほど近い夢吉は、自家製の二八そばが自慢。

 

「らっしゃい!」

 

「3名様でお願いします!」

 

 鉄蔵、丸井、そして麗奈の3人はお座敷席へと移動した。

 

 店内は創業した年代が古いのか、シックで落ち着いた印象を受ける。

 

 障子やプライベー路に配慮した襖がなんとも風流な味わいを醸し出している。

 

「ご注文は?」

 

「えび天そば3つで」

 

「かしこまりました。おそばは打ち立てをご提供しますので、お時間がかかりますけどよろしいでしょうか?」

 

「おかまいなく」

 

 鉄蔵は看板娘にオーダーを取った。

 

「それでは、ゲストのレコさんのプライベートなお話をお聞きしましょう!」

 

「待ってました!」

 

 麗奈はこの番組で最も楽しみなコーナーを待ち望んでいた。

 

「それでは早速ですが、神城先生とのパートナーシップについて、どんな進展がありましたか?」

 

「そうですね……。先の話ですがお見合いをすることが決まりました!」

 

「おぉ! それはめでたいですね!」

 

「あと、私のお仕事に関してですが、VRグラビア動画がこちらのサイトで発売中です!」

 

 後の編集で書き足されるグラビア動画の公式サイトについて麗奈が話すと、

 

「「素敵な動画をぜひお楽しみに!」」

 

 鉄蔵と丸井が宣伝した。

 

「お待たせいたしました」

 

 看板娘がえび天そばそばを持ってきた。

 

 鰹節の香りが漂うこだわりのつゆに載せられた揚げたての海老天が顔をのぞかせている。

 

「美味しそう!」

 

「早速いただきます!」

 

 3人はそばを啜る。

 

「このおだしが最高! 高知県産の鰹節を使っているのね!」

 

「流石ですね」

 

 店主は麗奈の食レポに感激した。

 

「おそばの歯ざわりがいい!」

 

「これは地元の方が足蹴なく通うわけだ」

 

 3人は昼食を食べ終えて、次なるスポットを目指して自転車を走らせた。

 

「次のスポットは?」

 

「漫画<GO! 我ら湘南籠球ガールズ>の聖地とも言える江ノ電の沿線です!」

 

 江ノ電沿いに自転車を走らせる3人。

 

 空撮用ドローンが3人を逃すまいと懸命に追いかける。

 

 一行は、江ノ電のとある駅近くにたどり着いた。

 

「じゃじゃーん! このあたりは主人公チームの通う<私立湘南風の宮女子高校>のモデルとなった学校のあるエリアでーすっ!」

 

 麗奈は急に観光ガイド気取りで鉄蔵たちに紹介した。

 

 漫画の舞台とも言えるエリアには、多くの外国人観光客が訪れていた。

 

「それでは、みんなで記念撮影しよう!」

 

 鉄蔵が携帯を取り出した。

 

 やはり聖地で記念撮影するのは、アニメファンとして当然の義務とも言える。

 

 3人が写った写真は、番組公式インスタにアップロードされる予定。

 

 そして、一行は江ノ電沿いを自転車でひた走る。

 

「次は?」

 

「七里ヶ浜で有名なコスプレイベントをやってるんです! 私のスタッフさんが事前に衣装を用意してくれたので、鉄蔵さんたちも撮影どうですか?」

 

 麗奈は、飛び入り参加OKのコスプレイベントの予定を組み込んでみた。

 

「良いですね!」

 

「流石はプロレイヤー」

 

 鉄蔵と丸井もそれに賛成した。

 

 しかし、毒親たちの悪意はじわじわと迫っていた。

 

「撮影OKの許可が取れてよかった……」

 

 鉄蔵たちは会場手前で冷や汗をかいた。

 

 というのも、麗奈がいなかったらテレビでの撮影はできなかった。

 

「私の顔パスがなければ、番組がここで終わっちゃうかカットされちゃうかもね」

 

「確かに」

 

 麗奈は早速更衣室へと向かった。

 

 鉄蔵たちは、一般客として撮影スタッフとともに会場内を歩き始めた。

 

 そして、はつねが単独で行動していた。

 

 その手には、注射器が握られていた。

 

「あの旅番組を潰して、テレビの見せしめにしてやる」

 

 はつねは、血管に空気を入れると空気塞栓症を引き起こすことをネットで理解していた。

 

 その注射器には、空気が充填されていた。

 

 初音は黒装束の死神に扮して鉄像に近づく。

 

「ん?」

 

 鉄蔵は興味を示さなかったが、初音は体当たりのどさくさに紛れて空気を注入する。

 

「いたた……」

 

 鉄蔵が起き上がろうとした途端、身体が動かなくなった。

 

 息も激しくなり、意識が朦朧とした。

 

「鉄蔵さん! 誰か救急車を!!」

 

 丸井が叫ぶ。

 

 コスプレを人しれない場所で脱ぎ捨てたはつねはほくそ笑む。

 

「これで番組打ち切りとなったわけよ」

 

 警察や救急車が駆けつけた頃には、鉄蔵は帰らぬ人となった。

 

 神奈川県警は現場検証をする。

 

「麗奈さん、無事でしたか!」

 

 山城が麗奈に駆け寄った。

 

「番組の撮影中にこんな事が起きるなんて……!」

 

「許せないな。西園寺夫妻を早く捕まえないと、被害が拡大する一方だ」

 

 麗奈と山城が憤る中、

 

「被害者の身体を調べたら、首筋に注射の跡が」

 

 鑑識官が、捏造が空気塞栓症で殺されたことを裏付ける証拠を山城に報告する。

 

「やはり、西園寺夫妻は社会的な成功者をターゲットにしていると見て、間違いはないな」

 

「どういうことですか?」

 

「西園寺夫妻はブラック企業を運営していた。会社を潰した社会に強く一方的な恨みを抱いていたとすれば、」

 

「社会的成功者に復讐する」

 

「そう、毒親にとって他人の成功は自分たちの地位を脅かすものと認識されているからね。西園寺夫妻のようなケースがでてもおかしくはないよ」

 

 そう、毒親のエゴほど恐ろしいものはなかった。

 

 成功者への復讐は、これほど恐ろしく過激なものはない。

 

「とりあえず帰ろう。今はご自身の安全を優先させて」

 

「わかりました」

 

 麗奈はとりあえず山城と覆面パトカーで帰宅することにした。

 

 その一方で邸宅へと帰宅したはつねは、

 

「お父さん、あのくだらない番組を打ち切りにさせたよ」

 

 城三郎に報告した。

 

「そうか。ならば社会がまた一つあるべき姿に戻っていくな」

 

 城三郎はそう言いながら久しぶりの葉巻に火を付ける。

 

「お父さん、いよいよですね」

 

「あぁ、いよいよだ」

 

 ついに、英治と麗奈を社会的に抹殺する時が来た。

 

「あの二人を社会的にも物理的にも殺して、」

 

「若者が夢を見れなくなる公平な社会を作り上げる」

 

「楽しみですね」

 

「あぁ、若者が夢を見るからこの国はダメになった」

 

 城三郎が寝室の天井を見上げる。

 

 なにもない天井。

 

 そこに夕日が差し込んで不気味に映った。

 

「もはや私たちを止める術はない(・・・・・・・)

 

「私たちの復讐は永遠に続くのですから」

 

「そうだ、私たちを止める者も容赦なく殺す。わが西園寺ホールディングスに逆らう者に、罰を与えなくてはならない」

 

「そう、私たちがこの国を率いるのですから」

 

 西園寺夫妻の計画は最終段階に到達していた。

 

 麗奈は気晴らしに英治の部屋で、彼と今日のことを報告しあっていた。

 

「それでね、せっかくの旅番組が打ち切りになったの! 例の夫婦が捕まると良いけど」

 

「それは災難だったね。僕の方でもなんつうかフィルタリング貫通メールが届いたんだ。<今すぐ映画を御蔵入りにさせろ>って」

 

「うわぁ……。マジ最低」

 

「でしょ? 僕だってあんなことを言われるとガチでヘコむよ」

 

 呑気な会話を繰り広げる中、

 

「ちわーっす、御園ピザです!」

 

 英治が事前に注文したデリバリーピザが届いた。

 

「ご苦労さま」

 

 英治は玄関で受け取る。

 

「お、今日は贅沢3種チーズのマルゲリータですか!」

 

「わかるかい?」

 

「当然! 食べたかったピザなので!」

 

 麗奈は嬉しそうだ。

 

「さて、冷めないうちに食べますか!」

 

「コーラはある?」

 

「もちろん! 蔵丸で注文した<厳選スパイスのブルーコーラ>があるよ!」

 

「まじ!?」

 

 英治が意外なものを注文していたことに、麗奈は目を丸くした。

 

「ノンアルコールのジャンルで特に人気が高く、競争率が高い激レア物ですよね!? よく注文できましたね」

 

「ははは、入荷したタイミングを見計らってポチったんだ」

 

 英治と麗奈はささやかな二人きりの夕食会を開いた。

 

 その様子は和気あいあいとしていて微笑ましい光景だった。

 

「あぁ、ブルーコーラが以外にもクセが有るなんて思わなかったけど、慣れてくると美味しいかも?」

 

「そうだね」

 

「さて、英治さん、ドアの鍵はかかっているよね?」

 

「一応カードタッチキーでロックしてあるよ」

 

「じゃぁ、安心。 今夜は初めての夜ですよ!」

 

 そう、この夜は初めて英治と麗奈が自宅で過ごす夜。

 

 今夜は眠れない夜になりそうだ。

 

「英治さん、私の初めてを貴方に捧げます」

 

「や、優しくしてください」

 

了解(ラージャ)

 

 麗奈は英治にキスを仕掛けてきた。

 

 英治の唇は、抵抗もせず麗奈の唇を迎え入れた。

 

 そして、二人は体を重ね合う。

 

 時は流れ、翌朝。

 

「へへへ、英治さん、今日の朝ごはんは私が作りますよ!」

 

 昨日はお楽しみだったのにもかかわらず、麗奈は朝食2人分を作り始めた。

 

「麗奈さんの手料理、楽しみにしてるよ」

 

「任せて! こう見えて調理師免許も取ってるし、管理栄養士の資格もあるから」

 

 意外な特技を持っている麗奈。

 

 これには期待できそうだ。

 

「英治さん、食パンありますか?」

 

「一応サブスク便で届くやつがあるからいつも焼き立てがあるよ!」

 

「じゃぁ、今回は大人気映画のあれを作るね!」

 

 なんともシンプルに<時空城・レグア>に登場したベーコンエッグパンを作り始めた。

 

「今回は<ドカ食い女子の満腹ダイアリー>仕様の厚切りベーコンに粗挽き岩塩胡椒に半熟2個目玉焼きに加えてマヨネーズをドバっと」

 

 なんともジャンキーな作り方だが、これで管理栄養士というのは傲慢と言ってもいい。

 

「ははは、ドカ女子は医学的にも良くないと批判されがちだけどなぁ……」

 

「でも、至った女子は10万人突破したらしいですよ!」

 

「でも、ジャンキー系は好きだからたまに食べるにはちょうどいいかも」

 

 英治は麗奈の作る進化系マンガ飯に機体をしようと思った。

 

 そして、運命の時はすぐそこまで近づいていた。

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