第93話
会場の明かりはそっと失われ、目の前の檀上の真上からせり降りてきた真っ白いプロジェクターだけが闇を照らす。
――ようやく始まる。みんなで零の部屋から見つかったパソコンを見る会が。
急いで近くの席に座り、眼前に何が映し出されるのかを見守ることにした。蔭山とシーザーの件はまた後で構わない。
今、ここで闇雲に飛び出せば、翡翠達の好意も全部が無駄になり、迷惑がかかる。自制しなければならない。朝も痛感したのだから。
たとえスカールに本拠地を抑えられても、依然としてワイルドコブラはこちらを捜し回っていて、次の手を考えているに違いない。
映し出されるプロジェクターには『黒條零という女の正体について』とでかいタイトルが表示され、端っこでパソコンを開いて映し出される画面を操作しているのはラッパーの男、シンドローム。
プロジェクターに映る画面のサイズ調整の準備中に横から歩いてきて画面中央に立つのはマンティス勝。
「此度はご足労頂き感謝する。今回の司会進行役のマンティス勝だ」と述べて自己紹介をした上で。
「俺達は先月27日に黒條零失踪後、自宅から押収したパソコンの解析に取り掛かった。それは予想以上に難航を極めた。俺達はある程度触れても専門家じゃないからだ」
「だが!! 飲みに行った先でシンドがコネで連れてきたスーパーハカーのお陰でここまで漕ぎつけた。後日、謝礼と青山の高級バーで何か奢るつもりだ」
前置きを述べると勝はポケットから取り出した銀の差し棒を伸ばし、一歩引いて画面が見えるように右側にズレる。
「そしてこの発表用の資料もパソコンから抜き取った情報をもとに急いで作った。色々至らないかもしれないが宜しく頼む」
「マサル! 準備できたYO!」
シンドロームが合図すると、一瞥して人差し指と親指を丸くしてサインを送ると、勝は全員が座るこちら側を見た。
「まず、黒條零の正体から知りたいだろう? 初月諒花」
勝は座っている人狼少女に視線を向けた。ゴーグルをかけているので見えているのかは分からない。だがそれは確かだった。
「ああ、零は結局なんだったんだ? アタシのことを小4から監視していたって」
「それなのだが、まずは詳しく語る前に彼女の正体からだ――」
「結論から言うとあの女はXIEDから送り込まれたスパイだった!!」
――――!
「零ちゃんがXIEDだって!?」
それは諒花だけでなく、花予にも激震が走った。花予にとっては亡き姉の職場でもある。裏社会に蔓延る異能専門の警察にあたる組織が、姉の形見である娘を監視していた。
「零はXIEDの命令で送り込まれたってことか」
勝はそっと頷く。
「生憎、彼女の生い立ちや素性までは分からなかった。だが表向きは一般の学生として生活し、裏ではXIEDとして初月諒花の監視役という任務を真っ当していたことは事実だ」
これを見て欲しいと同時にプロジェクターにはメールやチャットのやりとりのスクショが次々映し出される。【Rei-Kokujyou】と【Secretary】という名前から吹き出しが出て会話をしている。
「見ての通り黒條零はXIEDのある大物とこうしてやりとりをしていた。初月諒花について報告書を添付して、そいつにメールで送ったり、指示を仰いだりとかだ」
プロジェクターに次々と映し出される、知られざる零の一面。それには開いた口が塞がらない。敬語で『今日は諒花とカラオケに行きました』『今日は諒花とテスト勉強をしました』だの、きめ細かくチャットで報告している。
そして、プロジェクターにビジネス形式の報告書が映し出される。
「報告書もこのように一日一日丁寧に書かれていた。見ての通り、初月諒花成長日記ともいうべき日常が丸分かりだ!!」
テンション高らかに発表する勝。成長日記。本当にそれだ。寒気と同時におかしさに笑いがこみ上げてくる。
「これら情報が先月あの帝王レーツァンから翡翠さんを唆すために手渡された、初月諒花についてきめ細かく書かれたあの資料にも記載があったことから、あれは黒條零の集めた情報で作られたことも確定と見ていいだろう」
その資料とは翡翠がレーツァンの遺言も含めて零の正体に気づくきっかけであり、初月諒花という存在を知って興味を持つきっかけでもあった。先月、滝沢家が敵として渋谷を攻め、諒花と相まみえるきっかけを作った究極の履歴書のことである。
「黒條零が初月諒花を監視し、手に入れた情報が利用されたケースと見ていい。初月諒花と親しい彼女しかまず知り得ないプライベートな行動記録から抜粋したものと思われる情報の記載もあったからだ」
そこからこの生成されし究極の履歴書は滝沢家を事件に巻き込む道具として使われ、戦火を加速させた。正直、この二人に恥ずかしい情報とか見られたりしてないか少し心配になったが、そんな事よりも今は確認したいことがあった。
「なあ、ちょっといいか? 零を裏から動かしていたのは誰なんだ? もしかして昨日、アタシの前に現れたフォルテシアだったりしないか?」
挙手して、今思ったことを直球に告げた。今の情報を聞いてフォルテシアが零を捜すのも何となく繋がってきた気がした。零がいなくなってから、その週末にフォルテシアは現れた。その失踪した零を捜しているとすればだいぶ前から繋がっていてもおかしくないわけで。
勝は首を横に振って、
「違うな。あの女が黒幕だったら負けたお前がなんでここにいるんだ? って話になる」
「あっ……」
確かにフォルテシアが黒幕ならばあの時打ち負かした自分を捕らえて連れていくこともできたはずだ。そして黒幕とはそもそも変態ピエロも繋がっており、蹴落とそうと企んでいた存在だ。
思い出した。フォルテシアは変態ピエロと因縁がある言い回しをしていた。そうなるとフォルテシアは違う。
「悪い、早とちりだった」
「俺達は黒條零がXIEDであると同時に、彼女が上官と呼ぶ人物が誰なのか――チャットとメールのログを辿り、パソコンの隅々まで調べ上げた。そして突き止めた。それは……」
心臓の鼓動が早くなる。今、分かる。すぐ分かる。
「フォルテシアより上の人物――」
判明しようとしている。一連の黒幕は誰なのか。
変態ピエロに両親と恋人を殺させ、GPS付きのチョーカーを仕組み、零を送り込みずっと監視させていた人物とは。
……!!
それが眼前のプロジェクターに名前が映し出された。
「中郷利雄。現XIED東日本支部長官だ」
読んで頂きありがとうございました!
中郷利雄。この名前や存在は実は前作「人狼少女は表社会では最強になれなかったので裏社会で無双する!!」から登場していて、ようやく仄めかされてきた秘密に諒花が辿り着いた事になります。ここまで長かったです汗 ちょうど90話で通算250話に到達した節目の直後となりました。これも皆様のお陰。ありがとうございます!




