第85話
その秘密を知り、零を必ず見つけて救い出す。それを知る事でその先に広がっている世界がどんなものだろうとその後で考えれば良い。零はその世界にいて、救い出せるのは自分しかいない。
――ムリだ、戻れ。
他人にそう止められようが勧められようが、そんなのは一切関係ない。引き下がってたまるか。
もし引き下がってしまったら、零を救うどころか、眼前に見える生きる答えを見つけるチャンスさえも失ってしまいそうな気がした。今は大丈夫でも、逃げればこの選択に絶対後悔する。取り返しがつかなくなる。今しか取り返せない。
そう感じてしまうならば、もう道は一つしかない――――!
「皆さん、お話し中すみません」
翡翠の返答を待っていると、その前に車内に響いたのはハンドルを握る倉元の声だった。とはいえ落ち着いた声音で。
「背後から追ってきている車が二台」
車のミラーから分かったのだろう、背後の窓から見てみると一目瞭然だ。いつの間にか黒い車両が二台。覗き込むと運転手はいずれもスーツに黒いサングラスをかけていて、助手席にも金髪でサングラスをかけ、黒いコートを着たいかにもなスジモノ。
「あたし達はさっきからつけられていたようだね」
花予の言う通りだ。どこからつけられていたのかは話に夢中になっていたので分からないが、何らかの手段でこちらの居場所を察知できるならば、追跡を行うことはできる。例えば、異人は異源素の気配を感じ取れる。その気配を感じることに長けているならば、居場所を割り出し、部下に進言することだってできる。
やはりまだあの渋谷にハチ野郎、サソリ野郎、ニワトリ野郎に次ぐ四人目の異人がいたのかもしれない。
泳がされているのかそれとも急いで追跡してきたのかは分からない。だが、ここまで三人の幹部を倒していても、敵の攻撃は終わっていないことを確かに実感する。
「翡翠様、遠回りをして撒きますか?」
それが賢明だろう。そして撒いたら本来のコースに戻る。降りて戦うことはできない。付近を巻き込んでしまう。
「いいえ、速度を少し上げてこのまま直進しましょう。大丈夫、こんなこともあろうかと」
翡翠はスマホを耳に当てて、
「滝沢組の皆さーん。私と客人の乗る車両の背後に不審な車両が二台――我が青山に踏み込んできた不届き者たちの即刻排除をお願いします」
愉快な口調から一気にどん底に突き落とすその冷徹なる号令が下された。
やがて車の景色も灰色な街のものから敷地内に広がる森や草原など、緑がブレンドされた雰囲気へと変わってきた。それでも懸命に追跡してくる黒い車両二台。
「諒花さん、先ほどの話の続きですが」
「大丈夫なのか? 呑気にしていて。後ろに敵がいるんだぞ」
「構いません。どうせもう――」
──終わりですから。
その宣言と同時に背後の車両二台に、どこからともなく大量のスーツ姿の荒々しい男達が現れ、ハチの大群みたくワラワラと車両を包囲して群がり始めた。この乗っている車両をつけていた二台は速度もこちら側に合わせていたため、男どもを弾き飛ばして強引に突っ切ろうにも、既に群がる彼らが窓を横からぶち破り、邪魔してアクセルを踏めない。
その間にもとっくに餌食になった車両との距離はどんどん遠くなっていく。追跡どころではない。
さっきの号令にもあったように、この車は境界線を越えて青山に入った。だがそれでも追跡してきた二台の車は待ち伏せていた滝沢家の兵隊によってブロックされ、次々と排除される格好となった。あれほどの戦力ならば、これ以上は追っては来れないだろう。
「あれが翡翠ちゃんの所のヤクザ達かい」
「ええ、花予さん。彼らはあなたが嫌うヤクザではありますが、今忍ばせておいたのは私の忠実な兵であることに変わりはありません」
「あの時は彼らにあなたの可愛い義娘さんに手を出させて、本当にすみませんでした」
急に改まって謝罪をする翡翠。あの時とは滝沢家と初めて出会った先月18日のことだ。何も前触れもなく渋谷に突如攻め込んできたことに始まった。滝沢組は本家から見て二次団体だが、その時に攻め込んできた数は500人と馬鹿にできなかった。
「ありがとう。ヤクザは心配だけどさ、少なくとももう翡翠ちゃんとあたしは上手くやれそうだからさ、謝らなくていいよ」
「そう言って頂き光栄です。では諒花さん?」
急に視線がこちらに向けられて背筋がピンと立つ。途中邪魔が入ったのと話が横道それたので本題に戻してと、翡翠は続ける。
「あなたの覚悟、試させて頂きました。ここから私達は一蓮托生です。滝沢邸で見せれるもの、全部お見せします」
こうなることを見越して予め、手を回していたのだろう。さすが青山の女王、計算高い。直接戦わない強さ。こういう所も強者たる所以かもしれない。
「翡翠ちゃん。あたしからもお願いするよ。調べてくれた秘密、全部教えて欲しい。あたしにとっても零ちゃんは、諒花とも歩美ちゃんとも仲良くしてくれたし大切な友達だ。覚悟はできている」
花予もそうだろう、ここまでゲームを通じて仲良くなった零が関わっていることなのだから。零だって花予が家事の合間に任せたゲームをとても楽しんでいたのだから。その一面は監視役ではなく、紛れもない一人の人間としてのものだ。
「花予さんの覚悟も、しかと受け取りましたわ」
翡翠はそう返事をし頷いた。まるでその答えを待っていたのか、どこか嬉しそうに答えた。




