表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
80/162

第78話

 ──翡翠からの電話だ。

 先ほど家に蔭山と歩美が来る前にもパソコンの解析が間もなく終わると伝えられたが、今来たということはその解析が終わったに違いない。期待を胸にその電話に出た。もしもし。

『諒花さん。早速ですが、黒條零さんのパソコンの解析が全て完了しました』

「ホントか! ありがとう!」

 さっき家にいた時点でまもなく完了するという報は受けていたが、そこから一時間は経っている。


『出てきた情報をまとめ、パソコンはこちらで保管してあります。今日中に花予さんを連れて屋敷まで来て下さい。お二人がこの騒動収束まで迎え入れる準備も既に完了しています』

 滝沢邸に行けばこれまで隠された全てが明らかになる。そう考えると心臓がいつも以上にドクンドクンしてきた。が、ここで蔭山達のことを思い出す。

「翡翠。アタシの知り合いの刑事の蔭山さんともしかしたらカニ野郎――じゃなかったシーザーもいるんだが、一緒に来ていいか?」

『あのお二方ですか。そういえば先月19日の屋敷での戦いの時にいましたわね。ウン、いいですわ』

 翡翠は能力を活かして屋敷を覆う森を通して、屋敷全体の状況を知ることができる。屋敷中に監視カメラを張り巡らせているかのように。会ったことがなくても顔は知っているだろう。

『皆さんで隠された秘密を見ちゃいましょう。ですが知ればそれまでの認識が覆るほどです。後戻りはできない覚悟をするよう、事前に伝えて下さいませ。花予さんにも』


 それはかなり注意深い警告だった。後戻りできない。つまりはとんでもない情報があのパソコンには眠っていたことになる。それは本来、見てはいけないものなのかもしれない。だがそれを知らなければ、零には辿り着けない。

「そうなのか?」

『私は既に全容を知っています。黒條零さんはどこから来たのか、諒花さんをなぜ監視していたのか。そして、今回の抗争がなんで起こったのかも』

「零とワイルドコブラが何か関係あるのか!?」

 思わず声をあげてしまった。まさか零はワイルドコブラから送り込まれたのか? そんな考えが過る。フォルテシアが零を捜していたのも敵同士だったならば納得がいく。

『直接は関係はないですが、スーパーハカーに助力を頼んだ勝さん達曰く、パソコンを解析していくうちに別にアクセスできるルートが見つかって、そこから判明した新事実があります』

「そんな裏技みたいなことができるのか?」

『可能です。アカウントってご存じですか?』

「ええと、何かサービスを受けるための特定の人や場所を示す連絡先みたいなもんだろ?」

 髪を軽くかいて考えた。そういう機械系の専門用語になってくると頭がこんがらがってくる。分からないことはいつも零に教えてもらっていた。が、普段スマホで吹き出しやスタンプでするやりとりも、全てはそのアカウントがあるから可能となっていることは知っている。

 つまりは連絡先と同時に、何らかのサービスを受けるための機能が合わさったものだ。電話、連絡、ゲーム、なんでも。

『パソコンの中に黒條零さんの黒幕との連絡用と思われる専用アカウントがあって、それにログインすることで彼女しか閲覧できない情報にアクセスすることができました』

「セキュリティってのを突破できた感じか?」


 よく始めにIDとか、パスワードの入力を迫られるイメージだがそれ以外にもありそうだ。

『はい。それが高度なセキュリティだったのもあり全容解明に時間を要したようです。パソコンを起動し、中に入ること自体はすぐに成功したようですが』

 ただその苦労もあってパソコンの中だけでなく、そこから繋がる部分まで解明される。そうなると早く滝沢邸に行きたくて仕方がない。

「ありがとう。あとは向こうで聞くよ。翡翠」

『礼には及びませんわ。黒條零さんの背後にいる黒幕はレーツァンとも繋がりがあって諒花さんを狙っていたわけなので、我々としても解明したかったので』

 ここで一つ、シーザーと同じくこちらの電話の様子を伺う蔭山を見て、この時に訊かなければならないことをふっと思い出した。

「そうだ翡翠。ワイルドコブラがアタシを狙う理由だけ教えてくれないか? 刑事の蔭山さんはワイルドコブラだけが侵攻をしていて本家は関係ないって言ってた」

 すると蔭山がテーブルをチョンチョンと指で叩いてその答えを聞きたいとジェスチャーしてきたので蔭山の耳を近づけ二人で次の答えを待つ。

『ええ、その通り。今回の件はダークメア本家の意向や命令ではなく、本家の不手際という面もあります』

 ちょっと変わってくれと蔭山に小声で言われたのでスマホを渡す。その横でスマホの裏側に耳を傾けて会話を聞く。

「警視庁第16課の蔭山だ。突然すまない、それは本当なのか?」

『あら、刑事さんですか。ええ。私が昨日スカールさんに直接確認しました。前々からスカールさんとカヴラさんですれ違いがあり、最終的にカヴラさんの不満が頂点に達し、本家の意向に反発、総帥レーツァンを倒した諒花さんの首を狙うという行動に出たようですわ』

『ただ、レーツァンが死んだ、諒花さんに倒されたという事実はまだ裏社会には知れ渡っておらず、ごく一部しか知りません。表向きは情報が錯綜していて真相は明らかになっていない状態です』

 そのごく一部とはダークメア本家のスカールやカヴラといった最高幹部、19日の事件で滝沢邸に居合わせていた諒花、零、歩美、蔭山、シーザー、滝沢家の面々、直接その場にいなかったが花予やフォルテシアなどその模様を関係者に聞いた者に限られる。

『ダークメア本家は調査中とし、沈黙を貫いており、今はレーツァン死亡後に決起した組織内の反乱分子の殲滅に注力しています』


「それで内ゲバか」

 シーザーが納得するように呟いた。

「なるほどな。自分達のアタマ、つまり総帥が倒されたのに標的を諒花にしないことにカヴラは不満が爆発し、ついには反発したってとこか?」

『まだ明確な理由は分かりませんが、一番浮かびやすい動機でそう思われても仕方ないかと。何せスカールさんは自分達の不祥事を認め、滝沢家に加勢して下さることになりましたが、カヴラさんとこじれたその理由を説明しませんでした。何か隠しています。それは私にも話そうとしないのです――』

 その隠された何か。明らかに狙われる理由は変態ピエロを倒したからと推測できるのに、それをハッキリと言わないというのはいったい何なのだろうか。それをどうしても外部に言えない理由でもあるというのだろうか。スカールは。


 最高幹部二人がこじれた理由。それこそがこの戦いの原因だ。なぜ折り合いが悪かったのか。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ