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第8話

『なあ。明日会えないか? ききたいことがあるんだ』


 昨日、ダメもとで行ってみたものの不在だったので、やむを得ず帰り道にスマホで零に向けて送った吹き出し。

 その吹き出しに既読がつき、『いいよ』と返事があったので早速、家を出て早歩きで零の家へと向かう。


 翌日27日の日曜の天気は肌寒い風に快晴の朝。零の家までの渋谷の住宅街。

 まだ確かめられていないので花予の前でもこの件は口には出さず、そっと胸の内にしまった。早く真相を知りたいとやきもきしたが、それを確かめるにはぐっすり寝て、何かあった時のために体を休めないといけない。

 これまでも零と一緒に敵に襲われたり事件に巻き込まれたりして非日常を潜り抜けてきたこともあってか、たとえ見方が変わってもその意識が自然と働き、寝つけた。だが、今は考えれば考えるほどドキドキ胸騒ぎがするのでとにかく歩を進める。


 この先に一体どんな真相が待ち受けているのか。ドキドキする。その時。ジリリリリリリと音がした。ポケットの中のスマホが震える。電話を知らせる合図だ。


 ……相手は――――声を聞いてやっぱりだとなった。昨日、居ても立っても居られず、いきなり飛び出したからその続きだろう。


 昨日は滝沢家の本部――青山の高級住宅街の広大な敷地に広がる森の中にあるでっかい屋敷で縮めて滝沢邸とも呼んでいる――に行ってきたわけだが、その際に迎えに来た妹とはあの変態ピエロ(レーツァン)を最終的に倒した19日の謎の女騎士事件の際に連絡先を交換していた。


「もしもし」

「もう、昨日は話の続きあるのに帰っちゃって。酷いじゃないですか」

 わざとらしくすねた口調で昨日のこちらが飛び出していった事を出すのはやっぱり翡翠だった。妹から姉にも共有されてこうして電話がかかってきたのだろう。妹思いでこちらにも好意的なあの姉のことだ、連絡先を妹に訊き出すぐらいの事はするに違いない。


「悪かった。零のことを確かめずにはいられなかったんだ」

「なるほど。実にあなたらしい。申し訳なく思ってるならばいいです」

 意外とすぐに納得した青山の女王。

「ところで、昨日は黒條零さんに会えました?」

「……会えなかった」


 とにかく確かめたかった。確かめずにはいられなかった。零が敵だと推理で分かって、早く本人に確認したかったことを素直に話すと、

「そうですか。まあ平日の金曜日、つまり一昨日から学校を休んでると聞いてたので何かあるとは思ってましたが」

 さすが翡翠、勘が鋭い。土曜日もいなかったという事は金曜に親戚に連れられてどこかに出かけていた可能性も浮かんでくることになる。そもそも、その親戚が本当にいるのかも今となっては怪しいが。親戚じゃない何かかもしれない。


「だから零の家に行ったけどいなかったんだ。それでスマホにメッセージ残したら返事が来たから、これから家に直接行って話を聞く所だ」

「であれば好都合です。ちょっとだけ適当にそこで時間を潰してそこで待っていて下さいませんか? もうすぐ到着するはずですから」

「……?」


 もうすぐ到着という言い方が気になった。それから数分後────適当に零の住むマンションの近くにある別のマンションの駐車場にある自販機前で待っていたら、その人物は現れた。


「諒花ー、お待たせ!」

 走ってやってきたのは長い黒髪を束ねた黒髪を横にたらし、整った顔立ちで海のように青く美しい双眸を持つ、明るく元気な笑顔が特徴の少女。ホットパンツと水色シャツの上から白いコートを着ている健康的なへそ出しファッションで、走り始める前のマラソンランナーのような容姿に柔らかく健康的な肌と艶やかな太股。彼女こそが翡翠の妹の滝沢紫水(たきざわ しすい)

 姉の翡翠がしている、翡翠色に輝く玉の装飾がある髪留めとお揃いの、透き通る水色に輝く玉の装飾がある髪留めをしている。


「他の奴らも来てるのか?」

「うん! シンドロームとマンティスも別の場所で持ち場についているよ」

 そう言って紫水はスマホの通話画面を見せてくると二人組の声が聞こえる。


『俺達はもう準備OKだ。シンド、標的が来たらすぐにかかるぞ』

『おうYO! マサル、まさかおれ達も戦ったあのシルバーガールが敵と通じてるスパイだったとは』


 二人は滝沢家最強の親衛隊。ハーモニーインセクターズというコンビ名で活動している異人ゼノ。カマキリ人間のマンティスまさると、音を操る能力を持つラッパーのシンドロームだ。話は零から聞いたことがあるものの実のところ、あまりよく知らない。

 19日の事件の際、敵対していた時に二人と戦ったのも零だけだからだ。紫水とはその時の翡翠の計らいもありリングの上で拳を思い切りぶつけ合ったのだが、そちらの方が強く印象に残っている。

 

 翡翠が待ってくれと言ったのは他でもない。これから会いに行く零は黒幕と繋がっている可能性が高い。そこから先は零だけが全てを知っている。なので話をしてみて、零がどう動くのか、そこから何が分かるのか、予想がつかない。


 だから最悪のことも踏まえ、翡翠は昨日のうちから、零ともし相対することになる可能性を踏まえ、朝早いうちに異人ゼノである自分の妹と親衛隊二人を渋谷へ派遣していたという。このことから事情は最初から読んでいたことが分かる。さすが頭の回る青山の女王。


 ここまで動いた時点でもう零のクロはほぼほぼ濃厚だ。事実確認をして抵抗しようものなら滝沢家で抑えつけることも想定されている。心の奥底ではシロであってくれというのが本音だが包囲網が敷かれたことは現実味を帯びており、緊張が止まらない。


 紫水と二人で零の住むマンションへと歩を進める。決して裕福ではない普通のマンション。

「勿論だけど、あたし達も一緒に部屋に押しかけるわけじゃないからね」

「そりゃそうだろ。大勢で行ったら怪しさ満点だ」

「あたし達は建物から離れた場所から様子を見て、もしもの事があったら対処してって翡翠姉から言われてるんだ。あたしはすぐ駆けつけられるように建物真ん前にいるからね」

 紫水は水のチカラと格闘技に秀でた異人ゼノ。もし、最悪の事態となり零が直接マンションから逃げようとしてもすぐ立ち塞がってくれるだろう。


 こうして諒花、紫水、シンドローム、マンティス。計四人の異人ゼノが零の家付近に集合することとなった。


 三人もいれば、何かあっても助かるだろう。もしも昨日、衝動的になってしまったものの一人で零に会えていたらどうなっていたか。もしかしたら昨日会わなくて良かったかもしれない。何せここまで一緒に戦ってきた相手を疑い、探偵みたく証拠を突き付けて、話をするのだから。


 そうこうしているうちに零の住む四階建てマンションが見えてきた。零はここの階段を上って二階に部屋がある。階段を駆け上がるのではなく一歩一歩上って二階にある部屋へ行く。

 一歩踏み出すごとに心臓の鼓動が早くなる。この先にいったい、何が待ち構えているのか。自分は何を知ることになるのか。不安と早く真相を知りたい気持ちが一緒にごちゃ混ぜになって仕方ない。




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