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第7話

『 諒花、お前を欲しがっているのはな、おれだけじゃねェ。もう一人いるんだ』


 ()()()()()()()()は19日に解決した謎の女騎士事件の中で明かされていた。


 死闘の末に諒花の人狼の拳によって敷地内の大部分が広大な森となっている青山の滝沢邸のイギリス風の時計塔から叩き落とされ、倒された変態ピエロ──レーツァンは死に際にこう言い残した。

 まだ見ぬその敵は既に手下を送り込んでおり、しかもそれは既に自分の近くにいる。そしてレーツァンはまだ見ぬその敵と近しい立場にいると。

 その全てを訊き出そうにも、その前に自ら命を絶ってしまい、盛大な置き土産を遺していった悪しき変態ピエロ。勝ち逃げにも等しい結末だった。


 今になって思うと零はこの特徴に大きく当てはまっていた。言われた直後は全くこれっぽっちも怪しいと思わなかった。それだけ零を認めていたのもあって。レーツァンを倒したのにまだ見ぬ敵──即ち黒幕の存在で丸くは収まらなかった。


 零とあの変態ピエロが繋がっていたのかは分からない。だが零のことをあのピエロは御守りと揶揄した言い方をしていた。ピエロの方はとうに零が何者か知っていた可能性が高い。

だが信じたくない。零はともに戦った相棒であり親友だ。しかし、今まで零がいる中で起こったことの知られざる舞台裏が明かされることとなった。


 ────これじゃまるで、小四から今までの全てが茶番みたいじゃないか……



『……では、もう答えは一つですね──あなたは既に幼い時から、何者かに目をつけられ、監視されていたという事ですよ』


 最終的に翡翠はそう結論付けた。何者か。それがまだ見ぬ敵そのものであり、裏で糸を引いていた黒幕。レーツァンを使って両親、恋人といった大切な人の命を奪ったことに関係していることは間違いない。

 あのピエロは()()()()()()()()()()()()()()黒幕と近しい立場になれたとまで言っていたのだから。


 誰かに監視されている。零だけでなく同時にそれを大きく痛感させられる出来事がもう一つあった。

 零と出会う以前から病院でもらってしていた、自身の稀異人ラルム・ゼノとして強すぎるチカラを抑えるために首にいつもしていた特殊な赤いチョーカー。長い黒髪でスタイルの良い諒花の首元を彩っている、一見するとオシャレアイテム。


 19日のあのピエロとの最終決戦においては抑制されていたチカラを引き出すためにそれを一旦外した。これをつけた状態ではチカラが半減した状態であり、それで裏社会の帝王と戦おうとするなど無謀だと思い知らされたのもあって。

 だが外して放り捨てたそれは、戦いの後に屋敷内の敷地の森の中で忘れ物として残された。それを回収した翡翠が行わせた解析によって、一週間後の26日、居場所がいつでも分かるGPSが仕組まれていた事実を告げられた。


 こうして、黒幕は狙っている初月諒花のチョーカーにGPSを仕込んでこちらの居場所を把握し、零を送り込み長い時間をかけて情報を集めさせ、履歴書を作らせ、それをレーツァンに手渡し、それは更に翡翠の手に渡った──そんな、バラバラのパズルを組み上げたかのように舞台裏が鮮明に出来上がってしまった。そして翡翠はその後に履歴書でレーツァンに唆され──翡翠本人の思惑もありあえて乗った──事件解決の前日、18日に渋谷に部下を攻め込ませ初月諒花、黒條零と初めて敵対することとなる。





 零との生活は彼女が転校してきた四年前の2020年4月に始まった。今が2024年10月。ゼロから数えて彼女と過ごした日々は今は五年目真っ只中であり、来年の六年目が見えてきた所でもあった。


 はたして零は本当に敵なのか────?


 変態ピエロとは今まで繋がっていたのか?


 チョーカーにあったGPSはなんなのか?


 そして、今日までこんなことをなんで隠れてしていたのか?


 ────アタシ達は、友達だろ??


 はたしてそれが真実なのか。本人に直接確認すべく我先にと初月諒花は26日、翡翠に呼ばれて来ていた滝沢家の屋敷を飛び出した。


わりい。アタシ、ちょっと用事思い出したから今日はもう帰るわ」

「あっ、諒花さん、待って下さい! これから改めてあなたに滝沢家に入るのか改めてお返事をお聞きしたく──」


 背中から制止する滝沢翡翠の声が聞こえた気がしたが後でいい。滝沢家に入るか否かより真っ先に確かめないといけない。

 今日は零はいない可能性が高い。だがたとえダメもとだとしても、体が動いて今すぐにでも、確かめずにはいられなかった。もしかしたら一瞬でも帰ってきているかもしれないから。電話ではダメだ。直接話したい。


 頼む、シロであってくれ──。


 そしてできれば家にいてくれと奥底で願いながら先を急ぐ。翡翠には零の疑いが強まった時にどこにいるかを訊かれ、昨日から親戚が久しぶりに東京に帰ってくるという理由で学校を休んでいる旨は伝えてある。翡翠は捕まえられるものならすぐに捕らえて話を聞きたかったらしいが、対策をまた打ち出すと呟くように言っていた。


 翡翠は先にあのピエロからもらった履歴書を通じて、零が敵と繋がっている可能性にとうに気づいていたのだろう。それを改めて確認するためにこうして呼び出された。

 翡翠は滝沢家に初月諒花を迎えてその家族なども保護対象に入れても、黒條零だけは入っていないとまで言っている。滝沢家に入るか否かの話の際にその唯一の例外を聞かされ、そこから一気に零への疑いが強まる話へとシフトしていった。


 今にして思えば、平日金曜に休むのも怪しさを感じさせる。昨日はたまにはそういう日もあるかぐらいの認識だったが、さっきの翡翠との話でひっくり返った。実際の所はどうなのか。早く確かめずにはいられない。


 青山一丁目から地下鉄に飛び乗り、渋谷に着くと一目散に彼女の住むマンションの二階を訪れた。移動中、心臓の鼓動がとにかく早くなるのを感じてドキドキした。マンションの階段を駆け上がり、早く真実を突き止めたくてたまらない。


 ピンポーーン、ピンポーーン。


 インターホンを何度鳴らしても出る様子がない。今日は土曜日だ。金曜に会えた親戚とどこかへ出かけているのかもしれない。


「……くそっ! 零……」


 本人が不在の留守であることが分かり、その日は諦めて後日出直すことにした。一刻も早く白か黒かを確認したい……焦燥感に溢れ、より心臓の鼓動が早くなる一方だった。



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