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第64話

 まだ陽が上っていない早朝。渋谷ヒンメルブラウタワーの地下駐車場を出て街へと出た。外は真冬を思わせる冷たい風が吹き、足元を刺激する。


 空は徐々に日が昇り始めており若干の青白さと青黒さのグラデーション。まだ道中は薄暗い。夜同然についている明かりもこれから朝になるにつれて消灯するのだろう。明かりや街灯が街の至る所にあるので真っ暗というわけではない。夕暮れを歩くのとはまた違って静けさと寒気に満ちている。

 この時間帯、歩道には人影が殆どない。早朝にこの街を発つサラリーマンや旅行客なのかもしれないが、先ほどの騒ぎを聞きつけて、ワイルドコブラ構成員がこちらを待ち伏せているかもしれない。


 今はなるべく人目につかないように、そして目立たないように早く家に帰ろう。高速道路と首都高を横断して街に出るのに必須なホテルと街を結ぶ歩道橋のある方角とは反対側に出てしまったが、今はわざわざ戻って歩道橋を渡るのも怖い。近道なので敵が待ち伏せているかもしれない。

 ヒンメルブラウタワーの裏側からそのまま真っすぐ東へ行って少し北上し、渋谷駅のある所まで一旦戻った後、駅付近を通って西側へ、そして全速力で家を目指すコースしかないだろう。


 とにかく足早にそのコースを歩く。辺りに双眼鏡を持っている怪しい奴はいないか、遠くから覗き見ている奴はいないか、注意深く観察する。だがサングラスで視界が暗くなっているので肉眼では判別のしようがない。口元を覆う不織布マスクも邪魔くさい。

 そうなると、もはや直感、カンを働かせる以外に頼れるものがない。遠くから銃弾や飛び道具が飛んでくるのを事前察知するアレの応用だ。


 次第に足早なのがもっと早くなる。誰が敵なのか、どこから見ているのかも分からない。この空間から急いで抜け出したい、初月諒花の足はどんどん速くなる。

 空は夜明け前の濃青。11月だ、夏ならばこの時間帯は早朝にランニングで飛び出すととっくに太陽が昇ってるのだが、この季節は夜が明けるまでが遅い。コートとテンガロンハットから出る後ろ髪をなびかせながら、駆け足で駅から見て西側へと向かっていく。

 だいぶ遠回りだったが、駅前まで来るとそこそこ客がいる。徹夜明けか朝から出張のサラリーマンと思しき人や、電車に乗ろうと駅を目指すスーツケースを引きずる通行人を避けながら駅から離れてい

く。

 あとは坂道の歩道を駆け上がり、家まで急ぐのみ。渋谷駅から見て北西側だ。下手に走ってると怪しまれるので通行人の前ではそっと歩く。そしてすぐ小走りする。その繰り返しだ。通りから建物の間の通路を通って裏へ。そこからマンションやアパートや時に一軒家も建つ住宅街へとまっしぐらだ。


 その間にも少しずつ濃青の空がだんだんと明るさを見せ始めている。それに伴い、安心感も出てくる。それにしても10月30日にハチ野郎ことビーネット、翌日のハロウィンの夜にはサソリ野郎ことスコルビオン、昨日はフォルテシア、そして今朝はあのニワトリ野郎ことコカトリーニョ。

 フォルテシアを除いて勝てたとはいえここまで連戦続きだ。息つく暇がない。次はどんな手で攻めてくるかは分からない。


 そういえば、昨日フォルテシアが言っていたことも一理あるのかもしれない。ほとぼりが冷めるまで身を隠すなりして、普通の表社会で平和に暮らす。それも良いのかもしれない。勝手に因縁つけて襲ってくる敵は知らない。

 来年で中学3年。受験生になる。花予を安心させるためにも少しでも良い高校に行くために今からでも頑張るのもまた良いのかもしれない。きっと喜んでくれる。それも一つの生きる答えだ。


 だが。


 フォルテシアに言われたままに今引き下がってしまったら、いったい誰が零を救うのか──?

 

 あの部屋から飛び出す最後の去り際に一粒の涙をこぼした零を救えるのは自分しかできない。それをただ目の前のことにビビッて引き下がって、これまで一緒に過ごしたことも全て忘れて、見捨てることは絶対にできない。


 零を見つけるまで、誰に何を言われようと、戦うことをやめるという選択肢はない。この戦いが終わって、零とまた会えたら、フォルテシアに言われた通りにするのもありかもしれない。


 しかし、まだ頷くわけにはいかない。頷いたら負けだ。零にまた会って、小4の時に転校してきて今に至るまで、いったい全体どういうことなのか、話をするまでは……

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