第60話
ここは灰色のコンクリートに囲まれた広い空間。宿泊客などの様々な形と色をした車がいくつか止められてあり、それらが左右に並ぶ。
「コケー-ッ!! もう逃げ場はないぜ、ここでケチョンケチョンのケチョンにしてやろう!」
猛ダッシュで駐車場の坂道を走ってきたコカトリーニョ。やはり脚が強いだけあり、その体型に似合わず速度を落とさずに走ってくる。
「どれだけ逃げても、お前の異源素の気配を辿ればそれが教えてくれるコケーッ!!」
そしていきなりのダッシュからの真っ直ぐの突撃蹴り──読みやすい。横に避け、その数秒の動けない隙を狙って、伸ばした足の方向を変えようとしている隙に人狼の拳による力強いパンチを叩き込んだ。
「コケェェェェェェェェェェェ!!」
吹っ飛ばされて倒れ込んでもダウンする気配はない。すぐにむくっと立ち上がる。
「俺っちの鍛え上げた脚技は誰にも負けねえ! コケーーッ!!」
伸びて次々と迫ってくる右脚と左脚。それらを両手で一発ずつガードする。さすが鍛え抜かれているというだけあってその蹴りは一発一発がとても強力だ。受け続けていてはもたない。
「俺っちのサッカーボール、どこへやったァ! 許さないコケー!」
「さあな。後でホテルに謝って落とし物置き場でも確認してきたらどうだ?」
襲ってくる蹴り一発一発を巧みに防御しながら、言葉を交わす。ということはサッカーボールは一個しかないということになる。ボールを失ったコイツはどう戦うのか。とはいえ、ボールがなくても飛ばすコントロールに長けた相手だ、油断ならない。
「初月流・青狼剛正拳!!」
攻撃を防ぎながら腕にチカラを集中させ、前に突き出して繰り出す青き人狼の拳による衝撃波。それはやがて狼の顔の形となり、蹴りかかってきたニワトリ野郎の脚から全てを覆いつくした。
「コケェェェェェェェェェェェェェェェ!!」
倒れこむコカトリーニョ。その太っちょな体格から繰り出される脚技。コイツはただのデブではないことはよく分かる。走っても息切れしないどころかすぐに立ち上がってくる。異人だからではなく、そこから更に鍛え上げたタフさがあると。
その証拠、今放った技は前に戦った、透明能力を操る、死神の樫木麻彩に深手を負わせ、攻撃と同時にビルに穴があいて奴を落とした技だ。それをこのニワトリ野郎はダメージを受けてもすぐ立ち上がる。
「やりやがったな! 踏みつぶして、ケチョンケチョンにしてやるコケ―!」
立ち上がり、一旦下がって距離をとり、コカトリーニョは高くジャンプしてその足でこちらを踏みつぶさんとしてくる。
「カヴラさんから褒美をもらうのはこの俺っちだコケ!」
ホテルの部屋でこの技をやった時は体重とお腹で丸ごと押し潰してくる勢いだったが、今度はサッカーボールに見立てているのか、脚の先から蹴飛ばさんと飛び込んできた。
「くっ……!」
飛び掛かってくる相手に反撃できないまま一歩引いた。今の状態で拳を前に突き出して弾き返すこともできたかもしれない。しかし高く飛び込んでくる速さがとてつもない。すぐに軌道調整してきそうで、奴の若干の浮力が垣間見えた。
ニワトリなので勿論飛べない。しかしそれでも両手には飾りのように白い羽が生えており、その鍛え抜かれた脚力もあって油断は禁物だ。避けて、着地して背中が丸見えになった所に再度接近する。
「足跡だらけのグチャグチャにしてくれるわ!!」
反撃すべく隙を見て近づいた所に素早く振り向きからの右脚による無数の連打爆裂蹴りの嵐が襲い掛かる。高速で脚を前に出しまくるそれを両腕を前に出して交差させて防ぐが、ただデタラメに放っているその一発がその防御の構えをかわして腹部に直撃した。
「うっ!!!!!」
腹部にぶっ刺さったニワトリのつま先。まるで避けようとした流れ弾が当たったかのようだ。思わず倒れこんで吐きそうになった。そういえばいきなり起こされたので朝から何も食べていない。空腹状態で戦っていることに気づかされる。
ただ攻撃が一発も当たらなかったフォルテシアに直接殴られた時に比べたらどうってことない。この程度踏ん張れば意識が飛ぶほどではない。しかしこの空腹状態、朝起きて間もないこのコンディションで戦い続けることは紛れもなく不利だ。
「コケッ!! 倒れたなァ、ここで一気に決めてやる……俺っちの必殺技の前にひれ伏せ!!」
「!?」
こちらのダウンした姿を見て、したり顔をするコカトリーニョ。すると二歩下がって構えて翼を広げた奴の全身が熱く、赤く、サンライトなオーラに覆われた。炎の如く立つ赤いトサカを模した髪も本当に熱く燃えているように見える。
それは、これから大技が放つための準備なのは見て明らかだった────




