第59話
女子トイレを出ると目の前に立っていたのはコカトリーニョ。
「コケケケケケケ!! ようやくお出ましか。死ぬ前のお手洗いとお着替えは済んだか?」
「うるせえニワトリ! 初月流・カウンターシュート!!」
飛んできたサッカーボールを見よう見まねで蹴飛ばしてやる。そのふざけたツラに向かって──!
「コォケェェェェェェェェェェェェェェェ!!」
奴の顔面に向かってボールが直撃すると、仰向けに奴は断末魔をあげながら倒れこんだ。手応えはあったかもしれない。こちらもまだまだだが稀異人だ、磨きに磨きをかけてしかもニワトリ人間な奴ほどの威力はないかもしれない。
が、日々体は鍛えているのだ、生きる答えを見つけるために。ダメージは与えられている。攻撃しつつ足止めには充分だ。
怯んでいる隙に身を翻してその場を後にする。「コケー、よくもやったなァァァァ!」という遠吠えを背に受けながら。
女子トイレを出て右手に回り、廊下を走った先のドアを開ければ非常階段がある。それを全速力で駆け下りた。
さっきのコントロールを見るに、たぶんこの階段でも下に向かって撃ってくるに違いない。すると後ろから突如、サッカーボールが初月諒花の頬を掠めた。
「くそっ、どうなってるんだよアイツのコントロール!」
あのバカそうな見た目なのに計算力が高い。ボールは階段の踊り場の壁にぶつかって跳ね返って落ちた。もう二階ほど降りたのに、姿は見えないのに、後ろからサッカーボールだけが追いかけてきた。それも下手したら後頭部に直撃していた。もう、奴が視界と感覚で捉えられる範囲ならば、どこにいても狙った場所に当てられるのだろう。そう思って良さそうだ。どういう技術で飛ばしてきているのか疑問だ。
――そうだ。
ちょうど今、降りたフロアへの入口を見て気づく。4Fと書かれている。4階だ。飛んできたサッカーボールを拾ってそっーと廊下の向こうへ転がしてやる。
これでボールを使ったストライカー攻撃はできない。どこにボールがいったかも分からないだろう。笑いたくなる気持ちをグッと抑える。
一度ホテルを出て、広い場所に出ようと一階に着くと、そこには待ち伏せていたいかにもなスーツの面々。ナイフなどの武器は持っていないが、体格が大きく腕っぷしが強そうな奴ら。どいつもこいつも黒スーツにガスマスクをし、気持ち悪くニヤニヤとした声で笑っている。
「石動さんの言ってた奇襲部隊ってコイツらか」
スーツにガスマスク姿、かつ背中にタンクを背負ったのも紛れている。催涙ガスの影響を受けないためにガスマスクをしているのは言うまでもない。たぶん石動の防衛を抜けてきたのだろう。
コカトリーニョが待ち伏せるよう配置したに違いない。だが構っている暇はない。一番前にいたサングラス男の顔を真っ先で殴り、はがれたガスマスクを装着し、一斉にホースから放たれた催涙ガスを防ぐと、うち一人の体を持ち上げてグルグルと回し、他の面々共々なぎ倒すと、全速力で先を急ぐ。
「待てコケーーッ!!」
後ろを振り向くとエントランスから見える上の階に逆上したニワトリが立っていた。そして奴はなんと円状のこの部屋の壁を反時計回りで走って飛び降りてきたのだ。
恐るべき脚力を目の当たりにした。その脚ならばビルを外側から上ってくるなど容易いだろう。
とにかく、広い場所へ逃げよう。ここだと壁走りをされたら狙いがつけられない。真上から落ちてくる奴が下に降りてくる前に急いでホテルの敷地外へ出た。まだ外は日が昇っておらず真夜中。暗く肌寒い。
振り返ると見えるホテル地下へと続く坂道。微かな光が道を照らしている。そこは通っていくと駐車場になっている。広い場所というとここしか思いつかない。
それに石動も地下のどこかで戦っているというので合流できるかもしれない。淡い期待を抱きながら唯一の退路へと急ぐ──!




