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第52話

「では言いますね。あなたがあのレーツァンに勝てた要因、なんだと思いますか?」

「早速質問かよ」

 思わずズッコケそうになった。その答え、言ってくれるのだと思った。最も、すぐにこれは自分で考えてみろという意味なのは分かった。零や歩美ではない。もっと、一時的にチカラを押し上げていたものが何かを訊いている。


「そうだな、あの戦いは負けるわけにはいかなかった。負けたら青山もハナも全てアイツの思い通りになっていた」

「そうです。あなたは青山だけでなく、自分を育ててくれた花予さんや青山のために戦ってくれた」


 飲み物として運ばれてきた水を口に含む。もし、あれで負けていたら今頃どうなっていただろうか。こんなホテルでゆっくりなんかしてられないだろう。

 青山は変態ピエロの悪ふざけが過ぎる気まぐれな道楽によって緑炎の焦土と化していたことに加え、花予も奴が差し向けた裏社会の怪物たちの的になっていた。その二つを賭けてあの変態ピエロと勝負し、打ち勝って今がある。


「ですが、もっと他にあなたを勝つために押し上げるもの、あったと思いませんか?」

「そうだな……」

「ではヒント。あの男とあなたの因縁は?」

「あ!!!!」


 もうその答えは口に出さなくても分かっていた。変態ピエロ──レーツァンは両親だけでなく、小三の時の恋人も事故に見せかけて殺害している。前者は交通事故、後者はストーブの不始末による火災に見せて。そして戦いの中で自分がやったと自らカミングアウトした。


「あの時の時計塔での最終決戦で、あなたの(まなこ)は仇であるあの男を何としても打ち倒してやるという意地と絶対に許せないという感情を根源とする強さが出ていました。そうして湧き上がったチカラは、高い資質とチカラを生まれながらに持ちながらも、まだまだ粗削りな諒花さんをあの男を倒すまでに一時だけ押し上げたのです」


 それを聞いて一連の流れが頭の中に蘇り、納得した。過去から続いていたレーツァンとの因縁、そして奴が仕掛けてきた、花予と青山を賭けたゲーム。勝てばどちらも救える。しかし負ければ二つとも失う。そんな恐怖のゲームを何としても切り抜ける根性。

 裏社会の帝王の名に恥じぬ奴の強さを前に一度は完全に敗れた。だが、翡翠に指摘されて首にしていたチョーカーを外してチカラの抑制を解くと、内に宿る異源素(ゼレメンタル)は感情とともに呼応し、二乗、三乗、四乗し、最終的にあのピエロをも打ち砕くまでのチカラを呼び起こした。


 振り返ってみれば戦いが終盤になるにつれてあの時、内側から沸き立つチカラが増大しているような気がした。最後はあの変態ピエロを時計塔から地面へと叩き落とすほどに。


「では、石動ちゃんから聞きましたが、フォルテちゃんとの戦いではどうでしたか?」

 それももう口にしなくても分かっていた。しかしここは素直に答えた方が良い。自然とそれが口から出る。翡翠はこちらを試しているのだから。


「あれが生身のアタシの実力だったってことか。稀異人(ラルム・ゼノ)としての」

 翡翠はそっと頷き、

「ええ。ご両親、恋人の命を奪い、そして花予さんにまで手を出そうとしたあの男が許せない、何としても倒したい。それで最終的に時計塔からあの男を叩き落とした衝撃で巨大な蒼炎の炎柱を燃え上がらせたあの時の諒花さんなら、フォルテちゃんにもダメージを与えられたでしょう。ですが────」


「──持っているチカラが強い。というだけでは強者とは呼べません」


 翡翠はそう厳しく断言した。それはそうだ。今ならば分かる。ただ内に宿るチカラが生まれながらに他よりも強いと評価されていたとしても実際、あのフォルテシアには全く敵わなかった。生まれながらの稀異人ラルム・ゼノでも。

 無論、フォルテシアは職業柄、戦闘のプロというのもあるだろうが。何せXIEDシードなのだから。ただ天と地の差だった。


「しかし、あなたは急に増大したチカラにも飲まれず、それを制御し犯罪組織ダークメア総帥にして裏社会の帝王レーツァンを倒せた。未熟ですがよく頑張りました。素質はありますよ」


 身の丈に合わないチカラは逆にそれを制御しきれず、己を破滅に追い込むのは必然。このチカラは決して幸せを呼ぶものではない。それがあることを理由に不合格を食らったメディカルチェックの件からも分かる。


「まあ、逆に言えば、諒花さんを散々煽るだけ煽って調子こいたのがあの男の敗因ですけど。ふふ」

 手を口に当てて翡翠は笑った。

「もしかしたらあの変態ピエロは、アタシがそうなるのを逆に愉しんでいたのかもしれないな」


 煽るだけ煽った数だけ、こちらがあの時のみ強くなったということでもある。ただ勝っても面白くないと、あの嫌らしい悪知恵を働かすピエロだからこそ考えそうなことだ。


 花予のやるゲームで例えるなら、自分の攻撃力や防御力などのパラメーター。それらに上昇効果、即ちバフを乗せていたのが、あの男との因縁とその時の危機的状況からの焦りによるもの。そこから一度敗れ、翡翠に言われてチカラを抑制しているチョーカーを外したことでリミッターが解除、戦いの中でそのパラメーターは一気にピエロを倒せるまでに一時的だが急激に強化された。だがフォルテシア戦ではそれが一切ないというわけだ。


「零がいないのもあったのかもしれない」

「でしょうね。あなたにとって彼女はかけがえのない存在だった。パートナーです。その喪失は無自覚ながらもコンディションに影響を与えていたでしょう」

 零がいない状態で戦うことも当然これまであったが、何かあった時や危ない時は助けてくれた彼女が実は敵だと分かった後はまた違ってくる。


「ハチ野郎とサソリ野郎を倒せたのもまぐれだったのかな?」

 翡翠は首を横に振った。

「あの二人はワイルドコブラの看板を背負ってはいても、(ラルム)の域には達していない異人(ゼノ)。そこは深く気にしないでよろしいかと。とはいえ、猛者がまだまだいることは事実ですがね」

「ワイルドコブラはまだまだいるんだろ?」

「ええ。いずれも(ラルム)には達していない異人(ゼノ)です。が、それでも最高幹部から認められ、幹部として名を連ねる実力者たち」

 フォルテシアよりは格下でも気をつけなければならない。向こうはこちらを本気で狙ってきている。それに零もいない。零を見つける前に死んでは意味がない。彼らという障害を乗り越える必要がある。

 

「諒花さんはあくまで同じ(ラルム)同士で戦うと相対的に凄く弱く映るのです。それは自身に宿るチカラ、能力は高くても、まだそれを扱う実力が追い付いていないのです」


 そうだ。言われてみれば、武器を持った普通の人間相手には余裕で勝てる。チカラの差は歴然なのだから。

 しかし異人(ゼノ)と戦って一方的に圧倒した戦いは殆どない。実力伯仲だからだ。それらの中でも名の高い猛者たちを短時間で連続して倒してきたから凄いと言われるが、実際はその中で一戦一戦を生き残るために潜り抜けてきただけにすぎない。


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