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第50話

「……────はっ!」


 暗闇の中から開眼すると全身の柔らかで暖かい感触とともにどこかの一室にいた。ベッドは一際豪華な布団が使われており、部屋の内装もまるでどこかのお金持ちの屋敷のように綺麗かつ上品に掃除されている。


 桃色の壁と暖かなベッドランプが再び眠りへと誘ってくる他、木製のクロゼット、丸いテーブルにクッション椅子、薄型テレビ。そして、窓から大きく広がるのが東京の夜の摩天楼を一望できる大窓。カーテンもあるが大きく開かれていて、まるで目が覚めたこちらを見なさい、この景色をと見せつけるが如く。


 ──ここはどこだろうか。


 着てる服はあの時気絶させられる前と同じセーラー服だった。雨水に濡れたせいか湿気がある。どうやらそのまま担ぎ込まれたようだ。


「あら、諒花さん。お目覚めになってましたのね」

 そこへそっとドアを開けて入ってきた声の主は微笑んだ顔をした翡翠。傍らには石動がいて安堵の表情を浮かべている。

「翡翠。どうしてここに?」

「諒花さんがやられたと石動ちゃんから聞いて、急いでこのヒンメルブラウタワーに駆けつけてきた次第です」

「そうか。アタシ、ホテルに担ぎ込まれたのか」

「それにつきましては私が説明します」


 なんで自分がこの部屋にいるのか。フォルテシアに負けたことは覚えている。だがその後は全く浮かんでこない。そんな自分に石動が丁寧に説明してくれる。


「諒花様が渋谷の区外に出ていく所を見かけたので後をつけてみたら池尻大橋の方へと向かっていきました。ただの散歩ならば良かったのですが、まるでどこかに行くようなそぶりでしたので、こっそり後をつけさせて頂きました」

「マジかよ……全然気づかなかった」

 フォルテシアの所へ行くのに夢中で気づかなかったのかもしれないが、その明るい緑の執事服なら遠くからでもすぐ分かりそうなのに。

「諒花様の戦いぶりも、しかと見ていました」

「見てたのか? じゃあなんで助けに来なかったんだよ?」


 もしフォルテシアが本当に敵だったら石動はどうしていたのか。

「フォルテシア様は我々と古くから知り合いでして。諒花様を公務で捕縛する意図はないとお見受けしましたので」


 フォルテシアが滝沢家と知り合い? どういうことか分からない。そもそも異人ゼノ専門の警察であるXIEDシードと、裏社会の一勢力である滝沢家は本来ならば立場が違う敵同士のはず。

「負けた諒花様はフォルテシア様に抱き抱えられて公園から出てきた所をそのまま私が引き取りました」

「フォルテシアがアタシを……!」

 抱きかかえる。そうされたと思うと少々恥ずかしくなる。この身を抱かれるのは憧れではあるのだが。


 すると翡翠は少々不機嫌な口調で、

「もう、フォルテちゃんも何も気絶させるまでしなくても良かったのに。どういうつもりなんだか。でも諒花さんの目がすぐ覚めて良かった」

「フォルテちゃん……! あんたとはそんな緩い関係だったのかよ……!」

 すると翡翠はマイペースな口調で思い出にふけりながら、

「まぁ同じ高校で同じクラスでしたからね。フォルテちゃんはいっつもテスト満点、私は学業どころではありませんでしたけど」

 くすくすと恥ずかしげもなく笑う翡翠。


「学業おろそかにして何やってたんだ青山の女王……!」

「当時、紫水ちゃんも小さかったですし、生活費のためにバイトしてましたからね。最低限、卒業して高卒という学歴を得るために学校へ通っていたにすぎません」

「あっ……」

 ニコニコと語ってるものの生活費のためと聞いてあることを思い出し、次の言葉に悩む。自分が働かないで学校に通えているのは花予のお陰だ。それと同じで翡翠も昔は相当苦労していたに違いない。妹の教育も含めて。翡翠ならば普通に都内の大学にも通っていそうと思っていた。それぐらい上品な雰囲気を持つ美人だ。だがそういうのも今の地位を得たからこそ、なのかもしれない。

 紫水は現在高校二年生。こちらより年上だ。今から10年以上は前の話だとだいたい想像できる。


「まあそれはさておき。時間も時間なので」

 話を切り上げた翡翠は壁にかかっている時計を指差した。長い針は12を、短い針は8を示していた。


「時間も時間なので、三人で晩餐といきませんこと? 今夜は私が持ちます」

「マジか!? 大丈夫なのか?」

 気持ちはありがたいがゴチになるのは申し訳ない気持ちになる。翡翠は右手を前に振りながら、

「大丈夫です。それに諒花さんとはゆっくり会食したことありませんでしたし、せっかくなので食べながら話しましょう」

 その様子から、翡翠はとても楽しみにしているようだった。


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