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第5話

 石動の放っている自然で威圧的オーラを前にスコルビオンはたじろぐ。

「グッ……その圧倒的な威圧……覇気……! いやいやいやいや!」

 が、すぐさま首をブンブン振って気を取り直した。


「滝沢家ナンバー2、石動千破矢! ここでお前も倒せばこのスコルビオン、一気に大幹部へと出世間違いなし!」

 石動を指し、宣戦布告するスコルビオン。


「まずはお前からだ石動!! ゴスゴス、初月諒花はその後でたっぷり料理してやるでゴス!!」


 ──口癖無しで喋れるなら最初からそう喋ってくんねえかなあ……

 

 心の中で呆れるこちらをよそに体をひねり、後ろから伸びる長いサソリの尻尾を横へと薙ぎ払ってくるスコルビオン。その攻撃は巨体から伸びる尻尾から繰り出され、大勢の雑魚が束になってかかろうものならば、その一振りの前にまとめて吹き飛ばされてしまうことだろう。巨大な尻尾は振り回すだけで強力な武器となる。


 大きく横へと振られた尻尾を、石動は冷静に高く跳んで避けて数歩下がった位置に着地。すると、ステゴロモードでグローブ代わりの両手のハサミで石動に直接殴りかかってくるスコルビオン。


石壁せきへきよ、攻撃を防ぐ盾となれ!」

 石動が右手を前に出すと、さっきも守ってくれた壁が地面から高速で突き出るように再び出現、読めるほど遅い代わりに硬さと破壊力抜群の剛腕を防いだ。


「クッソー。こんな壁、建物に穴をあける勢いですぐぶち壊してやるでゴスよー!」

 スコルビオンは激昂すると、両手の鋼鉄の拳による連打を開始する。が、何度やっても砕け散ることはない。ひび割れすることもない壁。

 

 さっきまでのタイマンの時の隙はというと伸ばした尻尾を戻している時や初動の遅さだ。攻撃を顎に食らわせてダメージは通っていても依然としてタフさを見せている。


 しかし、ここであることに気づく。今のこのサソリはただ目の前の壁に攻撃を集中しているだけ。他を見ている余裕がない。今の彼は石動に一直線だ。こちらは完全に眼中の外。

 石動だけに黙って任せていてはいけない。体が勝手に動いて全身に精神とチカラを集中させ、異源素ゼレメンタルを集中させる。


「うざったい壁だゴス!! こうなったら──」

「おい、サソリ野郎」

「んん?」


 スコルビオンの顔がこちらを向いた直後──今ならいける。


初月流はつづきりゅう奇襲きしゅう青狼せいろう速拳そっけん!!」

 青白く光る狼の右腕の拳を前に突き出すと、溜めたエネルギーを一気に前に突き出し、放たれたそれは青白い狼となって襲いかかった。


 その神々しい青き狼は、壁を殴り続けていたサソリの鋼鉄のグローブも食らい、粉砕する。その黒の断片が辺りに豪快に散らばり、闇夜の中をその巨体とともにキラキラと断片が舞う。


「ゴスゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!!」

 その断末魔とともに散りゆくサソリ野郎。


 ──あれ? この感じ──?


 傍らにいる誰かと連携し、強大な敵を倒す──ふと思い出したそれはとても久しぶりで、同時にどこか懐かしさを感じた。だがその懐かしさは温かさではなく、今はもういない寂しさの方が強かった。


 そう、小学生の頃からともに戦っていた仲間であり、相棒であり、そして親友。銀髪で右目に黒い眼帯をしていて、頭も良くて、無茶する自分を止めてくれたり怒ってくれたり厳しくも優しくて。


『──諒花は私が守る』


 戦いの時はいつもそう言って、両手に黒剣を持って、盾となって自分を守ってくれた。黒い眼帯で右目を覆い、肩にかかるくらいの銀髪。同い年で銀髪隻眼の少女。


 昔から抱いてた、空手の選手になってオリンピックでメダリストになりたいという夢をこのチカラのせいで絶たれてしまった時も、


『異能の蔓延る裏を知れば、生きる答えを必ず見つけられる。他人に教えてもらうのではなく自分自身で納得いく答えを見つけること。でなければあなたの答えではない』


 夢がなくなった時、メディカルチェックで不合格になり、その道が絶たれた時、道を示してこの言葉で教えてくれた。

 襲い来る敵やトラブルと戦い続けた。自分よりも落ち着いていて頭も良い彼女だからこそ響いた言葉。だがそれを言ってくれた()()はもういない。そして今は助けに来てくれない。どこに行ってしまったのかも分からない。


 ただ一つ言えるのはこれまでの彼女との日常は偶然ではなく、誰かによって仕組まれていたということだけである。それを暴かざるを得なくなり、暴いた結果、今に至る。


「放せゴス!! このオレが……一撃で粉砕だと……畜生、なんでだゴス! 審判呼べゴス!」

 倒れて動けないスコルビオンに石動はそっと近づき、取り押さえる。

「ご安心下さい。我ら滝沢家がたっぷり面倒見てあげますから。諒花様は十四歳の若さで稀異人ラルム・ゼノです。女だからといって、甘く見てませんでした?」


 ……ガチャ。

 冷徹な視線とその声とともに、その両手にハメられたのは、拘束と勝負ありを示す手錠であった。一見するとただの銀の手錠だが、拘束した者のチカラを封じる特殊な性質を持ったものである。


「そんな……侮っていたでゴス……この前、青山でオレ達の総帥も倒したという十四歳の初月諒花……いったい何者ゴスか……」

 スコルビオンは茫然としていた。




 稀異人ラルム・ゼノ。それは通常の異人(ゼノ)よりも更に強いチカラを持った者がそう呼ばれる。通常の異人(ゼノ)でも努力次第でなれるが誰もがなれるわけではない。が、生まれながらの稀異人ラルム・ゼノなのである。生まれながらに強力な人狼ヴェアヴォルフのチカラを内包する少女。それが初月諒花だ。


 手錠をはめられた敗北者の文句は聞こえていない。それよりも今、諒花に影を落としているのは、それまではずっと一緒にいてくれた、幼馴染であり親友であり戦友でもあり相棒でもある()()()()()の存在。それが実はまだ見ぬ敵と繋がっていることが分かり、いなくなることによる衝撃と影響はとても大きかった。


 ()()が今もいてくれれば、この街に迫り来る敵の軍勢とも心置きなく戦えるのに。戦いの中で()()をずっと奥底から求めている自分がいる。目の前から消えてしまった()()を追い求める度に何度も問いかけたくなる。


 ──れい……どこに行っちまったんだよ……


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