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第45話

 黒く染まった空から一滴の雫。そして大粒の雨が矢となって降り注ぐ────。


 何度も殴ろうとしても避けられ、その際に生じた隙を突いた最低限の一撃を沢山食らった。刃物で刺されてもいないのに、銃弾を受けたり、エネルギー弾とかをぶつけられたわけでもなく、ただ素手で殴られただけなのに。

 とんでもなく痛い。体が丸ごとへし折られそうな苦痛が走る。耐えて、我慢して、そしてそっと立ち続ける。


 その一発一発はこちらの気力を確実にゼロに持っていっていた。十発はモロに食らった。攻撃しても避けられての消耗もある。結局、一発もダメージを与えていない。攻撃した時に生じた隙がダメージを増幅させる。

 

 戦いの中でいつか負ける日が来るかもしれないという不安はいつでもあった。色んな能力や戦法を使う敵がいるからだ。でも零がいて助けてくれたから何とかなった。


 しかし、同じ体術を使う相手にタイマンで戦って、こうして一発も殴れないまま敗れることは考えたこともなかった。体同士の殴り合いならば自分は強い。自然と考えていたからだろう。しかし────

 

「うっ…………あっ……」

 腹部に痛烈な分かりやすい一撃のフィニッシュブロー。意識が混濁して薄れゆく。耐えられない。今度こそ全身で崩れ落ち、意識もボヤけ、空から降りしきる雨音も、雨によって冷えていく体も、何もかも、闇へと墜ちてゆく……


 

 *


 陽が落ち始めた同じ頃。一時降り始めた雨が上がり、ここは渋谷区某所──。


 薄暗い路地裏にはいくつもの死体が転がっていた。コンクリートの上には多量の血が流れ、斬り刻まれたスーツ姿の男達は喉をかき斬られた者、心臓を一突きにされた者、何度も残虐に斬り刻まれた者。

 自販機には赤い液体がベットリついていて投げ飛ばした死体が背中を預けている。最後のいっぷくであった煙草の吸殻が転がっている。金網上のゴミ箱には目を開けた生首が放り込まれている。


 そんな凄惨な現場で一人、血染めのナイフを持っているのは短い銀髪に黒い眼帯で右目を覆った一人の少女。セーラー服に袖を通している。立ち尽くす少女のその視線は殺した五人を嘲笑っている。殺すのが楽しい、たまらないと発狂しているようだった。


「ちょっ、なんだよこれ……」

 背後からドン引きした怯える若い男の声が聞こえてきた。チラっと視線を移してみるとそれはジャケットを着た男子生徒だった。少し髪が立った赤がかった髪の男。手元にはポケットから出した、年に似合わない煙草の赤い箱が握られていた。当然見つかれば校則違反。中学に入って一年半。春になれば三年生だがその前に四度目の煙草で停学処分待ったなしだろう。


 しかしこのループがやめられないしタマラナイ。盗んだ煙草を吸うこの時が幸せだ。義務教育だから退学はない。数か月服役してムカつくセンコーの冷たい視線や指導にはいはい頷いて課題やってればまたシャバに出られるのだから。

 学校の補習をサボって抜け出し、その取り出した代物を口に加えるのがたまらない。空の煙草の箱を家のゴミ箱から拾い、そんで毎日親の机からこっそりくすねてため続けた細いそれを吸うために裏にやってきた。


 だが目の前に広がるこの死屍累々な光景に目を疑う。まるでサスペンスドラマか映画の世界だろと。


「な、なあ……! お、おい、お前……隣のクラスの黒條だよな? 数日前から学校サボってるってニシから聞いていたけど」


 隣のクラスの初月諒花といつも一緒のあの女、黒條零。たまに見かけるが銀髪に黒い隻眼と凄く美人だ。だが凍り付くほどクールな眼光を向けてきて話しかけにくい。成績優秀で出席もちゃんとするまさしく絵に描いたような優等生。ニシが羨ましそうに愚痴っていた。


「そうか、お前も────」


 しかし最近学校を休んでいると聞く。コイツも実は裏で煙草やってるんじゃないだろうか。だとしたら。


「サボり仲間だったんだな! よし、俺と遊ぼうぜ!」


 もしかしたらこの死屍累々は他の誰かがやったのであって、コイツではないのかもしれない。コイツが真犯人を殺った場に居合わせたのかもしれない。その考えをもとに、目の前に広がる血みどろな光景なんかすぐ忘れ、心躍らせて彼女の肩に手をポンと置いた。


「──うっ────────!」


 その時、全てを言い切る前に彼女の握る冷たき絶望の刃が、彼の心臓を貫く。


「お前ぇ……ぇぇ……」


 刹那に思い描いた夢はあっけなく消えた。呼吸と生命を絶つ刃。その証拠に心臓の部分から、真っ赤な花が咲いた────。

 

これにて第一部完結となります。ここまで読んで頂き、ありがとうございました!

次回は閑話をお送りします。


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